1話 開幕
両親を早くに亡くし祖父母に引き取られた双子はパチパチと小気味のいい音のする暖炉の前で祖父の昔話を聞いていた。
「昔々のこと…私達『人族』は世界に存在する様々な種族と共存していたんだ。」
祖父は誕生日を次の日に控えた私達に昔話をしてくれた。
「その中でも我々の部族、星の民は星の動きや星座を研究し、自然と共に生きてきた。占星術や魔法を用いて自然界に干渉して見守るのが役目だった。」
祖父は天体魔術と呼ばれる小さな幻影の星たちを天井に映し出しながら寂しそうな顔をする。
星座だけでなく沢山の惑星が規則性を持って飛び回っている。
「でもそれが私達を残して最後になってしまったかというと、大きな隕石…メテオラが降ってくるのを止められなかったんだ。」
赤い隕石が部屋の隅から沢山の小さな星たちを巻き込みながら少しずつ大きくなって1つの星に向かっていく。
「天体魔術は幻影だけじゃなく、魔力、想像、知識を練り込み昇華させることで実体化させ無から有を作り出すことができる珍しい魔術。その魔術を使えるもの全員の魔力を1人に集約し落ちてくる隕石を空高くで破壊することで防ごうとした。」
「お祖父様も参加したの?」
「ワシは魔力が少なかった代わりに想像と知識は誰よりも抜けていたからの!ワシに集めることになったのじゃよ。」
「お祖父様すごい!!」
「じゃがな、魔力を集めるこの魔法は禁呪なんじゃ。使ってはいけない古の魔法。この世にある魔法の中でも飛び抜けて効果は高いが犠牲を生む魔法。それを隠し守っていくのも私達、星の民の使命なんじゃよ」
「怖い魔法だね…それでお祖父様達はどうなってしまったの?」
「結論を言えば私を含めた5人以外の族民を残し全員が命を犠牲にしたんじゃ。メテオラを砕く、ただそれだけのためにな。」
赤い隕石を上回るほどの大きな青白い閃光が一瞬光ったかと思うと完全に消滅した。
「でもな、あの時そうしていなければここに私達はいなかった。それどころか星ごと無くなってしまっていただろう。」
水の惑星アクア、それがこの星の名前だった。
「明日でお前達は6歳じゃ、もう魔法や知識を蓄え始めてもいい頃じゃろ。ワシが占星術、天体魔術とその知識を教えよう。ミリシア!」
「なんだガノン。夕飯はまだだぞ?」
厨房から現れたのは祖母であるミリシア。しわくちゃの祖父に対して不釣り合いな美女で20代にしか見えないが、耳の尖ったエルフ族で祖父よりも3倍は長い時を生きる長命種だ。
「明日からこの子達に戦闘技術と精霊魔法を教えてやってくれ。才があるかはわからんがこの子達は流星雨の中で生まれた子達じゃ、星の声を聞けるようになるかもしれん。少しでも長く生きて星の民の伝承を残していってもらわねばならん。」
「いいぞ。孫の事だ私が死ぬまで面倒を見てやろう。」
優しく見つめ合ってから、二人とも同じ動作でキョトンとしている双子を見る。
吸い込まれるような黒髪に藍色の瞳を持つ兄ララ、そして何にも染まらないくらい白い髪に紅い瞳を持つ妹クラリスを。