第2話 迷宮都市と冒険者ギルド
町に着いた。
行き交う人々は毛深くて頭の上に両耳が生えてたり、鱗が生えてたり、羽が生えたり多種多様だった。
肌の色一つでいがみ合ってる某惑星が酷く滑稽に思えるほどに。
「通行人の会話が聞こえてきたけど普通に日本語だったぞ」
「出た地獄耳」
「じゃあコミュニケーションに問題はなしか。どういう理屈かは気になるけど、不思議な現象のオンパレードでもういちいち突っ込んでられないわ」
「今後の方針を決めるためにも情報を集めたい。それと滞在費の捻出も」
「異世界から来たことは伏せておいた方が良いかな?嘘はどうせいつかバレるからなるたけ使いたくないんだけど」
「では、事情があって明かせないとして。どうにもならなくなったら白状しよう」
「賛成」「了解」「うい」
「それともし元の世界に帰る手段が見つかったら・・・」
「あーその話題は長くなりそうだから今回はパス。情報収集を優先しましょ」
ふと行き先の大通りを見ると、あたりは行商人の露天が立ち並ぶ蚤の市と化している。
歩きながらそのうちの一つを見やるとターバンを巻いて胡坐をかき、葉巻を吸いながら客を待っている。扱っている商材は香辛料のようだ。文字は日本語じゃなかった。
「所持品で売れそうなものとかあったりする?」
「ポケットに入ってたピックとか・・・は正直価値がなさそうだな。そもそも楽器がないし」
「サキの煙草とか珍しいから高く売れるんじゃね?」
「い や だ」
「どの道入手手段がないから、いつかは異世界産の煙草にシフトするしかないぞ」
「ア〇コスも充電切れるし」
「う~」
「とりま貨幣価値とか分かんないから市役所的なとこで聞いた方が良い気がするかも」
「無知はカモられるからな」
「じゃ、聞き込みしよっか」
あたしはできるだけ人の好さそうで暇そうな人に声をかけることにした。
おっ、がっちりしたガタイのナイスシニア発見。あたしの観察眼からすると退役軍人とかかな?
「すみません。少しお伺いしてよろしいですか?」
「ん?ああ、構わないが」
「私たちこの町は初めてなんですが、どこかに案内所みたいなところはありませんか?」
「あっちの方にあるにはあるが、その様子じゃひょっとしてこの町の事を何も知らずにやってきたのか?」
「ええ、長旅の途中でして」
「はは、とんだ世間知らずもいたもんだ。ここは迷宮都市ルルイエ。ダンジョンで一発当てようっていう冒険者が集まる街さ」
「ありがとうございます。案内所の方に向かわせて頂きますね」
「おう。いいってことよ」
「ねえ、ルルイエって聞き覚えある人居る?」
「しらない」
「あたしの記憶だとクトゥルフ神話に出てくるんだよね」
「うわっクトゥルフ関係かよ。一気に不安になってきたんだけど大丈夫か?」
「大丈夫も何も乗り切れねえとこ乗っていくしかないぞ」
「ああ、もうヤケクソやじゃ~い!ノリで生きてる我々に怖いもんはな~し!」
「まあ無理にダンジョンに潜らなくても何とかなるんじゃないか」
「う~ん、音楽でやっていくってなるとニーズやら市場規模も調査しないとね。パトロンの意向次第じゃ、自分たちのやりたいことはできなくなっちゃうかも」
「それは無理」
「同感だ」
「ですよね~」
流石、死んでも我を通し続けたキワモノ揃いである。面構えが違う。これまで音楽事務所やスポンサーも一切拒否してきた。
「じゃあ音楽以外で安定して稼がなきゃね。そう考えるとハイリスクハイリターンそうなダンジョンも選択肢の一つとして残ってくるってワケ」
「気乗りしねえなあ」
そうこうしてるうちに案内所と思しき場所に着いた。
「迷宮都市ルルイエ観光協会総合案内窓口です。ルルイエは初めてですか?」
「はい、長旅の途中で路銀が切れてしまって立ち寄らせていただきました」
「他国の通貨をお持ちでしたら換金も承りますよ?」
「え?ああそうなんですね。ちなみに買い取った後はその通貨はどうされるおつもりで?」
「頻繁に取引のある国の通貨ですと使用可能な外貨として市の財源になります。それ以外の貨幣は炉に流して金属資源として再利用します。価格は成分と重さで決定します」
「ありがとうございます。仲間と相談させていただきます」
「確かに金属的価値で言ったらそこそこするよな。紙幣の方は紙クズだろうけど」
「で、どうする?証拠も残らないし日本円出しちゃう?」
「お金潰すのは犯罪・・・」
「そうだけど言ってる場合じゃないぞ、ってかなんでサキがそれを知ってるんだ」
「10円手で潰して怒られたことがある」
「どんだけ~」
「小銭いっぱい持ってる人居る?あたしはスマホかカード決済派であんま現金持たないんだよね」
「見ろ、俺は凄いぞ!」
リョーマは懐からパンパンになったガマ口財布を取り出した。
中を開けてみると全部100円玉でギッチリ埋め尽くされてる。
「キモッ!あんたなんでそんなことしてんの?」
「理由なんかねえ!強いて言えばゲーセンで連コするためだ!」
「もう主流はネッ対よ・・・」
「ここは素直に喜んでおくべきだろうか」
「わたしも」
サキもバッグから財布を取り出した。中には大量の小銭が入っていた。
「お釣りの計算ができなくて溜まってた」
「あ、うん・・・なんかごめん」
「合計で銀貨5枚、銅貨60枚になります。銀貨1枚を銅貨100枚にすることもできますがいかがいたしましょうか」
「いえ結構です。宿の相場と場所を教えてもらってもよろしいですか?」
「一般的な宿ですと4人部屋で1泊銅貨50枚程度が相場です。比較的治安が良いのはこのあたりかと存じます」
「ありがとうございます。ダンジョンに入るには何か手続等はございますか?」
「そちらは冒険者ギルドの管轄になりますので、冒険者ギルドへお立ち寄りください。場所はこちらとなっております」
「助かりました」
日本の硬貨はだいたい銅とニッケルが主成分なので、ニッケルの分が価値が高かったということだろうか。
銅貨1枚が100円ぐらいに思っておけばよさそうだ。となると金貨1枚100万円か。そんな単純なもんではないと思うけど計算が楽なのでそう仮定しておく。
ひとまず我々は宿へのチェックインを済ませ、冒険者ギルドへ向かった。
「冒険者ギルドか。確かに異世界と言えばまず冒険者ギルドで登録と相場は決まっている。」
「そうなの?」
したり顔のダンディに気のない返し言葉を投げかける。
「そうだ。そして男は浪漫を追い求めるのさ。」
「浪漫で腹が膨れればいいけどね~」
「それミュージシャンやってた俺達が言うかって話になるけど?」
「ある程度余裕がなければ文明や芸術は発展し得ないのだよ君達。まあ、今の所持金だと食費込みで5日分ぐらいは行けるかな~。その間にまた稼がないと」
「食い意地張った奴がいなきゃな」
「うちにそんな健啖家はいらっしゃらないはず」
「タバコ代・・・」
「あ、どうすっかな、日本とは法律違うだろうし変なもん混ざってなきゃいいけど」
「まあ金に関してはなんとかするしかないだろう」
「アブの親御さんもいないしな~」
「その話題はノンデリ・・・」
「あっマジですまん!」
「リョーマが悪気無いのは知ってるけど、ガチキクからやめてねって一応言っとく!」
両親には金銭面で死ぬほど世話になったから常に感謝し続けてる。最終的に借りたお金も返せて黒字にはなったんだよなぁ。だが、両親は出したお金のせいで娘を死に追いやったと考えてないだろうか?いや、生き様は彗星のように輝いたはずだ。一番星よりも鮮烈に。であればあたしも胸を張るべきだ。
「冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか」
冒険者ギルドへ到着し、受付のカウンターへとやってきた。受付のお姉さんは青いロングヘアの有翼人種だ。心なしか周りの受付嬢より上品な印象を受けた。
メンバーにはあたしが対応するから見守っててと釘を刺しておいたから、よっぽどじゃなきゃ横から口は出さないはず。
「あの、私たち長旅で路銀が切れて働き口を探してるんです。いきなり迷宮・・・はちょっとハードルが高いので何かできそうな仕事を斡旋して頂けると助かるのですが」
「かしこまりました。失礼ですが冒険者登録はお済みでしょうか」
「いえ」
「お連れの方も?」
「はい」
「ではこちらの部屋へお通り下さい」
こうもしつこく確認するということは特殊なケースのようだ。この世界では各都市に冒険者ギルドがあり、登録すれば登録証が身分証代わりになるので成人したら登録をするのが一般的なのかもしれないということに思い当たった。でも、あくまで想像だからワカンネ。
「では登録を進めさせていただきますのでこの石を握ったまま3分ほどお待ちくださいませ。どちらの手でも構いません。お待ちしている間に説明をさせていただきます」
「わかりました」
受付嬢は4人それぞれに青く光る宝石のようなものを手渡した。サイズは手で握り込んでしまえば隠れるぐらいのものだ。
「まず、登録される情報としては氏名、年齢、性別。これらはギルド登録情報として扱われ、本人の承諾なしに第三者に公開されることはありません。」
なぬ?性別だと?これは肉体を調べられてるのか?それとも自認を優先するのか?それが問題だ。
「ちょっと待ってください。性別は肉体依存ですか?自認依存ですか?」
「肉体依存です。自認という表現には馴染みがないですが、肉体と精神の性が一致していない方も一定数いらっしゃっるのは事実です。あくまで肉体区分ということでご納得いただいてます」
「では、『両方』ついている場合は?」
「その場合は両性となります。」
対応してた。神。
「過去にそういったケースがあったということですか?」
「植物系や軟体系の種族の方や、天使族が該当しますね。天使の方が冒険者登録をした事例はありませんが」
あ、雌雄同体系ね・・・。それにしても天使ってやっぱそうなの?ってか実在するのか。
前半は目を瞑るとして、天使と同じカテゴリは優越感がある。ふふん。
「ありがとうございます。話の腰を折ってすみません」
「では、説明を続けさせていただきます。次にパーティメンバーに公開できる情報として大きく分けて種族と職業とステータスとニックネームの4つがあります。種族は当然ですが通常は変更できません」
「職業?」
一瞬受付嬢の表情がえっそんなことも知らないの?という表情になったがすぐに笑顔になった。よしよし、しょうがねえから教えてやるかって感じだろうか。多分説明するのが好きなんだと思う。あたしはそれにさらに乗っかった。
「恥を忍んで申し上げますが、職業について詳しくお聞かせいただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、もちろんです。職業とは才能を伸ばせるようにと神がもたらした恩寵の一つで、本人の能力と素養により決定され、能力に補正が付きます。その種類は100とも200とも言われておりますが、現在ギルドで確認できているのは78種類ほどです。これらは後天的に変化する可能性もあります。各職業の役割や能力などは恐れ入りますが、ギルド発行の最新版職業ガイドブックを銅貨10枚でお買い求めください」
欲しいのはやまやまだけど本買っても文字が読めないんだよなぁ。
「ステータスについてですが、STR(筋力)、VIT(活力)、DEX(器用さ)、AGI(敏捷性)、INT(知性)、MND(精神力)、CHA(魅力)、HP(耐久力)、MP(魔力)の9つの数値化情報に加え、固有の補正が乗る称号や加護、恩寵などがあります。加えてバフ、デバフなどの効果、毒や麻痺などの一時的な状態異常などの記載があります。これも冒険者登録証で確認できます。ちなみに登録証は首から下げるタイプのタグタイプが一般的ですが有料オプションで指輪や腕輪などにオーダーできますがいかがなさいますか?」
「タグタイプでお願いします」
「かしこまりました。最後にニックネームについてですが、これは本名とは別にパーティメンバーと呼び合う際に使う名前を用いるのが一般的です。戦闘中は一瞬の判断が命取りになりかねませんし、短めのニックネームが好まれます。もう3分は過ぎてしまっているようですね。では、石が白く変化していると思われますのでお渡しください。登録証を生成してまいりますのでしばしこの部屋でお待ちください」
「ありがとうございます」
そう言っていつの間にか白くなっていた石を回収した受付嬢は部屋から出て行った。
「なあ」
「なに?」
リョーマが話しかけてきた。
「大人しく聞いててえらいって褒めて」
「えらいえらい」
「で、びっくりなんだけど」
「奇遇ね」
「まるでゲームの世界じゃん。俺は結構やるけどみんなは?」
「こういう系ならポケ〇ンとドラ〇エはやったことあるけど」
「俺は暇を持て余していたからオンラインゲームは結構やっていたぞ」
「へえ、ダンディ意外ね」
「猫の出てくるソシャゲなら」
「しかし急展開だな。適応できるのか?」
「う~ん、そういうもんとして納得してそれに乗っていくしかないんじゃないかな~」
「戦闘系ってなると、力こそ正義の世界って感じ?」
「いや~頭脳職もあると思うからやりようはあるんじゃない?」
「体鍛えときゃよかったかな?」
「アンタまだ二十三でしょ、ダンディとかどうなんのよ」
「いや、まだあきらめるには早い。ジョブによって補正があると言っていたな」
「確かにこの世界に来てから体の調子はいいかも。結構歩いたのに息切れもなかったし」
「それに賭けるとしよう」
そんな話をしていたら、息を切らした受付嬢がドアを勢い良く開けて戻ってきた。
「し、失礼ですが、どちらのご出身ですか?」
あちゃ~。波乱の予感。




