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code magic  作者: 犀川 門
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明日のことは誰にもわからない。

一枚の画像とメッセージが、友人から送られてきた。

画像はおそらく部活の引退の記念に撮影された写真だろう。

彼がバスケットボール部であったことを思い出した。画像の次のメッセージにはこう書かれていた。


「今日が終わって、明日がくるだけ。」



 何をしても満たされない。そんな時期が人間には必ず訪れるのだろうか。人はこれを、冷笑と言った。

僕、相沢糸にもどうやらそんな時期がきたらしい。


大学受験も終わり、高校三年間を終えてみて、なんともあっけないものだった。

そうして春には大学に入り、そしてまた卒業し、就職。あとは死ぬまで生きるために働くだけだ。

勿論その中には数え切れないほどの経験ができるかもしれないが、そのどれもが見える範囲で想像できるものになってしまっている。


小学生のなりたい職業ランキングに、職業ともいえるか怪しいものが入りだしたということは、

つまりは働くということの夢のなさを体現しているのだろう。

もはや僕たち若い世代の希望というものは、どこかに忘れ去られたのかもしれない。

そんな、どう思おうと構わないとうな他愛ない思考がぐるぐる回る中で、卒業式は無事に終わった。


友人達とのいつも通りの会話、記念撮影、この後どこか食べに行くのか、遊びに行くのか。

そんな予定調和が沢山見られたし、そのどれも確かに多少は面白かった。

一番仲の良かった友達は、この後部活のメンバーで集まるらしく、僕は一足先に帰路に立った。

「この帰り道も今日までか」そう思うと少し寂しい気持ちの一つでも芽生えてきそうだが、あいにくとそのような干渉にひたる才能は僕にはないみたいだ。


学校から20秒ほど歩いた後、目の前を歩いているのがクラスメイトであることに気が付いた。クラスではあまり目立たない方だったが、成績はいつも上位だったことだけは覚えている。

彼らは何を原動力にこんなつまらない学習をしているのか気になった時期があったからだ。

どうせ卒業するんだし、話しかけてみた。


「おつかれ、同じクラスだったよね確か」


何気ない挨拶に、その子は振り向いた。


「ああ、はい。」


何かその後に続くと思い、言葉を待っていたが、ただの相槌で終わっただけみたいだ。


「えーと、その、高校生活は楽しかった?」


無言の空間に耐え切れず、まるで保護者のような発言をしてしまった。


「いえ、どうでしょう。高校なんてあっという間でしたし、それにまだ人生の前半も前半です。これより楽しいことが沢山起こって欲しいです。」


振り返りながら、少女はそう言った。目の前の人間の整った顔にしばらく見とれてしまった。そのことを悟られまいと、何か言葉を探したが、彼女の方が先に口が動いた。


「見えてるものが全てではありません。きっとこうなるだろうというのは、勿論100%そうなるという意味ではないのです。」


少女はそれだけ言ってそのまま歩いていってしまった。彼女の言葉は丁度自分が考えていたテーマに似ていた為、自分も立ち止まって考えざるを得なかった。


「どうしてそんなことを?」

言ったのだろう。頭の中で思うのと同時に口に出ていたが、その言葉が彼女に届くことはなかった。

不思議な気持ちを抱えながらも、当たり前に終わる卒業というイベントが、少し興味深い経験に変わった瞬間であることは確かだった。


電車に乗り、携帯を開くと、さっき友人から届いたメッセージの画面のままだった。いつもなら笑って流すその一文が、何故かとても重要な気がした。



卒業式の翌日、なんでもない休日。テレビをつけると、どのニュースチャンネルも同じ内容を報道していた。


「日本時間の午前2時、アメリカ合衆国ハワイ諸島に謎の飛行物体が墜落しました。墜落による死傷者は現在0人ですが、墜落と同時に体に異変を訴える人が急増しています。


また何かの病気だろうか。二度寝でもしよう、せっかくの休日なのだから。


その日を、人類はのちにこう記した。code magicハワイ感染事件

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