27予知夢
「あんた、それ予知夢じゃないの?」
クロンのずばりとした物言いがシェリに響く。
息を飲み込んだ。シェリとて、その可能性を考えなかったわけではない。
「やはり、そうでしょうか……」
「そうでしょ、話を聞いてる限り」
「いつものシェリはんなら、最初に気づきそうなもんやけどなぁ」
クロン、セボと畳み掛けるように言われ、シェリは肩を落とした。
予知夢は聖女の力の一つとされている。
その内容や出方は聖女により違い、まるきり起こることを夢にみる者もいれば、抽象的な夢がそういう意味だったというものまである。
今、シェリが夜中に叩き起こされる夢は、抽象的なものに分類されるだろう。なんと言っても悪夢としか言えないのだから。
「予知夢……でも、特に何かが見えるわけではないの」
これがもっとはっきりしていたら、シェリだって予知夢だと判別しただろう。
それをしなかった、というかできなかったのは、予知夢だとすると報告の義務が出ることや予知夢の取り扱いが難しいことを知っていたからだ。
なんといって”予知”なのだ。未来を知るということは、とても危険であり、儚い。
予知夢を防ごうとした結果、別の事態が引き起こされてしまったなんてことはザラにある。
「とにかく、一度相談することをオススメします」
「そうよ。あんな意味不明な穴から帰ってきたのだから、新しい能力に目覚めていてもおかしくないでしょ」
寡黙なジャンヌと面倒見のよいクロンの二人ともから視線を受ける。
セボもニヤニヤと笑うばかりで、同意見のようだ。
逃げ場はない。ジャンヌはいつもクロンに関すること以外は言葉が少ない。そのジャンヌから、こうまで言われてしまうとシェリの逃げ場はなくなる。
競い合っているくせに息がぴったりなのはどういうことなのか。シェリは文句を言いたくなった。
この二人は、とても合理的なものの考え方をする。それがここ数十年で急激に大きくなった新興国の特徴なのかも知れない。
「イオはどうなの?」
彼女たち以外からも痛いくらい視線が向けられていた。それを少しでも逸らそうと話をイオに振る。
イオはシェリの隣にいたのだが、この話が始まってから強烈な視線を感じていた。
きっとまたシェリが無茶をしているとでも思っているのだろう。
「わたしは何も変わりありません」
「やっぱり、瞳の色が変わったのと関係あるんとちゃいます?」
視線を向ければ、真正面から返された。
それから、ゆっくりと皆へ向けてイオは答える。ふるりと小さく首を振って、少し申し訳無さそうな顔だった。イオが答える
そう、イオは特に何もなかった。あの穴から帰ってきて、様々なことを調べられたのだが、変化が見られたのはシェリだけ。
それもセボが言うように、瞳の色が変化するというものだった。
身体的変化が何によるものなのか、どんな影響を及ぼすのか。まだ調べている最中なのだ。
「そんなキレイなアメジストになりはって」
「シェリさまの青い瞳、とても綺麗だったのに……」
セボの視線が刺さる。褒めているのか、嫌味なのか。判断は難しいところだ。
元々シェリの瞳は濃い青だった。濃い青は珍しい色ではない。この国だと半数近くに見られる。
それが今は紫の色味を帯びていた。セボの言うようにアメジストが一番近いだろう。
青が紫に変化する。追加された色味は、赤だ。
「たまたまでしょ」
この赤色というのが問題で、セボが視線を鋭くする理由になっている。
この変化に気づいたのはイオが最初だった。シェリの瞳の色が好きだと言って憚らない彼女。
シェリ自身は言われるまで全く気づかなかった。
瞳の色は光の加減で色を変えるものだし、自分の瞳が変わっているなんて思ってもいなかったのだ。
「赤の瞳は、神の色って言うけれどね」
すっとクロンが近づいてきて、シェリの瞳を覗き込む。
同じくらいの身長だから、真正面から顔を見つめ合うような形だ。
クロンは人との距離が近い。パーソナルスペースが近いとでもいうのだろうか。
「ちーかーいーでーす」
「はいはい」
イオから見てもそれはそうだったようで。クロンとの間に彼女が割って入る。
クロンはすぐに身を引いた。
騎士に混じって訓練をしていたことも影響しているのかも知れない。
さすがに男性に対してこの距離になっているのを見たことはないが、学校の生徒相手にもだいぶ近い距離で接していた。
あの距離感はこの国には無いものだ。今だって、こんな近くに人の顔があることに、シェリは内心どきまぎしていた。
「なんや、あんま嬉しそうやありまへんな?」
「そうかしら?」
「予知夢なんて、聖女の中でもあまり出ない能力ですえ。シェリはんが聖女として力を持った証……もっと喜ぶかと思ってました」
セボの言葉に、なんとも言えない気持ちを抱く。
嬉しくないわけではないのだ。
聖女として力を持てたなら、それは間違いなく嬉しいこと。
それなのに、前のように喜べないのは。
「シェリさま、やっぱり、相談に行きましょう」
シェリとクロンの間に入ってきたイオが、そのままシェリを振り返り何度も言われた言葉を繰り返される。
彼女の場合シェリよりもだいぶ小柄なため、本当に下から見上げるような形になった。
心配ですと顔に貼り付けて見上げてくる視線は、子犬がうるうるとした瞳で見上げてくるような心象になる。
シェリはこの手の視線にとても弱かった。
「……相談してきますわ」
だから、そんなに見ないで。
そう願いを込めたのに、彼女には伝わらなかった。
こぼれそうになった言葉は、ため息に飲み込まれた。
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