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第23話 IQ69



 私の名前は朽名紗季。ライブをやっていたはずなのに、なんかよく分からないことに巻き込まれ、よく分からない感じになってる。あの時、投げたスティックが銃を撃ってきた奴の一人の眉間に向かってったはずだったけど、出来たのはそこまでだった。眉間に刺さるのを確認する前に銃弾が私の体を貫いた。

 このよく分からない状態も、バンドメンバーが何とかしてくれてる。うまい飯とうまい煙にありつけてるのも仲間のおかげだ。仕事も面倒な面接とかいうイベントをスキップできてかなり楽をさせてもらっている。ちょっと念じながら楽器を弾くだけの簡単なお仕事だ。特にアブには感謝してもしきれない。

 さっきはダンディのバイト先でトラブルがあったので応援に駆け付けた。空を飛んでお泊りで色んな所へ行けたので楽しかった。


「・・・」


 だけど、悩みもある。


「インターネッツが壊れた」


 私のプライベートの全てはそこにあったと言っても過言ではないだろう。ディックドッグのコメント欄で感想を書いたり、お勧めしあったり、時にはレスバしたり、あそこでは私のような頭の悪い人間でも相手をしてくれる暇人ばかりで凄く居心地が良かった。

 機械に詳しいリョーマに相談しても、異世界には電波塔もサーバーも無いから、とか意味の分からないことを抜かして話にならない。


(頭のいい奴の言うことは全く分からん・・・。ごちゃついててとにかく説明が下手)


 元居た世界に居た時は、別のバンドのサポートに行ったりして暇を潰せた。うまいドラマーは数が少ないらしく、誘いだけは無限に来た。この世界はバンドが流行ってないし、誘いも来ない。


「仕方ないし面白いことを探しに行こ」


 そうして私は一人、昼間の町に繰り出すのだった。







「おい、見ろよ。『金獅子の牙』に新しく加入した吟遊詩人のサキだぜ」

「噂によると、あのブラディオ・ノーランを模擬戦でぶちのめしたらしい」

「ひええ、おっかねえ」


 歩いていると、こちらを見ながらひそひそと話している奴らを見かける。リョーマなら聞き取れるのかもしれないが、私はそんなに耳が良くない。言いたいことがあるなら直接言えばいいのに。


「たのもう!」


 前方から突然大きな声がしたので、そちらを見やる。そこには覆面マスクをした半裸の戦士が立っていた。


「俺は世界中を武者修行して歩いてる、ダラン・エル・トロという。ジョブはレスラーだ。朽名紗季とお見受けした。勝負だ!俺と戦え!」

「ダラン・エル・トロだって?西方大陸のコロッセオで無敗を誇る最強の闘士と聞いたぞ」

「マジか、そんな奴と朽名紗季との勝負が見れるのか?」


 周りの声に気を取られて、せっかく大きな声でしゃべってもらったのに言ってることは半分しか分からなかった。とりあえず勝負をしたいということは分かった。でも、なんで戦いたいのかが分からない。聞いてみることにする。


「なんで戦う必要があるの?」

「俺自身が成長をしてより強くなるためだ。それに、お前を倒せば俺の名が上がる」

「もう十分有名みたいじゃん。私はオッサンのこと知らないけど」

「じゃあぜひとも覚えて帰ってもらわないと、な!」

「!」


 言うが早いがダランは突進して掴みかかってきた。私は背負っている大鎌を振り回して、ダランを弾き飛ばした。ダランは受け身を取って後方に回転して着地した。


「随分禍々しい大鎌だな。マジックアイテムか?」

「いや、ただの草刈り鎌を自分でデコったやつだけど」

「そんなもので・・・いや、むしろ燃えてきたぜ」


 今度はさらに重心を低くタックルを仕掛けてくる。

 すかさずまた大鎌を振り回して先ほどより強めに弾き飛ばす。ダランの体は今度は受け身も取れず噴水に叩き込まれた。だが、持っている鎌の重心に違和感を感じる。


「!?」

「気づいたか。俺のパッシブスキル『鋼の肉体』は武器の耐久力を著しく削る。もうその鎌は使えないぜ」


 大鎌にヒビが入っている。気に入ってたのに。ちょっとカチンときた。


「ダラン・エル・トロ、2度目のダウン!しかし、転んでもただでは起きない。朽名紗季の武器にダメージを与えた!これではもう使えないぞ」


 何者かが実況を始めた。気が付くと観客が噴水広場を中心に円形に我々を取り囲んでおり、どちらが勝つかの賭けが始まってしまっていた。


「頑丈な肉体で相手の武器攻撃を耐え、そして素手でのインファイトに持ち込む。それが俺の必勝戦術よ」

「ダラン・エル・トロ!意外にも戦術が地味だが効果的だ!さあ、朽名紗季はどう出る?」

「・・・」


 私は仕方なく素手で拳を作る。武器にヒビが入ってしまったが、壊れるまで使うよりはマシだ。


「乗ってきたか。こちらも本気で行かせてもらう!『タッグパートナー』!」


 そう叫ぶと光に包まれたダランの分身が現れ、同時に襲い掛かってきた。


「おーっと、ダランが分身攻撃を仕掛けてきたー!」


 私はそれを躱し続ける。単調で速度はないが隙が少なく、迂闊に攻撃を繰り出せば被弾覚悟のダランにその部分を掴まれそうだ。


「これを躱し続けるか!しかし、いつまで体力が持つかな!」

「・・・」


 私はわずかな間隙を見極め、手刀を相手の肘関節へと放った。ここは骨は固いが筋肉が少ない。接触した部分を掴まれることもないだろう。


 ガツッ!


「ぐっ・・・!」

「朽名紗季の的確な一撃!ダラン、これは悶絶必死!」


 骨の衝突音が響き、ダランが素早く後ずさる。


「折れてると思うけど、まだ続ける?」

「舐めるな!『マッスルリカバー』」


 そう叫びながら折れた腕を折れてない方の腕で矯正し、回復のオーラを纏う。


「さあ、続けよう。手加減は不要だ」

「・・・分かっていてまだ続けるの?」

「それがレスラーというものだ。ここで決めさせてもらう『ツープラトン:ラリアットコンビネーション』」


(速い)


 そう叫ぶと分身とともに縦横無尽にラリアットを伴った突進を仕掛けてくる。私はそれを2つのドラムスティックで捌き、パチンパチンと衝突音を生み出す。ドラムスティックにヒビが入る。


「いい音が鳴るじゃん」

「まだまだ!『ツープラトン:ドロップキックスペシャル』」


 ダランは分身と共に飛び上がったと思ったら空中を蹴って軌道を変化させてきた。両足をこちらに向けて全体重の乗った蹴りを放ってくる。私はそれを避けようとした。


(追尾!?)


「気づいたようだな。技は必ず受けてもらうぞ!」

「あいにくそれは無理」


 私はヒビの入ったスティックを投擲し、それは見事にダランとその分身の股間に突き刺さった。


「ぐわあああ!!!」


 ドォン・・・


 ダランをしゃがんで回避すると、円形広場の端まで飛んでいき、重そうな音を立てながら不時着した。


「棒がダランの股間に突き刺さった!これは痛い!勝負あったか!?」

「うおおおおお・・・ふん!『マッスルリカバー』!」


 スティックを引き抜き、尻から大量に出血しつつ立ち上がるダラン。


「あの角度だと急所はそこしかなかった、ごめん」

「謝る必要はない!さあクライマックスと行くとしよう」

「いい加減頑丈過ぎてしつこい・・・」

「俺は限界を、超える!」


 分身も消失して一人で猛然とタックルを仕掛けてくる。しかし、何か様子がおかしい。


「・・・!」

「かかったな!これが最後の手段『ロック・アリーナ・デスマッチ』」


 噴水広場内の我々を中心にドーナッツ状の炎のリングが出現し、狭まってくるのが見える。今までのぬるい攻撃に比べ、これに触れると明らかにやばそうだが、観客は何ともないようだ。


「どちらかが倒れるまでこのリングは収縮し続けるぜ。逃げ場も狭くなるということは・・・」

「!?」

「こんな風に捕まえられるってことだ!『デッド・ストローク・パニッシャー!』」


 私はダランに左腕を掴まれた。ダランは左腕で連続貫手を放ってくる。それらを私は避けられるものは避け、避けられないものは右手の掌で横に逸らす。私はダランの体ががら空きになっているところに右から蹴りを放つ。


 スパァン!


「ぐはっ!」


 快い打撃音と共に重い一撃がダランの体を横からくの字に折り、吹き飛ばす。掴まれた手首も振り払うことができた。リングの外まで吹き飛ばされたダランはその炎を受け炎上した。


「ぐああああ・・・!!」


 ふっと炎のリングが焼失した。ダランが気絶したのだろうか。


「ダラン、リングアウト!勝者、朽名紗季!!!!」


 うおおおおおおお!!!!


 地鳴りのような歓声が上がり、野次馬が拳を突き上げる。賭けに負けたのかダランに罵声を浴びせる奴までいる。


「すげえ戦いだった!」

「あのブラディオを倒した噂は本当だったんだ」

「ダラン相手にほとんど無傷だぞ」


 ダランは通りがかった野良治癒師の治療を受け、膝をつきそうになりながらこちらへ歩いてきた。


「戦っている相手の実力ぐらいは分かる。まさか手加減されたまま倒されるとはな。世界は本当に広い」

「あのオッサンと同じぐらいしつこかった、あのオッサンは私に本気をださせたけどお前はまだまだ甘い」


 言わなかったが、あの時より手加減がうまくなったから本気を出さずに済んだというのは大きい気はする。


「あのオッサンってブラディオの事か?」

「そういえばそんな名前だった気がする」

「そうか、まだ及ばんか。流石、元この国最強の冒険者。本当は奴と戦うためにやってきたのだが。貴女の噂を聞いた上に見かけてしまったものでな」

「あのオッサンなら喜んで戦うんじゃない?とにかく、あのオッサンに勝てるようになるまで相手しないから、そこんとこ宜しく。周りの人にも言っておいて」


 面倒ごとはあのオッサンに押し付けるとしよう。

 結局この日は適当に買い物して、遅めのランチを食べて帰った。帰った後、軽く音合わせをしてる時が一番楽しかった。相変わらず戦うのはあまり好きではないが、攻撃の打撃音は新しいインスピレーションを生んだのかもしれない。







「道理で果たし状がこんなに来たわけだ」

「おっさんにも責任があると思う。というかむしろご褒美なんじゃない」


 私達はアステール王国の所属クラン『金獅子の牙』のクランハウスに集まっている。


「確かに戦う相手には困らねえがよ・・・断るのも大変だ」

「強いのからピックアップしたらいいんじゃない」


 そう手短に話すのは狐獣人のビーストテイマー、ライラ・フォルステだ。獣人といっても耳の付いてる位置と尻尾以外は人族と変わりはない、毛の薄いタイプだ。


「ライラ、どうでもいいと思ってるんじゃないですか?表情に出ちゃってますよ」


 突っ込むのは人族でシーフのクロード・フェン。16歳の若さでこの国のシーフとしてはエース級の腕前で、お調子者だが気配りのできる良い子だ。


「誰と戦えば良いか占って差し上げましょうか?」


 星読みの女、竜人種ドラゴニュートのエルネスタ・クトルエンがそう問いかける。星読みが他のヒーラーと一線を画すのは、アストロラーベを空中に設置することにより中継地点を作り、ヒール距離を延長できる点だろう。他には、バフの力を持つタロットカードによる占術を切り札として持っている。赤く長い髪を持ち、雄羊のような立派な角を持つ。


「売れっ子占い師様の占い・・・絶対高いでしょ」


 お金の心配をしているのは有翼人種で召喚師のシルヴィア・ドニ。魔獣と召喚獣のどちらが素晴らしいかでライラとよく口論になっている。


「悪いが占うのはナシだ。こんな小さいことまで占ってちゃ金がいくつあっても足りやしねえ」

「最強の戦士様がこれでは商売あがったりですわ」

「最強はこの前サキに返上したさ」

「戦士で最強はあなたでしょう。戦闘指南のお仕事まであるのに」

「エルネスタ目当てで遠くからよく客が来てるのは聞いてますよ。儲かってるみたいじゃないですか」


 クロードが突っ込む。


「あなたは若いからお姉さんが出世払いで占ってあげてもいいのよ?例えば恋愛運とか・・・」

「わー!それは絶対駄目!」

「その慌てよう、何かあるわね。これ以上は突っ込まないであげる」

「しまった!カマかけで情報を提供してしまった・・・」

「さっさと振られて次へ行った方が良いぞ。当たればラッキーだ」


 おっさんがデリカシーの無いアドバイスをする。


「ブラディオさんは有名人だから乾く暇なしでしょうが!」

「おいおい妻帯者の俺がそんな見境なしだったら流石にダメだろ・・・」

「ふん、少年の心を忘れてしまった汚い大人たちには屈しませんよ」

「そういえばサキさんって特に気になってる相手っているの?」


 シルヴィアが愚問を訊ねてくる。正直恋愛沙汰には興味はない。それで解散したバンドを多数見てきたからだ。心情としてはアブと同じくバンド内恋愛なんてもっての外だ。


「悪いけど興味ない」

「なんだぁ何かあったらいいなって期待してたのに」

「その力があれば男など屈服させ放題だぞ」

「なんで屈服させる方向で考えるのよ!団長は奥さんに倒されたから結婚したっていうの!?」

「うぐ、そうではないが・・・」

「魔獣には強いメスに屈服され、子を成すものもいるぞ」

「ライラは話をややこしくするな、さっさと準備して行くぞ」


 雑談の収拾がつかないのでダンジョンに向かうことになった。




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