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第24話 境界知能

 



「ピギィイイ!!!」

「グォオオオ!!!」

「っしゃオラ!」

「うちのピーちゃんを舐めるなよ」

「私のグレタちゃんが一番かわいい!」

「ちょっ、かわいいは方向性違うでしょ!それはピーちゃん!」

「グレタちゃん!」


 ピーちゃん(グリフォン)がワイバーンを追い立て、グレタちゃん(グレーターデーモン)が火炎放射で翼を焼き払い、ブラディオが巨大な戦斧で止めを差す。

 ライラとシルヴィアはペットのことでいつも張り合っている。みんな違ってみんな良いのに。


「サキさん、少しは運動します?」


 クロードが笑顔でそう訊ねてきた。先ほどは近寄りにくい相手に投げナイフとクロスボウでいぶし銀の活躍を見せていた。こいつは視野が広く、人をその気にさせる才能がある。アブと同じタイプだ。


「鎌にヒビ入ったから置いてきたんだよね」

「流石に草刈り用じゃガタが来ちまったか」

「いや、あの裸人間のせい」

「ああ、レスラーのパッシブスキルですね。卑怯もいいとこですよね、あれ。予備の武器をたくさん用意するか、破損対策しないと」

「俺は素手でも少しは戦えるがやはり武器はあった方が良い。これを使え」


 そう言うとブラディオはマジックバッグから大鎌を取り出した。骨のような禍々しい意匠が施されており、柄の部分には複数の穴が開いている。


「これ、笛?」

「そうだ。戦闘で楽器を活かせるのは吟遊詩人だけだからお似合いだ。拾いモンだしタダで良いぞ」


 鑑定書によると『殊死の鎌笛』。闇の力を増幅させ、さらに演奏時間に応じて攻撃力を一時的に上昇させる効果を持っているらしい。


「ちょっとかっこいいかも・・・」

「お気に召したか」

「ブラディオさん物で釣るとか大人げないです」

「うるせえ。さっきは少年の心を忘れたとか言ってたくせに」

「子供と大人の駄目なとこだけ集めてきちゃったのかしら」

「泣いていいか俺」


 クロードとエルネスタのコンビにけちょんけちょんに言われているブラディオ。私は鎌をくれた手前、おっさんの味方をすることにする。


「元気出せ、おっさん。おっさんにもいいところはある。その、頑丈な所とか」

「無理矢理ひねり出さなくていいからよ・・・」

「気持ちだけでも受け取っておきなさい」

「ピーちゃん!」

「グレタちゃん!」


 一行は気が付くと30層の扉の前に立っていた。


「さて作戦だが、魔道具『ホットストーン』こいつを使う」

「一定時間のあいだ、体温を常温以下にならないようにしてくれる優れものですよ」

「戦闘終了まではこれで持つはずだ。ライラが呼び出すペットはファイアドレイク。シルヴィアが召喚するのはイフリートだ。俺も火焔槌ドラドを使う」

「俺はこれです」


 棒手裏剣のようなものを束ねている。


「強力な火薬の入った楔です。敵に刺さると内側に向かって爆発と燃焼でダメージを与えます。味方を巻き込む心配も低いです」

「クロードはダーツが得意だから味方に当てる心配もない」

「次に戦闘配置だが、俺は氷雪嵐竜ズヴェイルの股を潜り抜けて背後を向かせた後、そのまま正面を取る。サキとシルヴィアとイフリートは奴の左側から、エルネスタとライラと蜥蜴3号は右側から攻める。クロードは背後で尻尾攻撃を誘発させつつダメージを与える。エルネスタ、アストロラーベは敵の股下に設置してくれ」

「アストロラーベの近くに居れば回復は容易いわ。今回は全員集まって短期決戦で挑む戦術ね?」

「そういうことだ。カギを握るのはサキの呪歌『支配のオスティナート』『群像のレチタティーヴォ』の2つだ」


『支配のオスティナート』最低演奏時間15秒。効果時間2分。味方の物理攻撃力2倍。

『群像のレチタティーヴォ』最低演奏時間15秒。効果時間2分。味方の攻撃速度2倍。

 ともに演奏時間を延長すれば効果時間は伸びる。


「1巡で終わる想定だが、この効果が切れないように残り1分45秒になったら演奏し直してくれ」

「わかった」


 言ってることは全然分からなかったが、雰囲気で何とかなるだろう。


「では行くぞ!『ホットストーン』!」


 全員が赤い石を掲げた。少し遅れて私も見様見真似で石を掲げる、体が熱くなったような感じがする。

 そのまま扉をくぐる。


 辺り一面雪景色だが、中央に鎮座している強そうな薄青緑色のドラゴンの存在感がある。


(アレがアブの言ってたドラゴンか。かっちょいい)

「『ラピッドチャージ』!『挑発』」


 おっさんが爆速で相手の股下を潜り抜け背後から挑発を浴びせる。赤い敵視オーラがブラディオに向いているのが分かる。

 エルネスタはズヴェイルの股下にアストロラーベを浮遊移動させ設置した。ズヴェイルはブラディオに向かってブレスと咆哮を放ってきたが全て生身で耐えきってみせた。


「俺達も行くぜ」

「『星天の加護』!」


 エルネスタの『星天の加護』が展開される。アストロラーベを中心に、範囲内の味方を継続回復するスキルだ。私、シルヴィア、イフリートは左から。ライラ、蜥蜴3号、エルネスタは右から。少し遅れてクロードが背面を取った。クロードは後ろ取ると強い。知らんけど、いつもそうしてる。


「冷気で体力を奪われるところだけど、アストロラーベのおかげで回復してるね」

「サキ、呪歌を頼む」

「了解」


 私はまず『支配のオスティナート』を演奏し始めた。ブラディオが爪、牙、角などの攻撃をハンマーで受け流す。


「隙あり!『ブレインスマイト』!」


 ドゴォ!


「グギャア!」


 ズヴェイルの脳天に良い一撃をお見舞いする。武器の追加効果で弱点である炎ダメージも与えている。


「蜥蜴3号!『フレイムクロー』をお見舞いしてやれ!『フレイムウィップ』!」


 ゴアッ!バシィン!


 ファイアドレイクの炎を伴った連続切り裂き攻撃と、炎を纏った鞭の乱打がズヴェイルを襲う。ここで淡い光がパーティ全体を包む。


「来たぜ、圧殺するぞ!」


 呪歌の効果がメンバーに乗ってきた。私は呪歌を『群像のレチタティーヴォ』へ切り替える。ここぞとばかりにクロードは爆発する楔を投擲しまくる。


「『群像のレチタティーヴォ』が発動したら起爆するから、『鏡像のレゾナンス』を俺からブラディオさんに宜しくね」

(人使いが荒いな・・・)


 ブラディオはヘイトを稼ぎつつ力を温存しているようだ。シルヴィアとイフリートはというと・・・。


「其がおわすは煉獄の果て。深き冥府の門よりその熱を伝えん・・・」


 何やら詠唱を続けている。イフリートの炎の力が高まっているのが分かる。そして『群像のレチタティーヴォ』が発動した。


 ドォン!


 刺さっている楔が一斉に起爆し、ズヴェイルは急激に相当なダメージを食らった。一瞬振り返ってクロードを追おうとするが・・・。


「させない『鏡像のレゾナンス』」


 ヘイトはブラディオにがっちり張り付かせた。


「行くぞお前ら!全力で攻撃だ!『オーラバースト』『ウォークライ』『破壊の一撃』!」

「『フレイムクロー』!『フレイムウィップ』!」

「ファイアバゼラード『回転切り』6連!」

「月よ、満ちよ。夜に最も近く輝く星よ、その運命を極致に定め給え。『ドロー:アルカナタロー』『塔の逆位置』!破壊あるのみですわ!」

「イフリートよ、冥き門扉を開き怨敵を灰と化せ『ヘルファイア』『ヘルファイア』『ヘルファイア』」

「えっと、えっと、うおー」


 ザシュザシュ


 かっこいい技とか何もないから適当に斬りつけた。

 四方八方からボコスカ殴られてズヴェイルは何か行動を起こそうとする度にキャンセルされてしまう。こちらの手数は多い上に一撃一撃が重い。


「『破壊の一撃』『破壊の弐撃』『破壊の参撃』!」

「『フレイムクロー』!『フレイムウィップ』!」

「『アサルトブレイド』!」

「『フレアスター』!」

「『ヘルファイア』!『フレイムアロー』!」

「とうっとうっやっ」


 ザシュザシュと斬りつけてたらズヴェイルは動かなくなり、派手な音を立てて崩れ落ちた。


「やったか!?」

「これはやってるパターンだね」


 言ったそばからズヴェイルは光の粒子となり、素材と宝箱に変わってしまった。


「大技が来る前に倒してしまったな」

「最初に戦った時は倒すのに1時間ぐらいかかってたよね」

「少し前の編成でも15分はかかってたぞ」

「サキの攻撃が一番効いてたように見えたよ」

「マジか!?まあ、クロードが言うならそうなんだろうな」

「ちゃんと弱点突いてる俺達よりダメージ出てるってなんだよ。強すぎるだろ」

「はああああ。そそり立つ『逆位置の塔』気持ちよかったわぁ」

「あぶない奴が居るな。近寄らんとこ」

「蜥蜴3号、意外といけてたじゃない」

「そっちもイフリートがあったかかった」

「みんな違ってみんな良い」


 私は取り敢えずうんうん頷いておいた。





「今日はこんなところかな」

「おつかれ~」


 31層から先は薄暗い沼地になっていた。装備等の準備もあるので今日はこれで終わりみたいだ。


「呪歌がペットや召喚獣に効果があって助かった。そうでなければ私とシルヴィアはメンバーから外されていただろう」

「パーティ6人縛りの枠を超えて実質8人だからね。こんな戦術も取れる」

「その分、本体はパッとしねえけどな」

「ライラ、そのゴリラ捕まえて売りましょう」

「嫌だ。私は運命を感じた魔獣しかテイムしないと決めている」

「あら残念。運命感じませんでしたか」

「俺は魔獣じゃねえっつの」


 そう突っ込みつつブラディオは遠い目をしてみせた。


「しかしあれだな、支援枠で入ってくれてた前任のタガールには随分無茶させてたからよ。サキが入ってくれて大助かりだぜ」

「熟練のエンチャンターだが相当な高齢者だったからな」

「腰いわしてたからピーちゃんに乗せてもらってたな」

「名誉宮廷魔術師だし、今頃は王妃さまと一緒に王宮の中庭で茶でもしばいてるでしょ」

「あのじいさん小言が多かったからちょっとねぇ」

「はは、シルヴィアには厳しかったな。同じ魔法職だから思うところもあるんだろ」

「うん、まあいろいろ教わったのは本当。でも、入れ歯が外れて何言ってるか分からない時が一番きつかった」

「・・・」

「どうしたサキ?」

「戦いの中で気づいたことがある」

「うん?なんだ」


 私は自分が考えたことを伝える。


「殴りながら敵を打楽器にすればもっと早く倒せそう」


 全員が息を呑んだ。


「悪魔的発想・・・!」

「天才か・・・?」

「お、鬼ですわ・・・」

「規格外ってこういうことだよねえ」

「・・・そりゃ強いわけだ」


 だが敵の方が耐えられる気がしない。頑丈な敵を思い浮かべていたら、ふとあのハダカニンゲンの事を思い出した。今度会ったらあいつを腹太鼓にすることで、鎌をボロボロにされた件はチャラにしてやろう。だが、笛の付いた鎌では殴りながら演奏できない。


「めちゃくちゃ固い棒が欲しい」

「あら、私も欲しいですわ」

「2本欲しい」

「2本!?負けてられませんわ」

「絶対そういう意味じゃないでしょ」


(ドラムのスティック知らなさそうだからわざわざ棒って言いかえたのに)


 下ネタは嫌いではないが、スケベニンゲンのことは一旦スルーした。




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