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第7話 第二適正

 



 自警団の保安官は、物腰柔らかい方がトリス、強面な方がフェデリーと名乗った。


「なるほど、アリーマ不動産さんの証言と一致している。特におかしいところはないね」

「ご協力感謝いたします」

「いえいえ、たいして時間もかかりませんですし」

「実は・・・いや、少々失礼」


 自警団の2人は一旦あたしから離れて何やら話し込んでいたが、すぐ戻ってきた。


「実は霊安所に保管されていた遺体が忽然と姿を消したのだ」

「なんですって」


 こわっ!


「怖がらせるような結果になってしまいましたが、知らないでいることのリスクと天秤にかけお伝えしました」

「用心しておいてくれ」


 用心するって言っても何をすればいいんだ・・・。


「あの、具体的にどんな警戒をすればよいのか教えていただけますか?」

「そうですね、一般的には夜間は出歩かない、見通しのきかない路地は通らないぐらいでしょうか」

「そうだ、これを渡しておく」


 そう言ってフェデリーは布で覆われた玉のようなものを手渡した。大きさはピンポン玉ぐらいだ。


「これは防犯用の通報装置になっている。使用方法は地面に叩きつける等の一定以上の衝撃を加えること。そうすれば魔力信号と狼煙が発生する。町の中であれば保安官が集まってくるはずだ」

「ありがとうございます」

「こちらも事件解決に向けて尽力させていただく」


 やり取りを終えたあたしは冒険者ギルドへ換金に向かった。





「割符の確認が終わったっす。こちら報酬の金貨12枚と銀貨56枚っす」

「ありがとうございます」

「ちなみにこれはただの雑談なんすけど、アブさんってステラ室長とどういう関係なんすか?」


 応対したのはステラさんの部下で猫獣人のミーナさんだ。ステラさんって室長なんだな・・・。下手な受け答えをすると変な噂が広がりそうな気がするとあたしの勘が告げている。まあ、ステラさんはあんなだしマイルドな表現で関係を公にしてしまっても問題はないか。


「ガールフレンド同士です」

「ガールフレンド!普通なのになんだかドキドキする響きっす!」


 女同士でガールフレンドというとニュアンスから察して欲しいものだが、異世界にそのような概念があるかはわからない。ちなみにボーイフレンドでもある。


「でも、冒険者になって間もないのにこんなに稼いでるのは傍目に見ておかしいっす。別に不正じゃないってのは分かってるっすけど、他の冒険者から贔屓を疑われてるかもしれないっす。気を付けて欲しいっす」

「あら、そうなのね・・・」


 稼ぐのに必死でそういうのは思ってもみなかったな。周りからの疑惑と嫉妬か。厄介な問題ではある。


「ん~、どうすれば払拭できますかね」


 単純に疑問だったので聞いてみた。するとミーナさんは首をひねって考えた後こう答えた。


「実力を周りに示せば文句も出ないはずっす!」

「実力か~」


 ここで言う実力とはおそらく戦闘技能のことを言ってるんだろうな。念のため聞いておく。


「あたしたち別に戦って稼いでるわけじゃなくて素材調達を効率よくやってるだけなんですけど、それでも戦うための力を示さないと納得してくれないのかな?」

「そうっす、ナメられないぐらい強ければ解決っす。じゃなきゃモヤモヤ感は残るっす。冒険者はみんなアホっすから」


 さらっと差別発言が出たのは置いといて、強さを見せつけるのは難易度が高い。

 サキにお願いするか。でも、この先ダンジョンを攻略するためには強くないといけないのは確かなのよね。





「ってことを聞いてさ」

「そりゃ難儀だな」


 あたしはさっきあった出来事をメンバーに説明した。


「異世界の冒険者ってのはだいたいが戦闘を生業にしている奴らだろう。我々は現状で強いのはサキだけだ」

「ってことはサキにお願いして誰かとタイマンでも張ればいいのか」

「サキ、こういう案出てるけどどうなの?

「やめたほうがいい。今はまだ、うまく手加減できない。相手は死ぬ」

「負ける気はしないんだ?」

「うん」

「マジか・・・」

「じゃあ最悪殺害してもいい相手と戦闘して誰かに目撃者になってもらうとか?」

「なんか、発想がサイコパスだぞ」

「そりゃこっち来てからずっと緊急事態だもん。アイデアに聖域は無しだよ」

「でもまあ今すぐ何とかしないといけない問題でもないんじゃないか?なんかあったらサキにお願いするとして、とりあえず様子を見ようぜ」

「じゃあ、相手を殺害してでも打破しなきゃいけない状況がやってきた場合、それを選択肢に入れること。ひとまずはその心の準備だけはしておいてね」

「わかった」

「了解」

「だれかを殺してでもみんなをまもる」

「サキ・・・」

「サキだけが背負う必要はない。意思決定の責任は俺たち全員にある」


 サキはコクリと頷いた。


「それともう一つ。入居しようとしてたとこの遺体が安置所から消えたみたい」

「えっ?遺体が勝手に動き出したってこと?ゾンビじゃん」

「異世界だしそんなこともあるのかな?普通に人が運び出したのかもしれないし、自警団が捜査中って言ってこれを渡してくれたんだ」


 懐からピンポン玉サイズの物体を取り出す。


「地面に叩きつけると狼煙になる上に魔力信号が出るんだってさ」

「ふ~ん、カラーボール兼発信機みたいなもんか。まあアブが持っとけばいいんじゃない」

「そうするつもり。それでそっちはジョブガイドの解読は進んでる?」


 あたしはダンディの方に向き直って尋ねた。文字のお勉強フェーズはダンディ優先にして、リョーマは楽器の工作をやってもらっている。サキは用心棒だ。あたしは渉外やら情報収集やらの雑用。


「ああ、役割、固有特性、能力補正に関わる記述は概ね解読を終えている。今は要点をまとめている最中だが、今日中にはできると思う」

「じゃあ、明日の朝にまた確認するね。明日も薬草採りに行くんだから、出来てなくても夜なべせずちゃんと寝ること。リョーマもね」

「へいへい」

「じゃ、あたしは予定あるから」

「今日も通い妻か?宿代は払ってあるからいつ破局しても安心だぞ」

「笑えないジョークね・・・」

「お、まさかなんかあった?ハナシ聞こか?」


 ダンディが気まずそうに顔をそむけたが、リョーマは嬉しそうに聞いてきた。こんな時だけよく気付くのが腹立たしい。


「はぁリョーマくん、あなたそんなだからモテないんだよ?」


 あたしは爽やかな笑顔を貼り付けたまま宿を後にした。





「ってことがあってさ」


 あたしの異世界手料理を食べてるステラさんに今日あった出来事を掻い摘んで話した。


「ミーナさんにはお説教ですね」

「いやいや、こっちも気づかなかったことを教えてくれたんだし、おあいこってことで手を打たない?」

「では、ミーナさんとサキさんを戦わせるのはどうでしょう?」

「冗談きついって・・・」


 あたしはもうすっかり普段通りの口調だ。


「ごちそうさまでした。風変りな味でしたが、とてもおいしかったです」

「口に合うか分からなかったけど、食べてもらえて嬉しいよ」


 あたしは食器を片付け、食洗器をセットした。ステラさん曰く独身者必携の魔道具らしい。


「そういえば、この世界の一般論として、強くなるにはどうしたらいいのかな?」


 もう異世界人だってことは察しているので、明言は避けつつ小出しにしていくスタイルで行く。向こうもさらに察してくれている。ステラさんもそのやり取りが楽しいようだ。


「一般論としてなら新たなスキルを得るかトレーニングをすることですね。肉体的、精神的負荷をかけることで個人差はありますが一定まで能力値を上げることはできます。武器や魔法の扱いに関しても同様です」


 うちの世界とあまり変わらないが、その先があるんだろうな。


「一定以上に限界を超えて能力値を伸ばすには二つのパターンがあります。一つは己と強く向き合うこと。もう一つは強敵に打ち勝つこと。弱い敵とばかり戦っていても成長はありません」

「まず、あたしは前者のトレーニングとスキルの習得かな。スコアって高いんだよね」

「ええ、必要なら私がポケットマネーで・・・」

「いやいやいや、そんなことすると贔屓だのなんだのって声が上がるって話したよね」

「あら、結果は変わりませんのに。どうせ機転を利かせて返済なさるでしょう」

「過程が大事なの。ステラさんにはお金目的で近づいたんじゃないもの。それをみんなにも示さないと」


 正直なところギルドから融資を受けるのもこれっきりにしたい。あたしたちが職業を公開していないのであれば、正当な手段であっても疑惑が残るだろう。


「ふふ、なるほど。では、先ほど人を殺さないといけない決断になった場合、それを選ぶ覚悟がおありと、おっしゃいましたね」

「選ぶような状況は極力避けたいかなぁ」

「そのような状況になるのを極力避けるためにも私がお力添えできると思ったのですが、どうでしょう?背は腹に変えられないのでは?」


 試すような笑みだ。


「ん~、確かにそれは魅力的な提案かもしれない。でも、何もかも拾える状況にあるのに、何かを捨てる方を選ぶほど人生に疲れてないんだよね」


 ステラさんは満足するように笑みを深めた。


「ふふふ、それでこそアブさんですよ」

「いや~怖い怖い。選択肢を間違えたかと思ったよ。『なぜ頼ってくれないのですか』とか言われるかと」

「既に頼っていただいているのは感じております。線引きがあるのも承知です。でも、少しは刺激がないとアブさんに飽きられてしまいますからね。己に向き合うための壁を用意したつもりでございます」

「そこに繋がってくるのか。で、あたしは成長してより魅力的になったってこと?」

「既に十分魅力的ですよ」

「壁超えられず、か」


 あたしは天を仰いだ。


「吟遊詩人としても全然だしスコアは高い上に全然市場に出回ってないし、他の手段で強くならないとだな」

「では、職業の第二適正を見て差し上げましょうか?」

「第二適正?」


 また新たな概念が。


「メインの職業程強力なスキルは使えませんが、他の職業に分類する魔法やスキルを習得して使いこなすことはできるんですよ。理論上はすべての職業のスキルを広く浅く使いこなすことも可能ではありますが、ただ、闇雲に習得していては時間がかかりますので、その中で適性を見ます」

「そんなのがあったのね・・・」

「吟遊詩人とて、露払いに軽めの剣ぐらいは振るいますし、簡単な魔法で味方をサポートする方もいらっしゃいますよ」


 そういいながらステラさんは奥の部屋から小箱を持ち出した。開けると中には短めの杖のようなものが入っていた。先端には明るい緑色の石が嵌め込まれている。


「持ち手を握り込んで掲げてみてください。ギルド登録の時ほどは時間はかかりませんので」

「こうかな」


 あたしは言われるがままステッキを掲げた。するとぼんやりと光が浮かび上がり、複雑な文様が現れた。


「え~っと、これは何かな」

「言霊師ですね。メイジ職に分類されており、魔力を媒体に言霊による事象を引き起こすことで敵にダメージや状態異常を与えることを得意としています」

「ああ、そう説明されるとなんだかイメージが湧いてきたかも」

「言霊は言霊の強度、対象によって消費MPが変化し、格調の高さや外連味で効果量が変わります。発動させるにはスキル発動の意志と事象の結果をイメージして、言の葉を構築する、というプロセスが必要になります」

「はったりを利かせつつ真に迫るってことね」

「実演したいのはやまやまなんですが、広い場所でなければ危ないので明日の早朝に時間を取りましょうか」

「ステラさんは言霊も使えるんだ」

「魔法全般は浅く広く習得しています。では、今日は瞑想による魔力操作の基礎をやっていきましょう。おそらく呪歌にも応用が利くと思いますし」

「お願いします!」


 そのあとも夜の講義は続いた(意味深)。



段落の字下げ修正2026/01/03

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