16呪具と薬
ガサガサと音がして、シェリとイオは身体を振り向かせた。
シェリは鋭い視線を飛ばして、音のした方を見つめる。
「誰?」
声をかけて、しばらく返事を待つ。
ここは学園であり、警護も厳重だ。
だが、魔物はどこにでも出てくると便宜上言われていた。
実際はこの王都に魔物が出たことはない。
それは聖女の加護とされている。シェリは半信半疑だった。
「うちや、うち」
「セボさん」
ひょっこり顔を出した人物に肩の力が抜ける。
ニヤニヤとニコニコの中間の笑顔。
彼女はシェリとイオの二人を見て、その色を深めた。そして、後ろを振り返ると手招きする。
「こっちやで。ほら、急がんから、終わってもうたやん」
「あら、さすがね」
大きく肩を竦め、セボがクロンに愚痴を言う。
セボの後ろ、とはいっても、クロンの身長の関係で肩の上から顔を出すような形になった。
そのままシェリたちの周りを確認する感心したように頷く。
「シェリはんは仕事ができるんやから」
そのままセボが足を進めた。
後ろに続くようにゾロゾロと出てきたのは、セボたちだった。
まるで散歩しているような気軽さで、庭を歩いてくる。
授業は、と聞きかけて、なくなったのだろうなと察する
イオ以外、あの範囲の勉強は復習でしかない。
誰も気が入らなければブラン神官長は休講にするだろう。
「どうしたの?」
「皆さんにもご迷惑おかけし――」
少しだけ緊張した面持ちでイオが頭を下げようとする。
それをセボが慌てた様子で止めた。
「ちゃうちゃう。イオはんのことやないよ」
頭を下げるイオにセボは軽く手を振った。
そのまま肩に手を当てて頭を上げさせる。
イオはキョトンとした顔をしていた。
クロンが口元に小さな笑みを浮かべ、少し奥を指さした。
「ちょっと、面白いものがあるみたいなのよ」
「面白いもの?」
ピクリと眉が反応した。
彼女たちが言う面白いは、シェリにとってはトラブルでしかない。
説明を求めるようにセボとクロンの顔を見る。
「イオの危機にも動かなかったあなた達が、動くもののほどがあるのかしら?」
「シェリったらコワーイ。問題なかったんだから良いでしょ」
腕を組み詰め寄るシェリにクロンは動じず、微笑むばかり。
後ろに控えているジャンヌとサーヴァを見ても、答えは返ってこなかった。
静かに目をそらすばかりで、ただこの二人についてきたんだろうなと予想できる。
「野暮用やから気にせんといて」
「そんな言葉で見逃せるわけないでしょ」
ひらひらと手を振るセボの後ろについていく。
ここで見過ごすと痛い目をみる。
それをシェリは聖女クラスになって、かなり初期の頃に学習した。
「……もぅ、ほんま、シェリはんは堅いんやからぁ」
セボはそのまま奥へと進んだ。
迷うことなく足を進める。こうなるとイオのことも見ていたのではないかとさえ思ってしまう。
彼女だったらタイミングを測るくらいする。
その隣にサーヴァが近づくと、小さく耳打ちする。
この二人が揃うということは呪具絡み。
気を引き締めた。
「こちらになります」
「おー、これは久しぶりに良いもん見たなぁ」
美しい花壇の根本。まるでオブジェのように、それは置いてあった。
サーヴァが生い茂る枝を抑えてくれる。
ぞわりと嬉しくない感覚がシェリを襲った。
セボは対称的に嬉しそうな声を上げている。
「人払いの結界やなぁ。悪意があるものだけ入れる」
「はぁ? 私も普通に入れたわよ」
「もとから知ってる人には効果がないんや」
ひょいとセボは手を伸ばした。
構える様子もなく拳大の呪具を手のひらに乗せる。
右手の人差し指で軽くつつく姿は、まるで呪具を可愛がっているようだった。
「こっちも良いものを見つけたわ」
シェリたちのいる花壇の対面からクロンの声がする。
視線を向ければ、当然のようにクロンとジャンヌが連れ立っていた。
いつの間に取り出したのか、クロンの手には匂い袋のようなものが握られていた。
「これは興奮剤ね。イライラさせたいときにはピッタリ」
袋に鼻を近づける。ジャンヌがその様子を面白くなさそうに見ていた。
危ないことはして欲しくないのだろう。
呪具に興奮剤。
通常であれば、ありえない組み合わせだ。
「なんでそんなものが?」
「さぁ、どういうことなのかしらね」
にっこり笑うクロン。
言葉にしないだけで、その脳裏には様々な可能性が渦巻いているに違いない。
シェリでさえ考えられることが何通りかあるのだから。
「まぁ、いじめの発端は何にしろ、ここはいじめるには最適な場所になっていたわけや」
「こんな偶然あるんけないわよね?」
セボにクロン。呪具と薬物。
これだけ厄介なものが揃ってしまって、そのままにしておくわけないはいかない。
何より、これはイオを狙っている可能性が高い。
ティーア国の問題であれば、シェリが見逃せばまずいことになる。
「今すぐ、迅速に調査します」
ため息をこらえる。
やることが山積みに増えていく。
自分のこめかみをマッサージするようにシェリは頭を抑えた。
「そやなぁ、それがええ。でも……」
「誰が犯人かなんてわからない状況になったわね」
鋭すぎる一言にシェリは唇を噛んだ。
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