43熱の合間
それから、シェリは密かに聖女の力を使ってみた。
最初は保存してあった植物の種を使って魔力を循環させてみる。
初めての試みだったので、うまくいくわけもない。
「っ」
一瞬で芽吹いた種は爆発するように大きくなり、手のひらを傷つける。
体力も大幅に削られた。
「イオが、いなくて、こほっ……良かったわ」
使い慣れない使い方をするとこんなにも疲労するのか。
シェリは苦笑いを浮かべた。熱も相まって額を汗が流れ落ちていく。
彼女がいるときに、こんなことをしたら一発でバレる。
心配をかけるだろうし、確実にイオの手を煩わせることになる。
(思ったより、大変かもしれないわ)
聖女の力は2つに分けられる。
外に対する作用と内側に対する作用だ。
外に対しては、シェリのように植物の発育を早くしたり、クロンやジャンヌのように水や風を扱うもの。
内側に対する作用は、セボやサーヴァのような自分の感覚や体を強化する方に現れる。内側に作用する力は、隠されることも多くあまりはっきりしないところが多い。
イオの性属性はどちらの作用もあるとされている。
「こんな面倒なことを、あの人たちはしてるの?」
シェリは適当な手当を終えてベッドに横になった。
自分の体を魔力が動く感覚は、まだわかる。発動する前に毎回感じるものだからだ。
しかし、それを外に出さず、もう一度自分へ循環させるーーそうなると全くわからない。
幸いなことに外に放出するだけで、少し瘴気は減るようだから、むだではないと信じたい。
イオが帰ってこない内に、何度も挑戦した結果、シェリはいつの間にか眠ってしまっていた。
「う……」
シェリを夢の世界から連れ戻したのは、かすかな音だった。
静かな音が聞こえていた。歌。曲。知っている。心地よい音程と、柔らかな声。
誰が歌っているか確かめるため、シェリはうっすらと瞼を開けた。
ぼんやりとしていた視界が少しずつ像を結び始める。
(……だれ?)
目覚めたばかりの意識は、目の前の人が誰か中々はっきりとした像を結んでくれない。
紅茶に近い髪の毛が彼女の口が動くたびに、小さく揺れている。
聞こえる音量は控えめで、鼻歌をわずかにはっきりさせたにすぎなかった。
それでもシェリの耳にはしっかりと歌詞が聞こえ、性格に作られた音程が流れていく。
「イオ?」
かすれた声が出た。
やっと意識がはっきりしてくる。
どうやらすっかり眠ってしまっていたようだ。
「シェリさま、気分はどうですか?」
「朝よりはだいぶ良いけれど……今、何時なのかしら?」
歌が途切れ、イオがベッドに近寄ってきた。途切れてしまった音が、少しだけ残念だった。
ベッドから窓の方を向けば、まだ明るい。時計は見えない。
シェリが尋ねると、イオは苦笑した。それから少しだけ視線をそらして答える。
嫌な予感がした。
「お昼すぎですよ」
「まだ授業中の時間じゃない」
お昼休憩があるとはいえ、寮に気軽に戻れるような距離でもない。
シェリはイオをじとっと見つめる。気まずそうにイオが視線をそらした。
「えへ、サボっちゃいました」
十分に予想できた返事に天井を仰ぐ。
やっと焦点があい始めた視界でイオの手が伸びてきた。
「まだ、熱がありますね」
「すぐ下がるわ。それより」
ひんやりとした手は、シェリに熱を自覚させる。だが、今はそれ以外に問題がある。
布団の下で熱がこもったような感覚がある。着替えないといけないだろう。
横目で見つめたシェリが最後まで言い切る前に、イオがピシャリと言った。
「帰りませんから」
「イオ」
少々情けない声が出た。
シェリとて四角四面に生真面目に授業に出ろと言っているわけではない。
学園での授業というものは、それぞれの家で独自にされていた教育を、平均的に均す意味がある。
つまり、家で受けられる教育というのは、その家の得意なものに特化しがちなのだ。
シェリの家であれば軍閥に関わること。セボの家であれば歌謡に関わること。クロンの家であれば政治に関わること。
(確かに必要がない人間もいますが)
その部分の授業など、家でとっくの昔に終わっており、話半分に違うことを考えているーーなんて人間もいるくらいなのだ。
もちろん、独自の教育など無い貴族の場合は、学園で質の高い授業を受けることになる。
イオにとって学園の授業とは、確実に受けておいたほうが良い部類なのだ。
何の偏りもなく、質の高い授業を受けられる機会は貴重なのだから。
授業の遅れは良いものではない。
「もう、休んでくるって先生には伝えましたし、聖女クラスにもシェリさまの分も含めて欠席と伝えてあります」
「……そう」
「はい」
何を言っても引かなそうな頑なさ。
視線と視線がぶつかりあう。先に引いたのはシェリだった。
体調が悪いのに、見つめ合いを続ける体力がなかった。
天井に向かってため息を吐いた。
「好きにしなさい」
「はい、好きにします」
朗らかな笑顔。今だけはその笑顔を見ていたくなくて、シェリは顔をそむけた。
そっぽを向いて瞳を閉じてみれば、すぐに眠気が襲ってくる。
体は疲れているのだ。風邪を治すために、まだまだ休養が必要なようだ。
やがて流れてきたイオの鼻歌を子守唄にシェリはもう一度夢の世界へ飛び立った。
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