過去からの依頼人(その2)
入り口にたたずむ不安げな女性の表情をミツオは凝視する。ミツオと目が合った。
「あなたは」
ミツオは鮮明に過去を思い出した。ミツオは立ち上がり、女性の目の前に立った。
「安藤さん、おひさしぶりです」
安藤の瞳に安堵が浮かんだ。その後、涙が瞳からこぼれ落ちる。
何がおこっているのかが分からないミツオは安藤の両肩を強く支える。
「どうしました」
「すみません。気が動転してしまって」
「少し座りましょうか」
ミツオは店内のテーブル席に安藤を座らせる。マスターが熱いコーヒーを入れてきた。ミツオは会釈で感謝を表す。
「コーヒーでもいかがですか。マスターのコーヒーはピカイチにうまいですよ」
「すみません。ミツオさんが探偵業を始めたと昔の同僚の刑事さんにお聞きしたもので……でも事務所にはうかがえない事情があって……」
「私の行きつけのお店を同僚に聞いたのですね」
安藤が静かに頷く。
ミツオは過去の事件を思い出していた。目の前の女性のイメージが自分の記憶よりも少し疲れている印象をうけた。もちろん時間も経っているせいもあるが、それ以上の心労を表情から感じた。
ミツオは刑事だったころ、捜査班ゼロ課に配属されていた。当時世間を騒がせていた連続殺人事件を追っていた。犯行現場を録画した8mmアナログビデオを捜査機関に送りつける劇場型犯罪だった。すでに3人の犠牲者が出ていた。
ミツオの相棒は、安藤の夫だった。ゼロ課に配属されている捜査官には特殊能力がそなわっているが、各々の具体的な能力は知らされてはいない。ミツオには断片的な未来が見える能力を捜査に役立てていた。
安藤にどんな能力があるのか、ミツオは知らなかった。
その安藤は連続殺人犯の凶弾に倒れた。ミツオは助けることができなかった。犯人は現在も捕まってはいない。




