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第18話 1年に1人の逸材

 



 戦利品は氷竜鱗と竜玉のサークレットだった。氷竜鱗は超高級素材で、竜玉のサークレットは高い魔法耐性と魔力伝導性を兼ね備えている高水準な後衛向け装備だ。この編成では特に使用予定もないため、売却リスト行きとなった。


「今日はここまでだ。帰還するぞ」


 リリカが帰還石を掲げると、我々は光に包まれて入り口に戻ってきた。出迎えに来ていたユランを加え、『アーケイン・ナブラ』のクランハウスで反省会だ。


「30層を攻略できるなら最上位冒険者と言っても差し支えなかろう。あの層は明確に壁なのだ」

「ダンジョンデビューした日に最上位冒険者になってしまいましたね」

「あたし、まだ弱いと思うけど?」

「私の計算によると数値上の貢献はアブさんが群を抜いてトップです」

「いや、グラントさんの探索スキルは凄かったですよ。時短で言えばグラントさんも相当貢献度は高いのでは?」

「パーティというのは相乗効果だ。誰が10ある力を30に伸ばしたとしても、功績は全員にあるといってよい。共に栄華を分かち合うべきだ」

「一番の実力者が言うと全体が締まるなぁ」

「ふふ、そうであろう。強いからと言って威張り散らかすのは雅量に欠けるでの」

「ダンジョン攻略するのにも俄然やる気が湧いてきたよ。単なる仕事じゃなくてさ、仲間なんだって思えた。新たな経験を得られたのも嬉しい。でも・・・」


 吟遊詩人の性能について改めて考えると、この編成にはものすごく相性がいい。マジックガーディアン、魔剣士、スクリア、ダークプリースト、魔術師、全てMPを使用して効果を得るタイプの職業だ。『魔泉のアルペジオ』が全体に効果があるのもぶっ刺さっている。

 さらに、特定の個人が突出して強い、言ってみればワンマンパーティに近い状態だ。そんな状態のパーティでヘイト移動、再使用短縮などがあろうものならどうなるか。


「なるべくしてなった、のかな」

「少しは吟遊詩人の性能について理解が深まったか?」

「そうだね」


 あたしは頷いた。


「最初は、吟遊詩人以外のジョブは何をやってるんだ。いなくても成立するような戦術を考えろ。迷惑かけるんじゃない。とか思ってたんだけど、呪歌3つでこれだもん・・・」

「無茶苦茶言いおるな。ま、我々がどれほど苦労しておったか分からんのだろうが」

「今は、分かるよ。これは明確な格差だ」


 やっていることは地味だが、パーティ戦においては「王」だ。このジョブは。


「活躍させてもらってて悪いけど、良くはない、と思う」

「だが、現状はこの運用を続けるのが最適解だ」

「『鏡像のレゾナンス』に代わる魔法なり何なりが発明されれば、少しはましな状況になるんじゃないかなと思うんだけど」

「ふむ、開発してみるか・・・」

「え、出来るの!?」

「研究対象の吟遊詩人が目の前におるからの。だが、出来たとしてもまずは我にしか扱えぬだろう。一般の魔術師が使用可能になるには長い年月が必要だ」

「それでも随分な進歩だよ。手をこまねいているよりよっぽどマシ!」

「アブは良いのか?吟遊詩人としての優位性がなくなったら今のように稼げなくなるかもしれんぞ」

「全然構わないけど。それ、ボロゾさんにも聞かれたんだよね。やっぱ毟れるだけ毟るっていう考え方の人が多いのかな」

「そうか、あのボロゾがか・・・。そう言われるとアブの考えも尤もだ。自分さえ良い世界など退屈でしかないからの」

「お、意外と話分かるね」

「ふん、伊達に孤高の存在をやっておらんわ」


 ふと、ある考えが浮かんだ。


「あのさ、『アーケイン・ナブラ』の人には色々教えてもらったから、興味があったらで良いんだけど」

「なんだ?」

「楽器を習ってみる気、ない?」

「いや、別に・・・」


 すげなく断られた。






「と、まあこっちはそんな感じだった」

「初日で30層まで!?RTA走者かよ!」

「みんなが強かったのと、相性が良すぎた」


 実際それに尽きると思う。


「俺は楽譜≪スコア≫10個ぐらい習得してそのあと座学。で、途中で寝たらアリル隊長にどやされてクランハウス100周してあとは筋トレやってた」

「容易に想像ついちゃう・・・」

「でも、やってみると筋トレも良いもんだな!騎士団領の人たちも良いヤツばっかりだったぜ」


 リョーマは何故か先輩に好かれる才はある。恋愛はからっきしだが。


「昼の歓迎会の後、午後はダンジョンに入って10層まで行ったけど、アリル隊長は剣も魔法も射撃も回復も出来て、まさに万能って感じだったな」

「世界を救うとかそういった特別な意味はないらしいけど、特徴を聞くと勇者って感じするね」

「で、パーティメンバーも何でもできる人ばっかなんだよ。後衛ジョブでも剣を振るうし、前衛でも魔法が使える感じ」

「へえ、役割がはっきり分かれてないんだ」

「そう、なんかフォーメンションとかあるんだわ。戦術書が数字の羅列の暗号みたいで覚え辛くて俺は参加できなかったんだよな。午前中は興味なさ過ぎて寝てたけど、あれを見た後ならやってみたくなる感あったわ」

「ふ~ん、クランによってそれぞれなのね」

「多分、アブんとこの話聞いたら負けてられないって突撃しだすだろうな・・・」

「そりゃすまんかった。応援しとるよ」

「気持ちがこもってなさすぎだろ・・・」


 さて、サキのところはどうなったかな。


「サキんとこはどうだった?」

「あのおっさんと戦うはめになった・・・」

「なんで!?味方なのに」


 話を聞くと、新しく強いやつが加入した冒険者パーティの恒例行事みたいなもので、ダンジョンの中で邪魔も入らないからって10層まで進んでわざわざ力比べをしたらしい。


「ヒーラーが居れば蘇生もできるから安全ってことか・・・。やっぱ冒険者って頭のネジ飛んでるわ」

「私が勝ったけど、あのおっさんは死ななかった」


 サキはぐっとこぶしを握り締め、思い出すようにそれを眺めた。


「終わったらご飯おごってもらった。お金はあるのに」

「あの人、この国で1番強いぐらいの人だよね・・・」

「じゃあ私が暫定1位?」

「そう!一番かしこい」

「言語野がおとっているらしい」

「脳の造りが人と違うってだけでサキの脳は優秀だよ」

「みんなちがってみんないい。by金子みすゞ」


 これはかなり実感する。仮にサキの頭が良くなったら他の良い部分がなくなりそうで怖くすらある。


「次はダンディ・・・」

「来たか」


 何か言いたそうな雰囲気だから敢えて最後に回した・・・。


「俺は単身、モラ・キレイン率いる『ダスク・エヴァンジェル』への潜入を試みた。モラは団員を説得できたと思っていたみたいだったが、その実、俺は歓迎されていなかった」


 ダンディの語りが続く。


「最初は奴らがモラに従うふりをして、裏ではモラがトップであることを妬んでいたり疎んじているのかと思ったが、どうやらその逆だった。モラへの信仰心のあまり、いや、執着と言っても良いな。とにかくそういった感情のおかげで、俺はモラに近づく汚れた存在としてあらゆる嫌がらせを受けた」

「マジか・・・」

「出来るだけモラの目につくようなところに居れば嫌がらせを受けずに済んだが、それも束の間、奴らは結託し、まずは2軍でみっちり鍛えましょうとモラに進言し、分断を図ってきた」

「もう許さん!直接、説教してきてやるわ!」

「まあ話を聞け」


 あたしはダンディに袖を掴まれ、しぶしぶ席について話を聞く姿勢を取った。


「結論を言うと、俺は奴らの膿を出すつもりだ。少し時間はかかるだろうがな」

「はあ?どうしてそんなことをする義理があるの!?」

「俺がそうしたいと思ったからだ」


 内心さっさと報告してケリをつけたいと思うが、何か考えがあってのことなのだろう。ダンディの意志を無下にするわけにもいかないので、チャンスをあげることにする。もちろん、裏では包囲網を準備しながらだ。


「もし、問題が勝手に明るみになった時はスランを庇ったりしないよ!」

「それでいい」


 まったく、陰湿過ぎてリリカが軽蔑するのも納得だわ。







「うおおおおきたああああ!!!!」

「毎度来て早々騒がしいやつだな」


 あたしたちは木工ギルドと鍛冶ギルドの中間ぐらいにある工房スペースに来ている。


「これが叫ばずにいられるか!アコースティック環境ならこれさえあれば大丈夫!」

「ウッドベース!」

「コントラバスだろ!」

「ダブルベース!」

「もう、呼び方なんか気にすんな!アジャポゴパジェマ!」

「それは聞いたことないよ」

「今考えたからな」


 ビゼリが真剣な顔をして会話に割り込んできた。


「で、そのアジャポゴパジェマの製作費なんだが」

「それを採用するのかよ!」

「む、ダメなのか?」

「ウッドベースでお願いします」

「では、そのウッドベースの費用だが、金貨10枚分の技術料と素材を使っている」

「高級品過ぎる」

「木は一番良いやつ使ったぜ。勿論値段じゃなくて音な」

「まあ我々なら払えなくもないか」

「そういえばダンジョンの最前線攻略パーティに参加してるんだって?すごいじゃないか」

「噂はすぐ広まるもんなんだな」


 ヴァンダルまで参加してきた


「よう、久しぶりだな。まあ、ダンジョンの町だしな。ダンジョンに関わる事ならなおさら広まりやすい。お前たちの魂の熱さは俺が良く知っている。活躍は時間の問題だと思っていたぞ」

「噂ついでに良い情報有りますぜ。何とこのアブという男女、ダンジョン初挑戦で30層を踏破しちまった」

「なんだと!」

「信じられん!」


 ヴァンダルとビゼリは同じように驚愕の表情を浮かべた。今しれっと男女って言ったなリョーマ。後でしばく。


「氷雪嵐竜ズヴェイルを撃破したということか・・・」

「しかも初挑戦だと。どこのクランが後ろ盾に?」

「アブは『アーケイン・ナブラ』だな」

「なるほど、『エンシェント・ブラッド』のリリカ・エラディンか。確かに吟遊詩人が居るならば彼女の力を余すことなく発揮できるだろう」

「『エンシェント・ブラッド』?」

「聞いたことはないのか。古代人並みの知識を受け継ぐものとしてそう呼ばれている。実際の血筋は定かではないがな」

「いやまあ、古代人が居なかったら我々も居ないわけだから全員血縁者ではあるんじゃないのか?」

「リョーマ、そういうわけではなくてだな・・・」

「リョーマの戯言に無理して付き合わなくていいよ」

「うるせー!種族が違っったって同じ世代を受け継いでるならみんなブラザーなんだよ!」

「もはや血筋とか関係なくなってるし・・・」


 そういえば聞いておきたいことがあったんだ。


「ビゼリさん、時術師について何か知ってたりしない?」

「時術か・・・300年前に天より降りし船に乗っていた異邦人が使用していたらしい。彼らは故郷に帰れず、この地でつつましく暮らしていた。この世界の人と交わりもしたが、生まれる子供はすべて現地の種族であった。ゆえに姿は消えてしまったが、血を受け継ぐものがどこかに居ると伝えられている」

「へえ。そんなことがあったんだ」

「私は200歳ほどなので子孫を名乗る人間しか見たことはないがな。その人にも時術の資質はなかったよ。使用条件も効果も何も分からない」

「なるほど。教えてくれてありがとう」

「まあ何も知らないに等しくはあるがな。リリカ嬢なら何か知っているかもしれん」


 機会があれば直接聞いておこう。


「おっ、フロアタムとバスドラ出来てんじゃん!これでドラムセット完成するぞ」

「待て。それはまだ仕上げが済んでいないぞ。明日また来い」

「しょうがねえなあ。じゃあ、夕飯食いに行ってウッドベースの音出しでもするか」

「あーあたしはステラさんのとこ行くから音出しは1時間ぐらいで離脱するんでヨロシク」

「そうか、まあしゃあねえな」

「明日にドラムセットが来るなら今日は短めで良いっしょ」

「それもそうだな」


 ステラさんにはダンジョンの事とか色々報告したいしな。






「で、ビゼリさんに作ってもらったウッドベースなんだけど、めっちゃ音抜けが良くて、芯が強くて、程よいアタック感で、ダイナミズムも思いのまま。マジックケージによる音量ブーストも相当な代物だったし故郷で使ってる木じゃあの音は出ないよなって感じだったの。あれならサキが本気で叩いたドラムにも負けない気がするけど、サキのドラムもルルイエ工房のものだからどうなっちゃうんだろ」


 あたしは感動し過ぎて素人のステラさんに向かって喋り倒してしまった。悪いけど言語化しないと気が済まなかったんだ。ひたすら相槌を打つだけになっていたステラさんが気の毒になってきたので、ひとしきり語った後ダンジョン攻略の話を振った。


「30層のフロアボスまで倒されたのですね。さすがアブさんです」

「無理矢理引きずり回されただけだよ・・・最後はちょっとやってる感出てたけどさ」

「アブさんの運用に関しては、リリカ・エラディンの判断力、決断力、行動力の勝利といったところでしょうか」

「確かに、ワンマンチームではあると思う。他のメンバーも一流だけど流石にリリカだけは格が違ったよ」

「それは、そうかもしれませんね」


 ステラは少し遠い目をして訊ねてきた。


「リリカ・エラディンは私について何か言っていませんでしたか?」

「あれ、面識あるの?」

「ええ、母校が同じもので。リリカさんは私の後輩にあたります」

「ああ、そういえばステラさんってドラテナの魔法大学を首席で出てたんだっけ。会議の時にリリカが言ってたような」

「やはり、バレていたんですね」

「ついでに、なぜこんなところで閑職をやってるのか分からない、とか言ってたけど」

「余計なお世話ですって言っておいてください」

「あはは、伝えておくね」


 リリカに対しても物怖じしないって、実はステラさんって結構すごい人?


「リリカは100年に1人の逸材ですが。私は1年に1人の逸材でしかありません」

「ハイレベルな謙遜だね・・・」

「私は本当はドラテナに本庁がある魔導研究機関から冒険者ギルドへ出向してきてるんですよ。在学中から参画している現在の冒険者登録システムの構築から携わっているので、表向きは有識者として招かれているという形ですが、その実態は、権力争いに興味がなく研究に没頭し過ぎた結果の左遷と言ったところでしょうか」

「あらら」

「それほど激務ではないですし、研究も個人で続けられてますから不満はありませんけどね」


 人に歴史ありだ。


「冒険者には興味なかったんですか?」

「強い動機や高い志がないと務まらない仕事だと思いますよ。私にはそれがないんです」

「あたしもないんだけど?」

「吟遊詩人という職業が強い動機になっていると思います。周りが放っておきません」

「ありがたいような迷惑なような、でも」


 あたしの中で得られたものもある。


「30層のボスを倒した時。チームとしての一体感があったんだよね。それは、その辺の弱いモンスターを作業のように倒すんじゃなくて、強いモンスターを相手にみんなで力を合わせて戦わないと得られないものだと思う。バンド仲間と近いものを感じたよ」

「やはりアブさんには素質がありますよ」

「そうかな?まあ、ちょっと前向きになれたのは確かかも。リリカへの苦手意識もかなりなくなったし」

「苦手だったんですか?」

「会議の時のリリカはダンディを拉致するプランもあったとか言ったり、モラさんにセクハラかましたりかなりヤバいヤツの印象だったからね」

「よりにもよってスラン教国相手にですか」

「そう、ダンディの話だとスランは今かなりクラン内の状態が良くなくて・・・。あ、悪いけどこの話は内密に」

「想像はつきますので大丈夫ですよ」

「だからちょっと心配なんだよね。ダンディは何とかするって言ってるけどさ」

「もしもの時は事務局に働きかけますので遠慮なく言ってください」

「もしもの時がなければいいんだけどねえ」


 最悪の事態は想定して、手遅れになる前に動きたい。その指針であればもう動いておかなければいけないのだが、一旦はダンディを信じる他ない。


 そして長い一日が終わり、次の朝を迎える。




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