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code magic  作者: 犀川 門
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特級指定魔法師

「いやぁそれにしても、いよいよ俺も世界に認知される時が来ちゃった、ってわけだなぁ」


魔法適正検査の帰り、松澤景は自身ありげな顔で歩いていた。


魔法適正検査では主にどんな種類の魔法を使えるのかと現在それをどこまで自在に扱えるかの検査が行われている。しかしながらそれだけではなくたまに現れるレアケースにも対応しなければならない為、そうした既存の魔法体系からは少し外れた魔法師を確保、また監視する意味でもそうした魔法師は特級指定魔法師と呼ばれる区分に入ることになっている。

そして現在、隣を歩く自身満々な景は準特級指定魔法師候補であると告げられていたのである。


「まぁ、色々有名になってもそれはそれで苦難が待っているものだけどね」


「おいおい、そんな冷めたこというなよぉ」


「それに比べて僕は、分からないの一点張りだったけど」


「それなぁ、まあ今後色々調べる為にも、魔法大に編入させてぇんだろうな」


そう、相沢糸は検査後、色々な実験的なことをその場にいた責任者達とやってみたんだが、わかったことは一つ。


相沢糸には魔法が通じない。ということだけだった。


実は魔法そのものを無力化する体質をもった人が一応確認されている。それは、魔法にまったく感染しないほどの抗体を持った人という意味であり、つまりその人本人は魔法が使えない。

それだけでもすごいはすごいのだが、直接本人に発動される魔法に限定されて無効化されるだけであって、例えば属性魔法によって生成された火、風のようなそもそも自然界に存在しているものからの攻撃に対しては無力なのだ。

こうした魔法攻撃はあくまで生成されるまでが魔法であって、放たれた物質は魔法ではない。というのがここ最近の見解みたいだ。まあこの辺の詳しいことについては今だ研究中だそうだ。


では本題の相沢糸だが、彼にはまず魔法適正がある。その点において既存の魔法抗体持ちとは訳が違う。

また直接干渉魔法に限らず生成魔法に対しても耐性、というか発動が妨害されたことも確認された。

加えて、魔法は発動されなかった。というよりもずれた場所で発動する場合もあった。検査室で物質移動魔法が妨害され、隣の椅子が移動したことや、風魔法がそのまま相沢をすり抜けたことからも、こう結論づけられたのだ。

それにしたってでは一体どんな魔法適正なのかと聞かれれば、わからない。とするのが妥当だろう。


「お、そいう言えば検査前にタバコに火が付かなかったあれ、あれもそいうことなのか?」

景がそういって、指に火をともしながら聞いてきた


「確かにそんなこともあったね。どうだろ、もう一回試してみる?」


「いいぜー、ちょうど吸いたいところだったしな」


そう言って二人はまたいつもの喫煙所に来た。先に先約が一名いた。


「さてと、ほいっ。あぁーやっぱりつかねぇ」


「景、ちょっと離れてみて、それで火をつけてからこっちに飛ばしてみてよ」


「えぇ、まぁいけど。えーと、おっ付きはするな。そんで、これをこうっと」

小さな火の玉が形成され、それが糸のところへ飛んでいった。小学生がボールを投げるくらいの速度だが、それは糸に到着する前に消えた。


「うーん。やっぱり魔法が無効化されているようにしか見えないよね」


「そうだよなぁ。でも、糸には魔法適正はあるんだろ?なら無意識になにかの魔法で打ち消しあってるって可能性もあるんじゃないか?」

こういう時、景は鋭い考察をすることがたまにある。今回もそれかもしれない


「確かに、その可能性は考えていなかった」


その時、ちょうど先に喫煙所にいた男性がタバコを吸い終わったらしく、吸い殻を捨てるところだったのだろうか。ちょうど真ん中にある吸い殻入れに近づいたときだった。こちらを見ながらその男は驚いた様子で、てから吸い殻をおとした。


「君、もしかして」


「あ。」

景がそう言ったころにはその男は糸に近づいて食い入るように観察しはじめた。


「あぁ、すいません魔法を屋外で無断使用するのは禁止されているのは知っているんですが」

なんとか弁明しようと焦っている糸に対し、その男が言った言葉は予期せぬものだった。


「いやぁ、そうではなくでだね。君、もしかして特殊な魔法適正を持っているのではないかな?」


「あーいえ、別にただ魔法を受け付けない体質なだけですよ」

別に隠す理由はなかったが、なんとなく自分の魔法についてベラベラ喋るのは良くない気がした。


落としたタバコをもう一度灰皿にもどし、その男は続けた。

「そう、ただ今みたいな生成魔法に対する耐性は体質だけでは説明が付かない。そうだろう?」

そういって男は内ポケットから名刺のようなものを取り出し、糸に渡した。


「都立魔法研究所、所長。神野涼。えーと、」


「そう。一応所長を務めているよ。悪かったねいきなり声をかけて。」


「おいおいまじかよ、」


糸が名刺を読み上げると同時に景はかなり驚いた様子だった。

かくいう糸自身も、すぐ近くにある研究所を一瞬視界に入れざるを得なかった。


「たしかに今日の会場は研究所の近くだったし。こういう偶然もあるのですね。」


自分の魔法について誤魔化すためにも所長であることにオーバーなリアクションをしたが、その程度で逃がしてはくれなそうだ。


「それで、魔法のことなんだがね、いや、そう。別に人体実験しようなんてことじゃないんだ。ただ君のような特殊体質の持ち主の処遇については我々も困っていてね。つい先日、都内であった魔力暴走事件を覚えているかね」

そういって所長は2本目のタバコを取り出した。どうやら話は長くなりそうだ。


「はい、ええと確か、渋谷のスクランブル交差点であった。車10台以上を巻き込んだ事件。」

でもあれは事件というより事故に近いような。


「車に突っ込んだ謎の魔法師。そしてはじけ飛ぶ車。今じゃインターネットにその時の動画がゴロゴロころっがってるよなぁ。あれ、結構グロイし」


景の言う通り、あの事件というか事故は動画サイトで拡散され瞬く間に多くの国民に知れ渡ることになった。同時に魔法という扱いの難しいものに対する恐怖のようなものが可視化された瞬間でもあった。


「あれは、実は実行役は魔力特殊体質のやつなんだ。 まだ詳しくは分からない部分も多いんだが、反射の魔法とでも名付けようか。彼に迫りくるあらゆる攻撃は任意で反射することが可能。当時魔法省はそう結論づけた。だが、」


「実際は車は反射’したというより、バラバラになってましたよね」


「そうだ。彼は魔法を跳ね返したのではなく衝撃によって砕いていたと表現する方がいい。つまりこれは受け身の魔法というより攻撃的な魔法だったんだ。相手に車一つ弾き飛ばすほどの威力を込めた魔法を飛ばせるという。 まあ彼は自らその特性には気づいていなかったみたいだけどね。事故までは。」


「じつは彼は今全国指名手配の一人でね。魔法体質が特殊だったが故にそうなった、ともいえる。実際そいういう魔法師は多い。どうしてだと思う?」


「そりゃ、あれだろ、周りからの期待とか羨望の眼差しとか、いきなりそういう目で見られたりするからじゃねぇの?」


「それも一つの答えだろう。だが、一番の問題は我々魔法師の先輩が何も教えることができないことだ。個性的な魔法というだけでそれは、つまり未来も過去もその人一人しか扱えない魔法ということになる。」


「つまり、実践的なことを考えるとそういう特殊な魔法師よりも、」


「そうだ。実際特級指定魔法師の8割は基本魔術を使って戦う。何故なら蓄積された戦い方や魔法の使い方は再現性が求められるからだ。」


「えーと、つまり、あれか?特別な魔法体質を持った奴は中々周りの同年代の魔法師と馴染めなかったり、周りよりも弱かったりするってことか?」


「弱いかどうかは本人次第だろう。だが、自分一人でその特性に向き合うというのは、案外難しいものなのだよ。勿論それをものにするやつも中にはいる。だがそれでも基本魔法が使われ続けるのは理由があるんだ。」


「まあなんだ、そう、ちょっと心配になっただけさ。なにかあったらそこに書いてある電話番号か魔法通信で連絡してくれ。それだけだ。」


そう言って神野所長は喫煙所を後にした。色々情報を整理する必要がありそうだが、とりあえず分かったこととして、魔法体質が特別なことは、なにも手放しに喜べる訳ではないということ。そして、


「なあ、糸。今の話だと俺って、結構良くないか?」


純粋に基本魔術を扱うのが上手いということはどんな魔法適正よりも重要かもしれないということだ。そもそもテスト時点で準特級指定魔法師の候補にまであがるというのは、それこそ前代未聞だろう。


「まあ、安心しろよ、おれが守ってやるからさ」


「柄にもないことは言うもんじゃないよ」


「ま、たまにはいいだろ」

嬉しそうな景は指に何度も火を灯していた。

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