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33/57

33試合前


 時刻は昼休憩に差し掛かるところだった。

 試合も午前に行われるものは予定通りすべて消化され、トーナメント表もだいぶ進んできていた。

 シェリもテントの下から移動し、いつもの教室へと戻ってきた。イオも治癒室から戻ってきていた。

 

「順当ね」

「本当にそうですね! ジャンヌさまもクロンさまも勝ち上がっています」


 黒板に貼られているトーナメント表を確認する。

 シェリの言葉に、イオは嬉しそうに頷いた。

 お昼ごはんを準備しながら、お互い情報交換をする。

 治癒室はやはり盛況だったようだ。

 試合自体で負傷した生徒はもちろん、ステージの外でも触発されたのか訓練や戦闘をしており、そちらの怪我のほうが多そうとのことだった。


「まぁ、あの二人が負けるところは想像がつきにくいけれど」

「そうですね」


 運がなければ最初の方で当たってもおかしくない。

 何より、聖女として求められているのは武力ではない。

 極論を言えば、武力などなくてもいいのだ。

 貴族だろうと、腕に覚えのあるものが出る武術大会。ジャンヌもクロンもお互いに当たる前に負けることもある。

 そうなるほうが自然なのだ。


「今年、武闘会に出た生徒は運が悪かったと思ってもらうしかないわね」

 

 32人が出場しているので五回勝てば優勝。その中で、ジャンヌとクロンはすでに3回勝っている。

 シェリはイオと顔を見合わせて苦笑する。

 魔物相手に戦っている二人も知っているため、人間相手に負けているところが想像できなかった。

 この後は昼食をとりつつ、戻ってくるセボやサーヴァと情報交換をする予定だ。


「準決勝、ね」

「この勝負に勝ったほうが優勝だろうと、みなさん言ってました」


 でしょうねとシェリは頷いた。

 ジャンヌとクロンの実力は飛び抜けていた。

 ティーア王国ではもともと貴族でそこまで剣の力を重視する家が少ないのだ。

 目を細めてトーナメント表を見つめ、シェリは脳裏にある夢の場面を思い出す。

 ーー夢で見たのは、たぶん決勝戦だったはず。

 それが準決勝になっている。それが良い変化なのか、シェリには分からない。決勝戦と思っていただけで、準決勝だった可能性もあるからだ。

 ため息がでそうになる。

 とにかく予知夢と言うものは扱いにくい。


「大丈夫ですよ。シェリさまもあれだけ準備したんですし」


 ふわっとシェリの心を見抜いたように、イオが声を書けてくれる。

 この少女は不思議で相手がほしい言葉を投げかけるのが得意のようだった。

 それに救われている部分はある。

 もちろん、その影響を受けているのはシェリだけではないのだが。


「剣は確認したわ。手渡すときにもう一度確認されるような機構も作った……大丈夫のはずよね」


 声を少しだけ落とす。早口にやったことを確認する。

 最後にイオの方を見れば、大きく笑顔で頷いてくれた。


「はい、それに怪我をしたとしても、私が治します!」

「期待しているわ」


 力強い言葉。

 にっこりと笑うイオに肩の力が抜ける。

 彼女の癒しの力はぴか一だ。魔物に対する効果は目の前で見たし、騎士団でもその有用性は確認されているーー死ぬような大けがでなければ助かると。

 騎士団にそう言わせるのだから、イオが何を成したか、どんな状態の人を治したのかわかるというものだ。同時に、彼女が見た怪我がどんなものなのかも心配になる。

 

「聖女として働くのは良いことだけれど、無理はしないようにね……どんな変化があるかわかってないのだから」

「はい」

 

 それでもシェリ自身、彼女の能力に期待している部分は大きかった。

 たとえ、夢のような事態になったとしても、イオがいれば助けることができるのではないか。

 少なくともあの一番悪い結末にはならないのではないか。

 そういう期待が、油断するとすぐに胸の中に芽生えてきてしまう。


(甘えね……まったく)


 そんな自分をシェリはバッサリと切り捨てる。

 ここまでしなくても大丈夫なのではないか。

 そう思ってしまえば、予知夢を回避する準備を怠ってしまう。

 人の命がかかっているというのに、そんなことが許されるだろうか。いや、許されない。

 少なくともシェリは、自分の油断で助けられたかも知れない人間を助けられなかったら、自分を許すことが出来ない。

 大会とはいえ、剣を切れないようにしたって、鈍器で殴れば人は死ぬ。

 油断はできないのだ。



 準決勝は予定通り開始された。

 ジャンヌとクロンがステージの中央で向き合っている。観客の盛り上がりも最高潮で、テントの中から見ても、どこにも空いている席はなかった。

 応援する声も同じくらいか、少しクロンが多いだろうか。

 ジャンヌは寡黙な性格だが、剣の腕はピカイチであり男子生徒や騎士を目指す人間から人気がある。

 クロンは社交も上手にこなすので、どの層からも満遍なく好かれていた。

 だが、そんな観客席の様子は二人の目には写っていないだろう。


「ふたりの世界ね」

「ほんとですね」


 ぽつりと落とした呟きに、イオが苦笑しながら同意してくれた。

 この試合だけ一緒に観覧することになっていた。

 

(治癒室に呼びに行くようでは遅いかもしれない)


 その予感があった。

 それ以外は救護室に待機することなっている。

 イオと二人で、シェリとジャンヌを眺める。

 対峙する二人の瞳はやる気に燃えている。

 格好も訓練服には違いないが、普段使用するものとは少し仕様が違った。

 肩の部分にそれぞれの家紋が入っており、こういう場面で着るものなのだろう。

 馴染み具合から愛用しているのがわかる。


「熱いわね」


 舞台から吹く風が熱風のように感じられ、シェリは顔の前に手をかざす。

 頬を焼くような熱さは、きっとジャンヌの熱だ。

 彼女の属性は風。どこでも威力を発揮できるし使い勝手も良い。

 対するクロンの力は水だ。シェリと同じように場所によって相性はあるが、雨などの天候にも少し関われる。風と水、どっちが強いかなど比べられるものでもない。


(どっちも私からすれば、怖いくらいの能力だもの)

 

 それはあの二人にも言えることだった。

 どっちが強いというより、二人が合わさると手がつけられない。風と水が合体したら嵐だ。

 嵐を止めようとする人間はいないだろう。それと同じ。

 少なくとも、シェリはジャンヌとクロンが協力して向かってくるとなったら、最初に分散させることを考える。

 幸いなことに、今の所そういう場面は来ていない。

 

「ジャンヌさまって、あんなに楽しそうなときがあるんですね」

「漏れ出るくらいだもの」


 驚いたような、呆れたような声が、イオから漏れた。

 シェリも素直に同意する。

 武術大会は聖女の力を使うことを禁止している。武闘の力のみを競うためだ。

 ジャンヌもそれを理解しているはずだし、今までの対戦でこのような状態になったこともない。


「いつも淡々と剣を振るってると思ってました」

 

 シェリも無表情で剣を振るイメージしかない。

 彼女の興奮具合が手にとるようにわかる。

 それに比べるとクロンのほうが普段と変わらない様子に見えた。

 どちらも、傍目から見ればいつもと変わらない。、だが、聖女クラスの人間なら、いつもとの違いがわかっただろう。


「よほど、クロンさんと戦えるのが嬉しいのかしら」


 シェリが見てきたジャンヌと言う少女は、常に余裕があった。

 余裕を持てるだけの才能と実力があったのだ。それが今はない。いや、持とうとしていない。

 クロンが相手だから。

 そこまでぶつかり合える友を持つとはどのような気分なのだろう。

 シェリはステージの上に立つ二人をじっと見つめた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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お返事なかなかできていませんが、感想もすぐに嬉しく読ませてもらってます。

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