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第14話 会議は歌う

 



 あたし達はギルド会館の大会議室に案内されていた。


「各クラン代表がお待ちです。どうぞお入りください」


 事務局の人かな?灰色の毛並みとうさ耳が特徴的なクールな感じの女の人だ。毛深い。


「失礼します」


 あたしはドアをノックして入室した。


「来たか。まずは楽にしたまえ」


 あたしたち4人は円卓の入り口に近い側に空いていた席に並んで着席した。

 向かい側には如何にも強そうな厳ついおじさんが険しい表情で座っており、徐に言葉を発した。


「この国、アステール王国のクラン『金獅子の牙』リーダーのブラディオ・ノーランである。この度はご足労、まことに痛み入る」


 続いて向かって左隣で椅子にもたれかかって目を瞑っているのは小学生高学年ぐらいの女子、にしか見えないが、その背後に立っている短い銀髪で長身のエルフ耳で若い執事のような人物が口を開いた。


「こちらが魔導共和国ドラテナの若き天才魔術師と名高いリリカ・エラディン様にございます。クラン・『アーケイン・ナブラ』の代表を務めております。付き人の私めのことはユランとお呼びください」


 ブラディオを挟んで逆側に居るのは見覚えのある黒ずくめの無個性。こちらに目配せしながらニヤニヤしている。


「また会ったね。初めましての人もいるから名乗っておくよ。僕はボロゾ・カーン。商業都市ヴァルファゴのクラン『幻影の刃』を率いるリーダーだ」


 あたしは軽く会釈するにとどめた。続いてリリカの左隣に座る緑の軍服を着て髪を後ろでまとめた真面目そうな女性が発言した。


「私はアリル・トリロイ。北方騎士団領ザインヴァルトより派遣された『第七特殊迷宮攻略分隊』の隊長だ。宜しく頼む」


 最後にアリルの反対側に座る白を基調とした派手な僧衣に身を包んだ腰の低い女性が口を開いた。


「お初にお目にかかります。神聖スラン教国の教導師でありクラン『ダスク・エヴァンジェル』の代表を務めておりますモラ・キレインと申します。本日はお越し下さりありがとうございます。残念ながら私たちは『幻影の刃』を通しての情報でしかあなた方4名のことを知り得ていません。各自簡単に自己紹介をお願いします」

濁川鐙にじかわあぶみと申します。略称はアブとお呼びください。遠方の出身で、つい最近まで冒険者登録をしたこともなく過ごしておりました。この度はこのような事態に巻き込まれて大変困惑しているのは事実ですが、現状の把握に努め、穏便な解決に向けて協調の姿勢を取らせていただきます」


 続いてリョーマに目配せした。


「俺は舎利弗亮磨とどろきりょうま。リョーマって呼んでくれ。俺達4人の境遇はアブと同じようなもんだけど、ん~俺の特徴って何説明すれば伝わるんだろうな・・・。あ、意外と几帳面!」


 確かにそうなんだけど一番意外なとこ来たな。次はダンディの番。


「ジャック・ダンディと名乗っている。アブと同郷だが、協力する代わりに出身地に関して余計な詮索はしないで欲しい」


 最後にサキ。


朽名紗季くつなさき25歳。音楽以外の趣味はディックドックを見ること。だけどゆえあってもう見れない」


 うちのメンバー自己紹介力低いな・・・。台本を渡すべきだったか。


「ありがとうございました。巻き込まれた経緯については同情を致しますが、それは王が生まれを選べぬのと同様に、力持つものとしての宿業にございます。今はまだそのような感想を抱くのも自然ではありますが、これからは選ばれしものとしてのご自覚を育んで頂きたく存じます」

「モラ。少し厳しすぎではないか?それでは委縮してしまうではないか」


 ブラディオがこちらを気遣っているのが分かる。


「いいえ、我々のかける期待を思えば軽すぎるくらいです。いずれ直面する問題ですし」

「それはその時に考えればよい。いや、その、ごめんね~。大丈夫だからね~。安心してね~」


 厳ついおっさんがかなり優しい表情を取り繕っているのは傍目に見て滑稽に映るかもしれないが、よく見ると眼はマジだ。絶対に獲物を逃してはいけないという緊迫感に満ちているのをあたしは見過ごさなかった。かえって怖いわ。


「ブラディオ、焦るのは分かるけど慣れないことしちゃだめだよ。そんなんだから娘に嫌われるんじゃないのか」

「そ、それは今は関係ないだろう」


 ボロゾがブラディオをいじる。


「ほらアブちゃん。この人たち怖くないよ~」

「は、はあ」


 あたしは生返事で返すしかなかった。ボロゾが一番怖いんだけどな。


「僕たちも君たちのことは知らないけど、君達だって僕たちのことをあまり知らないだろう。議題の消化もあるけど、親睦会としての側面もあると思うんだよね」

「わが軍の親睦会は入隊の暁に執り行う予定だ。他国との馴れ合いは不要」

「つれないねえ」


 ボロゾの言にアリルがにべもない返答をする。ユランが続けて発言した。


「早く議題を進めましょう。先日の会議で交渉権の優先順位はヴァルファゴ、ザインヴァルト、スラン、ドラテナ、アステールの順に決定しています。ヴァルファゴは既に吟遊詩人を擁しており、交渉に関しても終了済みのため、ザインヴァルトが次の交渉権を持ちます。ではアリル殿。お願いします」


 ユランはアリルに発言を促した。


「ヴァルファゴに次いで交渉権を持つザインヴァルトが第1に希望するのは貴殿だ。リョーマ」

「へっ俺?」

「資料によると第二適正はレンジャーらしいな。正直、吟遊詩人としての能力など発揮できて当然と我々は考えている。であれば次は何か、そう。第二適正だ。第二適正を伸ばすことで本職の負担を軽減できればパーティとしてのリソースを他に割くことができる」

「理に適っている・・・」

「とりあえずこちらの希望は伝えておいたぞ」


 軍隊ってもっとガチガチに縦割りな編成なのかと思ったら、意外と横串で考えられるんだな。これはリーダーが柔軟な発想を持っているからなのか。

 リョーマがそれに答える。


「その希望に対する返答は『イエス・マム』だ。状況的に消去法ではあるが俺の第一希望もザインヴァルトだ。むしろ俺みたいなすぐ枠からはみ出す奴で良いのかと思うが、宜しく頼む」

「そういうやつのためにあるのが訓練というものだ。余計な気を揉む必要はない」


 ボロゾが発言する。


「両方とも第一希望だけど、これは双方の合意が取れたと考えていいのかな?」

「暫定ですが、そのようで。次の交渉に進みましょう。『ダスク・エヴァンジェル』代表モラ・キレイン殿。交渉を始めてください」


 ユランが進行を務めてくれている。


「では3番目の交渉権を持つスラン教国は濁川鐙様を指名致します」

「えっ」


 これは問題ではないのか。いや、問題を問題と認識していない顔だこれは。であれば認識を正しておいた方が良い。絶対に。


「何か問題でも?」

「問題があります。『ダスク・エヴァンジェル』のメンバーは全員女性と伺っておりますが、それは間違いを起こさないためではないのでしょうか」

「えっ、そうですが・・・アブさんは女性ですよね?」

「はい、ですが同時に男性でもあります」


 場が固まってしまった。これは先方のリサーチ不足かな?ボロゾが面白がって情報を渡さなかった説も十二分にありあえる。ボロゾの方を見るとニヤニヤしながら肩をすくめている。こいつ・・・。


「あ~まあそういう反応になるよな。因みにアブの恋愛対象は人類全員らしいから」

「それは変な誤解を生むから言わないで欲しかったなぁリョーマ」


 しばらく無反応だったモラが意識を取り戻し、発言した。


「で、では、朽名紗季さんを指名します。女性限定なんです。お願いします」


 先ほどの高圧的な印象はもう消し飛んでしまっている。あれも現実をマイルドに伝えたかっただけだと思うから本当に誠実な人なんだとは思うなあたしは。サキが返答する。


「いいよ。こっちも確かそれで行こうって話だった気がする」

「ありがとうございます。良かったぁ」


 モラは心底ほっとしたような表情を浮かべた。


「あ、ヤニ切れた。吸ってくる」

「えっ喫煙者?」


 再びモラの表情が曇り始める。

 サキは肺の換気を行いに外へ出てしまった。


「すみません。『ダスク・エヴァンジェル』は宗教上の都合、喫煙者を受け入れることはできないんです。どうにかなりませんか」


 モラの言葉に我々は困惑した。


「サキは重度のヘビースモーカーだから喫煙を控えるのは無理だね」

「サキがヤニ切れたら禁断症状でコミュニケーションを取ることも難しくなるぞ」

「この際、男でいいってんならダンディでもいいけど」

「俺は余ってるところに行くと決めているから構わないが、ワイルドカードを切るにはまだ早いだろう」

「『幻影の牙』にいらっしゃる吟遊詩人の方の性別は?トレードの対象にできるならそうしてもらえれば」


 ボロゾが回答する。


「残念だけど男だよ」

「ではこの件は保留ですね。『ダスク・エヴァンジェル』の希望する条件に合致する人材がこの中にはいません。当会議中に結論の出る話題でもありません。交渉順を次に移らせていただきます」

「そ、そんな・・・」


 モラの表情から明らかな焦りが読み取れる。


「男は駄目とか喫煙者は駄目とか選り好みをするから機を逃すのだ。その点我がクランはウェルカムだよ~」


 ブラディオが自陣アピールを展開し始めた。だがそれをユランが制した。


「待っていただきたい。次の交渉権を持つのは我がドラテナのクラン『アーケイン・ナブラ』のはず。順番は守ってもらいます」

「ちっ、わかっておるわ・・・」


 ブラディオは大人しく引き下がり、ユランが発言する。


「ドラテナが希望する人材はジャック・ダンディ。あなたです」


 意外な指名に対してダンディが口を開く。


「敢えて年を食った俺を選ぶ理由が分からない。聞いてもいいか?」


 すると、これまで沈黙を保っていた少女、リリカが声を発した。


「お前が吟遊詩人でなければ、人体実験のために身柄を確保することも選択肢にあった。我々が欲しいのはお前の第二適正」

「まさか・・・」

「時術師の資質」


 ダンディのそれは魔術大国へのアピールポイントだったのか。確かに300年ぐらい使い手が居なかった珍しい存在とは聞いてたけど。


「ドラテナ国立魔術学院8年前の首席であるステラ・マクラレンの秘蔵っ子と噂されているアブ、汝にも興味はある。彼奴がなぜこんな田舎で閑職などをやっているのか理解不能だが」


 え?ドラテナ出身とは聞いたけどそうだったんだ。そういえば、ほとんどの魔法が浅く広く使えるって言ってたな。


「そのような情報は調査資料には書かれていないが?」


 ブラディオが疑問を呈した。リリカがそれを嘲笑う。


「ボロゾの渡してきた資料をそのまま鵜呑みにするとは随分おめでたいやつだな。既にモラが手玉に取られたばかりではないか」

「言いがかりはやめて欲しいな。選択肢を狭めてるのは『ダスク・エヴァンジェル』の都合だ」

「全くだ。子ができるのが嫌なら避妊魔法でもかけて好きなだけ盛れば良いものを」

「リリカ様、口が過ぎます」

「おっと、興が乗るとすぐこれだ。だが、もう喋らずともよかろう」


 ユランが過激な発言を諫め、リリカのほくそ笑んだ口が歪んだまま閉ざされる。

 モラは屈辱に耐えているのか顔を伏せて震えている。


「・・・俺は『余ったところ』へ行く。それだけだ」


 ダンディはそう言い、あたしに目配せした。


「あたしの第1希望はドラテナです。ヴァルファゴに在籍する現職の吟遊詩人とのトレードが発生しなければの話ですが。振り分けはアステール王国側の希望を聞いてからになりそうですね」

「それで構いません。私どもとしてはダンディ様をクランに招くのが一番手っ取り早いですが、アブ様が来られるのであれば交渉の機会も得られるので、次善策として申し分ありません」


 ユランがそう告げると同時にサキが帰ってきた。


「ただいま、あれ?まだ決まってないの」

「スランは喫煙NGなんだってさ」

「あ、そうなの?じゃあしょうがないね」


 サキ当人はあっさりしたものだ。


「ではアステール王国『金獅子の牙』が指名させてもらうのは朽名紗季、お前だ。うちは喫煙がダメとか水臭いことは言わん」


 帰ってきたばかりのサキに対して指名を行う。


「おーけー。すきにすれば。第二希望とか決めてなかったし」

「お前強いだろ?俺は強いやつが好きだ」

「・・・」


 そういうのって見る人が見れば分かるもんなんだな。あたしは人の強さとか全く分からないけど。


「わたしはみんなのためにしか戦うつもりはない」

「では、せいぜいその"みんな"の中に入れるよう努力するとしよう」

「おっさんには多分無理。でも仕事は仕事」


 さっきまで手もみしそうなぐらい低姿勢だったブラディオだが今は自然に振舞っている。興味や関心があると人は自分を取り戻せるのかねえ。

 ボロゾが口を開いた。


「大方みんなの意向は伝え終わったかな。多少、希望通りに行かないところはあるけど、リョーマくんはザインヴァルト、サキちゃんはアステール、アブちゃんはドラテナ、ダンディさんは余りもののスランに行くのが丸いんじゃないかな」

「ではこの結果を踏まえて、異論や疑問、質問がある者は発言してください」


 ユランが質疑を促すと、モラが発言した。


「あの、『ダスク・エヴァンジェル』が希望する人材が居ない件について、一度持ち帰って内部でお話しさせてもらってもよいでしょうか」

「それは構わないが、この場では吟遊詩人の割り当ては殆ど決定したようなものだ。サキ氏は行き先が決まっているため、ダンディ氏を受け入れてもらえる方向でクランメンバーを説得した方が良いだろう。でなければ『ダスク・エヴァンジェル』の立ち位置も微妙になる。すまないが協議会の一員としての立場でもそう助言するしかない」

「承知・・・しました」


 意気消沈したモラを見ていられないので、あたしが声をかける。


「そう気を落とさないで下さい、モラさん。ダンディは一貫して『余ったところに行く』と言っていたのに気づいていますか?」

「それが何か・・・?」


 疑問符を浮かべていたモラだったが、次第に確信めいた色に変わる。


「まさか。それは余計な対立を未然に回避するための戦略的選択・・・!」

「そんな大層な話じゃない。捨てる神あれば拾う神あり、余り物には福がある。そんな願掛けの結果だ。『ダスク・エヴァンジェル』だったか。俺には過ぎた福音になるかもな」


 ダンディはそれすら煙に巻いた。


「ダンディはうちの自慢のメンバーですよ。居るだけで個性の強すぎるチームがまとまりますから。大事にしてあげて下さい」

「ありがとうございます・・・!男だとか女だとか気にしていた我々が恥ずかしいです。クランメンバーは必ず説得してみせます」


 モラは涙ながらに感謝の言葉を伝えた。




誤字修正 2016/01/11

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