第5話 買えたら買うわ
午後は不動産物件の内見をすることになっている。リョーマとダンディは風呂に入りたいとか言ってるので別行動。必然的にあたしとサキの2人で見て回ることにした。寝室は別室でリビングとかの共用部があれば十分なのだが、リハと録音用の音楽室も欲しいところだ。ぶっちゃけ値段の面でも寝泊まりだけなら宿屋でも十分っちゃ十分。
「防音で結構値段かかるかもと思ったんだけど、魔道具だとか呪具とかで防音できるみたいなのよね」
「それをステラさんの部屋で知ったんだ?」
「ぐっ、鋭くて困る」
「わたしというものがありながら」
「おーい、人が聞いたら誤解するようなこと言うな~。ただでさえ誤解させるような言動が多いのに」
「自覚あった」
「へへ、それなりにね」
学生時代のトラウマで、バンドメンバーには手を出さない誓いを立ててるのだ。それはみんなにも周知済み。
「アリーマ不動産。ここか」
「ここがあの女のハウスね」
「そんな台詞どこで覚えてくるんだか」
「ディックドッグ動画」
「それ好きねえ」
「もう2度と見れない・・・」
店の扉を開くとオールバックで眼鏡をかけたちょび髭の中年男性が事務作業をしていたが、こちらに気づいて応対する姿勢を見せた。
「いらっしゃいませ。アリーマ不動産です。どのような物件をお探しでしょうか」
「4人で住めるシェアハウスを探しているんですが、個室があって、共用部があって、それとは別に作業部屋か倉庫みたいなのが地下室にあると助かります。予算は月に銀貨15枚で」
「なるほど、クランハウスのようなものですかな。4人とはずいぶん規模が小さいようで、これから大きくしていくつもりなら大きめの物件もご用意できますぞ」
それは考えてなかったな。今のとこ人数増やす予定もないが。いや待てよ。
「そういえば、ダンジョン攻略は6人の制限があるんでしたっけ。そちら用の物件が余っていて6人用の物より安ければ一考します」
「いやはや、こちらの事情を考慮して頂いて助かります」
つまり優先的に捌かせたい物件があるってことだよな。間違ってなかった。部屋が余るが6人用というのも悪くない。
「条件を満たす物件ですと東区にあるダンジョンの入り口と、商店の立ち並ぶ南区と中間地点にあり利便性が良いかと。値段は4人用とほとんど変わりませんが、共用部はその分広くなっております」
「他の物件の資料も併せて比較がしたいです」
「ではこちらを」
見ればどれも似たような条件だが、この物件だけやや安くなっている。
「先ほどお勧めいただいた物件を見に行きたいです」
「すぐにご案内いたします」
あたしたちは町の東区と南区の中間に位置するといわれている物件へ足を運んだ。どちらかというと東区に位置する一角は大きめの物件の立ち並ぶ住宅街となっており、該当物件の外見はまだ新しそうに見えた。中に入ってアリーマさんが明かりを点ける。
「この物件、いるね」
「えっ」
中に入った瞬間サキが突然呟いた。あたしはアリーマさんを問い詰めた。
「おじさん、何か隠してない?」
「そ、そんなはずは。確かにエクソシストに浄化を」
「ほーらやっぱなんかあんじゃん」
サキはしばらくじっとしていたが急に何かに気づいたように地下室へずんずん歩き出した。
「お待ち下さい。仮に浄化がまだだとすれば危険ですぞ!」
「大丈夫。多分見つけて欲しいだけだから」
「な、何を?」
「ここの壁」
サキが差した壁は一見何の変哲もない壁に見える。サキが叩くと空洞を感じるような音が響く。
「まさかここに?」
「割るよ」
そう言うと掌を壁に押し当て、体から力を伝えた。衝撃と風圧でサキの髪が一瞬逆立ったがすぐに収まった。しかし、瓦礫の散らばる破壊の跡に見合うほど大きな音はしなかった。
「ミュートがうまくいった」
「そ、そんなに力持ちだったっけ?サキ」
「無かった、昨日からちょっとおかしい」
昨日って言うと”こっち”来てからだよな。
「な、なんということだ・・・」
「おじさん、殺人事件があったこと黙ってたの?」
「いえ、入居後変な声が聞こえる等で即退去することがあってから、念のためエクソシストの方に浄化依頼を」
「ふ~ん。で、除霊が漏れてたのは敷地外判定だったのかな?これ」
「そ、そのようで」
見ると穴は1.5メートルほどの奥行きがあり、その最奥にミイラ化した遺体がうずくまっていた。
「とりあえず、自治体に通報してあとは任せましょ」
「ええ、もちろんそうさせていただきます」
「で、物件どうしよっか?サキ」
「壁が直ったらここでもいい」
「マジか・・・」
正直ちょっと引くが、サキが大丈夫って言うなら多分最良の選択な気がする。
「家賃は月に銀貨14枚銅貨30枚とさせていただきます。敷金礼金につきましては今回はこちらが負担させていただきます」
「う~ん、それでいっか。捜査と補修が終わるまでは住めないよね?多分」
「おそらく最短で3日はかかるかと」
「持ち帰って仲間と相談して決めさせてもらいます」
「かしこまりました。この度は大変なご迷惑をおかけして申し訳ありません。深くお詫びいたします」
ひとまず、泊まっている宿の情報だけ渡してその場は解散となった。第一発見者としての事情聴取とかあんのかなやっぱり。
「サキ」
「ん?」
「急に力持ちになった理由に心当たりはある?」
「ん~・・・」
気になるのでやっぱり聞いておく。サキが説明できないケースも想定しておく。
「そこらへんに使える力が転がってる。わたしはそれを利用しただけ」
「ほ~ん」
「逆になんでみんなは使ってないの?」
うお、できる人特有の「なんでできないの?」だ。ガチで疑問なんだろうな。
「んとね、その力の使い方においては、サキは多分みんなの一歩も二歩も先を行ってると思う」
「そうかな」
「みんなができるようになるにはどうすればいいか分かるよね」
時間をかけてサキはこう答えた。
「わたしが教えないといけないってこと・・・!?」
「そう!それ!先生になって欲しい」
「先生・・・!」
サキがにんまりする。
「みんなの後ろをついていくことしか出来なくてもどかしかった。やっと役に立てる」
「すぐじゃなくていいからね。ゆっくりやっていこう」
それから適当に生活雑貨や衣類などを買って宿に戻ろうとしたら、リョーマとダンディに出くわした。
「今から楽器屋見に行くんだけど一緒に行かないか?」
「行く行く」
正直、買い物したら結構な額が飛んで行ったので、楽器を買えるようなお金は残っていないだろう。
だが、楽器を見るのはたとえウィンドウショッピングでも楽しいものだ。
「で、お風呂はどうだったのよ」
「聞いてくれよ。ホモの兄ちゃんに襲われそうになったんだよ」
「えっどういうこと?ウケるんだけど」
「なんかロッカーの鍵を足首に付けて回して遊んでたら毛深くて厳つい兄ちゃんに絡まれてさ。いや、俺はノーマルですって言ったら、『チッ紛らわしい真似するんじゃねえ』って言ってどっか行った」
「あんたねえ・・・いや、その人のお尻掘ってあげたら童貞卒業できたかもよ」
「嫌だ!俺は!絶世の美女と!お互いの将来を誓い合って!童貞を捨てるんじゃあああ!」
「もう、そこまで行ったら信念だから、気合入れて頑張んなさいよ」
「心は男だとか言い張って入ってこようとするおばさんとか居たし、全く勘弁してくれよ」
「あ、そこの店が楽器屋」
どうでもいい話過ぎてサキの不思議パワーのことを話すのすっかり忘れてたわ。
その楽器屋は古臭くこじんまりとした店構えで、あまり儲かってそうには見えない。意を決して入店してみる。
「お邪魔します」
「邪魔すんなら帰ってーや」
「ほな帰らせてもらいますわ」
「冗談やて~」
口調が関西人かよ!
店主はやたら調子のいい関西弁を喋る赤ら顔のオッサンだった。
「冗談の通じんモンが多くて困るわさかい。あんさんらはようわかってまんな」
「職業柄ノリが悪かったら困るんだよね」
雑談が好きなタイプか。
「ワイら楽器見に来たんやけど」
「ん~?あんさんら吟遊詩人?」
「せやけどあんまり大声で言わんといてな」
「分かってまんがな」
店内を物色する。古びたリュート、古びたリラ、古びたリコーダー、古びたハーディ・ガーディ・・・
「ハーディ・ガーディじゃん!初めて実物見たわ。試奏してみていいか?」
「かまへんかまへん。ワイは吟遊詩人じゃないからよう音出されへんわ」
「あんた、そんなんでようその商売でやってけとるな・・・」
「もう、店畳もうかと思ってますわ。人助けやと思ってなんか買うてえや」
「こいつは手回し式のヴァイオリンみたいなもんでな、こうやって打鍵すれば音が出る」
リョーマは初めて実物を見たとか言っておきながらケルト風のメロディを軽く弾きこなした。
「おお、結構なお手前」
「でもどの楽器も状態が悪いな。修理や調整をやってくれるようなところはないのか?」
「首都まで行かないとないかもなぁ」
「う~ん、これぐらいだったら俺が自分で直すか・・・」
リョーマはこれで手先が結構器用だ。ギターの修理や部品の調達も全部自分でやってた。
「思い切って自分で作ってみるのもいいかもな」
「作れるの?キモ・・いやかっこいい」
「今キモいって言いかけた?まあ、作るのは初めてだけど覚えてるうちに再現したいよなあ」
「一から作るのが難しいならさっき言った通り既存の楽器の改造とかでいいんじゃない。四弦のリュートを六弦にして調律すればとりあえずギターっぽくなるでしょ」
「簡単におっしゃいますねえ。でも、まあやるか。おっちゃんこれくれ」
「おおきに、銅貨80枚や」
リョーマは見るからに手入れがされてなさそうなリュートを購入した。でも多分いい木で作ってる気がする。リョーマが楽器関連で、抜かりがないことは知ってるから。
「ほなら購入者にお得情報や。ちょいと待っとき」
店主は何やら店の奥から仰々しい巻物を取り出して戻ってきた。
「ジャーン!『疾風のパラディドル』の楽譜や!」
「スコア?」
「なんや反応薄いの。披露して損したわ」
「あ、それってガイドブックに書いてあったやつ」
「ほう、流石に知っとるヤツもおるか」
「時間なくてまだ斜め読みしか出来てないけど」
吟遊詩人は呪歌を習得するために『楽譜』を消費せねばならない。確かそのほとんどはダンジョンからのドロップ品であり、高額で取引されているはずだ。
「うちの商品を買ってくれたモンにだけ開示や。お値段何と金貨1枚ポッキリ」
「流石に高え・・・」
「効能を聞いてもそんなことが言えるかな?」
「なに?」
「これが説明書きや!」
「説明するの面倒臭いのかよ!」
打楽器でのみ使用可能。非戦闘時のみ移動速度2倍。効果時間1分。演奏し続けることで効果時間は延長される。この効果は範囲内のパーティ全員に乗る。ただし同じ呪歌を重ねがけをしても速度はそれ以上上昇しない。
「つまり・・・」
「移動時間が半分になる」
「「おお~~」」
「な?すごいやろ。今すぐ買えとか言わんさかい、覚えといていつか買うてくれたらええからな」
「買えたら買うわ」
「ほらもう、それ絶対買わへんやつやんけ!」」
店を出て相談する。
「アレを目標にしてもいいぐらいだな。薬草摘みの効率がとんでもないことになる。」
「う~ん、錬金術ギルドもなんか草が全然足りないって言ってたし、安定供給できるなら協力してもらえるかもね。必然的に職業バレちゃうけど」
「悩ましいな」
「薬草の需要が当分続きそうなら借金まで考えてもいいかもな~」
「リーダーに任せるわ」
「考えとく」
マジで悩むが、いつまでも身分隠せるわけじゃないからな。できることはやっておいた方が良い。よし、やらずに後悔するよりやって後悔することにしよう。今決めたぞ。
シャカシャカシャカ
「あれ?サキ。マラカス買ったんだ」
「トゥマンボ!」




