第11話 波乱の先触れ
早朝訓練を済ませ、メンバーと合流したあたしはこれから来るであろう勧誘について取り巻く環境とともに情報を共有した。
「で、口頭で言っても覚えきれないと思うんで紙に書いてきたんだけどそれぞれの希望を考えてもらいたくてね」
「そんなこと急に言われてもな・・・」
「週3~4日で時給の良いバイトみたいなもんだと思いなさいよ。考え方によってはこれはチャンスでもあるわけだし」
「う~ん、・・・お?これは」
5大国の資料に目を通していたリョーマの表情がふと明るくなる。
「はいはーい!俺は神聖スラン教国のクランを希望するぜ」
「却下」
「なんでだよ!」
「あんた、なんでこの人たちが女だけで来てるのか考えなさいよ」
「いや、まあ予想つきはするけどさ・・・」
「攻略中に『間違い』が起こらないようにするためよ。あんたみたいな邪な目的で近寄る輩は"燃やされてもおかしくない"っての」
あたしは言霊を使ってみた。演出だけなので全く熱くないが弱弱しい火炎放射がリョーマをチロチロ追いかける。視覚効果だけの言霊は消費MPも低く再現度も高い。
「言ってみただけ!言ってみただけだから!燃やさないで!」
火炎放射は5秒で消えた。
「じゃあ必然的にスラン教国と合意が取れるのはサキだけってことになるな」
「暫定でそうなるね」
あたしの見解では相手に完璧を求める割にヘタレでノンデリなリョーマは逆に安全寄りではある。むしろあたしを送り込む方が危ない。
「サキ、新しいバイト先でコミュニケーション取れそう?」
「がんばる・・・草刈りみたいに単純作業だといいな」
「だといいけどねえ。あたしも不安だよ」
でもやるしかない。
「あ、あたしはヴァルファゴが動いて他のところとトレードが起きそうだったらヴァルファゴに行くから。そうじゃなかったら第一希望はドラテナね」
「意図を聞いておこうか」
「まず、ヴァルファゴは権謀術数に長けた商人の国よ。後ろ盾のない我々は油断してたらすってんてんにされて売り飛ばされかねないわ。そして、この中で対応できそうなのはあたししかいない」
「表立ってそんなこともできないと思うけどな」
「それを露見しないようにうまくやるのが実行力ってワケ。ヴァルファゴにはそれがある。だから万が一の時にステラさんにコネのあるあたしが適任」
「なるほどな」
「この国のクランから交渉事を持ちかけられたときは、あたしを通すように言って。あたしもできるだけ事前に内情を探ってみるわ」
「了解した」
「で、ドラテナは魔法でブイブイ言わせてる国なんだけど、魔道具の開発とかにコネを作れないかな~と。技術的な話ならリョーマの方が良いと思うけど、営業はあたしがやった方が良いと思って。それに魔法にも興味あるしね」
「そういうことなら俺は余りもので良いぜ。合わせるのはいつものことだからな」
ダンディは余りもので良いらしい。
「リョーマはザインヴァルトの軍隊に行って鍛えてもらいなさいよ」
「ひいいい、いやだあああ!」
「第二適正はレンジャーでしょ」
「ひいい・・・お、そうだったわ!俺、男になるよ!イエス!マム!」
「乗せやすすぎでは」
「じゃあ俺は暫定でアステール王国だな」
担当割(仮)が決定した。
「ふい~今日のセッションもお疲れさまでした」
「おつ~」
「お疲れさまでした~って薬草採取がメインでしょうが!」
「明日からこれできなくなるって冷静に考えて精神衛生上マズくね?」
「あ、そういえば不動産屋さんにちゃんと連絡しなきゃな。状況どうなってるか聞きたいし」
「防音ルームが確保できれば音出し放題だもんな。そりゃ急務だな~」
「ん?あれは」
そのようなことを話していたら見覚えのある人影が2人こちらに向かって歩いてくる。
「アブさん。お元気そうで」
「トリスさんにフェデリーさん。こんにちは、何か御用ですか?」
自警団保安官のトリスとフェデリーだ。内見先物件の事後処理をしてもらっていたはずだ。
「実は最近町の外でドンチャン騒ぎしながら爆走している謎の集団がいるって通報があってね。大した件ではないと思ったんですが、調査をした結果、もしかしたらそれはアブさん達なんじゃないかって」
「すみませんそれは我々です」
「やはりそうなのですか」
こういうのは物的証拠を挙げてから確保するもんだよね。だから正直に話す。まあ言い逃れはできないか。
「条例では罰金とかそういうのはないんですけど、夜間だと安眠妨害等で注意勧告があります。今回は不審行為としての通報ですので、事案という形で聞き取り調査をもって終了になります」
「署までご同行願おう」
「はい・・・」
軽傷で済みそうで取り敢えず安心だが、問題が大きくならないよう署まで付いていく。
「ではこちらで」
我々4人は2人の保安官と机越しに向き合った。
「暴走行為をやっていたのはこの3日間以外にはないとの認識で良いですか?」
「その1日前もやっています。その時はすぐ終わってしまったので聞いていた人がいなかったのではないかと思われます」
「なるほど。そもそも何が目的でこのようなことを」
「薬草採取のため群生地の間を移動する必要があり、そのための速度アップ手段として吟遊詩人の『疾風のパラディドル』を使用していました。ですが、メンバーの一人が飽きてしまったため、せめて退屈しないようそれを軸にセッションをしようぜということになり音数が増えました」
「なるほど薬草の採取のためだったんですね」
「ですが、セッションを4人で行うと、ものすごく速度が上がってしまって。これはすごいってことになって。事故は起こさないように気を付けていたんですけど、演奏も楽しくて周りが見えなくなっていた面もありました」
ちゃんと正直には答えているが、トリスはびっくりしたような表情を浮かべている。
「4人とも吟遊詩人なんですか?」
「はい」
「ご協力ありがとうございました。本件では拘留や過料等は発生しません」
「こちらこそご迷惑をおかけしました」
そう答えると2人は顔を見合わせ困ったような表情をした。
「おい、伝えるべきだろ」
「分かってますって」
小声でそう話している。
「他に何か?」
「あの、実はですね。通報があった複数の方から、体が自然に動くような曲だった。楽しかった。また聴きたい。などのお声をたくさんいただいております」
「この町はダンジョンばかりで娯楽が少ない。楽隊の音楽が聴きたいという需要はあると思う。許可の取り方は教えるので通報されないようにルールを守ってやってくれ。むしろ俺達も聞きたくなった」
「本当ですか!?」
これは朗報だ。特に需要がないと思われていた音楽の需要。それに裏が取れたのだから。
「じゃあ、今から行きつけの店で食事をしながらでも」
「確かに我々も昼休憩の時間に入るが、良いのか?」
「店の方には今から許可を取るのでそれ次第ですかね。許可が出なければ普通に食事にしましょう」
「我々も協力しよう。信用に関する後ろ盾ぐらいにはなれるはずだ」
「お手数をおかけします。では移動しましょう」
こうして我々は行きつけの店に向かった。
「おい、何やるんだ?まだショボい楽器しかないから大したことはできねえぞ」
「ボッサやろ」
「良い案だ。店の雰囲気にも合うし食事の邪魔にならん」
例の店員と話を付ける。
「話って何よ。あんたたちはうちの料理をバカスカうまそうに食ってればいいのよ」
もはや自分の趣味を隠さなくなってきたな。
「おいしい料理を提供して頂いているせめてものお礼です。実は私たちは吟遊詩人なんですが、ここで演奏させてくれませんか?」
「え、あ、そうなのね?店長に聞いてみるね。てんちょ~~~!」
奥に行って話し込んでいたが、腕で〇マークをジェスチャーした。ということは
「店長も聴きたいからオッケーだってよ」
「それじゃリハ無し本番行きまーす」
我々が立っているのはテラスの端っこの方だ。これではほとんど動けないがこのジャンルなら動く必要もないだろう。
「カウントなしでOK」
「うい」
サキの普段よりゆったりしたシャカシャカ音の後に続いてリョーマが4小節のコード進行をリウトフォルテ風に改造したレンジの広い弦楽器でつま弾く。そこにダンディのパーカッション(これは手製のカホーンかな)が入り、お膳立てがなされる。16小節目でブレイク。静寂の中にあたしの声が食い気味に響く。
囀る鳥の気分はBlue Sky's Shadow 話す言葉はどこかStranger's Word
おしゃべりをして またどこかへ飛び立つ気でいる
どこへ行こうか 帰る場所はなくなってしまった
そういえばあたしには番がいたね 身を寄せて羽を休めよう
おやすみ 明日は会えるか分からないけれど
夜空を渡る 星の輝きに導かれ
両裏のコイン 嘴で弄び それでも誰かの幸せを願う
演出に言霊を使ったが、うまく機能はしたようだ。
息を呑むような静寂があたりを支配した。そしてまばらな拍手が盛大なものになる。
「すばらしい!」
「最高だ」
「美しい・・・」
「ご清聴、ありがとうございました・・・ぐすっ」
「アブはすぐ泣く」
ライブまでできるなんて、なんて日だ。
涙ぐんでる聴衆を見て思わずもらい泣きしてしまった。
でも、聞いてくれたみんなに言っておかないといけないことがある。
「あの、みなさん聞いてください。諸事情がありまして私たちの楽器は今とてもではないですが良いものを使っていません」
「なんだって」
「こんなに心に響く演奏だったのに」
「ですが、あと一週間後には私たち自身がある程度納得できる音を出せると思います。その時にご都合よろしければまた改めて聴いていただきたいと思っています。宜しくお願いします」
こんなとこかな。人が集まってきそうな気配を感じたので、店の人や自警団の人に挨拶もせずさっさと退散することにした。多分、また顔を合わすだろうし。そういえばまだ薬草を換金していなかったな。錬金術ギルドへ向かおう。
「みんな適当に暇つぶしといて~。換金してくる~」
「りょーかい」
あたしはそそくさと錬金術ギルドに向かった。
「お、待ってたよ。最後の検収と行こうじゃないか」
「宜しくお願いします」
錬金術ギルドに着くと既にバックヤードへの搬入路が確保されていた。
「ほら、数え終わったよ。今日の割符だ」
「ありがとうございます」
「そういえば妙な噂を聞いたんだけど、町の外で音を立てて走り回ってる集団がいるって嬢ちゃん達のことじゃないのか?」
心当たりが過ぎる。傍目に見たらチンドン屋か珍走団なんだろうな。
「あー、実はもう既に自警団に職務質問受けちゃって説明済みです」
「ははは!そうか、やっぱりか。じゃあもう一つの噂もそうなのかな?」
「もう一つ?認識が合ってるかどうか分からないので詳しくお聞かせ願えませんか?」
こっちは心当たりがない。いや、あるっちゃあるけど、どれ?って感じだ。
「嬢ちゃん達のパーティに吟遊詩人が居るって噂」
ああ、そっちか。そういうの訊いて大丈夫なのかな、コンプライアンス的に。でも、もう割と広く噂が立ってるみたいだし歪曲して伝わっても面倒だから正しい情報を伝えておこう。多分、その方が今後は動きやすいはずだ。
「そうですが、あたし達4人全員吟遊詩人ですよ」
「えっ、マジ?一人でも珍しいのに」
「そのようで」
「話は聞かせてもらったよ」
後ろから大きな声がしたので振り向く。そこには全身黒ずくめの黒髪のどこにでもいそうな特徴のない男が立っていた。
「どちら様ですか?」
「僕は『幻影の刃』の代表、ボロゾ・カーンだ。知ってる?」
『幻影の刃』・・・!ヴァルファゴのクランのリーダーだ。
単独で接触を図ってきたのかな。
「ええ、存じ上げております。お噂はかねがね」
「そうかそうか!ははっ、密偵がこんなに有名じゃ商売あがったりだよね」
「ジョブによってはそういう葛藤もあるんですね」
「それはお互い様だと思うよ、吟遊詩人のアブちゃん」
「ええと、あたしにはどういうご用件で」
「商談だよ」
詳しいことは今は話さないつもりだ。こちらとしてもそれは同じである。
「では、場所を変えましょう。冒険者ギルドの防音打ち合わせスペースで良いですか?」
「ああ、そのつもりだよ。話が早くて助かる」
「ジュードさんありがとうございました」
「おう、嬢ちゃんも商談頑張れよ」
あたしは錬金ギルドの蜥蜴人に別れを告げた。しかし、こんな緊迫した空気でもマイペースな人だな。




