54衝撃の事実
聖女に選ばれると死んでしまう。
セボの口から漏れた情報にシェリは目を丸くするしかない。
「はぁ?」
「あれ、シェリさま知りませんでした?」
イオが小首を傾げる。それは知っていて当然と言う顔。少なくとも人間だった頃のイオは知らなかったはずだと思いたい。
サーヴァはセボがそれに触れた時点で頷いていた。元々セボの家に付き従っているのだから、知らぬ訳がない。
残りの2人ーークロンとジャンヌに望みをかけて振り返った。
「結構、有名な話よ」
「というか、参加前に聞かれたと思うんですが?」
きょとんーー知らなかったことに驚いた。
クロンの顔にはそう書いてあった。ジャンヌも無表情ながら不思議そうに返された。
どうやらシェリ以外の全員が知っていたようだ。
(どういうこと?)
参加前に説明などされたこともない。リゼットがいなくなって、シェリはそのまま聖女を目指したのだから。
みなが死の可能性がありながら参加していることに驚く。聖女になることに興味がないと言っていたのは、そういうことなのか。
それにしても興味がない割に、死ぬ可能性がある話に乗るのはリスキーだ。
やはり、今回の聖女クラスは頭のネジが外れている。
「知らないわよ。聖女の儀で力を捧げるって書いてあったけど」
自分の知っている聖女について口にする。
シェリの言葉にイオだけが小さく頷いた。
「聖女の儀って聖女の力を封印へ使うものなんですけど、その最中に大体死んじゃうんですよ」
一瞬の空白。イオが何でもない顔で口にするから、さらに衝撃が大きかったのかもしれない。
頭が真っ白になる。
命を捧げる。生きていられない。死ぬことになるーーそれがどうした。
迷って、困って、一周して、シェリはそれを飲み込んで笑顔を作る。
元々、魔物が出てこないよう聖女になりたかった。そうすることで、姉の仇をとれる気がしたから。
「じゃ、私の命を捧げれば良いわけね」
死にたくないと思っていても、シェリの口から飛び出たのは、そんな言葉だった。
急に湧いてきた死という情報をそのまま飲み込めるほど人間が出来ていない。
それでも、それでもーー魔物を封じるために必要ならば、そうしようと思った。
「いえ、シェリさまの命は貰いません」
「え?」
その決意もすぐに神自身から否定される。嬉しいとも悲しいともつかない表情でイオが首を横にふった。
浮かんでいた彼女がふわりと高度を下げ、視線が正面からぶつかる。
正面から見ても、瞳の色が変化した以外は自分の知っているイオのまま。
纏う雰囲気だけがまったく違うものだった。
「実は今回の分のエネルギーはすでに回収してあるんです」
「……まさか」
「リゼット・フォン・アテンド。彼女の魂は魔神を封じるのに十分なエネルギーでしたから」
イオがこくりと頷くのをシェリは信じられない気持ちで見ていた。
8年間ずっと探していた姉。聖女として誰よりも有力視されていた姉は、やはり特別だったのだ。
命を失ってなお、シェリを助けてくれる。特別で、尊敬できてーー少し悔しい。きゅっと唇を引き結んだ。
「じゃ、なんで魔物はまだ出ている? おかしいじゃない」
「今回は完全なイレギュラーです。通常であれば、今回の選定の儀で選ばれた聖女が、きちんと儀式を通して力を捧げることで魔神を封じます。その儀式が行われていないから、中途半端に魔物が出てしまって」
言葉が出なくなったシェリの代わりにクロンが尋ねる。
そうなのだ。魔物は、聖女の儀から年月が経つほど多くなる。逆に言えば、聖女の儀が行われていれば、数年から数十年に渡って魔物は出ない。
相手が神だろうと疑問点、合理的でない部分は口に出せる強さ。よどみなく返された答えは、わかりやすかった。
やはり、あの時、姉が亡くなったのは想定されていない事態だったのだ。
「……姉はやはり魔物に?」
ずっとその答えが知りたかった。シェリはイオを見つめる。
イオが、神が姉の最期を知っているならば、聞かせて欲しい。8年間なんで姉がいなくなったのかを、ずっと考えていた。
魔物が原因だと周りは言ったが、信じられず、聖女として活動をしながらリゼットの痕跡を探していたのだ。
「シェリさまの復讐相手はきちんと別にいますよ」
イオもシェリが何を求めているか知っている。
その彼女が、”復讐相手”と言った。魔物がったら、この言い回しにはならないだろう。
それはつまりーーリゼットを死に至らしめた相手が魔物では二ということだ。
心臓に嫌な熱がこもる。
「ねぇ、ブラン神官長?
「何のことでしょう」
神の口から出た名前に、声が聞こえる範囲にいた視線が一気に動く。
顔色ひとつ変えず何てことはない風に彼はそこに立っていた。
声はさすがに少し震えているが、平然と立つその姿はシェリの知っている彼とは似つかない。
それでも目の前で神の偉業を見せ続ける少女の言葉を無視する、できる者はいない。
(神官長が?)
示された答え。イオが言うならば間違いはないのだろう。
けれど。
シェリの頭は疑問符で覆い尽くされる。
なぜ、なんで、どうしてーー彼が姉を殺す意義は少しもないように思えた。
「8年前、聖女の慰問に紛らわせてリゼットを殺したのを、わたしは見ていましたよ」
「そんな……私にはそうする理由がありません!」
イオの赤い瞳が無機質さを増す。神の前で無実を叫ぶことにどれだけ意味があるのだろう。
見ていた、と言ったのだ。知っているではなく、見ていた。
それは、もはや、証拠ですらない事実になってしまう。
「8年前を見せてあげることもできますよ?」
残酷な問。
シェリは展開についていけていない。色んなことが起きすぎて、頭がくらくらする。
力が入らず座り込む。隣にいたジャンヌが支えてくれた。
まるでシェリに代わってそうしているかのように、イオの追求は激しくなるばかりだ。
「そこの生くさ坊主は、リゼット様が優秀すぎて危機感を抱いたんです」
イオはあくまでも優しくシェリに話しかける。
優秀な姉は優秀すぎて殺された?
受け止められない事実だ。
「さぁ、天罰の時間です」
にっこりと笑うイオに何と言って良いのかわからない。
始まったのは、まさに天からの裁きだった。
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