第10話 解散の理由=音楽性の一致
次にあたしたちは鍛冶ギルドに隣接している木工ギルドに足を運んだ。
「私が木工ギルドの特別相談役をやってるビゼリだ。ヴァンダルからの紹介と伺っているが」
「おう、そうだぜ。俺はリョーマだ。よろしくな」
リョーマが初対面で軽口を叩いてるのを見ると冷や冷やするが、ここは大人しく見守るしかない。
ビゼリは木霊種らしい。高い位置でまとめられた緑の髪に褐色の肌、葉をあしらったような装飾を纏っているが露出度は高めだ。見た目はどう見ても女性に見えるが、植物系の人種ということはあたしと同じ両性だったりするのかな。
「わざわざ私を通すということは厄介な注文なのだろう。どれ、設計書を見せてみろ」
「そんな大したもんじゃないって言ったんだけどな。どう伝わってるんだか」
リョーマは持ち込んだ数枚の紙をビゼリに渡した。
「なるほどこれは興味深い」
「鍛冶の方にはこの別紙の寸法で作るという話でまとまった」
リョーマは更にもう1枚紙を懐から取り出し、ビゼリに渡した。
「ふむ、この楽器のボディはソナリウム材で良いと思うがネックの素材はハミングバーグ材かレゾナンスバイン材か悩ましいところだな」
「将来的には両方作って聴き比べたいところだが、今回はレゾナンスバイン材で作ってくれ。その代わり指板の張り合わせはディープローズ材で頼めるか?」
「承知した」
その後もダンディとサキを交えながら何点かやり取りを行い、設計の全容が次々と決定されていく。
(リョーマ、楽器の事ならまともに人と会話できるんだな・・・。植物図鑑も薬草そっちのけで楽器になりそうな木材ばっかりガン見してたもんな。そりゃ詳しくもなるか)
「ところで、偏見なんだけど木霊種の人って一般的にこんなに木に詳しかったりするの?」
相変わらず話題がいきなりライン超えてるだろ、地雷だったらどうするんだ。
「う~む、そうだな。木霊種と言えども興味は多種多様なので私が興味を持って今の仕事をやってるのも一般的ではないとは思う」
「へー、そういうもんなんだな」
「あと一応長命種としての老婆心から言わせてもらうと、その質問は『獣人族や人族は一般的に畜産が得意なのか?』あるいは『魚人族は水産が得意なのか?』というものに似ている。君も偏見だと前置きしているから自覚はあるようだが、やはり失礼な質問だと思わざるを得ない、気を付けた方が良い」
「いや~、それはごめん。気になりすぎて話に集中できなくてさ。集中できないよりは聞いた方が良いなっていう気持ちが勝っちまった」
「ふふふ、面白い男だな君は。とても真っ直ぐで眩しい。だが、本質ばかり見ようとすれば却って答えから遠ざかることも間々ある」
逆に気に入られたようでほっとしたが心臓に悪い。ビゼリさんが良い人過ぎて助かった。
「そうだな。込み入った話にはなるがもう少し詳しく答えよう。私は木材の、繊維の流れを読む技術に長けている。それは喩えるなら人族の暗殺者が自分の体の感覚から急所を予測するのときっと本質的には変わらないはずだ。そういう意味では私は木霊種である恩恵を受けているといえるだろう。だが、人族の暗殺者の例もそうだが、これは種族の誰にでもできる技能ではない。だから特別相談役なんていうよく分からない役職に有識者として招聘されているんだ」
「へえ、そうだったんだ」
コンサルみたいなもんか。
「普段は木を使った家具や工芸品の品質チェックやアドバイスをやっているんだが、本格的な楽器の依頼は少なくてね。音に関しては依頼者が私以上の有識者ということが分かったので、新たな知見が得られる展望が見えて俄然意欲がわいてきたよ」
「おう、改めてよろしくな」
「塗装工程もあるので4日後に来てくれ」
「早いな!?」
「乾燥させるのに魔法を使うんだ」
「はえ~、そういうことか」
話がまとまったので我々は木工ギルドを後にした。
宿に戻ったらもう夕方になっていた。
「いや~、頼んでみるもんだな。思ったよりずっと良いものができそうだぜ」
「その代わり高くついたがな」
「だけど今頼んでるのが全部出来たとしてもアコースティックライブができるようになるってだけだから、魔道具を使った設備とかも今後は欲しいぜ」
「う~ん、どんどん欲しいものが増えていくな。明日、借金返済してもまた新しく借金しないといけないのか」
「金策を考えるのは任せたぞ!」
「アンタねえ・・・。まあ、どうせ金策はやらないといけないのはいいとして、オセロとかマヨネーズで楽に稼げたりしない?」
「オセロっぽいボードゲームならもう既にあるから難しいと思うぜ。あと、マヨネーズは普通に売ってたわ」
「ちゃんと石鹸もそれなりのが売ってるし、簡悔極まってるわね」
「このまま薬草一本で食っていけないか?」
「しばらくは無理かな。とりあえず明日を最後にするとして、それ以降は薬草自体が根絶やしになっちゃうからこの辺の生態系が壊れるってステラさんが言ってたし錬金術ギルドの人も同じ意見だったよ」
「あーそういえば町で歩いてたら通行人の会話が聞こえてきたんだけど」
「お?」
「町の外にとんでもない速度で走り回りながらシャカシャカジャンジャン音を撒き散らす謎の集団がいるって、これ俺たちの事じゃね?」
ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
「最悪・・・。一生の不覚だわ。楽しすぎて気が回らなかった。ああもう!」
「ついこの前、不覚を取って一生が終わったばかりじゃん」
「もう、思い出させないでよ!ノンデリ!」
「だが、マズイな。どうする」
「どうするったって明日まで働かないと借金残っちゃうよ・・・」
「とりあえず明日は働くとして、不審者として見つかったら旅芸人ですって言って見逃してもらおうぜ」
「なんでそんなに速いんですかって突っ込まれたらどう説明する?」
「……そうさ……『GET REWARDS』……それが最速に至る道……冗談じゃねえ」
「絶対伝わんないよそれ・・・」
「出番?」
サキがマラカスを人が殺せそうな速度で素振りしている。
「い、いや、それは最後の手段よ。別の町に逃亡できるように世界地図と周辺情報を収集しときましょ」
「吟遊詩人のジョブがバレるのがそんなにまずいことだとは思わないけどな俺は」
「まあ、取れる手段は取っときたいじゃん」
とはいえ、ここに来た初日よりは状況が落ち着いているのは事実だ。
「う~ん、やっぱりリョーマの言う通りではあるかも。機を見て正直に話して丸く収まるならそうするのも視野に入れてみようかな。ステラさんにも相談してみる」
「俺もその案に賛成だ」
「まったく。気苦労が絶えないね」
「あら、ヴァンダルとビゼリに?言ってくれれば紹介しましたのに」
ステラ邸であたしは今日の鍛冶ギルドと木工ギルドであったことを話した。
「最初はクオリティが低くてもとりあえず無いものがあってくれればいいかなって思ってたんだけど、なんか気に入られちゃってガチのものを作ることになったっていうか」
「才気は漏れ出るものですわ。人の芯は運命に直結しますもの。アブさんはもちろんそれを支えるお連れの方もきっとそれに相応しい資質をお持ちなのでしょうね」
「ふふ、そういわれると照れちゃうな。でもその分高くつきそうなのよね。どうしよっか?」
「力あるものの義務とはいえ、アブさんはまだ開花前の蕾の状態。では、私が懐から・・・と言っても受け取っていただけませんものね」
「お、あたしのことをよく分かってきたね」
「理解しようと努めていますから。」
「さしあたっての問題は金策と、戦闘訓練の方法か。あ、金策に関してちょっと妙な噂が立っちゃって・・・」
あたしはステラさんに事情を説明した。
「なるほど。聞かれたか目撃されたかは分かりませんがそういう話があると」
「仮に、あたし達が吟遊詩人であることを公表するとどういうことが起きるの?」
「そうですね・・・」
ステラさんは一瞬目を伏して考え、再び顔を上げた。
「まずダンジョン攻略最前線にいる各国代表クラン複数から勧誘があると思われます」
勧誘合戦が起こるとは聞いてはいたが、えらいこっちゃ。
「あ、あたしたち駆け出し冒険者だよ?なんでいきなり最前線に!?」
「それだけ吟遊詩人は喉から手が出るほど欲しいジョブなのです。おそらくしばらくは育成枠として好待遇で手厚く鍛えられると思うので、金策と戦闘訓練という課題も片付くというメリットはありますよ」
「ん~、恩を売られたらその分、報いなきゃいけないじゃない」
ぶっちしてもいいんだろうが、それはあたしの流儀に反する。
「それがあちらの狙いでしょう。ですから選ぶ際は恩に報いるに値する相手かという観点でよく観察した方がよろしいかと」
「まあそりゃそうだよね。悪党の片棒を担ぐことになったら気分悪いし」
「そして、アブさんたちは4人全員が吟遊詩人ということなので、クラン側も交渉権の順番を巡って会議が開催されると思われます」
「ドラフト会議みたいなもんか。う~ん、めんでぃからって全部断るとなんか問題あったりする?」
「アブさんたちは4人全員が吟遊詩人ということもあり、パーティ構成上の問題があるのであちらが交渉を諦めることはないと思われます。出所が分からないよう秘密裏に雇われた人材による陰湿な工作が行われるでしょう」
「それこそいよいよ面倒くさいな・・・。吟遊詩人が4人でキャッキャウフフしてて何が不満なのだよ。パーティ編成ぐらい好きにさせてくれっていう」
よりにもよって音楽性の一致が解散の理由になり得るとか冗談じゃない。
「吟遊詩人を活かせない状況はそれだけ社会的損失が大きいのです。逆に稼働日数や休暇などの交渉も有利に進めると考えられますよ」
「じゃあ、極端な話、週休6日でもいいわけ?」
「あまりいい顔をされないとは思われますが、向こうも条件を呑むしかないでしょうね」
「流石にかわいそうか・・・。とはいえバンド活動や楽器製作もしたいので週3、もしくは4日だな」
「あとは、交渉してくるであろう各勢力の説明をしたいと思います」
そういうとステラさんは魔法でホワイトボードのような四角い立体ホログラムのようなものを投影した。
「現在ダンジョン攻略条約に批准した周辺5か国がルルイエのダンジョン攻略の最前線で鎬を削っています。まず、この国の代表クランであるアステール王国冒険者連合・『金獅子の牙』。代表のブラディオ・ノーランは冒険者でありながら王国の筆頭騎士に名を連ねてる凄い方ですよ」
「兼務できるものなんだな~」
「戦闘指南役というお立場らしいですから騎士団の方の稼働はそれほどではないかと。どちらかというと冒険者としての活動を主にしておられます。因みにジョブは戦士です」
「箔が付くからお互い利用している感じかな」
「乱暴な言い方をすればそうですね。続いて2つ目の勢力ですが、魔導共和国ドラテナ。多くの偉大な魔導師を輩出している有名な魔術学院が複数あります。共和制ですが、貴族のしきたりが強く残っています。派遣クランは『アーケイン・ナブラ』。代表者はリリカ・エラディンという若き天才魔術師です」
「天才魔術師か~。会ってお話してみたいな」
「興味がおありでしたら日程を調整致しますが」
「い、いや、今の段階だと色々問題があるから機を覗おう」
「ふふ、それもそうですね」
ステラさんはたまに冗談をぶっこんで来るから油断ならない。誘い受けしたこちらに問題があったが、それもまたコミュニケーションの一環である。
「続いて3つ目は商業都市連合ヴァルファゴ。派遣クランは『幻影の刃』。各国代表のなかでは唯一、吟遊詩人を擁するクランで、代表者はボロゾ・カーンという方です。ジョブは密偵で諜報、工作、交渉を得意としています」
「また厄介そうな・・・」
「私も同じ見解です。5勢力の中で最も警戒するべき相手でしょう」
「ん~、このクランはもう既に吟遊詩人がいるのに交渉に参加してくるの?」
「場合によってはですが、現在擁している人材も含めて交渉の材料とするぐらいのことはするでしょうね。そういう方々です」
「腹芸が出来るの、あたしぐらいしかいないから頑張るか・・・」
メンバーを危険にさらすわけにはいかんしな。
「4つ目は北方の騎士団領ザインヴァルト。派遣クランは『第七特殊迷宮攻略分隊』。こちらは冒険者が本職ではなく軍属の方々の派遣ですね。代表者はアリル・トリロイという方で、ジョブは勇者です」
「勇者!って魔王と戦って世界を救う伝説の!?」
「アブさんの出身地ではそういう伝承があるんですか?ですがこちらでは勇敢に戦うことができる者という位置づけで、あくまでジョブ自体にそういった特別な意味合いはありません」
「あ、そうなのね・・・失礼しました」
考えてみればドラ〇エの影響がデカすぎた。
「それにしても、軍隊はうちのメンバーと相性悪そうだな」
「規則や規律が厳しそうというイメージは確かにありますね」
「リョーマとか鍛えてもらえばいいんじゃないか」
「それは・・・コメントを差し控えさせていただきます」
でも、素直な所があるし案外気に入られるかもと思ってる。その分どやされるのは間違いないが。
「5つ目、最後は神聖スラン教国。派遣クランは『ダスク・エヴァンジェル』。メンバーはすべて女性で、代表者は教導師モラ・キレイン。役職は教導師ですが、ジョブは治癒術師、僧侶の上位職である聖者の獲得に成功しています」
「上位職?普通の職業と何が違うの?」
「詠唱のある魔法が無詠唱で行使出来たり、組成式を略式で即発動出来たり、強力な特性の追加があったりします。獲得条件が厳しく、下位のジョブで下積みするのが半ば必須のため上位ジョブとして分類されています」
「ふ~ん、そういうものなんだ。吟遊詩人にもあったりするの?」
「現時点で見つかっていないだけで存在はするかもしれません」
「なるほどね。あ、話の腰を折っちゃってごめん。宗教国家もまた難しいな。祭事とかに演奏頼まれたりするとまたややこしいことになりそうな」
「そういったリスクもありますね」
「悩ましい」
「共有しておかないといけない情報は以上です。あとは皆さんで最低限希望を固めておくと交渉がスムーズに運ぶかもしれません」
「ふああ、頭に詰め込み過ぎてもう眠いよ」
「寝るまでは魔力操作の基礎訓練と早朝は言霊の実践訓練がありますよ」
「やることが多い」
でもまあ充実はしてるか。




