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第6話 借金まみれ

 



「昼前に薬草を持ってきてくれた冒険者か。なんだい話って」

「明日は素材を今日の100倍ぐらい供給できそうなんだけど、需要ってどうなってるかなって」

「100倍だって!?それはすごいな」

「それなりに投資する予定なので、ムダになったらマズいなと思って相談しに来たんです」

「消費期限が早い素材はそんなにないかな。乾燥させてしまえばいいし、瓶詰ポーションにすればもっと保存が効く。ちょい待ってて」


 錬金ギルドの蜥蜴人は紙とペンを走らせて計算し始めた。


「処理する場所とか人件費とかも考えて買い取り額は2割引きだね」

「その条件なら呑めるわ。話の分かる人で助かります」

「何ならもうちょっと長期的に貰いたいぐらいなんだけど、そういうわけにもいかないよね」

「そうですね。あと3日は続けますが」

「はあ、来年度の栽培エリア増築まで辛抱か・・・まあ、その分高く売れるから困るのは冒険者と住人なんだけどさ」

「儲かるのにどうしてやる人が少ないんでしょう」

「今ある職を捨ててまではってとこかね。相場は水ものだし、冒険者にしたって迷宮都市に来てまで薬草を摘んで過ごすのはプライドが傷つくんじゃないかな・・・。おっと、君も冒険者だったな。気を悪くしないでくれ。本当に助かってるんだ」

「あはは・・・」

「じゃあ、今の内容で契約書を作るから署名を」


 名前書く練習しといてよかった。内容には目を通したが、冒険者ギルドは間に通すようだ。冒険者は冒険者ギルドを介してでしか仕事を請け負えない仕組みらしい。不履行が続くと罰金もあるとか。


「じゃあ、よろしくね」

「ありがとうございます」






 続いて、冒険者ギルドに融資手続きをしに行く。丁度ステラさんがいらっしゃったので、対応してもらおうと列に並ぶ。


「あら、アブさん。お疲れ様です」

「こんにちはステラさん!?」


 口調こそ他人行儀だが、遠くからブンブン手を振って嬉しそうにしている。周囲からは「あのお堅いことで有名なステラさんが!?」「どういう関係だ?」「あの子・・・可憐だ!」などとどよめきの声が上がってる。


「あらいやですわ。私としたことが嬉しくてつい」

「あはは・・・取り敢えず並んでおきますね」

「はい、速攻で終わらせますね」

「えっ!?」

「協力してください」

「ひい!?」


 前に並んでいた冒険者が凄まれて悲鳴を上げる。


「さ、流石に公私混同はマズいから普通でいいかな。全然急いでないよ」

「私は急いでいます」

「あの、真面目に働いてるステラさんが一番かなって」

「・・・わかりました」


 ほっ。営業スマイルになって普通に業務をこなし始めた。しばらく見張って待つと、あたしに順番が回ってきた。多分、さっきのやり取りもこれから相談する内容も周りに聞こえてるよなこれ・・・。


「本日はどのようなご用件でしょうか」

「ゆ、融資の相談を・・・」

「まあ、お金にお困りなら個人的に相談なさってくれれば融通させていただきますのに」

「個人的な希望としてルールは守りたいんです。分かってくれますよね?」


 頼むからお惚気オーラを抑えてくれぇ。


「では、プライバシーの問題もありますので、個室でゆっくり話しましょうか」

「はい、そうさせてもらいます・・・」

「これで2人きりになれますね」


 ざわつく冒険者数名を後目に扉が閉まる。小さな音で「そっちか!」「来ましたわー!」「だから俺になびかなかったのか」「間に挟まりたい」などと好き放題聞こえてくる。


「申し訳ありませんでした」


 部屋で二人きりになるなりステラさんは深々と頭を下げた。


「どうして謝るのかな」

「ご迷惑だったでしょう?」

「終わってみれば目立ちはしたけど、それだけだから。吟遊詩人ってこともバレてない」

「お優しいのですね」

「敢えて、そうしたってことでいいのかな?」

「はい」

「じゃあ、なおさら責められない、かな」

「私は」


 ステラさんは涙を溜めてあたしに縋りつく。


「私は自分の感情を抑えられない愚か者です」

「ステラさんほど賢い人はそう居ないよ」

「いえ、・・・いや、そうかもしれません。これも利益を最大化しようとする私の打算によるものです」


 あたしはじっとステラさんの言葉を待った。


「あなたは渡り鳥。いずれこの私の元を去る時が来るでしょう」


 その言葉を聞いた瞬間、心がざわついた。


「どうして、そう感じさせてしまったのかな?」

「否定なさらないのね」

「長い旅路の果て、お互いおばあちゃんになって片方に別れを告げるの。そういう未来だって、あるかもしれないよ?」

「こんな時にまでご冗談を」

「それが真実になるかはステラさん次第なのよ」

「お気遣い、ありがとうございます。でも、とても悲しい。分かってしまうのが悲しい。もしもあなたが耳元で歌声を聴かせてくれなかったらこう結論付けることもありませんでした」


 ステラさんは涙ながらに声を振り絞った。


「だから、今だけは他の誰かに取られたくなかったんです・・・」

「ステラさん・・・」


 あたしたちはしばらく見つめ合っていた。


「ありがとうございました。もう、大丈夫です」

「アブさん」

「はい」

「あなたは大丈夫なのですか?」

「・・・」


 胸の内を吐いていいのだろうか。


「正直、かなりショック。でも、もう慣れたかな?それも強がりか」


 そう思っていても口は既に語っていた。


「あたしさ、こんなんでも結構モテてさ。でも、みんなすぐにあたしから離れていったんだよね。この体のせいかな?どうしてだろう?と思っても、やっぱりみんな同じことを言うんだ」


 頬を一筋の涙が伝い、笑みがこぼれる。


「渡り鳥か・・・。たとえ、そういう星の元に生まれたとしても」


 お互いの瞳を見据える。


「寄る辺なしってのもしんどいから、しばらく羽を休ませてもらえると嬉しいな」

「ええ、あなたを導いてみせます」







「うおおおおおおお!!!!借金返済するぞおおおおお!!!」


 感傷も冷め止まぬ中、私たちは元気に走り回ってる。

 否、首が回らなくなる前に走り回る必要がある。

 体力を余分に消費してしまうので叫ぶ必要はない。


「で、いくらあんの?借金」

「金貨30枚。現在の貨幣価値に換算して3000万円である」

「え、マジ?そんなにあんの!?」

「3日で返して結構大きなおつりもくる計算だから大丈夫!多分!」

「その間、馬車馬のように働くってわけか」

「これも目標のため!高い木材も買えるようになるよ」

「そう言われるとやる気出てきたわ!」

「しかし、大枚はたいただけあってこのマジックバッグは凄いぞ。5tまで入るらしいが、まるで重さも感じない」

「異世界って感じするよね」

「職業補正か知らないけど走っててもそんなに疲れないしな」

「何より、このスピード感。これが呪歌の力か」


 シャカシャカシャカ


 そこにはマラカスを鳴らしながら大鎌を背負ったゴスロリを中心に疾走する4人の男女の姿が。


「トゥマンボ!」

「着いた!次の群生地!サキ、やっちゃって」

「まかせろ~」


 ブイーン ズザザザザザザ


「日に日にサキが人間離れしてきてるな」

「シルエットがドラ〇エのかまいたちみたいになってるぞ」

「ほれ!我々は分別と回収ぅ!」

「へいへい」

「あ、その草はゴブリンモドキっていう高いやつ」


 サキの不思議な力については本人からの説明はあやふやで、手持ちの書物を漁ってみたりしたが、結局わからず仕舞いだった。急いで解明しないといけないわけではないからとりあえず保留だ。サキはうまく伝えられなくて少し落ち込んでいた。

 疾走のパラディドルのスコアはバンドのリズム隊でありマラカスの所持者であるサキに使ってもらった。


「マジックバッグが一杯になったから撤収だ」

「おう!」

「結構遠くまで来たから街に着くのは夕方かな」

「社不に8時間労働はきちぃよ~」

「キビキビ動け~」


 シャカシャカシャカ


「・・・」

「単調で飽きてきた?」


 そう尋ねたあたしにサキはコクリと頷いた。


「さすがにウワモノがほしい」

「じゃあ俺とジャムろうぜ」


 リョーマはそういうと走りながらダンディの持っているマジックバッグからリュートを取り出した。


「こっそり忍ばせてたのか!」

「へへっ、やっつけだけど夜更かしして修理済みよ」

「変な所で用意が良いんだから」

「クソ、走りながら上半身安定させるのって難しいな。カントリーっぽいシャッフルのループでいい?」

「おけい」

「じゃあカウントどうぞ~」

「ろん・かく・よう・なし」


 シャッシャカシャッシャカシャッシャカ

 ジャンジャンジャジャジャ


「我慢できねえ。俺もビートボックスで入るぞ」


 シャッシャカシャッシャカシャッシャカ

 ジャンジャンジャジャジャ

 ボン・ボン・ボン・ボ・ボ


「アブもスキャットでカモン!」

「うん・・・!」


 しょぼい楽器に疾走中とかいう劣悪な環境。にも拘らず、・・・私たち今バンドっぽいことやってるわ。何日かかった?3日?永遠にも思える時間だった。こんな日がいつか帰ってくると信じて頑張ってきた。環境を整えるにはまだ道半ばだけど、目途は立ちつつある。これはきっとその前祝いだ。派手にやらせてもらおう。


「シャバドゥビバパッパトゥーラヤア♪」

 シャッシャカシャッシャカシャッシャカ

 ジャンジャンジャジャジャ

 ボン・ボン・ボン・ボ・ボ


 世界が満ち足りた。そう思ったその瞬間だった。


「!?」

「スピードが上がってないか!?」


 突然走るスピードが上がった。おそらく100km/hぐらいは出てる。

 ごめん、こんな状況でも楽しすぎて歌うのやめられないんだけど!

 完全にトランス状態のサキとあたしを見るや呆れ顔の男性陣。あ、あたしも一応男性でもあったっけ。


「なら、限界まで付き合ってやるとするか」

「上等だ、ションベンちびんなよ!」


 もっと夢の続きを歌わせて。最高の仲間だ。本当にみんなと一緒でよかった。


「あだっ!!」


 しかし、リョーマが太めの木の枝に頭をぶつけたことによってジャムセッションは唐突に終了した。夢短し。






「まさか本当に100倍納品してくるとは思わなかったわ」

「有言実行させていただきますので」

「根っこもちゃんと取ってきてるし、文句はないよ、じゃあこれは依頼達成証書」

「額が大きいと割符なんだ」

「詐欺を防ぐためだね。もっとも冒険者ギルドを敵に回すだなんて、リスクとリターンが見合ってないよ」

「あはは・・・同意です」


 なぜか私の頭にはステラさんの顔が浮かんだ。


「んじゃ、明日もよろしく」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


 謎の加速によってかなり早く帰れた。あたしのあっさい知識によると重ねがけは無効って話だけど、合奏すると効果が上がるのかな?なんか買い物して宿に帰って本でも読むか・・・。


「貴方がアブさんですね」


 と思っていたら見慣れない緑の服を着た2人組に声をかけられた。この辺は人通りも多いし不審者でもないだろう。多分。


「そうですが、どちら様でしょうか」


 ぶっちゃけ心当たりはある。


「先日の事件の第一発見者と聞いていますので、事情聴取のため署までご同行願えますか?」


 やっぱりだ。捜査に協力するのも市民の務め。ここは治安の改善に協力しようじゃないか。そして、ルルイエ自警団の本部まで出向くのであった。



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