表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/30

3 とある没落令嬢

1/3 誤字修正。

誤字報告ありがとうございます。


 数代にわたり王家から王女が降嫁されるなど、歴史と由緒ある侯爵家の娘として生まれ落ち、早八年。

 政略婚の両親から愛情が得られない代わりに、使用人たちに愛され、病気もすることなく、ここまですくすくと育ったと思います。

 父親である侯爵は、私が生まれたという報告を賭場場で聞いていたくらいのギャンブラー。母親である侯爵夫人は、跡継ぎは産んだのだから義務は果たしたとして、数人の愛人を抱え込み遊興に耽る日々。

 そんな両親を見て私が思ったのは、愛してくれる存在が傍にいて欲しいでした。

 でもそれは叶わない夢なのだとも、幼心でも分かっていました。

 私は唯一の侯爵家の跡取り。婿を取り、さらに家を盛り立てていなかければならず、愛情などは些末なことだとなのだと。

 使用人以外との交流もなく、寂しさを募らせる私の転機は二年前のことでした。

 毎年両親不在で使用人が細やかなお祝いをしてくれる誕生日。その日もいつものように細やかなお祝いをして、心のこもった料理でお腹を満たし一日が終わるはずでした。

 しかし、その日、私の魔法封じが解けたのです。家庭教師に教えてもらっていたので、不安も混乱もありませんでした。

 それよりも、魔法が使えるようになったのなら、少しも私に興味を持たない両親でも、気に留めてくれるのではとさえ思っていたのです。

 私の願いは見事叶い、両親は私を褒めてくれました。私に興味を持ってくれました。それがどれほど嬉しかったでしょうか。今まで一度も名前を呼んでくれなかったというのに、二人とも上機嫌で名を呼び「お前は凄い」と言ってくれました。

 屋敷にいる日も多くなり、顔を合わせる時間も長くなり、私はこれからもずっと二人が屋敷にいるものだと思ったのです。温かいとはいえなくても、家族でいられるならそれでよかったのです。

 

 私の属性が光で魔力量が多いため、聖女候補になったことで得られた偽物の幸福でも。




 ガシャン!とワイングラスが派手に砕け落ち、絨毯に嫌なシミが出来たのを扉の隙間から覗き見えました。


「もうおしまいだ!アイツらこの私を道連れにしやがった!」

「それは一体どういうことですの!?」


 お父様の叫びにお母様が叫んでます。

 二人とも顔立ちは整っているはずなのに、お父様は憔悴し顔色が悪く見る影もありません。お母様は綺麗な顔を悪鬼のように歪め、本当に鬼のような形相でお父さまに詰め寄っています。


「アイツらだ!教会のヤツら、保身のために私を!」

「だから一体どういうことですの!?」

「……お前も知ってるだろう、三年前にあった教会の醜聞騒ぎ。その調査で王宮から呼び出された。人身売買をしてただろうってな」

「じん……っ!? まさかあなた……!」

「ああ、そうさ! 領地内の子供を売りさばいてたのさ!教会内の出来事だからうまくやれる、買値の半分はやるっていう約束でな!」

「なぜそんなことをしたのです!? 侯爵家の財政は潤沢のはずではなかったのですか!?」

「それも昔の話だ。今の侯爵家にそんな金はない」

「昔って……。ほんの十年前まではあったのに、そんなに早くなくなるものですか!

あ、あなたのギャンブルで消えたのだわ!そうよ!それしかないわ!」

「お前だって愛人たちに貢いでいただろう!あの資金も私が売りさばかなければ、得られなかったんだぞ!」


 何を言い争っているの。

 こわい。聞いちゃダメ。だってまさか、お父様が人身売買になんて……。

 ガガタガタ震える身体を抱きしめ、なんとか足を動かし自室に戻ると頭からすっぽりと布に包まり目をきつく閉じる。

 偽りの幸せもいいと思ていたのに、その幸せも誰かの犠牲で成り立っていたなんて。

 擁護院の話は聞いたことがあります。経済的な事情で育てられない子や、親を無くした子が身を寄せ合って暮らす所で、教会が運営している所だと家庭教師が教えてくれました。

 その時は、私のような小さな子たちが大勢いいるのだろうなと思った程度でした。

 そんな子たちをお父さまは自分たちのために売っていたなんて……。

 こわい。これからどうなるのだろう。お父様は? お母様は? 私は? 使用人のみんなは? それに売られてしまった子たちは? 

 私は一人布に包まり震えることしかできず、翌朝まで震えていました。


 その後、正式に王宮の調査が入りお父様は捕らえられ、お母様は離縁の上でご実家の伯爵家に戻されました。

 侯爵家には私がいるものの、まだ子供ということで爵位は継げず、醜聞にまみれた侯爵家の令嬢を後見をする物好きな貴族も現れず、侯爵家は奪爵。使用人にはあらたな職を斡旋され、侯爵家から出ていきました。

 奪爵されたので当然領地もなく、私はどこにも身を寄せることが出来ず、結局擁護院に行くことに決まりました。

 お父様が悪さをしてたところではありませんが、擁護院は擁護院なので、肩身が狭く思います。しかも同年代の子と交流がありませんでしたので、どうしても皆の輪の中に入ることが出来ずにいました。

 結果私はいつも一人で本を読んだり、先生の手伝いをして過ごすことになったのです。

 光属性であり魔力量も多いことから、聖女候補から外されることはありませんでしたが、もう侯爵令嬢ではない私は、このまま擁護院で過ごすか聖女に選ばれ教会に所属することになるのだろうと思っています。

 それがどうでしょう。こんな私に二度目の転機が訪れました。


「私が伯爵家へ……ですか?」

「ええ。貴女は聖女候補なのだから、きちんとした後見人が必要ではないかと伯爵様が申し出くださってね。貴女さえよければという話しなのだけれど……。どうかしら?」

「もし仮に、私がイヤですと言えばお断りすることはできますか?」

「それは難しいかもしれないわね。伯爵様のおっしゃる通り、貴女には後見人が必要だと思うし」

「後見が必要なのであれば、没落した時名乗り出てきたはずです」


 そう。あの時名乗り出てきたはずなのに、なぜ今更なのでしょう。

 それにやっとここでの生活も慣れて来たというに、離れるなどできるはずなどありません。

 不満が顔に現われてしまったのか、先生は苦笑してます。


「言い方は悪いけれど、悪名高い侯爵家のご令嬢を後見するより、平民を後見する方が良いと判断なされたのでしょう。

あのまま貴女の後見人に名乗り出てしまえば、伯爵様にもあらぬ疑いがかかってしまいかねませんでしたからね」

「それは……そうですが……」


 一度平民に落ちてしまっても、出自は変えようがないのでは。


「それに伯爵様の所には、平民の聖女候補の方がいらっしゃるそうなの。養女になされたそうなのだけれど、どこか遠慮しがちで一線を引いてしまっているのですって。

貴女にはそのご令嬢の遊び相手と、貴族令嬢として見本になって欲しいそうなの」

「……それは力が一点に集中し過ぎではありませんか?」


 一貴族に聖女候補が二人。今まで聞いたことがありません。

 聖女を輩出した家はその後、繁栄しています。お家繁栄のために、聖女候補たちを集めているように思えてなりません。

 悪事に手を染めたお父さまのようで、胸がむかむかしてきました。


「ふふ、その点は心配いらないわ。ご令嬢は王命で養女になったらしいの。その条件が聖女で得られる権力の放棄なのですって」

「……」


 それは出来た方なのか、ただの考えなしなのか判断に迷います。

 話を聞いて、それでもここを離れる決心がつかない私に、先生は一週間考えて結論を出しなさいとおっしゃってくださいました。

 一週間後、伯爵様がお見えになり顔合わせするとのことです。

 一週間……。考える期間を頂けただけありがたいと思うべきですね。貴族ならば有無を言わず連れていくことも出来たのですから。

 私は頷くだけにとどめ、その日は他に変化はなく終わりました。


  そして一週間後、金髪の伯爵様と面会し私は擁護院をでました。




 案内された屋敷は、以前住んでいた侯爵家より小さくて、でも擁護院より数倍大きいものでした。

 私の引き取り先は、魔法騎士を多く輩出しているヴィーラン伯爵家。今代当主は年若く次期魔法騎士団長の呼び声高い方です。

 その奥様のマリア様は、魔法師を多くは多く輩出している家柄で、ご本人も優秀な魔法師でいらっしゃいました。

 そこで私はなるほどと、納得したのです。

 聖女候補は魔力が多いことが前提で、それを制御し自在に操ることが求められます。

 基本は候補として認められると、家から通いで教会に赴きそこで魔力制御を学びます。

 しかし現在、教会はあまり機能していなく、また今代聖女様も王家預かりとなったことから、制御を学ぶ場所がなく候補たちは家に魔法師を招き制御方法を学んでいるのです。この魔法師も、王家が認めた光属性魔法師なので安心して学ぶことができるのです。

 この状態は、教会の体質が改善されないかぎり続くのでしょう。


「お嬢様をお連れ致しました」


 執事の方に連れられ、最近養女となったご令嬢が入室されたようです。

 前は貴族と言えどいまは一平民。頭を下げ上位貴族に対しての礼を通る。


「あの顔を上げてください」

「失礼します」


 許可をもらい一拍間を置き顔を上げる。目の前には金髪紫眼の可愛らしい女の子が座っています。

 それを目に入れた瞬間、ひゅっと口から息がこぼれたのが分かりました。

 この少女を知っています。私の記憶にあるのはもっと成長した姿であるものの、この姿は紛れもなく乙女ゲーム『アルスロメリア』の主人公。

 言葉もなく固まる私の目の前には、同じく固まる主人公が。

 そして小さく呟いたのです。


「悪役令嬢がいる……」と。


 どうやら主人公にも前世の記憶があるようです。

 ですがファミリーネームが違いますし、彼女の置かれている立場さえ違います。そして私の置かれている立場も。 

 一体どういうことでしょうか……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ