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第15話 アーケイン・ナブラ





「閉会とする!」




 あたしたちは閉会後さっさと家に帰った。

 その後、会議によって決定された内容は以下の通りだ。


 人員の交換は相応の事由がある場合に協議会に申し入れを行うことで協議を開始する。

 中立的立場を保ちながらも各陣営に肩入れするかどうかは当人の自由裁量。

 当面の勤務日は週5日そのうち2日は午前中のみで座学と訓練主体。休日は4人で合わせられるようなるべく配慮。初回は明日の朝から。


 因みに報酬に関してはボロゾが最初に提示してきた額より良かった。今思うと初対面の時は何がしたかったのか分からない。


(囲い込みの指示をされてたようだけど、上に一応やりましたアピールでもしないといけないのかな)


 そう思うと同情もしてやりたくなるが、ああいうタイプに油断はしてはいけない。何か目的があったはずだ。


「それにしてもドラテナのリリカだったっけ?強烈だったな」

「うん、倫理観ゼロ。あんなのと渡り合っていかないといけないなんて先が思いやられるよ」

「アブ、会う前は割と興味あるって言ってなかったっけ?」

「天才魔術師だって聞いてたからどんな人なんだろうと思ったけど、ちょっと想像超えてたもん。頭良すぎると自分以外は全員アホに見えてしょうがないんだろうな~」

「う~ん、大変そうで悪いけどそっちは任せたわ」

「リョーマもしごかれて少しは男を上げようね」

「へへっちょっとはやる気になってるからな」

「前向きでうらやましいこった。こっちは女の園に単身赴任だ」

「うらやましいはこっちのセリフだバカヤロー!男でもオーケーだって話だったら最初から『ダスク・エヴァンジェル』に希望出しとるわ!」

「やる気はどこ行った・・・」


 あたしはリョーマを半目で睨んだ。


「ダンディの環境はモラさんの説得にかかってるね。教導師ってどれぐらい偉い立場なのか分からないけどトップの言うことには流石に従うんじゃないかな」

「メンバーが面従腹背のケースも一応は想定しておこう」

「それは上位職だからって忖度でトップに据えられてるパターンかな。組織って面倒ねえ」

「内情は行ってみるまで分からんが、良くないケースは想定しておくに越したことはない」

「そだねえ。あとは・・・」


 あたしはちらっとサキの方を見た。


「そっちはなんか問題がありそう?」

「あのおっさんちょっとしつこいところありそう」

「あーブラディオさんか。話しつけないとダメだと思ったらあたしを頼って」

「そうする」


 ご飯は作るのだるいから外食にした。

 明日から早速クランハウスに合流だ。







「宜しくお願いします」

「アブ様。お待ちしておりました」


 あたしはドラテナのクラン『アーケイン・ナブラ』の門戸を叩いたわけだが、到着するなりユランさんが出迎えてくれた。クランハウスはどこぞの大使館かっていう感じの立派な造りでちょっとときめいた。ユランさんはあたしの視線に気が付いたのか説明してくれた。


「この館はリリカ様が魔法で建造されたものです。外から見るより随分広いですよ」

「凄い・・・」


 黄金の斑模様を浮かせた黒大理石で敷き詰められた床と壁は気品を保ちながら豪奢であり、中央を通る深紅のカーペットによりさらに華やいでいた。


「まるでお城ね」

「リリカ様はいずれドラテナの大公となるお方。その評は過当な表現でもありません」

「姫殿下ってことですか?」

「いえ、そうではありません。ドラテナでは魔法の力こそが全て。下剋上など簡単に起こってしまう。大公は魔王と呼ばれ恐れられますが、そのような国柄ですから」

「随分と物騒ですね」

「現在は血も流れませんし平和的ですよ。昔は策謀の嵐だったようですが」

「教訓を得たのね」

「平和を人質にするという新たな策がうまくいったのかもしれません」

「ふふ、人はそんな簡単に変われませんか」

「ええ、愚かしいことです」

「興味深い話題だな」


 廊下を進んでいると、目の前が急に歪み始め、気が付くとそこにリリカが立っていた。


「リリカ様!自室でお待ちをと」

「話題は鮮度が命だ。それに比べれば多少の威厳など何するものぞ」

「本日よりお世話になります。アブと申します」


 あたしはとりあえず先に挨拶を済ませた。


「形式など良い。汝は我を知っている。我は汝を知っている。そこに新しい風は生まれぬ」

「あたしはリリカ様のご挨拶が聞きたく存じます」


 リリカは一瞬、鳩が豆鉄砲を食らったような表情を浮かべたがすぐに笑顔を滲ませた。


「それは殊勝なことよ。であれば名乗らねばなるまい。我はリリカ・エラディン。いずれ魔の神髄を平らげるもの」


 体が圧力を覚える。凄まじい野心を感じる。この人のためならなんだってするって人が出てくるのも頷ける話だ。口だけならともかく実績が伴っているわけだし。


「ほう、我が覇気に充てられて片膝を立てぬか。芯のあるものは好きだ。美しい、これぞ黄金比よ」

「芯がなければ跪いてたってことですか」

「ふふん、挨拶は高くついたろう?」


 リリカは底意地の悪い笑顔を浮かべ満足そうに言った。


(か、感じ悪ぅ~!)


「で、ドラテナの歴史に関してだが・・・」


 あたしが嫌そうな顔をするのも構わず一方的に語られた。






「と、言うことなのだ」


 めちゃくちゃ楽しそうに一方的に語ってくるな。なんか気に入られてるっぽい?


「リリカ様そろそろお時間が」

「おお、そうだったな。まずは我がクランのメンバーを披露しようぞ」


 これについてきてくれるイカれたメンバーの顔を見てみたくはある。


「集え。我が元へ」


 これは言霊?思念を乗せた魔力が四方に散らばったイメージが見える。シンプルな言の葉だが、消費MPなど気にしないのであろう。


「うおおおお!!リリカ様一の盾。永久機関。マジックガーディアン、ロズホーン推参!」

「うぇええい!!リリカ様一の剣。幽遠なる刃。魔剣士、バラック見参!」

「うおおおお!!リリカ様一の癒。暗なる力にて癒し成す闇。ダークプリースト、リベリア!参上!」

「うおおおお!!リリカ様一の影。全てを見通す瞳にして参謀。スクリア、グラント降臨!」


 約一名陽キャおったな?むさくるしい。

 ロズホーンは鉱物の様な硬そうな体を持ち、アメコミヒーローっぽいシルエットをした巨漢。

 バラックは軽装でウェーブのかかったくすんだ金髪にターバンを巻いて、中東風のチョッキを着た青い肌のチャラ男。

 リベリアは黒いフード付きのクロークに身を包んだ緑肌で細身のオーク。

 グラントは灰色の衣を纏った身長130センチほどの小柄なおじさんだった。


「こやつらが我が親衛隊よ」

「ロズホーンはエレメンタルゴーレム族、バラックは魔族、リベリアはオーク族、グラントはハーフリング族。そしてエルフ族の符術師であるこの私ユランを加えて6人でダンジョンを攻略しておりました。私はサポート枠なのでアブさんと入れ替えになりますね」

「えっ急に一軍に?」

「不服か?」

「いえ、てっきり二軍以下で育成されるものかと」

「ふむ、そうだな・・・」


 リリカは逡巡するような表情を見せた後、あたしに向き直った。


「我がこんな性格をしておるからな。付いてくる奴が碌におらんのだ」

「リリカ様!」

「よい、事実だ。アブも言っておったではないか。人はそう変われん。一代ではなおの事。それは我も同じよ」


 リリカは視線を下げ、拳を握る。


「だが、我は此度に機会を得た。我に並び立つ才を持つ者との邂逅」

「それがあたしだと?」

「あるいはあの時術の資質を持つ者か」


 ダンディの事、忘れてなかったか・・・。


「では、まずは友好の証だ。楽譜スコアをここに」

「はっ」


 ユランがどこからともなく3つの楽譜スコアを取り出す。


『鏡像のレゾナンス』

『縮約のスタッカート』

『魔泉のアルペジオ』


「これがないと始まらんだろう。早速、体得してみせよ」

「やってみます」


 あたしは、まず『鏡像のレゾナンス』の楽譜スコアを開いて注意深く読み込んだ。すると光が巻き起こり楽譜スコアはあたしの胸のあたりに吸い込まれて消えてしまった。効果が頭の中に刻まれるのが分かる。


『鏡像のレゾナンス』

 全楽器で使用可能。再使用時間2分。対象のパーティメンバーへの敵からのヘイトを別のパーティメンバーに移す。


「では、試しに我のヘイトをロズホーンへ移してみせよ」


 そう言うと館内の形が変わり、天井が高く白くだだっ広い空間になった。精神と〇の部屋かっての。


「出でよ。『サモン・エネミー:レッサーデーモン』」


 すると、角の生えた赤い悪魔が魔法陣から召喚される。展開の速さに気持ちはついていけないが、体は持ってきていたリュートを構える。


「『ストーンシャード』」


 リリカの手の先から石が生み出され、それなりのスピードで召喚されたレッサーデーモンへ向かった。


 ガッガガ


 手で顔をかばいながら耐えたレッサーデーモンだったがリリカに視線を向け襲い掛かろうと迫ってきた。


(今だ!)


「『鏡像のレゾナンス』」


 レゾナンスとは共振・共鳴またはそれによる増幅を指す。減衰していく音を補強し、伸ばしたりもする。手っ取り早くそれができるのは。


(異弦同音・・・!)


 正しく押下された2つの弦から強い一音があたりに響き渡り、リリカの周りから赤い光がロズホーンに流れていくのが分かる。レッサーデーモンは急激に向きを変えロズホーンに襲い掛かった。


「むうん。『リベンジストライク』ぅ!!」


 ガァン!ドゴォ!


 ロズホーンの構えていた魔法盾がレッサーデーモンの攻撃を受け止めた一拍後、盾から衝撃波が発生し、レッサーデーモンを吹き飛ばした。


「もうよいな。『リターン・エネミー:レッサーデーモン』」


 地面に大の字になって伸びていたレッサーデーモンは淡い光とともに消えてしまった。


「あと2つも検証するぞ」


 リリカ様は大層ご満悦のようだ。






「まあ、初めはこんなものだろう」

「・・・」


 自分でも驚くほどすんなり合わせることができた。


「では実戦だな。ダンジョンへ参るぞ」

「ええ~!?ちょっと早すぎるよ」


 あたしは被った猫も脱ぎ捨てて抗議した。


「呪歌はこなせておるではないか。戦術の理解も早い。今日体得した3つの呪歌を回していくだけでよい」

「タイミングとか。分からないから!」

「そのためにグラントがおる。奴が魔物のヘイトを監視できている限りは問題ない」

「スクリアの『エンミティビジョン』にお任せあれ」


 スクリアとは、ジョブの一つであり、魔力を通じて万物を解析することに特化した便利屋的なジョブだ。攻撃能力は低いが、敵の弱点を見破ったり、罠を解析、宝箱を開錠できたりする。『エンミティビジョン』による敵対心の可視化もその一端だ。


「でも、『鏡像のレゾナンス』は再使用に2分もかかっちゃうよ。その間に他の敵から攻撃されない?」

「たわけ、敵が複数おるなら我が足止めするまでよ。睡眠、捕縛、麻痺、幻覚、他にもいろいろあるぞ」

「その間に俺っちかロズホーンが敵対心を稼げば済むって寸法よ」


 さっきの紹介によると、この調子の良いのは魔族の魔剣士でバラックという名らしい。


「まだ心配ならこれを着こむが良い」


 リリカが指を鳴らすと、目の前にワードローブが出現し、その中の一着がふわりと目の前に舞い降りた。その七色を散りばめた独特の彩色はパレットにぶちまけた絵の具のようであり毒々しくもあるが、不思議と調和を保っている。男性用だと思うが、サイズさえ合えば女性が着ても着こなせはするだろう。


「虹霓のジュストコールというらしい。一式を着れば呪歌の再使用時間を2割短縮できる」

「私の鑑定によるものなので間違いないかと」


 解析職であるグラントのお墨付きだ。120秒の2割減なので再使用は96秒にまで短縮できることになる。


「それは値が張るのでおいそれとはくれてやれぬが、ダンジョンに行くというなら借用を許可する」

「着々と外堀埋まっちゃうよ・・・」

「同情はするが諦めよ。我々が不甲斐ないばかりにリリカ様は今まで一度たりとも全力を出せずにいた。それが解消されるというのであればまさに万感の思いであるはずだ」


 ロズホーンがリリカの心情を代弁した。


「うぐぐ、分かった・・・」


 実力を発揮できない環境というのはやきもきするものだ。わかりみが過ぎる。

 だが、やはり確認させてもらおう。


「じゃあ、安全対策について話してもらえるかな?」

「それについては私から」


 グラントが進み出た。


「ダンジョン内は、私の索敵魔法を適宜展開して進んでいきます。近距離ではバラックの気配察知もありますので奇襲されることはまずありません。遠距離からの飛び道具による先制攻撃はマジックガーディアンの受動スキル『矢盾の防壁』である程度防ぐことができます」

「ふむふむ」

「怪我をなされた場合はダークプリーストのリベリアが控えておりますので、ご安心ください。欠損も再生できますし、死後3日までであれば蘇生もできます」

「蘇生なら任せてくれ!ヒヒヒ」


 この世界って蘇生魔法あるんだ。でも、なんか邪悪そうな笑い声が聞こえたが大丈夫か?ダークプリーストの蘇生とはありがたいようなそうでないような・・・。


「ただしデメリットもあります。蘇生後は丸一日ほど衰弱状態になります。普段の半分も力は出せないでしょう。1人でも死亡または衰弱した場合は撤退するべきです。ダンジョン内でのみ使用可能な帰還石で帰りましょう。帰還石は使用するとパーティメンバー全員に効果があります。死亡していても遺体と所持品も持ち帰れます」

「戦闘中でも帰還石は使えるの?」


 あたしは疑問だったので聞いてみた。


「はい、ですが一部の罠やモンスターの特殊能力により使用不能になる事がございます。判明しているケースであれば事前に対応は可能です」

「初めて進む道なら、先が分かっていることの方が少ないだろうしね」

「おっしゃる通りです」

「次は全員死亡などで全滅した場合ですが・・・」


 ごくり。


「装備や所持品をすべて失う上に遺体は全裸でダンジョンの外に放り出されます」


 全裸はあかーん!!!





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