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第22話 弱者男性はつらいよ

 



「おーい、起きろ~」


 窓から差し込む光が目に染みる。リョーマの声を聞きながら、俺は宿のベッドで目を覚ました。


「ここは・・・。そうか」


 異世界に居ることを思い出した。


「ダンディが俺より起きるの遅いの珍しいな。エクゾディア全部揃ったからモラさんとこ早く戻らないと。首だけ長くして待ってるぞきっと」

「はっ、不謹慎なヤツだ」


 地面から生えた首だけを伸ばしたモラを想像し、思わず含み笑いをした。







「よーし、到着ぅ!」

「かなりの長期フライトだったな」

「本州横断ぐらいの距離はあったっしょこれ」

「皆様、本当にありがとうございました」


 ミリアが改まって、全員に頭を下げた。


「おいおい、まだ礼を言うにはちょっと早いんじゃないか」

「そうだよ、モラさんのとこ行ってあげないと。あ、地下の拷問室?まで体はあたしがバッグで運ぶから」

「とりあえず『ダスク・エヴァンジェル』の皆さんに報告してきますね。ロビーで寛いでいてください」


 そういうとミリアはおそらくみんなが居る地下室へ行ってしまった。

 リリカが口を開いた。


「そういえばボロゾは何か言っておらんかったか?」

「そっか、寝てたから覚えてないんだね」

「いや~結局ダンディがサラの身柄を金貨1000枚で落札してさ」

「1000枚か・・・えらいボられたの」

「いや、それ以上のモノをお買い上げした気がするなぁ。こっちが1000枚で買い取るって言ったとき、始めはなんか多すぎるって受け取るの嫌そうだったけど、ダンディが理由を話したら三段笑いして喜んで受け取ったよ」

「ある意味面倒な目の付けられ方をしたな・・・どうしても困ったら我が追っ払って進ぜよう」

「あ、あと」


 アブは思い出したように口を開いた。


「ダンジョンの50層に着いたら連絡くれって。それまでヴァルファゴに里帰りしてくるってさ」

「あやつらは40層台でしこたま稼いでるからの。先行有利というやつよ。今度はこちらが50層を先に突破して吠え面かかせてやるわい」


 威勢のいい言葉とは裏腹にリリカはどこか遠くを見て何か考えている表情だ。


「あ、相手の意図が気になってる顔だ」

「心を読むな!」

「そんなんじゃないよ。まあでも、ボロゾは変なヤツだけど悪いヤツじゃないんじゃないかなって思う」

「ほう?では、我とボロゾ。どちらの性根がより曲がっておると思う?」

「あたしはもうリリカの方が距離近いからリリカに肩入れしちゃうな。でも初対面の時はどっちもどっちだったよ。ダンディを拉致するとか言っててさ」

「ああでもして唾を付けておかんと保護出来ぬと思ったのでな。汝らは思ったより色んな連中に目を付けられておるゆえ」

「ああ、あれはダンディに手を出したらタダじゃおかねえぞ!ってことだったんだね。なるほどな~」

「YAKUZAだ」

「おひかえなすって!」


 リョーマとサキが任侠ごっこをしていると、『ダスク・エヴァンジェル』の面々が勢ぞろいして迎えに来た。そのまま礼拝室の地下へと案内された。


「モラ様が皆様に是非、直接礼をと」


 地下室に入ると、出発する前と変わらない位置にモラの生首が目を開けてこちらを見ていた。表情筋とかが動かせないのか無表情だ。心なしか少し顔色も良くない。


「皆様。私の体を取り戻していただいたこと、命を救っていただいたこと、とても厚く御礼を申し上げます。特にダンディ様。ただでさえ御恩があるうえに、重ね重ね醜態をさらし、あまつさえ不肖の身内が企てた陰謀に巻き込んでしまいご迷惑をおかけいたしましたこと、慙愧の念に堪えません。深くお詫びいたします」

「誤解が解けたようで何よりだ。組織の膿も出せたのなら活動には支障はないだろう。これからはよろしく頼む」


 セリアが前に出てダンディに声をかける。


「貴殿のことはモラ様にすべて伺った。私は自分の行いが恥ずかしい。モラ様のためと言い訳を重ね、狼藉を働き、敵の企みを見抜けなかったばかりか、仲間の忠告すら聞く耳を持たなかった。こんな私は守護騎士失格だ」


 普段の気の強い鉄火肌な印象とは違い、声は上ずり、表情をくしゃくしゃにして涙に濡れていた。


「モラ様にはダンディ殿に裁いて頂くよう言われている。望みならこの場で命を絶とう」


 この一晩で覚悟を決めたのだろう。だが、後悔と自責の念で精神の均衡を保てていないのは明白だ。俺は口を開いた。


「お前に死なれては困る。全ては俺が俺自身の誤解を解くために仕方なくやったこと、人助けはそのついでに過ぎない。人の命も、運命も、何もかも背負うには俺は弱すぎる」

「私はそれだけのことをしたと思っている」

「俺がお前の立場でもどうしていたかは分からん。気が済まんと言うなら、そうだな・・・。では、パーティでいる間だけで良い。弱い俺を守ってくれ。お前は強いだろう」

「そんなことで、いいのか・・・?」

「お前はまだ足りない、もっと罰をと思うだろうが、それこそ容易い道だ。結局は他人に委ねるのではなく、自分自身で折り合いを付けなければならない。自分を許せるような自分になる事こそが罰だと思え」

「・・・寛大な処置感謝する」


 少なくとも前を向くことを決めた表情だ。俺に比べればこの女はあらゆる意味で強い。

 俺自身がこの道半ばだというのに、同じ道を歩ませるというならあっさりと俺を追い越していくことだろう。


「他にも俺に謝りたいというものが居そうだから言っておくが、俺はこれまで通り特に気にすることなく行かせてもらう。気持ちの整理ぐらい個人的に済ませておけ。それでも気が済まないというなら、モラが復活した後に酒でも飲みながら相談に乗ってやる」

「いよっ!ダンディかっこいい!」

「リョーマ!茶化さないの!」


 まったくこいつらは。だが俺にとっては音楽という繋がりをもったかけがえのない仲間だ。こうして奔走しているのもこいつらとの楽しい時間を作るためでもある。それがきっかけで輪が広がっていくなら、俺の心も少しずつ氷解していくのかもしれない。


「語りたいことは山ほどあるが、モラ様の復活を優先させてもらおう」

「モラ様の体は一旦預からせてもらうね」


 俺の虐待に比較的加担しなかったマリアンヌとセラフィーネは表情的に言いたいことはあるようだが、優先順位が判断できるぐらいには折り合いがついているようだ。

 理不尽な言葉攻めがきつかったルシエラは・・・。


「ほら男性陣は出てった出てった。あ、ダンディは見てもいいと思うぞ」

「「ええ~!?」」


 アブとリョーマが驚愕の声を上げる。マリアンヌとセラフィーネはコイツ何言ってるんだというような驚きの表情で固まってる。


「・・・一応聞くが何故だ?」


 俺はルシエラに事の真意を問い質した。


「お前には聖者モラ様の伴侶となる資格がある。その一糸纏わぬ姿を目に焼き付け、悶々とした日々を過ごしながら自覚を育み、弛まぬ精進を行う大きな動機づけにしてもらいたい」


 とんでもない奴が居た。変わった奴だと思ったがこいつは超弩級だ。


「はあああああああ!?」

「モモモモモモモラ様!そうなのですか!?」


 先ほどのシリアスなムードからうって変わって、顔面を紅潮させながら尋ねるセリア。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ルシエラの言葉に耳を貸してはいけません」

「モラ様、かなり長い間がありましたよ」


 ミリアが突っ込みを入れる。


「くっはっはは!こいつは傑作だ。この際、野暮は言うまいよ。お邪魔虫は退散するとしよう」


 リリカはそう言うと満足した表情で空中を浮遊しながら階段を昇って行った。


「ダダダダンディ殿とモラ様が・・・しかし私は何に変えてもモラ様を・・・。いやダンディ殿には誓いを立てたばかりだ、どうすればいい?」

「結局俺の意志は無視されるのだが?」


 弱者男性はつらいよ。








 今日は幸いなことにクラン活動日ではなく休みだったので、各々散らばってやりたいことをやりにいった。アブはステラに会いに冒険者ギルドへ、リョーマは楽器の受け取りと新たな作成依頼のために工房へ、サキはその辺をぶらつき買い物をすると言っていた。

 俺はというと・・・。


「では、『ダスク・エヴァンジェル』は活動を継続できるということだな」

「そうなります」


 目の前には復活に成功したモラ・キレインが居た。裸体ではなくちゃんと服を着ている。

 彼女の希望で俺は酒を酌み交わしている。


「サラ・モルスレッドと協力者5名も情状酌量の余地があれば減刑するように嘆願書を送りましたが、事情聴取後の極刑は免れないでしょう。公正に本国で裁かれればの話ですが」

「身柄が人族至上主義派閥の手に渡らなければ、だな」

「既に所属に関する報告は上げてもらっています。人族至上主義派閥の力は相当弱まるはずです。余程のことがなければ派閥外の人間で事に当たるでしょう」

「弾圧が起これば、往々にして地下に潜伏するものだ。スパイが紛れ込まなければいいがな」

「真偽を問う魔法や魔道具もありますが、過ぎれば法に触れますので限界はあります」

「第三者機関に依頼をするというのはどうだ?」

「元老院がそのような柔軟な判断ができればよいのですが、それでも間者が紛れ込んだり、裏取引や、政治的圧力をかける可能性を完全になくせるわけではありません」

「ふむ、厄介なことだ」


 俺はモラに疑問を投げかける。


「人族至上主義者の最終的な目的は何なんだ?」

「人族こそが最も優れた種族であることを世界に知らしめ、種族全体の立場を優位なものとすることです」

「愚かな・・・自らの弱さを受け入れることができないのだな」

「人がみなダンディ様のようになれば良いのですが」

「よせ、俺はそんな大層なものじゃない。心に深手を負って嫌でも思い知らされただけのただの怪我人だ」

「あら、それは治療をしないといけませんね。治癒魔法ならこの世の誰にも負けない自信がありますよ」

「・・・」


 俺は視線を外し、グラスを見つめたまま言葉を一旦、飲み込んだ。


「悪いがその傷は俺にとっては宝だ。それに、心の準備もないまま一気に治すとショック死しそうだ。またの機会に頼む」

「ええ、待ちますとも」

「いや、待たせるのは気が引けるな。愛想をつかすなら今のうちだぞ」

「そのようなことを繰り返していてはいつまでも新しい幸せはつかめませんよ」

「・・・ご明察ってわけか。これはいよいよ年貢の納め時かもしれないな」

「追い詰める意図はありません。では、今日のところは棚上げということで手打ちにしましょう」

「そうか、助かる。今の俺には進むべき道がある。それと、扉の前で聞き耳を立てている奴ら」


 ガチャ、と扉が開いた。そこにはセラフィーネ、ルシエラ、マリアンヌ、セリアの4人のクランメンバーが居た。


「あちゃーやっぱバレちゃったじゃん」

「もっとマナを周囲と同化させろ」

「ルシエラ、無茶を言うな」

「も、申し訳ありません立ち聞きするつもりはなかったのですが」


 俺は柄にもなく笑みを溢した。


「いいさ。だが、俺はそう容易くお前らの思い通りになってやるつもりはない」


 ここにいる誰もが俺の命など一瞬で奪えるほどに強い。だが、俺は生かしてもらえている。あまつさえ自由でいられる。


「だから、こんな俺で良ければこれからもよろしく頼む」


 これこそが俺に齎された福音なのだと。


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