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第16話 無双





 全滅だけは絶対駄目だ・・・。何としても阻止しないと。

 あたしが悲壮な決意をしていると、リリカがニヤつきながら弄ってきた。


「おや、そういえばアブは特殊な体質をしておるのだったな。確か両方・・」

「みなまで言わないで!」

「公表することに抵抗があるわけではないのだろう」

「公開の仕方に問題ありでしょ!」


 グラントが続けた。


「因みに排出される場所はダンジョンのある東区全域から無作為に選ばれます。屋根のある場所からは選ばれませんので、発見されない心配は無用です。冒険者の遺体を発見すれば蘇生報酬の1割を請求できる権利がありますので、放置される心配もありません」

「ルルイエは全滅したパーティが排出される東区を中心に発展していった経緯があります。野ざらしだと色々問題がありますからね」


 ユランがグラントの説明を補足してくれた。

 ああ、せめて出てくる場所が固定だったら隠せるものは隠せるのにな。


「ぐへへ、蘇生!蘇生!」

「さっきから気になってるんだけどこの人は?」

「ダークプリーストのリベリアです。非番の日は東区を徘徊しており、死体を無報酬で蘇生するのが趣味の変人です。リリカ様への忠誠心は本物なのですが・・・」


 聖人じゃん・・・。


「ダークプリーストの強みは低燃費で高ヒール力を実現できるところにあります。ですが、欠点として他のヒーラージョブよりもヘイトが高いです。長期戦では、これも吟遊詩人によって解消できますね」

「なるほどな~」


 聴きたいことは粗方聞き終わったので、覚悟を決めて着替えてからダンジョンの入口へ向かった。


 ダンジョンの入り口は柵で覆われており、入り口に冒険者ギルドの職員と思われる人物が立っていた。


「『アーケイン・ナブラ』の方々とお見受けしました。ダンジョンにお入りですか?」

「はい、本日は符術師のユランに替わり、吟遊詩人のアブがパーティに加わっています」

「承知しました。記録の書き換えを行いますね」


 手続きは終了したようだ。


「行ってらっしゃいませ」


 ユランはここで見送りだ。


「では今日は1階層から踏破する。我々の踏破の記録は39階層なのでそこに追いつくのが最初の目標だ」

「25階層ぐらいまではリリカ様の魔法で一撃ですよ。『魔泉のアルペジオ』と『縮約のスタッカート』をリリカ様へなるべく維持して下さい」

「分かった、やってみるね」


 ダンジョンでは一度踏破した階層から進むことができる。未踏破のメンバーがいる場合は1階層からやり直すしかない。あたしたちはダンジョンの入口へ入り、そこそこ長い階段を降りると、扉が出現した。隣には操作盤がある。本来であればこれで階層を選択するのだろうか。扉を開けて中へ進むと、そこは草原が一面に広がっていた。


「1階層から10階層までは草原エリアになります」

「物理的な構造とかお構いなしね・・・」

「『ストラタム・ディテクト』!」


 グラントが杖に魔力を込め全方向にむけて短波を放った。


「次層へ続く道はあちらの方角です」

「では駆け抜けるぞ。トリプルスペル、『エアリーウイング』『スピードブースト』『フローティングウェッジ』」

「う、浮いてる・・・」

「移動の仕方は感覚で覚えろ。落下の危険性を考えて低く飛ぶことを忘れるな」


 無茶ぶりが過ぎるが、なんとなくイメージする方向へ動いてくれたので何とかなりそうだ。魔力操作の練習が功を奏したっぽいな。

 あたしたちはかなりの速度で草原を低空で飛翔した。

 飛翔しながらリリカへ『縮約のスタッカート』と『魔泉のアルペジオ』をかけておく。

 前方遠目にゴブリンらしきシルエットが見える。


「魔物!」

「心配には及びません」


 言ったそばからリリカの空中を漂っている複数のダガー状の魔力の塊がゴブリンに向かっていき、ズタズタに切り刻んで戻ってきた。ゴブリンは光の粒子となって素材に変わった。


「ほえ~」

「この程度のモンスターならリリカ様の敵ではありません」


 我々一行はこのまま飛翔を続け、約3分ほどで第2階層への扉へ到達した。





 2層では、ファングウルフ。3層では、ラージアントイーター、4層ではホブゴブリン、5層ではマッドスネイク、6層ではラッシュビートル、8層ではブルシープ、9層ではゴブリンメイジなどが出現モンスターのラインナップに加わったが、敵ではなかった。


「順調ですね」

「当然だ。アブによって我という最強の駒をさらに補強できるのだからもはや天下無双よ。もはや低階層なら目を瞑っても突破できるであろう」


 無双という言葉の本来の使い方をしてらっしゃる。ダブルミーニングに気が付くのはあたしだけなのが寂しいところだ。


「む、あれは」


 我々は遠目に高く組んだ櫓を囲んだ集落を発見した。


「希少モンスターであるゴブリンキングの集落ですね。襲撃しましょう」

「活動資金も必要だからの。アブへの給料で破産しそうだ」

「へっ?そうなの?」

「冗談だ」


 普通のクランなら破産しそうなぐらい貰ってるわけだから可能性はあるかもしれないと一瞬頭をよぎったが、要らぬ心配だったようだ。


「だが、2軍が居らん分、1軍のみで資金を捻出せねばならんことには変わらん」

「索敵が終わりました。ゴブリンキングはあの大きな建物の中央です」

「少し派手にいくか」


 リリカは目を閉じて少し呼吸を深めると、自身の周りに尋常ではない速度で組成式を展開していく。


「滅びよ。『メテオレイン』」


 周囲が暗くなると同時に空に暗い穴がいくつも出現し、そこから数えきれないほどの隕石が凄まじい速度でゴブリンの集落めがけて放たれた。


 キィン!ドガッ!ドォオン!


 無数の隕石は着弾と同時に爆発を起こし、ものの数秒で集落を廃墟と変えた。


「『コレクティブ・ブーティ』」


 グラントの魔法によって戦利品が次々とマジックバッグへ吸い込まれていく。


「お、マジックポーチですね。低階層ではなかなかの当たりです」


 マジックポーチはマジックバッグの下位互換にあたる。最大体積、最大重量は鑑定しないと判明しないが、マジックバッグを超えることはない。


「まあ、売却リスト行きだな。買い取りたければ半額で売るぞ」

「後で詳細を教えてください」

「うむ、今は先を急ごうぞ」


 しばらく進むと第10層への扉が見えてきた。


「10の倍数の層はフロアボスとの戦いです」

「移動の面倒がなくてよい」

「アブさんは先ほどと同じくリリカ様への支援をお願いします」

「分かった」


 これぐらいで済むならお安い御用だ。


「10層のボスは『嘆きの騎士』『狂気の癒し手』『憎悪の射手』の3体です。ロズホーンが『憎悪の射手』のターゲットを取り、バラックが『嘆きの騎士』の相手をします。その間に『狂気の癒し手』を残るメンバーで始末し、続いて『憎悪の射手』、『嘆きの騎士』の順番に撃破します」

「今なら大規模魔法で3体纏めて消し飛ばせる気はするがな」

「なりません、万が一ということもございます」

「言ってみただけだ」

「では、打ち合わせ通りに」


 扉をくぐると、岩に囲まれた円形のフィールドに出た。対面には人族の騎士、狩人、癒術師と思われる人影が暗いオーラを纏いながら立っていた。眼球は赤一色で光を放ち、肌は闇に沈んだように暗く、ガスが固まったような印象を受けた。


「行け!ロズホーン、バラック!」

「承知した!」

「ヒュー!やっと出番だぜ」


 ロズホーンはMPを消費してヘイトを稼ぐ『マナ・タウント』を『憎悪の射手』に対して展開、バラックは投げナイフに『エンチャント・スパイト』を施し、『嘆きの騎士』と追いかけっこを開始する。


「弱点属性は全員闇です」

「僥倖」


 リリカが目を伏せ呼吸を深める。組成式が彼女の周囲に展開される。


「トリプルスペル『サモン:ヴォイドシャーク』」


 孤立した『狂気の癒し手』の周囲が黒く波打つ。すると地面から巨大な魚類が勢いよく出現し『狂気の癒し手』を飲み込みそのまま空中へ跳ねた。巨大魚は弧を描き地面に衝突すると黒い波しぶきを上げ、中から咀嚼したであろう『狂気の癒し手』が四肢を欠損した状態で浮かんできた。『狂気の癒し手』は黒い煙のようなものを立ち上らせながらそのまま消滅した。


(うわぁ・・)


 巨大魚は他の2体の場所にも出現しており、『憎悪の射手』を既に始末していた。『嘆きの騎士』はまだ消滅していなかったが、盾はへしゃげ、立ち上がるのがせいぜいの状態だった。


「『鏡像のレゾナンス』」


 あたしは念には念を入れて『鏡像のレゾナンス』でリリカのヘイトをロズホーンに移した。


「とどめだ!『マーシーエッジ』」


 バラックが『嘆きの騎士』に止めを刺し、消滅させた。『マーシーエッジ』は魔剣士のスキルで、戦闘不能時の自動復活や死亡判定のダメージを受けた際に踏みとどまるようないわゆる『食いしばり』系スキルを無効化してダメージを与える。止めには最適のスキルだ。


「片付いたようだな」

「1匹ずつと申しておりましたのに」

「同時に1匹ずつ処理したではないか」

「問答をしても埒があきませんね」

「こんな雑魚などどうとでもなる。次へ進もうぞ」


 第10層の戦利品は大きめの魔石と魔力を上昇させる首飾りだったが、既に全員が上位品を持ってるため売却リスト行きとなった。







 第11階層からは水の流れる広い洞窟になっていた。


「ここからは歩くぞ。ミクスチュア・マギ『フローティングウェッジ』『フローティングライト』」


 リリカが光源を生み出し頭上に漂わせた。形状を見るに、敵を自動攻撃する機能も備わっているのだろう。


「『ストラタム・ディテクト』!進路はあちらの方角ですが、洞窟内となると回り込む必要もありそうです」

「構わん。壁を破壊して進むぞ。崩落しても防げるので問題ない」

「承知しました」

「んな無茶苦茶な・・・」


 出現する魔物はポイズンリザード、キラーフィッシュ、ケイヴバットの3種だったがどれも出合い頭にリリカの魔法を直撃して素材に変わっていった。


 12階層ではミスリルビートル、13層ではシャドウスパイダー、14層ではケイヴグール、15層ではロックナーガ、16層ではロックゴーレム、17層ではコボルト、18層ではポイズンクロウラー、19層ではエーテルバタフライが出現ラインナップに追加されたが同じく出合い頭に沈んでいった。


「洞窟エリアからは1層あたり10分ペースか。もう潜って2時間経つんだな」

「このあたりの敵は作業にしかならんが、避けて通るわけにもいかんのでな」


 ドガガガガガガッ!


 ロズホーンが盾にドリルのようなエフェクトを付けて先頭を切りながら岩壁を削っている。音に気付いた魔物がたまに寄ってくるが、浮遊した光源と一体化した楔で一瞬で倒せるのでお構いなしだ。


「出口です」

「ようやく第20層か」

「第20層のボスは『双児の巨人』です。最も特徴的な点は同時に倒さなければもう一体を蘇生魔法で復活させてくる点でしょう」

「片方を倒した直後に沈黙を付与してそれを維持できれば何の問題もない」

「研究された今だからこそ言えることです。昔は均等に消耗させる戦術が主流でした」

「巨人だけあって体力は高い。『鏡像のレゾナンス』を忘れるでないぞ」

「任せて」


 そろそろ戦闘にも慣れてきた。だがこの分野においては素人も同然なので指示には従う。


「まずは前衛2人に1体ずつヘイトを取ってもらう。その後2体のヘイトをロズホーンに集めていく。『鏡像のレゾナンス』は特別なことが起こらなければ開幕から様子を見て、バラック、我、リベリア、のローテーションで使用してくれ」

「分かった」


 扉をくぐると円形の空間に5メートル級の巨人が2体立っていた。両方鉄仮面を被っており上裸で、体には無数の古傷、棘付きの棍棒のようなものを持っており、とても魔法を行使するような知性があるとは思えない。


「では行くぞ!ロズホーン、バラック!

「俺は右を取るぜ!」

「では私は左だ!」


 2人はそれぞれ宣言した方へ駆け出していく。


「『マナ・タウント』!」

「『エンチャント・スパイト』!『リープエッジ』!」


 ロズホーンは魔法盾を構え、バラックは持っている宝剣のような曲刀(おそらく魔剣士なので魔剣なのだろう)へヘイト付与を施し、斬撃を飛ばす。それぞれの担当へ相対する。

 グラントが敵の解析を行う。


「む、この抵抗値だと『フェイタル・カース』が通りそうです。使用されますか?」

「よかろう。ダブルスペル『フェイタル・カース』」


 暗黒の波動のようなものが迸り、巨人2体に突き刺さった瞬間、以降巨人の動きがかなり鈍くなった。


「具合が悪かろう。あと少しの辛抱だ」


 バラックは動きの悪くなった巨人を数回切りつけた。


「ヘイトはもういいぜ。ロズホーンに移してくれ」

「『鏡像のレゾナンス』」


 ロズホーンの方はというと壁際に追い詰められていた。もう一体の方ものそのそとやってくる。


「『リベンジストライク』!」


 すると、今までの鬱憤を晴らすかのような一撃を巨人2体を巻き込んでお見舞いした。


「敵の攻撃があまり苛烈ではないのでまだまだ本領発揮とはいかんな。『マナ・タウント』」


 MPを消費して更にヘイトを上げる。


「壁際に追い詰められてるけど良いの?」

「敵の吹き飛ばし攻撃を食らっても位置が動かない上に、前方範囲攻撃にこちらを巻き込まない。攻撃を行うものは死角から攻撃し放題。あれこそベストポジションよ」

「合理的だけど絵面が酷いな」

「『エビル・リジェネレーション』」


 お、ロズホーンさんへの回復魔法。あのまま全然耐えられそうだけどリベリアさんも暇なんだろうな。


「そろそろじゃな」

「ん?」


 確かに違和感はあった。リリカが攻撃魔法を『フェイタル・カース』以降一切撃っていない。


「グゥ・・・!」「ガァハァァ・・・!」


 2体の巨人が心臓の当たりを抑えて苦しみだした。


「『フェイタル・カース』は対象に呪いを与え、1分後に即死の判定が行われる魔法だ。さあ果たして生き残れるかな」


(性格が悪い・・・!)


 抵抗もむなしく2体の巨人は苦悶の末に倒れ、ほとんど同時に消滅してしまった。


「ええ・・・?」

「フロアボスに即死魔法を通せるのはリリカ様ぐらいですよ」


 呆れた従者の声が響き渡った。





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