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第8話 紡ぐ言の葉

 




 明朝、朝靄の中、あたしとステラさんはギルドの訓練場へ赴いた。


「旧き火の蛇よ、彼の者へ迸り運命に絡み付け」


 ステラさんの詠唱が終了した瞬間、訓練場に設置している魔法人形に向けて下から蛇の形をした火が現れ、巻き付いた。火は5秒も経つと消えてしまった。


「これが言霊です」

「おお~」

「言霊はMP、スキル発動の意志、イメージ、言の葉の四つが揃えば発動します。言の葉の組み方ですが、直接的で趣のない表現、曖昧な表現どちらであっても効果の低減や消費MPの増加が起こり得ます」

「考えようによってはリスキーね」

「ですから慎重に選ぶ必要があるんですよね」

「定型文のようなものはないの?」

「他人の表現から得た言の葉を用いると効果が下がります」

「盗作は減点ってことかぁ」

「ですから言霊師は互いに干渉せず、共有せず、独学で表現の地平を切り開く必要があります」

「知らないうちに表現が被っていたりしたらどうなるの?」

「その場合は効果の減衰が起こらないことは実証済みです。お互いが知らないという事実が重要なようです」

「言霊の使い手がパーティに二人以上いると問題だね」

「おっしゃる通りですが、言霊師の素養を持つものは稀ですのであまり心配なさらなくてもよいかと」

「そんなこと言ってもすでにうちには珍しいとされるジョブが四人もいるからなぁ」

「そのような偶然はそうそうありませんよ」


 まあ、それは必然なんだけど。


「ではアブさん。実践してみましょう」

「はい」


 あたしは魔法人形へ向き直った。対象に直接影響を与える言霊は消費MPが高く、精神力による抵抗を受けるリスクもあるので、なるべく周辺環境を操作する言霊がコスパが良いと聞いている。

 イメージは熱の収束。熱と言えば太陽。太陽と言えば。


「八咫の烏よ、其の御力の一端を示し万象を撃ち貫かん」


 バシュッ!!


 あたしの体から何かの力がごっそり抜けていくのが分かる。その代わり、前に突き出した掌から収束した熱線が撃ち出され、魔法人形に風穴を開けた。空気を焦がす臭いが立ち込め、魔法人形から細い煙が上がる。


「素晴らしい・・・!初めての言霊で魔法障壁を破り、人形にダメージを与えれるなんて思いませんでした。やはりアブさんは見込みがある」

「えへへ、褒められちゃった。・・・あれ、体が」


 あたしは体を支えきれなくなって膝をついた。ステラさんが手を貸してくれたので時間をかけて何とか立ち上がった。


「消費の大きい言霊でしたね。ひょっとして八咫の烏とは何かを司る精霊を指していたりしますか?」

「はい、あたしの故郷の神話に登場する神の一柱で、太陽神の使いとされています」

「それは大変興味深いお話ですね。道理で・・・。太陽の熱を収束・・・。その場合の費用対効果は・・・」


 ぶつぶつ独り言を言い始めてしまった。


「あの~。勝手に使っといてなんだけど、力を借りちゃって太陽神に怒られたりしないのかな」


 聞こえるように少し大声で言った。


「あ、失礼しました。何かの力を借りるのは精霊術の範疇です。言霊においては術者の中でその存在がどれだけ強く認識されているかが重視されているので、MP以外の対価は考えなくてよいです。しかし、神様の名前を使うのであればそれなりに消費MPがかさむのは意識しておいて下さい」

「はい」

「なるべく費用対効果の良い言霊を工夫して作り出すのが当面の課題かと思います。それと、言霊の特性なのですが、詠唱が終わるまで効果を発揮できず、声を出せない状態、もしくは空間を音が伝わらない状態にされると使用できません。後者は呪歌も一緒ですね」

「コスパの良い言霊かぁ。考えておこう」


 八咫烏でこれなら天照大神だと一発でMP全部ないなるな・・・。





「ただいま~」

「おっす、朝帰り」

「めっす、昨日はちゃんと寝れた~?」

「早く寝すぎて早起きしちまったい」

「今日のトピックはなんと~」


 あたしは昨晩から朝にかけてステラさんに教えてもらったことを掻い摘んで共有した。


「第二適正に言霊師か・・・。俄かには信じられないな」

「信憑性については後で実演するんでとりあえず置いといて、測定機と早見表も借りてきてるからあとでみんなの適性を調べちゃうね」

「では、次は俺から吟遊詩人について新たに分かったことを報告させてもらう。実はダンジョン産以外で呪歌を習得する方法があった」

「なんだって!?」

「落ち着いて聞いて欲しいが、少し時間がかかる方法だ。ガイドブックによると世界各地の石碑に記されたスコアから習得できるらしい。この石碑は持ち運ぶことはできないが、何度でも使用でき、写本も作れる。つまり、市場にも出回っている可能性がある」

「う~ん、物好きがやってくれてるかな?」

「お遍路みたいに流行ってればいいね」

「サキもお遍路知ってんだ。意外」

「うん。ディックドッグで88か所巡った」

「それもどうなの・・・」

「この件に関してはこれ以上の情報はない。流通に関しても分からん。次に疾風のパラディドルで爆走状態になった件だが、合奏による相乗効果等の記述はなかった。俺からは以上だ」

「つまり原因不明ってこと?」

「そういうことだ」

「ステラさんも分からないって言ってたんだよな」


 サキが強い理由は第二適正ジョブのスキルが関係してるんじゃないかって言ってたけどそっちはまあいいか。


「まあ、使えるもんは使っていこうぜ。そのうちスピードもコントロールできるようになるだろ」

「えらい楽観的ね。頭ぶつけたくせに」

「ぶつけはしたけど、ドライブみたいで楽しいから良いんだよ」

「走行も演奏も全部人力じゃん・・・」

「だが、交通事故の危険もあるから見通しの悪い場所での使用は避けよう」

「とりあえず『楽隊特急マーチングバンド・エクスプレス』って名付けたぜ」

「ふ~ん、まあ好きに呼んだらいいんじゃない」

「冷めてんなぁアブ。次の話題でも冷静で居れるかな?」

「というと」

「次の移動中にジャムるジャンル」

「ファンク!」

「レゲエ!」

「ビバップ!」

「ジャズは絶対事故るだろ!フュージョン!」

「うっさいそっちも似たようなもんじゃん!」

「リョーマそんなことよりシンバル欲しい」

「う~ん、シンバルはな~。どっかに金属加工してる店探さないと」

「走りながらどうやって支えんのよ」

「安定するか分からないけどマジックバッグからはみ出させればいいんじゃね?」

「絶対上手くいかないわ・・・」

「やってみなきゃわかんねだろ、後で吠え面かくなよ!」

「まず、現物の調達が先だが?」

「もう温まったみたいだし出発するよ。第二適正は帰ってからね」

「うおおおお!これを待ち望んでて夜しか寝れねえ!」

「寝てんじゃんね」





 4人で演奏することによって移動速度が異常なほど上昇する現象はやはり再現性があった上に、速度調節もできた。

 おかげでやや遠くまで行っても昼過ぎには帰ってこれそうだ。


「恵み帯びて横たわる翠よ、我が瓢風に手折られん」


 ひゅごおおう


 あたしが裂帛の気合とともに中二病台詞を決めると、予めサキに伐ってもらった薬草がマジックバッグに吸い込まれた。


「おーすっげ~。まるで魔法使いじゃん」

「どや!広い意味では魔法らしいね、言霊」

「アブにぴったりだな」

「ふふん、お褒めに授かり光栄です」

「上品な邪気眼って感じだな」

「あら、中二病も洗練されれば立派な個性よ?」

「かっこいい」






「おつ~」

「おつかれ~。第二適正見てから飯食いに行こか」

「へーい」


 測定器をリョーマに渡す。


「これ持って掲げるだけ。変な模様が出るからこの早見表で判断するね」

「こうか?おお」


 文様が浮かび上がってきた。対応ジョブは・・・。


「え~っと、レンジャーね」

「マジ?自衛隊のやつ?戦隊モノ?」

「それは一般的とは言い難いんじゃないか」

「じゃあどういうジョブなんだ?」


 あたしは指で横髪をクルクル弄びながら汎用ジョブガイドのページをめくった。


「自然と対話するスカウト系ジョブだってさ。得意武器は弓、斧、短剣。サバイバル系統ではあるんじゃない」

「スカウトって言うと、罠解除とか鍵開けとか索敵とかしないといけないヤツか」

「手先が器用だし木材に詳しいし昆虫も好きだから合ってるんじゃない?地獄耳で敵も探せそう」

「しかし、多動だからMGSには向いてないかもな」

「そっかー、周りから見た俺の得意な事ってそんな感じなんだな・・・」


 新たな発見に目から鱗が落ちたような顔つきになっているリョーマであった。


「じゃ次サキ」

「ほい」


 サキは測定器を掲げた。同じく文様が浮かび上がる。


「暗黒騎士だね。イメージ通りではあるのか」

「他に闇系のジョブないの?」

「う~ん一応ダークプリーストとかネクロマンサーとかあるね」

「死体は嫌い」

「それは好きか嫌いの問題なのか」

「えっと、得意武器はメイス、両手鎌、両手剣、スパイクシールド」

「まあ、使ってもらうのはメイス二刀流で太鼓の達人スタイルと鎌かな」

「役割はタンクらしい。前に出てターゲットを引き付けるのが役目」

「サキだったら全員倒してそのまま帰ってきそうだな」

「ぶい」


 最後はダンディ。すでに測定器を掲げていた。


「これは?」

「時術師だってさ」

「時間に関係する魔法が使えるってこと?最強じゃん」

「ジョブガイドによると、ん?300年間該当者なしのため資料なしって書いてある」

「謎に包まれてるな」

「なれるのか?一割の男に・・・」

「犯罪に使わないでよね」

「善処しよう」

「おまわりさん事案です」

「やめろ・・・通報は効く」

「よし!終わったし飯食いに行こうぜ!」

「忙しいヤツだな」


 行先はなじみの店。





「ふ、ふん!毎日来るじゃない!よくもそんなに飽きないわね」

「ああ、まだメニュー全制覇してないからな」

「じゃあ、とくと味わいなさい。早食いなんて許さないんだから」

「このシチューまじうめ~!飯がうまいと生きててよかったって感じがするよな」

「・・・!」


 この店に毎日来てから分かったことがある。この子、『うまそうにメシを食う男子』を見るのが好きなんだ。

 リョーマは確かにリアクションが素直だからお眼鏡に適うのは分からんでもない。


「おいしいシチュなのになあ」

「そうだが?」

「だぼぅみーにん」

「駄洒落ともいう」


 サキは気が付いてるみたい。でも、リョーマ本人が自覚しちゃったらこういうのは崩れ去っていくんだろう。


「そして、手を伸ばせば伸ばすほど、指と指の間をすり抜ける。か」

「なーにブツブツ言ってんだ。これもーらい!」

「あたしのパプリカ!なんでパプリカだけ選んで取るのよ。こっちの肉とか取りなさいよ」

「へへ、稼いでんだから食いたきゃ注文すればいいだろ」

「こいっつホンマ・・・」


 こういう子供っぽい言動も魅力の一つだ。刺さる人には刺さるんだろうな。勿体ないな~。

 でもパプリカ取ったから今日は助けてあげないもん!



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