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第27話 偏った男

 




「よし!朝の訓練は終了!これよりダンジョン攻略に向かう」

「うっす、あざした!」


 俺の名前は舎利弗亮磨とどろきりょうま。モテたい盛りの23歳。

 なんか色々あって、剣と魔法のファンタジー世界で軍属のダンジョン攻略パーティに吟遊詩人として参加している。


「リョーマはやはり剣より斧の方が重心的に安定するようだな。体つきが少し男らしくなってきたんじゃないか?」

「そーかな?」


 話しかけてきたのはでかい熊獣人族の重騎士、タイザンだ。毛深いタイプで、鎧を脱ぐと熊とほとんど見た目が変わらない。頼れる盾役という感じだが、魔法も使える。


「ショートボウの命中率も上がってきたな」

「フェンリスの指導のおかげだな!」

「技術向上は目覚ましいものがあるがやはり足りないのは腕力だな。弓は力があれば安定する」


 そう言ったのは狼人族のフェンリス。こちらは毛が薄いタイプでジョブは擲弾兵。物を投げさせたら百発百中の凄いやつだ。毎回爆弾を投げるわけにはいかないので、普段はジャベリンやブーメラン、チャクラムなどを使っている。


「ふん、ようやくアリル隊長に迷惑をかけないレベルになってきたか」

「おう、まだお前には迷惑かけるぜ!」


 このいけ好かないのはアリル隊長の実弟で、ジーク。氷雪系の呪術を極めた呪術師だが、言動が少し鼻につく。


「ジークったらまだリョーマに文句言ってるの?駆け出しなのに無理して来てもらってるのにちょっとひどいと思う」

「まあまあ、ここはアリル隊長の弟という彼の立場に免じて」

「リョーマもその返しは嫌味入ってるわよ・・・」


 助け舟を出してくれたのはシスター・エナ。種族は夢魔だ。その呼び名の通りザインヴァルト正教会の修道女ではあるが、ジョブは踊り子。『癒しの舞』による回復が得意で、『剣の舞』による攻撃参加、支援も行える器用なジョブだ。できることが多い分、ヒール量は他のヒーラーと比較すると少ない。


「口の減らなさは相変わらずだな。一昨日の舞台はなかなかのものだったが、姉さ・・・アリル隊長とは釣り合わんから身の程を弁えて欲しいと言っているのだ」

「テンメェ・・・アリル隊長の弟だからって、可能性をゼロにするこたねえだろ。そもそも、なんもないうちから言われたらそんなん余計意識しちゃうっつーの」

「なんだと・・・失策だったか」

「ジークは人の気持ちに疎すぎるぞ。リョーマ程ではないが」

「ふふふ、そうだろう。リョーマに勝てる部分があって隊長も喜んでくれるはずだ」

「このシスコンが・・・」


 こういう変な奴が居ると、自分が暴走しなくて済むというメリットも感じつつ、一同はダンジョンの31層へと向かった。






「ゆくぞ!『フォーメーション:翼撃陣』『コマンド:突撃』」

「うおおお!『シールド・エキスパンション』」


 防水防塵のパウダーブーツを履いた俺達はぬかるみを翔ける。タイザンはスワンプガスボアの群れに大盾を構えたまま突撃する。俺たちは少し離れた横からアリル隊長以外の2:2で並走し、タイザンの拡張された大盾が敵の群れと衝突すると同時にサイドアタックを仕掛ける。翼撃陣はさながら2対の翼ように獲物に覆いかぶさる。


「『ネックチョッパー』!」


 俺の助走をつけて振りかぶった斧がスワンプガスボアの首筋を狙ってすれ違いざまに振り下ろされる。首に命中するとボーナスのあるスキル『ネックチョッパー』に、アリル隊長の第二適正である指揮官のスキル『フォーメーション』と『コマンド』に戦闘開始前にかけた俺の『支配のオスティナート』も加わってかなりの破壊力を発揮した。


 ドゴォ!


 切断までは行かなかったが、軽自動車ぐらいありそうな巨体は制御を失い、慣性が残ったまま明後日の方向へヘッドスライディングしそのまま動かなくなった。


 シャシャシャシャッ!


 フェンリスが凄い勢いでチャクラムを投げて既に4匹ほど仕留めていた。


「行くよ!」


 シスター・エナの『剣の舞』だ。3匹のスワンプガスボアは不規則に回転する2つの曲剣になますのように刻まれ血しぶきを上げた。この舞はさらに味方へのバフ効果を付与する。


「凍土の風よ唸れ!『魔氷刃』」


 少し長いタメを作ったジークが氷の刃を放ち、敵を5体程貫通させ仕留める。断面は凍結しており、血の一滴も流れなかった。

 群れはほぼ壊滅。残りを掃討し、素材を回収した。


「複数のバフが別枠乗算されると俺みたいな素人でも一撃で倒せちゃうんだな。算数こわ」

「本体に伸びしろがある分、訓練で鍛えれば相当な戦力アップが見込めると思え」

「ガスボアの革はパウダーブーツの材料として最適だ。何せこんな足場の悪い場所で元気に走り回ってるのだからな」

「そりゃそうだよな」


 俺は素材を回収しつつ同意する。


「しかし、素人なのに妙に斧の扱いが上手いなリョーマは」

「重心がギターに似てっからかな?ギターをこんな風に扱ったことはないけど、一度はやってみたいよな。インストゥルメンタルクラッシュ」

「演奏中に楽器を壊すってこと?頭おかしいんじゃないの?」

「楽器を燃やす奴もいたな」

「流石リョーマの故郷はリョーマと同じで狂人ばかりだな」

「クレイジーは誉め言葉だ。誇らしいぜ」

「どんな国で生活してたんだお前は・・・」

「俺の国は犯罪率は低いけど自殺率は高いぞ」

「自制心が強い分壊れやすいのか、可哀そうに・・・」

「俺は壊れてねえっつの!」

「誉め言葉じゃなかったのか」

「う~ん、なんつーかニュアンス的に蛮勇に近いかな。結局、人の嫌がることをやるのはカッコ悪いし、後ろ指差されるし」


 普通の人がブレーキ踏むとこでアクセル吹かして生還しつつ結果を出す奴は一目置かれる。


「蛮勇か・・・。では、むしろ人の寛容を試すような?」


 アリルの一言に思わず膝を叩いた。


「あー、そうかもな!ぶちかました奴も褒められるし、褒めた奴も違いが分かる奴ってことになるしWin-Winだわ」

「なるほどそういう文化か」

「度胸試しみたいなノリね」

「まあ、そんな感じだ。取るに足らなさ的にHIPのYOUの方が近いか?」

「ザインヴァルトにもあるぞ。例えば・・・」

「ああああああ!絶対聞かねえ!絶対やんねえからな!」

「耳が良いんだから聞こえてるだろ・・・」


 今日は1層踏破するのに2時間かけて33層まで進んだ。







「社不にはきついぜ8時間労働♪Ta Damn」

「お帰り」

「うわぁ!ってメリッサか。そういや居たんだった」

「居たんだったじゃないわよ。あんただけ料理の量減らすわよ」

「勘弁してくれ。頼むからよォ・・・」


 いくら仕事先の奴らが良い奴らだからって、働いて帰ってきたら疲れてるしうまいもん食いたい。そのためなら俺は媚びへつらうまでよ。


「はぁ、これがステージの上じゃ格好よく見えるんだからとんだ幻想ね・・・」

「ペガ〇スファンタジー!そうさ夢だけは♪」


 俺のあまりの挙動不審ぶりにビクッとするメリッサ。わざとじゃないんだ・・・。


「俺の方からしたらこの世界の方がよっぽどファンタジーなんだが?」

「どういうこと?」

「あー、俺の居たとこ魔法使える人とか居なかったし、剣で戦ったりもしないんだわ」

「平和なところなの?」

「どうだかな・・・」


 低賃金だのテロだのスパイだの安心安全とも言えなかったが少なくとも自分の国は紛争状態ではなかった。


「でも文明は発達してたぜ。エネルギーを電気に変えて便利に使ってたんだ」

「電気ねえ。私も簡単な生活魔法ならできるから、ちょっとは電気出せるけど」

「ん?マジで?」


 俺は完全に電池の切れたスマホを取り出した。


「これに電気を・・・いや、まずは」


 俺は両手でメリッサの手を握った。


「ひっ」

「電気を流してみてくれ。ちょっとピりつくぐらいで」


 メリッサは夕日のせいで頬が赤く見える。しかし、顔を背けてこちらの話を聞く気がないのか?


「こ、こう?」


 ビリリ!


「あだっ!もうちょっと優しく」


 ピリリ。


「そう、そんな感じ、ああ、すごくいいぞぉ。おっと、おあずけだ」


 俺はスマホをメリッサに渡した。電圧は良い感じになった。


「これにさっきの強さで電気を流してみてくれ1分も流せば変化が起こると思う」


 俺のスマホはワイヤレス充電なので充電してくれるはずだ。


「わ、わかったわ」


 恐る恐る電気を流し始めた。しばらくしてメイン画面に光が点灯した。


「キターーーーー!!!!!」

「きゃあ!なんなのよもぉ!」


 俺は思わずコロンビアの構えを取った。


「ん~説明するのが難しいが、これはうちの国の冒険者登録証みたいなもんかな?」

「先に説明しなさいよ!」

「どうしても気持ちを抑えられなくてだな・・・」

「えっそれってどういう意味」


 俺はスマホに保存してあった音源を再生する。

 部屋にはミニー・リ〇ートンの「Lovin' You」が流れた。


「こ、これって・・・?」

「音を保存できるんだ。いつでも再生できる。電気さえ溜まっていればな」


 メリッサは既にこちらの声を聞いていない。振動の一つすら漏らさず吸収するように、口を開けたまま、夢の中を歩いているような表情を浮かべている。

 俺にとっても久しぶりの他人の音源だ。本来は口径の小さい低音質なスマホのスピーカーから聞きたくはないが背に腹は代えられない。俺も椅子に座り「Lovin’You」を堪能する。


「・・・ちょっと待って。もう終わっちゃったわ」

「ああ、充電する時間が短ければあんなもんだ。もう終わりかけだったからほぼ聴き終えたと言っても過言じゃないだろう」

「・・・」


 もう何も言わなくても充電し始めている。


「さっき歌ってたのは誰?」

「ミニー・リパー〇ン」

「知り合い?」

「まさか、俺が生まれる前に天国に行ったさ」

「そんな前の人の歌が残せるものなのね。素敵だわ。歌ってた言葉は?聞いたことなかったけど」

「英語だ。こっちで言うとこの共通語みたいなもんかな」

「あんたが共通語話せてるのってなんでなの?」

「分かんねえけど俺の国の言葉の発音はそっくりそのまんま共通語になってる感じ」

「ふ~ん、まだ色んな曲が保存してあるのよね?早く聴きたい」

「おっ」


 なんだか昔の俺を思い出すな。マイクロSDに100万曲ぐらい入ってるからきっと飽きさせないとは思う。


「充電しながらで良いからさっきの曲歌ってみる?伴奏やっから」

「え?歌詞分かんないよ」

「ラーとかウーとかで良いよ。ビバ適当」


 そう言うと俺はギターを爪弾き始めた。


 おーあいんゆー♪ラーララーラ ラーララララ♪


 アブとは違って素朴な声。アブは結構演歌的というか劇場型で外連味が強いからブルースやジャズ、ファンクなんかやっても映える一方でバラードは声量で誤魔化してる節がある。実体験の伴ったラブソング(純愛悲恋問わず)は私小説のようでやはり真に迫るものがあるが。


 そうこうしてるうちに1曲が終わった。


「歌を歌うのって楽しいのね」

「もちろん楽器も弾いてもらうぞ」

「えっ?」

「何言ってんだ。色々やってみないと適性が分からないだろ。人に教えられるぐらいの音楽理論もセットで。まずはそこがスタートラインだ。な~に、ずんだもんよりは色んなことしないから大丈夫だよ」


 俺は色んな楽器について説明した。弦楽器、管楽器、打楽器、鍵盤楽器。空気の振動や周波数のことも。なにもかもだ。そして楽器に触れさせてみたりもした。


「すぐ、出来るようになるのかな」

「あー、さっきの歌声聴いてたらできる気がする。休憩中はスマホの音楽聞いてていいから。ってか部屋に流して家事して良いぞ」

「ホント!?そろそろ電気溜まったかな?」


 たいして溜まってないと思うが、気持ちが逸るのは分かるからいいだろう。


「どれにしようかな~。ん?これは・・・あ、手が滑った」


 “あっあっダメよ!奥さん・・俺もう我慢できません”


「ぎゃああああああ!」

「きゃああああああ!」


 メリッサは勢いよく俺の頭にスマホを投げつけた。


 ガンッ!


「ぐへぇ」

「なんてもん見させんのよ!変態!」

「うるせー!夜のオカズはシティボーイの必携品なんだよ」

「おかずが欲しかったら作ってあげるわよ!」

「そのおかずはそういう意味じゃねえ!男は常に飢えてんだよ!これが健康優良児なの!」

「・・・!最っ低!」


 流石に意味が分かったのか走って奥の部屋行ってしまった。


「うわ、やっちまった。アブとサキに色々言われんの嫌だな・・・」


 珍しく弱気な俺であった。


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