プロローグ
きらびやかな夜会は一瞬時を止め、次にどよめきに包まれた。たった一人の少女、アリス・リベラの登場によって。
ここは吸血鬼と人間が共に通う名門教育機関トウ・ロヴァリス学院。その日行われていたのは新入生歓迎パーティである。学内の絶対権力者集団である生徒会による招待制の懇親会に集っていたのは、生まれた時から栄光を約束された名家の子息たちだ。彼らの話のタネは目下アリスのことであった。商家生まれでありながら新入生代表を勝ち取った天才特待生、それがアリスである。華々しい肩書を持つアリスだが、参加者の話題は彼女を称賛するものではない。その全てが彼女を嘲笑するものだった。田舎者、泥臭い、この学院にふさわしくない……口々に悪口を言い合うどろどろとした空間に、アリスは颯爽と現れた。銀の長髪を結い上げ、深紅のナイトドレスに身を包んだ彼女は、堂々と会場を横断していく。その眼力と迫力に、参加者は自ずと道を開けた。さも当然のようにアリスは壇上に上がっていく。パーティの司会進行を任されていた壇上の男子生徒はおろおろするばかりである。
「き、君。えっと……お、降りたま」
なんとかそう絞り出した男子生徒を、アリスは無言で制圧する。弱気にもごもごと言葉を吐き出す男子生徒を無視し、アリスは参加者の方に向き直った。
「人間の皆さんも吸血鬼の皆さんもごきげんよう。私はアリス・リベラ」
凛と澄んだ、しかし力強い声が会場に響き渡る。アリスはそこで一拍置いた。瞼を閉じ、そしてもう一度ゆっくりと開く。深い藍色の瞳が参加者を映していた。
「今ここに宣言します。私、アリス・リベラは!」
場内の目全てが彼女を見つめている。
「必ずブラッドスターになります」
それはアリス・リベラから学院への、宣戦布告だった。ブラッドスターとは毎年選出される学院最優秀生徒のことである。創立100年を迎える学院だが、歴代ブラッドスターに人間の女子生徒は一人もいない。もちろんアリスもそのことを知っていた。だからこそ、彼女は宣告したのだ。新たな時代を作り上げるのは他の誰でもない、自分であると。
BANG01第一回WEB小説大賞応募用作品。