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30目が覚めて


 「っはぁ」


 飛び起きた。

 かけられていた肌触りの良い毛布が太もものあたりで集まっていた。

 自分の呼吸の音だけが大きく響いている。キョロキョロと周りを見渡す寮の部屋だ。


「ゆ、め……?」


 呆然と呟く。

 あまりにも――あまりにもリアルな光景だった。

 まだ心臓がばくばくしている。

 すでにジャンヌの姿もクロンの姿もない。

 当然だ。あれは夢なのだから。

 今まで見た中で一番詳しくて、現実味にあふれていた。

 怖い。

 じんわりと嫌な汗をかいていた。


(何時、かしら?)


 部屋は物静かだった。外には月が見える。すっかり帳が降りている。

 耳を澄ましてみても廊下からも物音一つしない。

 消灯時間をすでに過ぎているのかもしれない。

 それから、なぜ、ここに寝ているのだろうと考えて――シェリは気づいた。

 記憶がない。

 聖女クラスに行ったところまでは覚えていたが、その後ここで寝ている理由がわからない。

 

「起きましたか?」


 ふわりと暗闇に浮き出るようにイオが現れる。

 窓際から差し込む月明かりに照らされて儚げに見えた。

 彼女が身につけているのは部屋着。片手に持っている小さなランプは、その周囲をわずかに照らすだけだった。

 

「イオ?」

「はい、イオです」


 確かめるように名前を呼べば、すぐに返事が返ってきた。

 知らず身体に力が入っていた。

 イオの声にほっとする。

 自分以外の人がいることを認識して初めて現実に戻ってきた気がした。


「ごめんなさい、夢見が悪くて」


 もしかして、起こしてしまっただろうか。

 大きく、夢の残滓を吐き出すように、大きく息を吐き出した。

 ゆるゆると顔を上げてベッドサイドに立つイオを見上げる。

 ふにゃふにゃした泣き笑いの顔がそこにはあった。


「なんて顔してるのよ」


 それが面白くて、少し笑う。

 この頃、こういう顔のイオばかり見ている気がする。

 討伐のとき、欠損から戻ってきたとき、予知夢を見始めた時。

 全てで彼女は純粋に心配してくれた。

 

「だって、シェリさま、急に……倒れるから」


 下からイオの顔を見ることはそうない。

 シェリはずり下がっていた毛布をひっぱり上げる。

 それから自分をなんとも言えない顔で見つめるイオに座るようにとベッドサイドを軽く叩く。

 ランプをベッドサイドの机に置いて、彼女はすんなり座ってくれた。

 心配したのだろうか――心配したのだろう。

 彼女はシェリが眠れていないことを知っていた。

 シェリ本人よりも、体調を心配してくれていた節さえある。


「ごめんなさい。イオには心配ばかりかけてるわね」


 やっと現実と頭が接続される。

 記憶も戻ってきていた。

 立ちくらみだと思ったのだけれど、あの後そのまま寝てしまったらしい。


 (意識を失うなんて、不甲斐ないわね)

 

 部屋にいる時点で、誰かが運んでくれたのだろう。

 恐らく、ジャンヌかサーヴァあたりだろう。

 クロンはシェリより小さいし、ジャンヌがクロンにそんなことをさせるとは思えない。

 セボは論外だ。

 シェリが寝れていないことは、聖女クラスにはもはや知れていることだったのだから。


「ほんと、ですよ」

「ごめんね」

 

 ベッドに腰掛けたイオが顔をそらす。膨らんだ頬だけが見えた。

 彼女の忠告を無視しているうちに、こんな事態になったのだから返す言葉もない。

 珍しく素直に謝罪の言葉が口から滑り出ていった。

 きっと、まだ、悪夢の影響が出ている。普段のシェリに戻るには、夜の時間は優しすぎた。


「シェリさまには言いたいことがたくさんあります」

「怖いわね」


 肩をすくめる。

 欠損から帰ってきてから、イオはシェリに過保護なのだ。

 年下に心配されることに慣れていない、というより、心配されないように生きてきた。

 むず痒い。

 その感覚が一番近い気がした。

 月明かりに照らされる横顔が真剣味を帯びる。

 いつも笑顔で愛想の良いイオの真剣な顔はドキッとするほど凛々しく感じられた。


「でも、今は言いません。見ての通り、もう夜です。今日はこのまま寝てください」

「わかったわ」


 素直に頷いて横になる。だが、イオが移動する様子はない。

 まるで寝るまで離れませんと主張するように、シェリが横になっても自分のベッドへ動く様子がなかった。

 苦笑しつつ顔だけ横に向ける。

 ベッドサイドに座り込むイオと思ったより距離が近くなって、びっくりした。


「イオ?」

「シェリさまが怖い夢を見ないのを確認してから寝ます」


 一歩も引く気はない様子に、また苦笑が漏れてしまう。

 大体の部分ではとても良い子。優等生で真面目と言っていいだろう。

 しかし、よくわからない部分で彼女はとても頑なになる。

 その大半に自分が関わっていることに、シェリは気づいていなかった。


「そんなに見られたら、寝れるものも寝れないわよ」

「じゃ、子守唄歌います」

「えぇ……? さすがに、子供じゃないのよ」

「聖属性つき子守唄です。悪夢くらい払います」


 確かに、それは効くかもしれない。

 どうしても自分が寝るまでの間、離れる様子がないイオにこれ以上言ったところで無駄だろう。

 それに、少しだけ、ほんの少しだけ、他人に歌ってもらう子守唄が気になった。

 反論しなくなったシェリが同意したと取ったのか、イオは「目をつむってください」と言い、歌う気満々だ。


「おやすみ、イオ」

「はい、おやすみなさい。シェリさま」


 素直に目を閉じた。

 おやすみを言い合える存在がいるのは、心地いいーーなんて、綿あめの中に包まれたようなことを考えた。

 はっきりとみた夢は怖いくらい記憶に残っている。記録したり、分析したりするのは明日でもいいか。

 なんとなくそう思えた。

 すぐに聞こえてきた子守唄を耳に、シェリは久しぶりに悪夢を見ずにぐっすりと寝ることができたのだった。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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お返事なかなかできていませんが、感想もすぐに嬉しく読ませてもらってます。

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