過去からの依頼人(その1)
深夜ミツオはいつものバーで安酒をあおっている。日中の苦いレースを思い出していた。ホバーカーによる障害物競走の王座決定戦。もう一枚押さえておけば……今頃は高級ラウンジで下にもおかない扱いをうけていたのに。目の前にいるのは、筋肉を誇示する、はげオヤジがダンベルを上下させている。ミツオはちらりオヤジを見た後、ため息をもらす。くやんでも、くやみきれない。
バー青木の場所は、今は使われていない鉄道の高架下にある。不法占拠に近い店舗群が権利を主張して長年営業している。鉄道会社が倒産してしまって時間が経過した今、一帯は闇市の様相を呈している。
マスターは青く輝く密造酒をミツオのグラスに注ぐ。
「ミツオさん。また負けましたね」「ああ」
「今日の最終レースでしょう」
「ああ」
「私は取りましたよ」
ミツオはマスターの顔を見れずにグラスを一気にあおった。
「マスター、つけといて」
ミツオは怒りにまかせて席を立つ。ちょうどそのタイミングで、店の扉が開いた。伏し目がちだが、ショートヘヤーの女性がそこにいた。店内の明るさに目がなれない様子の女性は明らかに誰かを探していた。マスターが小さく来店の感謝の意を表す。その声に反応した女性がマスターを見た。視線はミツオに釘付けになる。ミツオは直感した。どこかでみたことのある女だった。




