第17話 生産者から消費者に
20層の戦利品はかなり大きめの魔石2つと犠牲の腕輪だった。
「これは致死ダメージを受けると身代わりになって壊れる腕輪だ。アブが身に着けていろ」
「わお、ありがたく頂戴するね」
「おそらくないとは思うが、万が一、流れ弾で死んでもらっても困るからな」
いったいいくらするんだろうと頭をよぎったが、金銭感覚は前世に置いてきたことにする。
「そろそろ昼食をとるか」
「そう致しましょう」
「アブの歓迎会も兼ねよう」
リリカが指を鳴らすとボス部屋の中心に無駄に優雅な茶会スペースが出現した。テーブルの上では出来立ての料理が湯気を上げてその存在を主張している。
「ボス部屋は広い上に敵が出現しないから休憩にはもってこいだ」
「他の人の邪魔になったりしないの?」
「そんな話は聞かんな。同じような別の空間がいくつも作られているのではないかと考えられている」
パーティ同士で顔を合わせることもないらしい。
「共闘できてしまってはパーティの人数が制限されている理由も薄いしの」
「ダンジョンを作った人たちかぁ。どんな存在なんだろ」
「あるものは利用させてもらうに限るが、謎が多いのは事実だ。取り敢えず席に着こうぞ」
我々は席にそれぞれ着席して食事を始めた。
「それでは吟遊詩人のアブの加入を祝して乾杯!」
「乾杯!」
「お酒飲んじゃっていいの?」
「後で酔い覚ましの魔法をかけるから問題ない」
それでいいのか・・・。
「そういえば、エレメンタルゴーレムのロズホーンさんも食事はみんなと同じなんだね」
「ん?同じに決まっているが・・・」
「あ、あたしの故郷じゃ人族しかいなくて珍しくてさ。やっぱ文化の違いとかあるんじゃないかって思って」
「う~んまあ、人族は人口多いしな。そういう認識をしててもおかしくはないわな」
差別主義者みたいに思われちゃった?チャラそうな魔族のバラックにフォローされる始末。リョーマの事笑えないなこれじゃ。
「ほう、吟遊詩人様は人族至上主義か」
「違う違う違う。絶対に違う」
「よい、からかってみただけだ。スランの奴らとは違うのは分かっておる」
「スランって・・・教国の人たちってそうなの?」
「そんなことも知らんのか・・・。昔はそうでもなかったが最近は人族至上主義の派閥が幅を利かせ始めてな。世界中で色んな方面に噛みつきおるから辟易しておるのだ」
リリカは若いと思ってたけど、昔のことを知ってるってことは長命種でそれなりに長生きなのかな?でも、今気になってることはそこじゃなくて。
「もしかして、モラさんにつらく当たったのもそれが原因?」
「あれはあ奴らが心底不甲斐ないからだ。痴情のもつれが嫌だからと編成を縛るなど、甘えるのもいい加減にして欲しいわ。そのくせ貞淑を気取っておる」
「あわよくばアブさんを1位指名して取ろうと考えていたのもリリカ様の心証を悪くしたとも聞いております」
「いや、今思えばそのままアブを送り込んで全員妊婦にしてしまえばよかったか」
「ちょっ!あたしそんなに見境なくないもん!浮気しないし!」
いったいあたしはどう思われてるんだ・・・。
「そもそも同性であれば間違いが起こらんと考えるのも浅はかだ。あの国の奴らは別のダンジョンで男だけのパーティを送り込んで乱痴気騒ぎをしでかしたと聞き及んでおる。結果、メンバーの一人が妊娠したとか」
「えっ!?シュ〇ちゃんが妊娠!?」
「誰だその〇ュワちゃんとやらは・・・」
混乱し過ぎてお決まりのフレーズが飛び出してしまったが、リリカは話を続ける。
「おそらく行為の際に『必ず妊娠する』魔道具などを使ったのであろう。その場合、男でも懐孕する」
「この世には不思議がたくさん・・・」
頭がおかしくなりそうだ。お前が言うなって?すみません。
「もちろん性別を変える魔法などもあったりするが興味はあるか?」
「いや、全くないけど」
「なんだつまらんの」
こんな話題でメンバーは居心地悪くならないのか?と思って周りを見ると「いつもの事」と言わんばかりの涼しげな表情だった。
21層以降は岩だらけの山岳&谷底エリアだった。
「本来は空を巡回するワイバーンから発見されないように身を隠しながら進むのがセオリーですが、リリカ様に狙撃して落としてもらいます。ワイバーンの素材は高値で売れます」
「21層でワイバーンを6人で狩れるなら冒険者として中堅以上と言っても差し支えないんだぜ」
「音を聞かれて遠くから火球を飛ばしてくるのだけは面倒だから呪歌は戦闘中だけでよいぞ」
「上下方向の索敵は精度もあまりよくないのでそうして頂けると助かります」
「そういう事情ならしょうがないね」
「障害物もないのでさっさと進むぞ。トリプルスペル、『エアリーウイング』!『スピードブースト』!『フローティングサンダー』!」
我々が谷底を進んでいると、上方で飛んでいるワイバーンを発見した。
「前方にもアーマービーストの群れです」
「問題ない」
言うが早いか、リリカの周囲を浮遊している雷球がアーマービーストの群れの先頭を襲い、着弾と同時に球状の範囲を群れ全体に拡大した。
「『インビジブルフォース』」
リリカはそう言うと、ワイバーンに向かって手を前に突き出し握るような動作をした。ワイバーンは突然見えない何かに握られているように身じろぎし、さらにリリカが手の位置を動かすと連動するように動いた。
「落ちよ」
リリカはそのまま掌を下に向け、勢いよく振りぬいた。同時にワイバーンの巨体は前方で感電しているアーマービーストの群れに叩きつけられた。
「アーマービーストは全滅です。ワイバーンの方はまだ息があります」
「タフな個体だな。アーマービーストがクッションになったか」
「随分硬そうなクッションだったけど・・・」
あたしは念のため『鏡像のレゾナンス』でリリカのヘイトをロズホーンに移し、『魔泉のアルペジオ』を使用した。バラックがワイバーンの方へ向かう。
「大人しく素材になりな!『マーシーエッジ』」
「グゥ・・・!」
バラックの止めを首筋に受けたワイバーンは肺の中の空気を漏らして素材に変わった。
「先を急ぐぞ」
22層からはロックイーター、23層からはハーピー、24層からはミスティックゴーレム、25層からはデスゴート、26層からはマウンテンレイス、27層からはクラックホーク、28層からはバジリスク、29層からは二ードルアイがラインナップに追加された。
大半はリリカの浮遊式追尾魔法弾の一撃に倒れ、空を飛ぶものは『インビジブルフォース』で叩きつけられ、一撃で死なないものについてはロズホーンとバラックに止めを刺された。
「30層の扉だ。魔力が減ってきたから休憩しながら戦術の説明を行う。扉周辺は魔物も襲ってこないから安全しろ」
「移動中に『魔泉のアルペジオ』してないもんね」
「いつもは魔力回復用のポーションを使う。今は『魔泉のアルペジオ』も頼む」
そういうとリリカはバッグから青い液体の入った瓶を取り出して、中身を飲み干した。
あたしは『魔泉のアルペジオ』を使用する。
「最近までポーションの素材で金策していたから親近感が湧くな」
「そういえば最近値段が10倍ぐらいになっておったな。一過性のものならまあ、ヴァルファゴの商人どもが目を付けるほどでもないのか」
「魔力回復用のみならず、体力回復用も需要は高いですからね」
「ヒーラーが居てもそうなの?」
「ヒーラーがヘイトを稼ぎすぎるとモンスターがヒーラーを狙ってくるので、戦闘中の前衛はポーションで回復するんですよ。飲み過ぎると吐き気がするので限度はありますが、長期戦になるほど有効です。ヒーラーが回復を行うのは戦闘が終了してからが安全ですね」
「だから高騰してたのね」
「戦術レベルで必須級のアイテムです。アブさんも魔力ポーションは購入された方が良いかと」
「今手持ちがないなら懐に忍ばせておけ。ほれ」
「使わなかったら返すね」
リリカから借りてしまった。帰ったら買っておこう。生産者側から消費者側になっちゃったのか・・・。
「30層のフロアボスは『氷雪嵐竜ズヴェイル』。風と氷の属性を操る難敵です。我々は戦ったことがあるので既に解析が済んでおり、弱点は火属性になります。ですが、他属性と比べてやや通りやすい程度です。風は無効。氷に至っては吸収されます」
「名前からして寒そうな予感」
「実際その通りで防風防寒での対策は必須と言えるでしょう。我々にはリリカ様が居られるので何とかなりますが、他のパーティがどうやって攻略しているかは不明です」
「対策可能なスキルを持つのは風水師、聖者、魔術師、精霊術師あたりだな。体温を一定に保つ魔道具もあったはずだ」
「体温低下を防いだとて、氷で身動きが取れないなんてこともありますね」
「そんなもん気合で壊さんか」
「容易く言うねえ・・・」
他のみんなは何とかなるんだろうけど、あたしが凍ったら多分、自力で壊せないので困る。
「ロズホーンはフィールドの外周を背に敵の正面に位置取り、バラックは敵の側面。リベリア、グラント、アブ、そして我の4名はズヴェイルの背後に陣取る。アブは我の近くで『魔泉のアルペジオ』と『縮約のスタッカート』を頼む。『鏡像のレゾナンス』はロズホーンにヘイトを集めるようにしてくれ」
「了解」
「では行くぞ」
我々は第30層の扉を潜り抜けた。どこかの山頂のような風景で、バトルフィールドは直径1キロはありそうな台地状になっており、中央に体長30メートルはあろうかという薄い青緑色をしたドラゴンが鎮座していた。
「『ヒートバリア』!」
「『ブレス・オブ・ダークネス』!」
まずリリカがパーティ全体にバリアを張った。体が熱を帯びた薄い膜で覆われていくのが分かる。おそらくこれが防寒対策なのだろう。続いてリベリアがタンク役であるロズホーンに謎のバフをかける。
「うおおおおお!『フレイムシールド』!」
ロズホーンが魔法盾を構えながら突進する。
ドラゴンが凄まじい咆哮をあげている。
「うるさっ!」
「近距離で聞くと耳をやられるぞ」
「そりゃ吟遊詩人を抱えるパーティでは死活問題ね」
ドラゴンはそのまま溜めを作り、氷のブレスを放ってきた。
「『ラーヴァウォール』」
リリカが唱えると溶岩状の壁が出現して5人を守った。先頭に居たロズホーンは直撃を食らう。
「ロズホーンさん!」
「心配ない。属性を合わせて戦えばマジックガーディアンはそうそう落ちん」
見るとロズホーンは盾を構えたまま、氷をバリバリと割りながらドラゴンの足元に潜り込んでそのまま背後に通り抜けようとしている。
「『マナタウント』」
「『魔泉のアルペジオ』『縮約のスタッカート』」
「『エビル・リジェネレーション』」
あたしはロズホーンが『マナタウント』を使用したのを見て『魔泉のアルペジオ』を使用した。『縮約のスタッカート』はリリカに対して使用する。リベリアはロズホーンに対して継続回復魔法を放った。
「グガアァ!」
ロズホーンに背後に回られたドラゴンは振り向き様に爪での攻撃と踏みつけを放ってきた。
振り向いた際に尻尾が横薙ぎに振られ、横に回り込もうとしていたバラックを巻き込もうとする。
「よっと」
バラックはそれを跳躍して回避した。
「毒をお見舞いしてやるぜ『蛇剣の舞』」
バラックが緑と紫の毒々しい色をしたエフェクトを纏いながら横から切りつける。
「尻尾の攻撃は要注意だ。後衛はこのまま離れた場所から攻撃するぞ『スペルエンハンス』『シャドウブレイズ』!」
ドラゴン自身の影から黒い炎が出現し、その体をじわじわと蝕んでいく。
「『エンミティ・ビジョン』!今のところヘイトはロズホーン5:バラック1:リリカ様4です」
グラントが報告する。
「もう1発でかいのをお見舞いする。アブ、着弾したら『鏡像のレゾナンス』を頼む」
「分かった!」
眼を閉じたリリカはすさまじい速度で組成式を展開する。
「燃えよ、焦がせ、全てを灰燼に帰し、則ち新たな始まりの火とならん。クアドラブルスペル『エンシェントフレイム』」
ズゴァァァァアアア!
「『鏡像のレゾナンス』!」
着弾を確認したので、あたしは鏡像のレゾナンスでリリカのヘイトをロズホーンへ移した。
四重詠唱による『エンシェントフレイム』がドラゴンに炸裂し、翼の膜は焼かれ、鱗も所々焦げた状態になったが、怒り狂ってさらに激しくなった攻撃がロズホーンを襲う。
「『マナタウント』!『リベンジストライク』!」
ロズホーンがマナタウントを張り直し、さらにカウンター技であるリベンジストライクを展開する。
「ゴァアアアア!」
爪が、牙が、角が、踏みつけがロズホーンを次々と襲うが、そのたびにリベンジストライクによるカウンターがドラゴンの顎にヒットする。
「そろそろ飛ぶぞ」
「飛ぶって何!?」
「グルガァアアア!!」
ドラゴンは尋常ではない冷気とともに本気で怒り狂ったような咆哮を上げ、真上に飛翔した。背後には後光のような輪の文様が浮かび上がり、自身を強化しているようだ。口は空気を吸い込み、喉から冷気が上がってきているのが分かる。
「あんな翼で飛べるんだ!ってかこっち向いてるよ!」
「分かっておる。『ラーヴァウォール』」
「『ダークヴェール』」
ヒュオオオオオ!!!
本日2度目の『ラーヴァウォール』でブレスを凌ぐ。リベリアによる状態変化を受け付けにくくなる『ダークヴェール』のおまけつきだ。
ブレスが終わるとドラゴンは向きを変え、ロズホーンへ急降下による体当たりを仕掛けてきた。
「『エーテルアンカー』!」
ロズホーンは『エーテルアンカー』で迎え撃つ。魔力の錨の意を持つ言葉通りなら、吹き飛ばし攻撃などを無効化する性能なのであろう。
ガァアン!
「ぐっ・・・!」
衝突音とともに、ドラゴンが弾かれ、転倒した。ロズホーンも少なくないダメージを負ったように見えたが、リベリアが事前に仕掛けておいた『ブレス・オブ・ダークネス』によって回復する。そして、ドラゴンが仰向けに倒れているところにリリカの魔法が再び火を噴く。
「クアドラブルスペル『エンシェントフレイム』」
ズゴァァァァアアア!
「『鏡像のレゾナンス』!」
再使用可能だったので『鏡像のレゾナンス』でリリカのヘイトをロズホーンへ移した。だが、ドラゴンはそのまま燃え尽き、消滅した後には戦利品の入っているであろう宝箱が残されていた。
「ふう、怖かった~!」
「こやつ相手にこんなに楽に勝てたことはないぞ・・・」
「吟遊詩人恐るべし・・・」
「リリカ様が本気出せるのがマジでヤバイ、半端ねえって・・・」
メンバーの反応とは裏腹に、当人の自覚は薄いのであった。




