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7 とある伯爵2


 聖女候補の少女を引き取り一年。これといった出来事もなく、日々が穏やかに過ぎていく。

 伯爵家の養女となった二人の少女は性格が正反対で、けれども、とても仲が良く二人でこそこそ話しては小さく笑いあっている光景が日常になった。そこに双子が突撃し、さらに笑いがおきるといった賑やかな日々。

 彼女たちのおかげで、屋敷の雰囲気が華やいだと、みな微笑ましく四姉妹を見守っている。

 最近では姉たちに影響を受けたのか、双子の姉が剣術を、妹が礼儀作法などの淑女教育を頑張っているほど。

 元々平民であったルシアは活発な少女だったようで、礼儀作法よりも剣術に興味を示し、それを見ていた双子の姉のルティも、一緒になって剣術を習い始めたことが切欠だったような気がする。

 二人とも幼いながらも才能には目の見張るものがあり、将来がとても楽しみだ。

 元侯爵令嬢であったフリージアは、さすが高位貴族だけあったといえるほど佇まいが精錬され、幼いながら立派な淑女然とした少女だ。調査書によれば両親に愛されたいと、幼少期より頑張ってきたとあった。これはその結果なのだろう。

 本人の性格も相まって、動くことよりも座って学ぶことの方が性に合っているらしく、率先して学び家庭教師たちからの評価も良い。それに加え、知識欲が旺盛のため誰よりもどん欲に、様々なことを学び吸収していく。

 そんな見目が良く賢いフリージアに憧れ、双子の妹のレティは彼女をマネをするようになった。

 気づけば、仕草も性格も似た双子は、真逆の性格となり妻と一緒に笑ってしまった。

 何もかもがとは言えなくとも、少なくとも平穏な日常。小さな問題すら愛おしいと感じる日々に、三通の手紙が届いた。

 一通は馴染みの魔法具工房から、妻であるマリア宛に。恐らく両親が依頼していた物の試作品でもできたのだろう。

 あそこは魔法師に匹敵する実力者が揃い、他国の知識をも取り込み、日々新作実験に勤しんでいる変わり者たちばかりだ。しかしそれに準ずるほど画期的かつ実用的な魔法具を生み出す。

 マリア曰く、彼らにとって「変人」とは褒め言葉らしい。変人と言われて、初めて一人前だと言われた時には、一瞬言葉に詰まったほどだった。

 もう一通は、とある男爵家の令嬢の訃報を知らせるものだ。

 男爵家ではあるが光属性を持ち、聖女候補の一人だった。その令嬢が不慮の事故で亡くなったという。馬車で移動中落石事故に遭い、そのまま帰らぬ人となったという。

 詳しくは記載されていなかったが、確かあの男爵家が所有する領地の街道は落石事故が多発し、度々死傷者を出していた。資産の問題で整備が出来ずにいると耳にしていたが、まさかその落石で男爵令嬢が亡くなるとは。

 とはいえ、あれだけ多発していたにも関わらず、今まで男爵家の人間が無事だったことの方が奇跡だったのだ。記憶にある凡人を体現した顔の男にため息をつき、お悔やみの手紙を出すためペンを手に取った。

 お悔やみを書き終わり、ふう……と深々を息を吐く。王命でルシアを引き取ってから聞かされた、聖女候補たちの話を思い出す。

 現在確認されている聖女候補は五人。我がヴィーラン伯爵家のルシアと彼女の後に引き取ったフリージアの二人。領地を持たない王都貴族の子爵令嬢が一人と、王国有数の穀倉地帯を領地に持つ伯爵令嬢一人。そして今回訃報が届いた男爵家の令嬢一人。

 それが現在確認されている聖女候補だったが、今回のことで候補は四人になった――はずだった。

 かさりと乾いた音をたて、残り一通を封筒から取り出す。


「まさか聖女候補が出てくるとは……」


 マリアの話では、「乙女ゲーム」は主人公の他にライバル的な令嬢が四人登場する。

 彼女たち以外光属性は発現しなかったため、聖女候補は主人公を含めた五人で競われることとなるという話しだった。実際、彼女の話の通りの身分と人数だった。

 ただそれももう随分と変わってしまったがと、手紙をもてあそびながら皮肉めいた笑みがこぼれてしまう。

 マリアの話を元に、教会や侯爵家の悪事を暴き、本来の身分で登場するべき少女たちは身分を変え生活している。その影響は留まることを知らず、多くの貴族が余波をくらっている状況だ。

 半数の貴族は後ろ黒いことがあり、現在没落するかどうかの瀬戸際なのだから、マリアのいう「乙女ゲーム」なるものは随分と変わってしまっているのだろう。

 そんな中、候補の一人が事故死。その代わりのように別の候補が登場した。


「まるで誰かが覗き見でもしているかのようで、気分が悪い」


 手紙の送り主は王太子――――自分の幼馴染で君主から。

 内容は空から少女が降ってきたという突飛な話から始まり、違う世界から来たらしいこと、光属性であること、ガーナ子爵家に引き取られたことが書かれてあった。


「はてさてこの話。マリア達にどう話したものかな……」


 未来を少しでもより良いものに変えようとしている最愛の人の顔が、曇ることが容易に想像できてしまい、またため息を吐きだした。

 



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