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5 とある養女たち


 みなさん、こんにちは。庭師が手入れを欠かさない庭園にある東屋に、なぜか姉となった悪役令嬢と一緒にいます。ルシアです。


 天気がいいので外でお茶でもいかかですか?と専属侍女さんに言われ、のこのこ来た私はアホですよね。分かってます。前世も友人から「アホの子だよね」と言われていましたから。はい。

 天気もいいし、それもいいかもと東屋に来てみたら、一足先に先客がいました。先日養父が後見を引き受け養女となった「悪役令嬢フリージア」が。

 元侯爵令嬢だけあって、綺麗な姿勢と所作で優雅にお茶をしてるところに私がきた次第です。

 彼女も私がここに来るとは思っていなかったのか、目を瞬かせキョトンとした顔でこちらを見てました。それにしてもキョトン顔もお綺麗ですね。さすがゲーム屈指の美貌と言われていただけありますわ。うん。

 一端退却!と心で叫ぶも、後ろにはここに誘導してきた専属侍女さんがニコニコと笑みを浮かべて謎の圧をかけてくるから戻ることもできず、泣く泣くフリージアに声をかけてみることにした。


「……えっと、ご、ご一緒してもいいですか?」

「ええ……はい……」


 あ?了承しちゃうの? ここはご遠慮くださいが欲しかったです。

 戸惑いつつも許可をもらってしまったので、ぎこちなくも彼女の前に座ることにした。

 目の前のテーブルの上には、一人分とは思えない量のお菓子の山が。もしかしてこれ一人で食べるのかと驚いていると、仄かに紅茶の香りを漂わせカップが目の前に置かれた。


「僭越ながら発言をお許しください。お嬢様方どちらも先日の顔合わせ以降、あまり会話もなさらないことにご夫妻が心を痛めておられます。

ご養女になられ戸惑うことも多いかと思われますが、少しでも打ち解けられればと今回このような機会を設けさせていただきました。お互いを知ることから始めてはいかがでしょうか?」


 そう言うと専属侍女ビビは「お二人だけの方が話しやすでしょう」と言い残し、フリージアの侍女と共に離れていってしまった。

 いきなり二人っきりにされてどうすればいいの!?

 ものすごく挙動不審だったのだろう、目の前のフリージアから「そこのベルを鳴らせば来ますから、落ちついてくださませ」とフォローを入れられられてしまった。

 どうやら二人っきりにしたように見えただけで、会話の届かない所で待機しているらしい。貴族の会話には他者に聞かれるとマズイものも多く、人払いの意をくんだ使用人は会話の届かない所で待機するのだそう。

 そ、そういえば淑女教育の一環で先生がそんなことを言っていたような……。

 正直覚えることが多く、頭がパンクしそうであまり覚えていない。貴族って面倒くさくて堅苦しいんだなと心の中で悪態をつく。

 そして、今現在悪役令嬢フリージアと対面中というわけである。


「……こうして二人っきりで話すのは初めてですね。あらためて自己紹介をした方がいいのかしら?

私の名前はフリージア……今はただのフリージアです。前世は日本人でOLをしていました」

「ルシアです。……前世は私も同じ日本人で高校生でした」

「まあ! やはりあなたも転生者でしたのね!」


 同じ境遇の方とお会いできてうれしいです!と微笑まれ、うっ……と言葉を詰まらせてしまう。

 そんなに嬉しそうに微笑まないで! 美少女の微笑みは眩しいの!

 

「えーとフリージアさん?はいつ転生したと気がついたんですか?」

「どうぞフリージアとお呼びくださいな。同じ境遇の上、同じ家の養子になったのですから。それから言葉使いも普通でよろしいですわ」

「そ、そう? でもフリージアはお嬢様っぽいしゃべり方だし」

「私のはもうクセのようなものです。お気になさらず」


 どうしてだろう。一瞬だけフリージアの表情が寂しそうに見えた気がした。気のせいかな。

 

「……わかった。それでフリージアはいつ転生したって気がついたの? ちなみに私は4歳ごろだったかな。擁護院で暮らしているときだった」

「私はあなたと顔合わせしたときですわ。目の前に見たことのある方が現れて驚いてしまって、固まっていたらあなたが「悪役令嬢がいる」と呟かれてそれでストンと」

「ス、ストン……」


 今まで自分と同じく転生した人と会ったことはなかったから、なんとなく自分だけなんだろと思っていたけれど、まさか私を見て転生に気がつくだなんて。

 しかもストンってなに。そんなすんなり入るものだったけ?

 思い出した当時の自分の混乱ぶりがアホっぽい。いやあの時は、寂しさと孤独でそれどころじゃなかったんだけどね。

 思いだしてからは自分の置かれている状況把握と環境改善に努めてたから、ここがどんな世界かなんて気にも留めてなかったし。


「でもまさか、転生先が乙女ゲームだとは思いませんでしたわ。使い古された設定をわが身で体験するとは何とも不思議なものです」

「そ、そう!それ!私も思った! でも何かが少し違う世界みたいで、戸惑うことばっかり。

確かにここは、乙女ゲーム「アルスロメリア」の世界に間違いないはずなのに、知ってる世界観じゃないというか……。私の置かれている状況なんてゲーム設定とまるっきり違うし」

「私の生家と教会の件もそうですわ。本来、教会の腐敗は第二王子ルートで発覚摘発されるはず。生家の侯爵家の悪事も共通ルートで発覚するはずです。

ですが実際は、既に教会の腐敗摘発ならびに侯爵家は没落。……どなたかが意図して動いたとしか思えませんわね」

「どなたって?」

「それは私にもわかりませんわ。判断する材料がまったくありませんもの。それに私たちはまだ子供で、知る機会もありませんし」


 確かに。私たちはまだ7歳と8歳だから世間の話に触れる機会はそんなにない。

 擁護院で暮らしていた時ですら、大人たちは子供に聞かせる話じゃないと話題にすら取り上げなかった。ただただ健やかに成長を見守る優しい場所だった。

 それに暗躍している人が自分がやりました!なんて宣言するはずもない。つまりこの疑問が解決する機会はないってこと。気になるけれど、どうしようもない。

 

「この疑問が解決する日ってくるのかな」

「さあ?どうでしょうか。……もしかすれば、八年後に明かされる日が来るのかもしれませんわね」

「八年後か……もう既にゲーム崩壊してるし、来るのかなぁ」


 八年後。私が15歳になり、やっとアンクレットの魔法具が取れるころ、このゲーム世界はどう変わっているのかちょっと不安で楽しみかもしれない。




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