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3/6

アリス、学院にたどり着く。

 馬バスに揺られ、流れる景色に飽きてきたころアリスはついにたどり着く。トウ・ロヴァリス学院。広大な敷地に荘厳さすら漂わせるような巨大な建物がいくつもそびえていた。異種族和平のシンボルとしてふさわしい堂々としたたたずまいである。気の小さい者なら逃げ出したくなるほどの存在感だったが、しかしアリスは動じない。


「広いのね……」


 そんな独り言を言いながらキョロキョロする。アリスがまず向かうべきは女子寮だ。少し歩くと自分と同じ格好の少女がアリスの目に入った。すかさず声をかける。


「ごめんなさい。少しお聞きしたいの」


 女子生徒はじろりとアリスを睨むと無言で去っていった。アリスはキョトンとする。女子生徒は吸血鬼だった。日向からかけられた声に気分を害したのである。しかし大らかなアリスなので、さして気にはならなかった。


「聞こえなかったのかな」


 つぶやきながら手帳を開くと、アリスは顔を上げて再び歩き出した。




 アリスが白壁造りの女子寮を見つけるのに時間はかからなかった。一層華やかだったし、案内板もあったからである。アリスは身なりを整えると、玄関の呼び鈴をならした。


「ごめんください」


 パタパタと足音がし、ドアが開く。柔らかな笑みをたたえたふくよかな女性が顔を出した。


「はいはい。新入生ですね? 寮母のトンプソンです」

「トンプソンさん。アリス・リベラです」


 言い終わってからアリスはうやうやしく寮母に頭を下げる。寮母はリベラという苗字にハッとし、みるみるその顔を曇らせた。


「あ、ああ。リベラ……リベラさんね、ええ」


 うろたえる寮母の様子に、アリスは頭上にはてなを浮かべる。


「ご、ごめんなさい。その、こちらの手違いで……ここには部屋がないのよ」

「はい?」

「で、でも大丈夫よ! もちろん別に部屋を用意したから!」

「はあ」


 言うが早いか寮母は歩きだした。


「大丈夫よ。大丈夫。ついてきて」


 アリスは少しも目が合わないことを不思議に思いながらも、おいていかれないよう後をついていく。




 寮母に導かれるままアリスが案内された建物の外観は、ほとんど廃墟だった。怖がりな女子生徒なら涙を流しそうな様相である。そういった繊細な感覚を持っていれば、こんな場所をあてがわれるなど何かおかしいと気づけたかもしれない。ただ幸か不幸か、アリスはとにかく鈍感だった。特に、悪意に関しては。寮母はツタの絡みついた壁に取り付けられたドアを開ける。歪んでいるのかギイと大きな音をたてた。

 寮母と共にアリスはゆっくりと足を踏み入れる。にこにこしながら周りを見回すと、アリスは声を弾ませた。


「中は意外ときれいなんですね」


 寮母は俯く。アリスの声と対照的に重たく暗い寮母の声が響いた。


「ごめんなさい……ごめんね」


 アリスは寮母の方を向き、首を傾げる。


「じゃあ私は、これで」


 結局寮母は一度もアリスと目を合わせなかった。逃げるように寮母はドアを開く。


「あ、ありがとうトンプソンさん」


 その言葉には答えず、寮母は足早に去っていった。


「えーと、ここには別の寮母さんがいるのかしら?」


 誰に問うでもなく言いながら、アリスは階段へと歩いていく。その時彼女の背後で物音がした。音の方を振り向くと、アリスの目に覆面の男子生徒が映った。アリスはキョトンとする。


「こちら女子寮ですよ?」


 覆面男は懐から紙を取り出した。紙には『いますぐ学院から出ていけ』と書かれている。アリスはこの時やっと、自分が悪意にさらされていると気づいた。アリスの眉間にしわが寄る。


「いきなり何? 失礼じゃなくて?」


 覆面男にアリスと話す意思はなかった。もう一枚紙を取り出す。『さもなくば二目と見れない顔になるぞ』そう書かれた紙だった。覆面男は二枚の紙を床に落とし、今度は懐からナイフを取りだす。アリスの眉間のしわはどんどん深くなっていった。


「脅しのつもり? いやよ。絶対に出ていかない。私にはここでやることがあるの」


 覆面男は大げさに息をつくそぶりをする。と、次の瞬間にはアリスに向かって走り出していた。

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