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34/57

34事故


「始めっ!」


 運命の開始を告げたのは、戦闘訓練をよく行い、経験も積んだ騎士科の教師だ。

 もちろん、彼にも事情は告げている。

 試合前のチェックも完ぺきにしあるはずだ。

 何かおかしな部分があったら、止めることをお願いしている。何が起きるか分からないのだから。

 

(無事に終わってください)


 そう願うことしかシェリにはできなかった。

 開始直後から、二人はまるでシンクロしているかのように動く。

 二人とも線の細い少女である。剣舞を舞っているかに見えた。

 

ーーガキンっ!

 

 その華麗さに見合わない音が二人の間で発せられる。

 振り下ろされた剣は二人の中間でぴたりと動きを止め、それから重さを感じさせない動きで離れた。

 同じ国、同じ型。長年一緒に訓練してきたとなっては、駆け引きなどなくぶつかり合うしかなかったのかも知れない。


「はぁっ」

「ふっ」


 二人の息遣いと剣がぶつかり合う音が響く。

 観客たちの熱い声援の中でもその音は負けていなかった。

 切り結び、距離を取り、たまに足さばきまで加えながら、二人はステージを縦横無尽に駆け巡る。


「まったく、あの二人は……」

「楽しそうですね」


 遠慮がない。すべて忘れて楽しんでいるのが伝わってくる。

 二人の間で均衡を保っていた剣が、次の瞬間には離れ、刃が空気を切る。

 ふわりと風に乗るように、重力を感じさせない動きでジャンヌが間合いをつめると、鋭い突きを放つ。

 クロンはそれを予想していたかのように上に払い除けた後、鋭く懐に入り込み切り上げた。

 息を呑む攻防。戦うことに慣れていない貴族科の生徒には、何が起きているかさえ見えていないだろう。


「そうね、笑っているくらいだもの」

 

 笑っていた。

 刃を潰していても、あれは、当たれば確実に傷を作る。

 それなのに、すべての攻防で、二人の顔には笑顔だけがあった。

 楽しくて仕方ないと表情が告げている。

 もっとも、それを見れたのは聖女クラスの生徒と戦闘経験のあるものだけだろう。


「でも、そろそろ終わるのでしょうね」


 試合は逼迫していたが、時間が経つにつれ終わりが見え始める。全力で剣を振るというのは難しいことだ。

 体力、気力ともに集中したまま続けるには、馬鹿げた体力がいる。ふたりの実力も均衡していることを考えると、そう長く持つものではない。

 一進一退の攻防に終了を告げたのは、呆気ない音だった。


ーーパキィィィン


 金属とは思えない、音。

 一瞬、誰も何の音かわからず、静寂が広まった。

 異質な音。クロンの剣が折れた音だ。

 折れた刃の間から覗いている二人の顔が驚愕に染まる。


「っ」


 ジャンヌが振り下ろした剣は、真っ直ぐにクロンを引き裂こうとしていた。

 それはシェリが見た予知夢そのまま。

 目をそらすことはできない。まるで吸い付けられたかのように、見続ける。


ーー運命はどうにもならないものなのか。


 シェリは奥歯を噛み締めた。 

 誰もがクロンが引き裂かれる未来を見た。

 剣筋も、流れも、すべてがそうなることが自然と告げていた。

 その中でジャンヌ一人だけが、その未来を否定した。現実に抗った。

 それはきっと、ずっとクロンを優先してきた彼女の鋼鉄の意思がなし得たことだった。

 人が認識できる今は2秒と言われる。その2秒でジャンヌは未来を変えてみせた。


「ぐっ」


 クロンの肩から切り裂こうとしていた刃はジャンヌの膂力により引き寄せられた。

 いくら剣の才能があるとしても、それは物理法則を捻じ曲げた動き。

 上体ごと後ろに倒れ込む。クロンと剣の間にわずかな距離ができ、剣先が掠めるように逸れていく。

 足りない。

 シェリの目から見ても、ぶつかる。近い間合いで踏み込んだ剣はクロンの肉体を引き裂こうとしていた。

 まだ、足りない。


「はぁっ」


 足りない分は補えば良い。

 そういうかのように、ジャンヌは禁止されていた聖女の力を使った。

 気づけたのは、ごく少数。きっと聖女クラスの人間だけだ。もっとも、このような場面で禁止など言っていられない。



(お願い!)


 シェリはただ祈るようにステージを見つめていた。

 ジャンヌの声にあわせて、風が動いた。刃がさらに引き戻される。彼女の瞳が赤く瞬いたように見えた。


 ーードサッ、ガランガラン。


 大理石のステージと剣が反発して甲高い音がした。

 尻餅をつくようにジャンヌが床に倒れ込む。

 クロンは、何が起こったかわからないのだろう。いや、信じられなかったのかもしれない。

 自分の一番のライバルが床に倒れ伏しているのが。

 ジャンヌの努力。クロンを傷つけたくない気持ちが、この結果を引き寄せた。 


「な、なにしてるのよ!」


 ジャンヌの体から血しぶきが飛び、クロンの頬を濡らす。太ももに金属が食い込んでいた。

 目の前で起こった惨事にクロンが声を上げる。

 クロンには当たらなかったが、振り降りした先には彼女自身の足があったのだ。

 白い舞台に赤が滲む。最初、一筋の線だったそれは、すぐに量を増し、幾筋にも分かれた。

 誰よりも早く動いたのはクロンだ。折れた剣を放り出し、すぐさまジャンヌの側に寄る。


『予知夢は思いもしない形で現れる』

 

 それが現実になってしまった。

 

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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お返事なかなかできていませんが、感想もすぐに嬉しく読ませてもらってます。

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