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第26話 これが好きだから

 




「うわ、めちゃんこ人居るじゃん・・・どうしよ」


 食堂『トラペジスト』の前にはたくさんの人だかり。店の中はギッチギチ。町中の人が集まってきたんじゃないかって具合で交通整理に自警団まで出張っていた。


「許可は取り付けたが、ここまでとはな」

「こんなに集まるんだったら次回はちゃんとした広いとこでやらないとだな~」


 仕方ないので、テラス全体をステージにして外から見てもらうことにした。店には後で損害を補填することを約束したが断られた。


「う~ん、でもこれじゃ後ろの人が見れないな」

「困っておるようだな」


 聞き覚えのある声がした。


「リリカ!」

「戯れに来てみれば、随分せせこましいの。どれ、我が何とかして進ぜよう」


 リリカは即座に組成式を展開し、詠唱を開始した。


「地に眠る精霊よ。隆起し、階を象り、しばし形貌を留めよ『アース・グレイヴ』」


 ズゴゴゴゴゴ


「なんだなんだ!?」

「ちょ!?なんかやるなら先に言ってよ!」

「案ずるな。怪我人は出さぬ」


 そう言うと、店を中心に半径50メートルぐらいに地面から段差の付いた観客席のようなものが半円状にせりあがり、群衆は宙に浮かび、そこに着席した。観客席は家を壊さないように出現しており、出入り口をも考慮した構造になっていた。少し悲鳴も上がったが、一瞬だったので人々は騒がず(というより魔法の拘束で動けず?)どよめきの波にとどまった。


「終わったら元に戻すつもりだ。我を退屈させるなよ」


 そう言うとリリカは浮き上がり『アーケイン・ナブラ』の他の面々が待つ正面の一番前の席に腕と足を組んで着席した。見ると正面に居る『アーケイン・ナブラ』の他にステージから見て右端に『金獅子の牙』『第七特殊攻略分隊』、左端に『ダスク・エヴァンジェル』のグループが見える。


「あ、あいつ、身内びいきした上にちゃっかりライバルクランを端っこに追いやるとか良い性格してんな・・・」

「いつ見てもハチャメチャな嬢ちゃんだ」

「でも助かったね」

「じゃ、セッティングしよか」


 マジックバッグのおかげで搬入は楽なもんだ。アコースティックなので多少時間がかかるのはドラムセットぐらいしかない。私がドラムを組んでる間に、アブはMCをすることにする。


「え~、本日はお日柄も良く、お集まりの皆様につきましては誠にありがとうございます」


 アブが話し始めると聴衆も俄かに雑談をやめる。

 アブの声は言霊の魔力で声量が上がっているためか、ざわついた人込みにも良く通った。


「どこの誰かが呼んだか知らねど、我ら人呼んで『オレンジストリート・ストレンジャーズ』にございますれば候。縮めて『ストレンジ・ストレンジャーズ』と呼んで良し、『ストスト』などと略すも良し。ただの『ストレンジャーズ』として通る浮名も悪くございやせん」


 私のドラムセッティングが終わった。いつでも行けると合図をアブに投げる。


「思えば長き雌伏の時。今日この晴れの舞台に立てるまでに様々な苦労がありました。何もかも奪われ、故郷には帰れず、馬車馬のように働き、今でも、もう二度と会うことのできない人のことを考えます」


 会場から鼻をすするような音が聞こえる。何人かには実体験を伴ったフラッシュバックで共感が刺さったのだろうか。


「ですが、ここに機会を用意してくれたことこそが運命の導き!今日の皆様との体験が最大の宝と胸を張って言えるように精いっぱい演奏させて頂きますので、まずは楽しんでいってください」


 会場からは拍手がまばらに聞こえた。


「それではお聴きください『望郷』」




 “目に見えずとも この体を形作った 記憶は失われることなく

 内に流れる血潮は 同じ空 同じ風に吹かれ 海を臨む


 私はちっぽけな存在だけど 心だけは誰にも譲らないよ

 愛しい人にさえ明かせない秘密 虞のある記憶は墓前の花に


 そして美しき昔を懐かしむの 新しい風に吹かれて

 今この瞬間も 二度と戻れやしないのに


 だから高らかに歌うんだ 明日にはもう二度と今日を歌えない

 この長い旅路の果て 最後まで歌い上げるよ”




 うおおおお!!

 すげえええ!!!

 可憐だ・・・!!!


 盛大な拍手があふれる。ここでメンバー紹介だ。


「ギター!天然ノンデリASD!他人に厳しく自分に甘い!その実態は~最高の音響職人!リョーマー!!!」

「褒めてるのかけなしてんのか分かんねーから!」


 リョーマが抗議するが突っ込みありきの持ちネタだ。


「続いて、弱者男性の実践する弱☆男ディズム!素性の知れないハードボイルド!通報するなよ?オン・ベース、ジャック・ダンディー!!!」

「通報は本当に効くからやめろ」


 多分自分が通報されたんじゃなくて親しい人を通報した苦い経験があるっぽいんだよな。まあ、ガチでトラウマっぽいから深くは聞かない。


「IQ69のギフテッド!戦闘力は53万です。ゴシックホラーの権化。『凶壊知能』ドラムス、朽名紗季!!!!」

「お前も皮を剥いでヘッドにしてやろうか」

「蝋〇形の館始まっちゃう」

「俺はそれでもいいぞ?」

「だめ!今日は他人の曲はやらないの」

「異世界だしJ〇SR〇Cも来ねえよ」

「あたしたちは大丈夫でも、いろんなとこが苦労する気がするからダメー!」


 深くは突っ込まなかった。


「そしてわたくし!『男女兼妖』濁川鐙がお送りしております」

「初体験はいつ?」

「14の時に同級生と、って何言わしとんじゃーい!」

「相手の性別言ってないから大丈夫でしょ」

「では次の曲行きます『Perversion』」




 “男だっけ女だっけ どっちでもいいよ 私はあなたを愛しているの

 スカートの膨らみに 目線が行くの分かってる あなたはどっちが好きなのかな


 気持ちはLovely 体はGirly 今日はBoyはお呼びでない

 盛大に頭バグり散らかして 愛の狩人さん Targetはあなたのこめかみ


 これはこれでいいもんですよね 特に私はCharmingだから

 男だとか女だとか気にしてるの? あの人が好きって言ってごらんなさい


 誰も彼にも 愛されてたら 80億人で争いが始まったの

 もしも私が目覚めなかったら 半分で済んでたかな?”




 おおお・・・

 女神だ・・・

 いや男神だ・・・


 この曲はちょっと危ないかも・・・。もうやらない方が良さそ。


「それじゃ次で最後の曲です『極光』」


 最後にはならず、アンコールも2曲演奏して幕を閉じた。






「くははは!素晴らしい余興であったぞ。大したものだ」


 我々は今、ライブの打ち上げで『トラペジスト』を貸し切って、みんなのバイト先メンバーと歓談している。


「言っとくけどあたしたちの本気はまだまだこんなもんじゃないからね」

「なんと、あれほどの演奏技術を持ちながら、まだ先があるというのか」

「う~ん、技術的観点で音楽を語ると先鋭化するから聴衆が限られて行っちゃうのよね。あたしたちはどっちかというと演出と音響重視の大衆音楽。ダイレクトに魂を揺さぶることに命を懸けてるってワケ」

「難儀な道だのう。たかが音遊びと思っておったが、なかなかどうして玄妙な」

「平日は泥に足を取られて盛大に転んでますので・・・」

「ふん、あれはあれで笑えておるから気にするでない」

「私のアブさんを危険な目に合わせないでくださいね」

「ステラよ、虎穴に入らずんば虎子を得ずと言うであろう。危険を冒さずして何が冒険者か。あとアブは我のものでもある」

「念を押してるだけですよ」


 何やら2人は険悪なムードを漂わせている。


「ステラさん!見てた?あたしの雄姿!」

「ちゃんと見ておりましたよ。大変、眼福でした。もう、思い残すことはありません」

「ええ!?なんでそんなこと言うの」

「ほう、その座を我に明け渡す気になったか?」

「あのリリカ・エラディンが冒険者ギルドで働きたいと仰るなら、コネを総動員して働きかけますが?」

「そっちの話ではない。しらばっくれおって」


 痴話喧嘩を聞きながら煙草をふかしていたら『金獅子の牙』のメンバーがやってきた。シルヴィアが手を振り私に声をかける。


「す~ごかった。こんなことする吟遊詩人は初めてだよ」

「サキ。お前すげえな。強いだけじゃなかったんだな」

「ふふん。おっさんの物差しで私ははかれまい」

「測るも何も最初から俺の想像を超えていたぜ。言葉を交わしてなおさらそう思う」

「私はこれが好きだから生きてる」

「ああ、戦いに興味がない理由もなんとなくわかっちまった」


 そう溢したおっさんはどこか寂しそうだった。


「しょげないでくださいよ。俺達がついてますから」


 クロードがフォローを入れる。


「言ったな。あとで模擬戦だ」

「げっ!?藪蛇だったか・・・」

「ハンデをくれてやる。2対1で良いぜ。誰か連れて来い」

「じゃあ、ライラとシルヴィアどっちにしようかな」

「ダメだ、それだと3対1になっちまう」

「実質エルネスタ一択じゃないですか!」

「え?私は嫌ですけど」


 パンを頬張りながら嫌そうな顔をして答えるエルネスタ。


「なら俺っちでどうだ?」


 声のする方を向くと、金髪青肌の魔族が立っていた。


「あ、アブのとこの、名前なんだっけ」

「魔剣士バラックだぜ。ヨロシクゥ!」

「あなたとは初めて話す気がしますよ。俺はクロードと言います。シーフをやっています」

「若くしてアステール最高のシーフの一人って言われてるんだってな?ブラディオさんの方が流石に知名度はあるけど」

「バラックか。久しぶりだな。お前なら良いぜ、2人纏めて相手してやる」

「おっさん知り合いなんだ」

「ああ、武者修行しにドラテナに行ったときに1戦交えた後、意気投合してな。そのままパーティを組んでしばらく行動を共にしていたんだ。そのあとリリカのとこの四天王になったって聞いて度肝を抜かれたぜ」

「四天王・・・かっこいい」

「お前、戦いには興味ないけど二つ名とか武器の見た目には結構関心あるよな・・・」

「形から入るタイプ」

「入った直後に突き破ってんだよ」


 私は帰ったから後のことは見てないけど、かなりの激闘でおっさんが2人を倒したらしい。







「不合格」

「ダメか・・・」

「ん~今回はご縁がなかったということで。気を付けてお帰り下さい」


 住み込みの吟遊詩人見習いを募集した件だが、応募者が殺到したのでギルド会館の会議室を借りて採用面接をすることになった。ダンディは古傷がうずくとか中二病台詞を言いながら部屋から出て行ってしまったので3人でやっている。


「音質に対する思い入れが無さ過ぎる」

「アナログLP10000枚聴いてから来い」

「レディ〇ヘッドとピンクフ〇イドは義務教育だっつの」


 応募者に対して特に辛辣なのがリョーマだ。


「異世界にそんなのあるわけないでしょ。採用基準もっと下げたら?」


 アブがそう尋ねる。私も同じ意見だ。流行ってないのに最初からうまい人がいるわけないし、うまくなくてもいい音楽を奏でる人はいるものだ。


「ぜーーーったい譲らねえ!真空管アンプの出音で電力会社当てれたら考えてやるよ」

「あたし達にも分かんないよそれ」

「メンバーはもう関係性あるからいいんだよ。とにかく弟子取るぐらいに色々教えるならオーディションは厳しくすっからな!」

「老害じゃん・・・。でも、リョーマが嫌だって言うならまあ、炊事掃除洗濯スキルを持った人材一択か・・・本当はそっちがメインで音楽枠は居たら良いなみたいなもんだけど」


 採用基準は2点だ、演奏家としての素養が著しく高い者。もしくは生活能力の高い者。どちらかが突出して高いか、両方が一定以上であることがこちらの求める条件だ。だがこの様子ではリョーマの審査を通過できる人間は居そうにない。


 コンコン


 ノック音が聞こえ、アブがドア越しに返事をする。


「どうぞお入りください」

「失礼します」


 見知った顔だった。確か料理屋のウェイトレス。


「よ、宜しくお願いします」

「あれ?メリッサじゃん」

「え、名前聞いてたの?いつの間に」

「ほぼ毎日通ってるからな」

「ここに来たってことは・・・」

「はい、面接を受けに来ました」

「まーじか!お前なら大歓迎だ。あの味が家で食えるなんて最高かっ!」


 メリッサはウェイトレスだが厨房に入ることもある。店長ほどではないが、レパートリーは豊富だ。リョーマはかつてない笑顔と歯茎を見せる。


「しかし、ということはあの店をやめる覚悟で来てるってことか・・・ん?」


 リョーマはメリッサの表情がいつになく真剣なことに気が付いたようだ。


「店長には話を付けて来たわ。私に音楽枠での面接を受けさせて欲しい」

「あぁ?」


 一転してリョーマの態度がガラの悪いものに変わる。


「俺はお前を不採用にしたくないんだが」

「リョーマ」


 アブが機先を制して嗜める。


「志望理由を聞かせてもらいます」


 アブが尋ねる。メリッサは口を開いた。


「私は、人が喜んでるのを見るのが好きなの。ずっと食堂で働いていて、私の料理を食べてくれて喜んでくれるお客さんの顔を見るのが好きだった。でも、昨日の演奏会で衝撃を受けたの」

「ミーハー」

「リョーマ!!」


 アブが声を荒げる。


「黙って最後まで聞きなさい」

「チッ」


 リョーマは不貞腐れたようにふんぞり返って黙り込む。


「ずっと私が1番だと思ってたの。料理って食べなきゃ死ぬじゃない?絶対に避けて通れないところに私が立ってるの。私が1番みんなを幸せにしてあげられる。そう思ってたのに」


 メリッサは下を向いて拳を握りワナワナと震えだした。


「なのに、あんたたちは!それをはるか超える夢を見せた!料理の道だって充実してるのは分かってる!でも、他にそんな世界があるなんて知らなかった!知ってたら絶対やってた!私は選択を誤ったことが悔しくてたまらないの!あんたたちがやってることをやるにはどうしたらいいのか教えなさい!」


 吐いた言葉の一つ一つが、魂の叫びだった。私もこれで心が動かないほど頭は悪くないつもりだ。


「採用」

「採用」

「採用」


 全会一致だった。


「これ以上の面接は不要です。うちのリョーマが失礼しました」

「ごめん、悪かった。マジで反省してる」

「とりあえず今日の晩御飯から、よろしく」



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