悪役令嬢に転生したら、前世で叶わなかった夢が叶いました
初投稿です。至らないところもあると思いますがよろしくお願いします。
「アンドレア・ヒューズ!お前との婚約を破棄させてもらう!」
その瞬間、私は前世を思い出しました。
前世の私は「日本」という国の社会人。とある野望を果たすあと一歩のところで交通事故に遭い、死んでしまったのです。
そしてこの世界は私がプレイしていた乙女ゲームの世界。んでもって私は悪役令嬢に転生してしまったようです。ガッデム。
私に婚約破棄を突きつけた男が、この国の第一王子のフランシス殿下。殿下の腕の中にいるのがヒロインのアマンダ様。
まさかの断罪シーンで前世を思い出すとは…ついてないかもしれません。
いえ、ぼーっとしている場合ではありません。前世を思い出したとはいえ、私は公爵令嬢アンドレア・ヒューズ。やることは変わりませんわ。
「…理由をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」
ゲームの台詞通り尋ねると、殿下はバカ正直に答えてくれました。
「お前がここにいるアマンダ嬢に、卑劣なイジメを行なっていたからだ。そんな女が未来の王妃に相応しいとは思えない!」
あら、あらあら。前世を思い出す前の私ったら。そんなことをしていたのですか。いくらなんでもそんなことをしたらそりゃ婚約破棄に…。いやまったく覚えがないですわね。
それもそうです。出会った当初の殿下は大分クソガキで、「お前が婚約者なんて認めないからな!」なんて言い放つような男。そんなこと言われたらいくら前世の記憶があってもなくても幻滅します。しかし婚約というのは本人達の意思だけではどうにもならないもの。何より双方の両親が乗り気だったため、私達は婚約者としてあり続けていました。
てな訳で私達に愛なんてないようなもの。そのうち殿下が元平民の女に入れ上げているという噂が耳に入ってきましたが、私はどうでもよかったのです。ですから、もちろんイジメなんてやっていません。ええ、興味関心がないのに、どうしてイジメなどするのでしょう。
「恐れ入りますが、私はその方と話すらしたことすらありません」
「嘘をつくな!」
…私が嘘をついていると、決めつけになるのですね。よく調べもせず。
「アマンダの物を壊したり、階段から突き落としただろう!しらばっくれても無駄だぞ!」
ちゃんと調査もせずに相手の言うことを鵜呑みにして。これがいつか国のトップになると思ったら恐ろしくてたまりませんわ。
「アンドレア様、罪をお認めください…!」
…ヒロインは何を考えているのでしょうか。転生者なら逆ハー狙いでしょうけど、そうじゃなかったら…もう、理解ができませんわ。
ハマっていた乙女ゲームの世界の、実情がこれだとは。私はため息をつく。さて、どうしたものでしょうか…。
ふと、私は思い出しました。アンドレアの末路を。本来なら誰もが忌避する仕事。でも私にとっては天職。プレイしながらそんなことを考えてた記憶がある。
ならこれはもう…!
「イジメについては身に覚えがありませんが…殿下が私に信頼がおけないというのなら仕方がありません。その婚約破棄、お受けいたします」
「罪は認めない…だと?」
「ええ、やってないことをやったとは言いたくありませんから」
そこは無意味でもちゃんと言っておかないと。
「どこまでも性根の腐った女だな。まあいい。そんなお前に相応しい末路を用意した」
さあこい。こいこい…!
「お前は水蛇の湖の管理人になることが決定した。お前のような女には、魔物の世話係がお似合いだ」
「っシャラーーーーー‼︎」
淑女らしからぬ声を上げたことを許してくださいまし。ずっと、ずっと願ってた夢が叶った瞬間ですもの。思わず歓喜の雄叫びを上げてしまいました。
「…コホン。失礼しました。かしこまりました。そのお役目、謹んでお受けいたします」
「いや違うだろ⁉︎そこは全力で嫌がるところだろ⁉︎てかさっき変な声出してなかったか⁉︎」
そこはスルーしていただきたかったわ。私はスルーしますけど。
「それではご機嫌よう」
そう言って颯爽と立ち去る私を、バカ2人は呆然と見つめておりました。
家に帰ってからの私は大変でした。今回の命令にテンションMAX。これ殿下が勝手にやったことだとしても知りません。私は承諾しましたので。
いきなり豹変してしまった娘に両親はこの世の終わりみたいな顔してた。ごめんなさいお父様お母様。「実は…!」といった感じで前世からの夢について説明すると、とりあえず納得してくれた。
「昔から臆することなくヘビやカエルを触る子だとは思っていたの…」
「お前の望むようにしなさい。後は私達が引き受けよう」
父は貴族の中でもやり手で、たとえ王族であろうとも情けをかけない人です。そんな父に任せておけば大丈夫そうです。
「お父様、お母様、親不孝をお許しください」
「あなたはよくやったわ、アンドレア」
「そうだ。お前は悪くない」
両親は私を抱きしめてくれました。私は改めて、両親の愛を感じたのです。
馬車で湖に行く道中、私の胸は終始高鳴っておりました。昨日の夜なんて、楽しみすぎて眠れませんでしたの。
「着きましたよ、お嬢様」
御者の方は哀れまれる立場であるはずの私がどこか楽しそうにしてるので複雑な表情。いけない、顔に出てしまっていたかしら。貴族の娘たる者、感情を面に出すのはあまりいいことではないのに。でも仕方がありませんよね。私、この瞬間をずっと待っていたのですから!
御者の方に礼を言い、私は湖のほとりにたちました。すると、水面がぐっと盛り上がり、それが姿を現しました。
「…どちらさん?」
現れたのは巨大な水蛇。水色の鱗が太陽に照らされてキラキラ光ってーーー。
キレイ!カワイイ!
「お会い出来て嬉しゅうございます!水蛇様ーーーー!」
「ちょい待て待て起き抜けにそんな大声だすのやめてマジで」
転生したら、長年の夢が叶いました。
私は無類の爬虫類、両生類好き。彼らと共に暮らせる日々を夢見ておりました。
しかし家族からは「好きなのはいいけど一緒に暮らすのはちょっと…」と言われており、私は大人になって一人暮らしして、あの子達に囲まれた楽園を作ることを目標にしていました。
一人暮らしを始め、生活に余裕が出てきたので、そろそろ誰か迎えいれようと思っていたところに交通事故に遭い、無念の死を遂げたのです。ああ、本当に無念。
ですが、なんてことでしょう。まさかここで夢が叶うなんて…!
「はじめまして!アンドレアと申します。今日からあなたのお世話係をさせていただきます!よろしくお願いします!」
「いやテンションたっか。普通こういうの嫌がられる仕事じゃないの。大丈夫?君。場所間違えてない?」
かくして私と水蛇様の優雅な生活がここからはじまったのです。
この後、帰ってから殿下のしでかしたことを知った陛下が殿下にブチギレ、命令を撤回しようとしたり、バカ2人が私にちょっかいをかけたり、水蛇様が超美男子に変身したり、なぜか分からないけど湖の小屋に住み着く人が増えたりしますけど関係ありません。私は水蛇様とハッピーな楽園を作り上げるだけですわ!
「いや関係なくない?さらっと未来予知してない?これ当たったら怖くない?てかなんで俺が人型に変身出来ること知ってんの怖いんだけど。マジでどうなってんの?」
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