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19討伐準備


「シェ……さ……」

  

 少しずつ、少しずつ意識が浮上してくる。

 ぼんやりとした世界の中、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「ん」


 まだ少し眠い。

 休みなのだから、もう少し眠らせて欲しい。


 (きょうは……やすみ、よね)


 今日は休みのはず。

 使い慣れた寝具の感触が体を包む。

 ゆっくりとまぶたをあげればまだ薄暗い。

 ベッドの上から見えたのは、イオだった。


「シェリさま、おはようございます」

「おはよう。相変わらず早いわね」


 この少女と一緒に朝を迎えるようになって、すでに数ヶ月が経過していた。

 その間、シェリが目を覚ましたときにイオが寝ていたことは一度もない。

 教会で身についた習慣だというが、教会を離れた時点で、それを続けているのはイオの気持ちになる。


 (見習わなければ……)

 

 貴族の生活というものは基本的に夜が遅く、朝が早い。

 それが、偉いということだと勘違いしている節さえある。

 ベッドから降りる。

 

「どうかしたのかしら?」

「いえ、シェリさまとお出かけできるなんて嬉しいなぁって」

 

 何が楽しいのかイオはこういうときでさえニコニコしていた。

 窓の外は薄い雲がずっと空に広がっていた。

 太陽のさんさんとした明るさはないが、白い空が反射しているように見える。


「今日は買い物に行くのよね?」

「ええ、その予定です。その、シェリさまは、せっかくの休日なので、ゆっくりしていても良いんですよ?」


 さっきまで笑っていたのに、今は悲しそうな顔。

 その顔でそんなことを言われても、ゆっくり休めるはずもない。

 胸の前で組まれた指は、人差し指同士がくるくると円を描くように動いている。少しだけ膝を曲げたような立ち方も自信がなさそうに見えた。


「行くわよ。あなたに必要なものを選ばなければいけないのだし」

 

 まだ頭の靄はとれない。

 眉間にシワがよるのが自分でもわかった。

 顔に出やすいのは、淑女として弱点だ。直さなければならない。

 わかっていても、治るものでもないのだ。


「一人でも買い物くらいできますよ」

「知ってるわ。これは、私のお節介よ」


 イオという少女は、話好きらしく、一緒の部屋にいるときは、その日をどう過ごしたのか、よく教えてくれた。

 彼女は週末を大抵、教会で過ごしている。

 今まではシェリの予定が入っていたりして、まともに動くことができなかった。

 今日は違う。きちんと予定を開け、イオのために準備をすると決めていた。


「今日は私も一緒に出るわ」


 ベッドから降りて、うんとひとつ背伸びをする。

 イオはすでに制服に着替えていた。

 自分だけ寝間着なのが、少し恥ずかしい。


「新しい聖女候補の偵察をしないとね」

「もうシェリさまったら」


 からかい半分に言えばイオは笑った。

 幸い、彼女は早めに起こしてくれたようで、朝のルーチンをこなす。その間、イオは部屋で大人しく待っていてくれた。

 いつもやってい分、しないと変な感じがするのだ。

 制服に着替え、二人で一緒に部屋を出て、廊下を歩く。


 (あんがい、悪くないわね)


 シェリは馬車を使うこともできたが、イオと同じように過ごしてみたかった。

 二人揃って歩いていくことにする。

 また、申し訳無さそうな顔をするから、肩をすくめるだけにした。



 ティーアの首都は、ティアルメニアという。

 黄金の街と評される町並みは美しいの一言だ。

 中心に王城があり、王城を囲むように円形に外壁が作られている。

 その南側を貴族街が取り囲み、さらに南側に平民の住む地区が広がる。

 街自体の外壁も円形になっており、端に追いやられた家や、庭が狭そうに歪な形になっていた。


「ゆっくりみると違うものね」

「歩いてみると、小さいお店があったりして、面白いんですよ」


 ニコニコ笑うイオに先導されるようにして歩く。

 とはいっても、貴族街の間はシェリのほうが堂々としていた。

 貴族が住む場所と平民が住む場所は王都を東西に区切る大通りで区切られる。

 ティアル大通りど呼ばれていた。南北の大通りはルメニア大通りだ。

 大通りに面するのは有名な商店や、高級な宿ばかり。

 そこから何件か中に入ると家々が立ち並ぶ。

 同じように家と言っても、貴族街の家は邸宅だ。一個一個が柵で区切られていて、門には門番がいた。

 平民は基本的に集合住宅に住んでいる。

 一軒家を持てるのは裕福な家だけだ。

 馬車だと一瞬で過ぎ去るそれらをシェリは歩きながら眺めていた。


「ここから平民街ですよ!」


 通りに並ぶのは、普段なら足を踏み入れることのない小さな店舗たち。

 入り口は一人が入れれば良い方で、二人がすれ違えるような扉はない。

 下手すれば体を斜めにしてすれ違わないといけないだろう。

 シェリは目を細めた。懐かしかったのだ。


「野外店舗も多いわね」

「野菜とか、マンデリンみたいな小さな果物は、収穫してきてすぐに売っちゃいますから、外にある方が便利なんですって」

「なるほど。いろいろ考えられてるわ」


 果物や野菜、お肉、串焼き。いちいち足を止めていたら、目的の場所につく頃には日が暮れてしまいそうだった。

 あちこちに寄り道しそうになるシェリをイオはただ見守るだけ。ついつい吸い寄せられてしまうが、自制する。

 ふと後ろを見れば、イオが年下の子供を見るような目で微笑んでいた。


「なに?」

「シェリさまが楽しそうでよかったです」

「……久しぶりだからね」


 否定もできず、少しだけ顔をそらす。

 照れ半分の笑顔を浮かべたらイオが少しだけ固まって、それから赤くなった。

 首を傾げて尋ねれば、「なんでもないです」と小さな声が帰ってきた。

 そんなことをしているうちに、買い物できる場所はだいぶ減ってきていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

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