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ゆる花令嬢

作者: アイララ
掲載日:2023/06/24

マリーユランは一刻も早く、イスマエル伯爵の夜会から逃げ出そうとした。

夜会の主である伯爵子息のルブラスから、能力を知られる前に。


……見られて、ないよね?

まぁ、私みたいな貧乏男爵を気にする人なんていないと思うけど。


テラスにある門を通り、そっと庭へと歩き出す。

秋空の下、涼し気な風が頬を撫でた。

そのまま姿を隠そうと、生垣に囲まれた庭園の奥へ向かう。


背丈より少しだけ高い生垣は、赤白黄色と様々な花が並ぶ。

緑の絨毯に輝く、令嬢のドレスが如く。

一輪、貰えないかしら?

……ダメね、庭園の持ち主はルブラスなのよ。


そのまま進むと、噴水が見えてきた。

月の光に輝く女神の彫刻は、手に持った瓶から永遠に水を流している。

それが円形の湖に溜まり、一部が川となって続いていく。

ふと、下を見ると川の中で悠然と、銀色の魚が泳いでいた。


垂れる音、泳ぐ音が耳に心地よく流れ込む。

聞き入りながら、のんびりと庭を歩いていた。

川沿いなら靴の音も消えるし、丁度いいわね。


そうして歩き続けると、ちょっとした広場が見えてきた。

中央には模様の彫られた木の小屋が、静かにそっと佇んでる。

少し歩き疲れたから、あそこで休憩しましょうか。


そう思って中に入ると、既に先客が一人。

椅子に座り、頭を膝に付けながらジッとしていた。

……怪我? ではなさそうですし、疲れてるのかしら?


「……あの、どうかされました?」


そっと膝に手を当て、優しく囁く。

けれど、男の態度は素っ気なかった。


「邪魔するな。一人にしてくれ」

「そう、言われましても……」

「放っておいてくれ……頼むから……」


顔を下げたまま言い放ち、マリーユランを遠ざけようとする。

何だか知らないけど、可哀想ね。

そう思った彼女は、そっと側に座ったままになった。


声は一応、大丈夫そうだけど……疲れてるみたい。

夜会で大勢の令嬢を相手にして、ヘトヘトになったのかしら?

それなら、ちょっとだけお手伝いしようかな。


そっと、木製のベンチに手を当てる。

そのまま大きくなれと念じ、木から一輪の花が咲いた。

労わりながら切り取って、男の膝に優しく乗せた。


「アジサイです。これで少しは気分も晴れるかと」

「アジサイ? ……どうしてここに?」

「夜会で疲れている様に見えたので。お節介でしたら?」

「いや……もしかして、君が花使いなのか?」

「……!」


顔を上げ、見えたのは……一番、見たくない男だった。

錬金術師のルブラス、この夜会の主催である。

顔を見られた、その恐怖からすぐさま立ち去ろうとする。

すると、花を持っていた手を引っ張られた。


「……えぇと、いや、いいんだ。花使いが錬金術師と会うなんてイヤだよね。でも、その……もう少しだけ、いて欲しい」

「……分かりました」


何が分かりましたなのか。

相手は花や草、木を元に薬を錬成する錬金術師。

自在にそれらを生み出せる私は、彼が一番、欲しいモノ。

過去には花使いが奴隷になって、永遠に働かされた時代もあったのに。

相手は伯爵、男爵の私は逆らえないのに。


「その……今はどうしてここに」

「折角の誕生日を、令嬢のご機嫌取りだけで過ごしたくなかったから。それだけ」

「……ですよね」


彼の気持ちが、ほんの少しだけ伝わった。

見た目だけは煌びやかで、内心は政治的な駆け引きに満ち溢れる。

そんな集まりが苦手で、彼女はいつも壁の花になっていた。

誰にも相手されない、壁に寄りかかり会場を彩るだけの存在に。


「今日も令嬢に群がられ、歩くだけでも一苦労だよ。そんなに珍しいのかな、錬金術師って」

「珍しいとは思いますよ。王国でも一番だと聞いていますし」

「偶然だよ。人より少し薬が好きだったから上手くなれただけ。それに、身の丈に合わない称賛って、思ったより辛くてさ」

「私もです。父から、目立ったら利用されるだけだから、隠れてろって……」


そして、二人は黙り込んだ。

ほんの少しだけ身体を寄せあって、秋空の肌寒さを和らげあった。

次に話す時は、別れの挨拶だと思うと、口がどうにも開かなかった。

渡した花を、ただ見つめ合った。


「……綺麗だね」

「……土は水はけがよく、湿ったのがよいかと。表面が乾いたら、水やりをして下さい」

「ふふっ、何それ。そんなに僕、育てたいって顔してた?」

「えっと……はい」

「なら残念だね。アジサイは夏の花なのに、今は秋だし」

「秋だから選びました。もう見れなくなった花なら、少しは元気になるかと思い……」

「へぇ、僕の為に……」


そしてまた、黙り込んだ。

今度は彼が、ジッと顔を覗き込んで来たからである。

堪らなく恥ずかしくなり、そっと顔を背けた。


「……あの、もうそろそろ、戻った方が宜しいかと」

「僕が主催だから? それとも、錬金術師は嫌いだから?」

「嫌い、ではないのですが……父上から、秘密にしろと言われてまして」

「そっか……アジサイ、ありがとうね」


渡した花を胸に差し、そのまま立ち去っていく。

彼の足音が遠く離れるまで、そして消えてからも。

彼女はジッと、ベンチに座り込んでいた。


それから数日後、父の執務室に手紙が届いた。

ルブラスから、婚約の手紙が。


「……最初から、行かせてなければな」

「……ごめんなさい。あの日、ルブラスと出会って」

「もうよい、起きた事は覆せない。問題はこの婚約をどうするかだが……」


マリーユランの父は、夜会の時にワザと地味なドレスを着させた。

彼女が外に出かけ、人に顔を見せる時はいつもだ。

花使いである事を隠す為に、親切からの行為だった。

……それで娘と結婚する人がいなくなる覚悟の上で。


けれど、そんな努力も無駄に終わる。

ルブラスからの婚約、それ自体は簡単に断れるだろう。

だが、侯爵家からの頼みを断って、貴族社会で生きられる保証はない。

それ程までに、この婚約の条件は素晴らしいから。


「……持参金はいらない。結婚式その他の費用は向こうが出す。これを断ったら、どんな噂を流されるだろうな」

「物凄く、怒るでしょうね」

「あぁ、それにマロアンの結婚にも支障が出る。漸く、侯爵家と婚約が結べたのに……」


妹はこの先、婚約が結べない可能性がある。

そう考えた父は、マロアンに全てを託す事にした。

姉が侯爵家と結婚すれば、マリーユランが独り身でも問題なくなる。

もし、錬金術師と結婚する話が来ても、侯爵家を後ろ盾にすればいい。

その為に、高い金を払ってまで、顔も見てない男と結婚させたのだ。


「……前の夜会で、ルブラスと会いました。そんなに悪い人には見えないと」

「男なぞ、目的の為なら幾らでもよい顔が出来る。裏で何を考えてもおかしくはないぞ」

「それでも……断れないのでしょ?」

「……」


執務室の机に座る父は黙り込み、手元にある手紙を睨んだ。

婚約をどうするか決めかね、無言の時間が過ぎゆく。

その緊張感が耐えられなくなり、彼女が声を上げた。


「……お父様、私は覚悟が出来ています。姉に無理な結婚をさせておいて、私だけ断れません」

「だが……話は終わりだ。後はこちらで考えておく。外してくれ」

「でも……」

「……大丈夫だ、悪い様にはさせん」

「……失礼します」


それだけを言い、執務室を後にする。

扉を開けると、近くにマロアンが立っていた。

……話、聞いてたのかしら?


「随分と暗い顔してるじゃない。お茶でもどう?」

「……そうする」

「チャービルが採れたのよ、少しはリラックス出来ると思うわ。まぁ、貴女のお陰だけど」


時々、テラスでお茶会をするのが二人の楽しみであった。

客を呼んで行うお茶会とは違い、マナーを気にせず楽しみながら。

……今日も楽しめるといいのだけど。


テラスに来て、お茶を入れる準備をしようとし、姉に止められた。


「父上の長話で疲れたでしょ? 少し休んでなさい」

「でも……」

「いいの。それより……どうだったの? 夜会で会ったでしょ」

「ルブラス? ……項垂れてた。頭を膝に付けて」

「ふふっ、何それ。詳しく聞かせて」


そうして彼と私の出会いを、姉は笑いながら聞いていた。

普段、噂で耳にする姿とかなり違うのが面白いみたい。

……錬金術しか興味のない、冷たい男か。

出会った時の彼は、優しそうに見えたけど。


「それなら実際、どう思ってる訳? 婚約を結ぶの、反対?」

「……難しいな。いい人とは思うけど、一回で決められないし」

「私なんか0回、手紙だけのやり取りよ。それでも彼をいい人だと思ってるわ。……信じたいの方が正しいかな?」

「……だよね」

「大丈夫よ、何かあれば別れたらいいの。もし向こうが文句を言っても、私が嫁ぐ家を盾にすればいいわ」

「……ありがと、姉さん」


姉の応援を聞き、出したハーブティーを飲み、少しだけ気分がよくなった。

そっか、断ればいいのね。

花使いとして永遠に、薬草を提供するのがイヤなら、断ればいいのね。

……出来るかしら?


可能かはさておき、その覚悟だけで気分が楽になった。

間近で見た彼は優しそうだったし、断っても大事にはならないだろう。

そう気分を切り替えて、私はお茶会を楽しんだ。


それから数日後、あっという間に婚約が決まった。


父曰く、これ以上ない程の好条件らしい。

婚約の時は暗い顔だったのに、今ではすっかり笑顔のまま。

どんな条件だろうと思ったけど、私が無理強いをしなくていいみたい。

期待で胸を膨らませ、少し残った不安を抑え込み、私はルブラスの家へ行く準備をし始めた。


いつもなら、外に出る時は地味な服とメイクで身を固める。

婚約の話が舞い込まない様に、錬金術師と会う時は特にだ。

それが今、家にあるとっておきのドレスで飾ってもらえてる。

姉さんも、折角だからと私にとっておきのメイクをしてくれた。


「……やっぱり、元が綺麗だとメイクの乗りも違うわね。羨ましいわ」

「そんな、姉さんの方が綺麗よ。……それで条件って?」

「話をしてのお楽しみだって。娘が不安なんだから、しっかり言った方が嬉しいわよ」

「……まぁ、悪い話じゃないと思うし」


そこまで父が後押ししてくれるなら、きっと悪くない条件だろう。

不安は全て消えてないけど、何とか安心して会いに行ける。

それに花使いの力をハーブティーの為だけに使うのも気が引けてたし。


「それでは、行ってきますね」

「行ってらっしゃい。何かあったらすぐ帰ってくるのよ」

「心配するな、きっとよくなるさ」その言葉を最後に、馬車が走り出す。

ルブラスの屋敷へと、マリーユランを乗せて。


長い旅を終え、夕方になって屋敷へ辿り着く。

真っ白で荘厳な屋敷は、陽の光に照らされ、温かく感じられた。

まるで、彼女を優しく出迎えるかの様に。


「ようこそいらっしゃいました、マリーユラン様」


門番から、屋敷へ出迎える執事まで。

玄関に入る前から、丁寧にお辞儀で出迎えられる。

男爵家の令嬢なんて、ぞんざいに扱われると思ったけど……随分、優しいのね。

これがずっと続けばいいのだけど。


緊張する心を抑え、そっと屋敷へ足を進める。

芽生えた希望と、少しの不安を抱えながら。


「イザベル男爵家の娘、マリーユランと申します。皆さん、今後ともよろしくお願いいたしますね」


そう挨拶する彼女を迎えたのは、屋敷の使用人達。

それも総出での出迎えで、少し首を傾げてしまった。

わざわざ男爵家の娘を、どうしてそこまで歓迎するのかしら?

気にはなるが、迎える笑顔は本物に見える。


「よろしくお願いします、マリーユラン様。では、旦那様の友へ案内しますね」


メイド長に案内される途中、他のメイドがひそひそと話をしていた。

聞いていた以上に可愛いだとか、優しそうな方で良かったとか。

不思議と、花使いの事は聞こえてこなかったが。

ルブラスから伝えられてないのかしら?


気にはなるが、今から戻って聞きに行く訳にもいかず。

そのままメイド長に連れられて、彼がいる場所に連れられる。

辿り着いた所の扉には、薬草庭園と書かれていた。

流石は国一番の錬金術師、屋敷の中にも庭園があるのね。


「失礼します。マリーユラン様がお見えになられました」

「どうぞ、入ってくれ」


扉を叩き、入室の許可が出る。

どんな様子で待っているのだろう?

薬草を作ってくれるのを待っているのか。

もしくは婚約者として歓迎してくれるのか。

気になりながら部屋に入ると……机にあるアジサイの鉢を、不安げに眺めていた。


「ようこそ、マリーユラン。歓迎するよ。所で……その、何から話せばいいかな?」

「……そう言われましても」

「あぁ、ごめんごめん。最初は君がくれたアジサイの話をしようと思ってたけど、その……見惚れてしまって」

「見惚れる……私に?」


言ってる意味が分からなかった。

確かに彼と出会った時は、メイクもドレスも野暮ったいまま。

正直、誰に見せても恥ずかしいものだった。

まぁ、それが錬金術師と仲良くならなくて済む方法だから、仕方なかったのだけど。


でも、見惚れる程、美しいかと言われると違うと思う。

例えば、私の姉は自画像を送っただけで、侯爵家と婚約を結べた。

他にも自身の美貌だけで、政界を渡り歩いてる令嬢だっている。

なのに……私に見惚れて?


「そんな……私はただの男爵令嬢ですよ」

「関係ない、それに……君の事を思うと、実験に身が入らなくなる」

「……」

「でも、良かった。あの時、もう二度と会えないと思っていたから」


他人から褒められ慣れてなく、思わず赤面してしまう。

私なんか、別れを惜しむ程の価値はないのに。

あるとすれば、花使いとしての能力だけ。

でも……それを今日、断りに来たのだから。


「……アジサイ、大切にされてるのですね。良かったです」

「君にそう言われると、やっと安心するよ。僕の手違いで枯らさないか、不安なままで」

「ですか、それだけです。薬草を咲かせる予定はありませんから?」

「……その話なんだけど、花はダメかな?」

「花……ですか? 薬草でなくて」


正直に言うと、少しは咲かせてもいいと思ってた。

私が咲かせた薬草が誰かを救う薬になるなら、無理をしない程度にと。

真摯にお願いしてくれれば、多少は構わないと。

けど、彼の提案は予想と少し違っていた。


「そう。君がくれたアジサイを見て、メイド達が欲しがって。こんなに綺麗なら私もって」

「それは……まぁ、構いませんが」

「よかった。あっ、でも、無理はしなくていいからね。嫌なら今からでも断っていいから」

「いえ……別にそれぐらいは」


こうもアッサリ要求が通ると、逆に申し訳なく思ってしまう。

薬草は咲かせなくていい、花を咲かせるのも自分次第。

それなら、何の為に私と婚約したのかしら?

純粋に私が好きとか……それはナシ、有り得ないし。


「ありがとう、マリーユラン。では、この鉢植えに咲かせてくれ。メイド全員分を咲かせるのは大変だから、適度に休憩するといい」

「分かりました。でも……アジサイだけでよいのです? ナノハナやポピーとか、あっ、桜も咲かせますよ?」

「桜も? なら、それは庭に咲かせたいな。丁度、庭園に空きがあるんだ」

「それならチューリップもいかがです?」「いいね、気に入った」


そうして彼女は鉢植えから庭まで、ありとあらゆる場所に咲かせてしまう。

あっという間に屋敷中が、花の薫りに包まれた。

その後、室内の庭園に戻る途中、メイド達の喜びの声を聞く。

お礼をされ、花使いなのですねと驚かれ。

……やっぱり、知らされてなかったのね。なぜかしら?


「……普段、薬草しか扱ってなかったけど、花もいいものだね。ありがとう、マリーユラン」

「いえ、私も楽しみましたから。それと……どうして、メイド達に花使いの事を話してなかったのですか?」

「約束したからね、君の父と。……聞いてなかったのかい?」

「父からは好条件だから安心してくれとだけ。聞いてのお楽しみだと言っておりました」

「好条件か……君の父と約束したんだ。花使いの技を強制させるなと。出来るだけ秘密にしろとも言ってたね」

「……いいのですか? それで」

「構わないよ。紙にサインまでしてるから、途中で違えたりしないし、絶対にさせないから」


そこまで言われると、心配にすらなってくる。

望んだ薬草を好きなだけ出せる花使いの技は、錬金術師が最も必要とする。

だから私と婚約したと思ったのに、使わないなら男爵家の令嬢でしかない。

国一番の錬金術師なら、もっといい相手がいると思うけど……。


「どうして……そこまでするの?」

「君が好きだからだよ。あの日、君の優しさに心を奪われてね」

「……はい」


真っ直ぐに見つめられ、笑顔で告白され、その台詞しか言えなくなる。

もし彼の言葉が嘘だったとしても、今だけは信じたかった。

花使いでなく、私として見る人がいるなんて。


「夜会で出会った令嬢達は、皆が僕に近寄ったよ。婚約の為にね。でも、僕の側にいてくれたのは君だけだった」

「そう……ですか」

「だから、今度は僕が君の側にいてあげたいなって。何があっても、僕が守るから」


私という人を守るなんて言われても、まるで実感が湧かない。

けど、その目は真剣その物だし、迫ってくる意思が感じられた。

そこまで本気になられると、悪い気もしないかも。


「結婚の事とか……そもそも守るとかは、よく分かりません。けど、せめて夫婦になれる様に頑張りたいと思います」

「その言葉が聞けて嬉しいよ。本当に……僕を信じてくれて」


そうして彼は、ポツリと花使いの事を話し始めた。

どうして守る必要があるのかを伝える為に。


「昔、君みたいな花使いが奴隷の様に酷使された話を学校で聞いたんだ。錬金術師として、正しい道を歩む為に」

「その話は私も知っています。だから、私を守ろうと?」

「実を言うと、それだけでは思わなかったな。先生の前では花使いを守ります、なんて言ったりもしたけど」

「なら……どうして?」

「見たんだ。奴隷となった花使いが、どれだけ悲惨な目に遭うのかを」


学生時代、ルブラスにはライバルがいた。

共に一位を競い合う仲で、最高の錬金術師となる為に。

朝から晩まで研究し、薬を作り、それを先生に報告する。

そんな日々を、二人は過ごしていった。


「そんな時、気付いたんだ。彼の作る薬の量が異常に多いと。そして彼に婚約者がいた事を。だから僕は確かめる事にしたんだ」

「それで彼が無理やり、花使いの技を強制させていたと」

「いや、見つからなかったよ。窓の外から覗き込んだり、他の人に聞き込んだり。探偵も雇ってね。……それでも、見つからなかった」

「……では、どこに」

「何としても一位になりたい僕は、コッソリ忍び込んだんだ。人を眠らす香を焚いて。……地下に、足がない状態で」

「……!」


驚きで、声が出ないまま悲鳴を上げた。

思わず、大丈夫な筈の足を触ってしまう。

……そこまで悲惨な目に遭うなら、父さんが結婚に反対する訳ね。


「すぐさま、学園に報告したよ。人の家に侵入した罰を覚悟で。けど、罪に問われたのは彼だけ。こうして僕は学園一の、やがて王国一の錬金術師になれた訳」

「……彼女はどうなったのですか?」

「王様が直々に保護してるよ。僕もたまにお見舞いに行ってる。錬金術師は世の為、人の為に使われる技。それを忘れたらどうなるか戒める為にね」

「だから、私を守りたいと」

「勝手な我が儘だけどね。でも、もし君をも守れなかったら……僕は腕を切る」


真剣な目線はどこまでも優しく……そして僅かながら涙目だった。

彼の気持ち本物だろう。

だから契約書を交わしてまで守ろうとした。

でも……腕を切るまでするのは間違ってると思う。


「腕を切ったら、誰が薬を作るのですか。私を思ってくれるのは嬉しいですが、それは違うと思いますよ。その、何というか……」

「いや、いいよ。例え話という事で。その代わり、君を絶対に幸せにする。約束する」

「……私も、そうしたいです。花使いとして、誰かに為に使えたらと考えてましたから」

「そう? なら……一つ、頼んでいいかな? ハーブティーが飲みたいなって」

「どうして急に、そんな事を?」

「君の父と話してた時、花使いの技でハーブを咲かせ、姉とお茶会を楽しんでたって聞いてね。……頼める?」

「その程度なら。場所はここで?」

「あぁ、お願いね」


屋内にある庭園の隅、そこにカモミールやルイボス、他にも様々なハーブを咲かせる。

そして早速とばかりにメイドを呼び、お茶会の準備をさせた。

庭園に用意されたテーブルに着き、薬草の香りを楽しみながらハーブティーを待つ。

夜会の時に見た花々も綺麗だけど、こういうのもアリね。


「それじゃ、改めて……僕と結婚して欲しい。何があっても君を守るから」

「もう既に婚約はしてますよ。……こちらこそ、お願いしますね」


これが大陸中に広まる偉大な錬金術師と花使いの、幸せな生活の始まりであった。

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