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2 とある平民の少女


 私の人生、山あり谷ありなのかもしれない。



 普通の平民の両親の間に生まれ、貧乏じゃないけれど裕福でもない普通の生活。それが変化したのは、4歳になるかどうかという時だった。

 行商をしていた父が落石事故に遭い死んだあと、しばらくして母もまた病気で相次いで死んでしまった。両親に身よりはなく、私は教会が運営している擁護院に行くことになった。

 その時のことをあまり覚えていないけれど、私は両親を恋しがって毎日泣いていたらしい。お父さんはどこ?お母さんはどこ?と聞いて回る幼女に、周りは同情しなにくれとなく構ってくれたそうだ。

 そんな私は、ある日を境に両親を求めて泣くことをピタリと止め、周りに溶け込もうとし始めた。

 周りは両親の死によるショックで、自己防衛が働き記憶が飛んでしまったのだろうと言っていたけれど、それは本当で少し違うと私だけは知っている。

 確かに幼かった私は両親がいないことが寂しくて、死んだと言われても理解できず捨てられてしまったのだと思っていた。寂しくて寂しくて、こんなに寂しならいらないとすら思っていたくらい、心が壊れそうだった。

 そして、唐突に思い出した。

 私の前に”私”がいたことを。それはきっと前世の記憶と言われるものだと思う。

 壊れそうな心を護るため、奥底で眠っていた”私”が呼び起され、代わりに幼女の私は奥に沈んでいってしまった。

 その日から、”私”は私になった。

 意識が変わってから、私はこの世界に馴染もうと動き始めた。前の人生では大人になる前に死んでしまったから、まず目指す目標は大人になるまで生きる事に決めた。

 そして一人で生きるには世知辛い世の中を生き残るため、周囲に味方を作ること。手に職を持つことにした。

 そこで驚いたのは、”私”が生きていた世界ではない事だった。

 まず知らない国名。周りは西洋人のように彫の深い顔や、見慣れた黒色だけじゃない様々な色合いの髪や目の人間たち。

 電気はなく、魔法石と言われる特別な石を使った魔法具がちらほらと見受けられ、ごく当たり前に使われていた。

 それになによりも、一番に驚いたことは魔法が支配するこの世界。

 私の住んでいる国は誰もが魔法を使え、その力を利用し働いていた。そういえば、かすかにある記憶の中の両親も魔法を使って行商や家事をしていたと思い出し、ものすごく心が躍った。

 だって、前の世界は魔法なんてファンタジー要素の欠片もない所だったから。

 私も使いたいと擁護院の先生に言うと、大きくなったら使えるわよと優しく言われ、早く大きくなりますようにと毎日聖クラリアス神に祈っていた。

 もとの精神は大人びていても、どうやら身体に引きずられて幼くなっているらしかった。

 そして三年後の、7歳になった誕生日。突然私は魔法が使えるようになった。周囲を巻き込み爆発させるというおまけ付きで。





「どうぞお嬢様」

「えっと……」


 突然知らない男の人に連れてこられ、すごく大きなお屋敷に来た私は通された部屋でなぜか食事を貰っていた。

 マナーなんて分からないからどうしようと困っていると、エントランスで黒髪の女の人にカリードと言われていた男の人がマナーは気にしなくていいと言ってくれたので、言葉に甘えてゆっくりとスプーンでスープを掬い口に運ぶ。

 程よい温かさと、ほんのりと甘さのあるコーンスープに人心地く。

 ここに来る前にいた離宮という所は、マナーがなっていないと支給している人に言われ続けあまり食欲が湧かなかったから、ろくに食べていないのだ。

 あの日、魔力の暴走で擁護院を爆発させてしまった後、調査に来た王宮関係者という人に連れられ、お城の外れにある離宮という所に訳も分からず住まわされることになった。

 私を連れて来た人の話では、私の魔力封じというものが自然解除されたとき、魔力量が多くて溢れ出た力で爆発が起きてしまったらしい。

 そんなの知らないと言う私に、魔力封じのことを教えてくれた。そこで私は擁護院の先生の大きくなったらという言葉の意味を知った。

 それからその人は、擁護院のみんなの話もしてくれた。幸い爆発には誰も巻き込まなかったけれど、院は全壊してしまい、今は別の擁護院に移っているらしい。

 みんなの家を壊してしまったと青ざめる私に、その人は怪我人もいないのだから気にするなと、気遣いなのか無神経なのか分からない言葉をかけて、部屋を出て行ってしまい、私はさらに罪悪感で項垂れてしまった。

 そしてその日から、私は離宮から出ることも出来ず、ずっとそこで生活していた。

 今日の朝までは――――。


「お気に召しませんでしたか?」

「え? だ、ダイジョウブです。あ、でも、ごめんなさい……こんなに食べるの久しぶりで残しちゃうかも……」

「さようですか」

「えっと……ごめんなさい」

「いえお気になさらずに。食べられる分だけでも召し上がってください」

「はい」


 スープのおかげで少しだけ食欲が湧いてきたかも。

 少し小さめにカットされてるサンドウィッチを恐る恐る手に取り、一口食むと仄かにハムの塩気がした。これおいしい!

 気がついたら、小さなお皿に乗っていたサンドウィッチ全部を食べきっていた。

 いつの間に!

 ああ、でもお腹いっぱいでどこか満足感さえある。


「すべて食べきれたようでようございました。お口に合いましたか?」

「は、はい! どれもすっごく美味しかったです!」

「ありがとうございます。あとで料理した者にも伝えましょう」

「はい、おねがいします」


 美味しものでお腹が満ちた私が元気にお礼をいうと、カリードさんはにっこりと笑い返してくれた。

 擁護院を出てから、訳も分からず軟禁され冷たく扱われていた私の心にポワリと温かい気持ちが広がる。院で先生が褒めてくれた時のようなそんな温かさ。まるで孫を見守るおじいちゃんみたい。

 カリードさんはそんな私を、目を細め慈しむように見ていた。何がそんなに嬉しんだろう。

 微笑むカリードさんに首を傾げながらも、問うことはできずモジモジするしかできなかった。


「お食事中失礼します。デザートをお持ちいたしました」


 そんな私たちのいる部屋に、軽いノック音と若い女の人の声がかかった。

 知らない人の声に、思わず肩が震える。


「入りなさい」

「失礼します」


 カリードさんの短い声賭けに、お仕着せの若い女の人が入ってきた。

 たぶん13、4歳くらい。可愛い顔をしているからすっごく似合ってる。theクラシカルメイドさんって感じ!

 そのメイドさんは小さなカートを押して入ってくると、私の傍で止まこれまた小さなグラスに入ったアイスを出してくれた。


「ア、アイスだ……!」

「おや、このスイーツを知っておられるのですね」

「あ……ッ」


 やっちゃった!

 アイスなんてもの擁護院では見たことなかったし、もしかして珍しいものなんじゃ。

 固まる私にメイドさんは気にすることなく支給し始めていく。待って!すごく若いのに堂々としすぎでスゴイ!


「最近流行りだしたスイーツです。向こうにお住まいだった時、召し上がったのではないでしょうか」

「ああ、そうでした。お嬢様は離宮にいらっしゃったんでしたね。なるほど」


 私が離宮にいたというのは、二人供知っているらしい。どうやらそこで食べたことがあると思ったみたい。

 実際には、向こうでの食事は豪華だったものの、こういったデザートは出てこなかった。アイスを知っていたのは前世の記憶によるものなんだけど、こればかりは話せない。

 とにかく、この世界に生まれてから甘い物なんて二、三回しか口にしたことなかったからこれは嬉しい。

 感動でプルプル震える手でスプーンを取り、少なめに掬うと口に放り込む。


「ん~!」


 冷たくて甘くておいしい!

 感動を押さえきれず、頬っぺたを押さえる。この味!懐かしい!少量しかないし、ゆっくり味わなくちゃ!


「おいしそうなの」

「わたしたちもほしいの」

「え……?」


 二口目とアイスを掬い、いざ!と口を開け固まる。

 小さな子供の声が二人分聞こえたの気のせいじゃないよね。この部屋には私とカリードさん、メイドさんの三人のはずなのに。オバケでもいるの?


「まあ! ルティ様、レティ様!いつの間に!」

「マオ時間になっても来なかったの」

「マオ見つけたから追いかけたの」


 メイドさんの名前はマオというらしい。マオさんは驚きと戸惑いで顔が引きつってる。そのマオさんの視線の先には、金髪で緑の眼のお顔がそっくりな幼女二人立っていた。

 テーブルよりも背が低かったから、気づかなかったけれど、随分と私の近くにいてもう一度私も驚くはめになった。

 え?双子?


「おやおや、お二人ともお夕食までお部屋にいてくださいと申しましたが」

「暇だったんだもの」

「もうすぐ時間だったんだもの」

「だからといって、ノックもなく返事も聞かず勝手に入ってはなりませんよ。お客様も驚かれてますでしょう?」


 大きな声で叱るでもなく、優しく諭すようにカリードさんが言うと、本当にそっくりな双子は互いに顔を見合わせ、私の方に向き直った。


「お客さまごめんなさい」

「お食事中しつれいしました」


 頭を下げ謝ってくる双子に、どうしていいのか分からずただ私は固まるだけ。

 ぽとりとアイスが溶け落ちたのにも気づかなかった。


「さあさあ、分かったのでしたらお部屋にお戻りください。お客様のお食事を邪魔してはいけませんよ」

「でもマオ。お客さまも一緒に夕食するの」

「その方がもっとおいしいの」

「そうですね。ですが、今日のお客様はこの後もご予定があるので、無理強いをしてはいけません」

「「わかったの」」


 マオさんの言葉に双子はもう一度顔を見合わせ、同時に頷いた。さすが双子。


「カリードさん、私はお二人と退出してもかまいませんか?」

「はい。もうすぐカイエ侍女長も来ると思うので大丈夫です。それにお二人の言う通り、もうすぐ夕食の時間ですからね」

「ありがとうございます。それでは、申し訳ありません。私はこれで失礼いたします」

「あ、はい……!」


 そう言うとマオさんは双子の背を押し、部屋を出て行ってしまった。

 まるで嵐のような出来事に茫然としている私に、カリードさんが「お騒がせしました」と眉尻を下げ謝ってくる。それがますます困惑させ、言葉にならない呻きのような声を出してしまった。


「うぇ……!?」

「あのお二方はこの伯爵家のお嬢様方なのです。どうやらマオの後をつけてきてしまったようで」

「伯爵家……?」

「はい。旦那様よりお聞きになってはおりませんか?」

「……」


 わからない。聞いたような気もするし、聞かなかったような気もする。

 今日突然、離宮から連れ出され、あの金髪の男の人に引き合わされたから。

 離宮の世話役の人が何か話してたような気がするけど、またどこか連れていかれると思って頭が真っ白になってたから碌に頭に入っていないのかも。

 またこんな生活をするなら、擁護院でみんなと一緒に暮らしたいとぼんやりと思っていた。贅沢は出来なかったけど、みんな優しくて楽しく暮らしていたんだもん。


「どうやら何かの行き違いがあったようですね。

……お嬢様、後ほど旦那様とお会いされることになっているので、その時に旦那様より詳しい説明がなされると思います。それまで不安でしょうが、少々お待ちくださいませ」

「はい……」


 さっきまでキラキラ輝いて見えたアイスが、いまはただの溶けた白い塊にしか見えず私はそっとスプーンをテーブルに置いた。

 なんだか微妙な雰囲気になってしまったな。食欲も無くなっちゃったし、どうしよう。

 その時、またノック音した。マオさんが来たのかと思えば、今度は年配の女の人だった。確かエントランスにいたカイエという人だったはず。

 茶色の髪をひっつめて、マオさんよりも威厳ある佇まいでメイド服を着てる。きっとマオさんや他のメイドさんたちを纏めるエライ人なんだろう。


「失礼します。お嬢様の入浴の準備が整いました。それとカリード様、旦那様がお呼びでいらっしゃいます」

「分かりました。それではお嬢様、こちらの侍女長のカイエが身支度をお手伝いいたしますので、彼女の後についていってくださいませ」

「え……?」


 カリードさん一緒に来てくれないの? どうしよう、こわい。

 恐る恐るカイエさんを見上げる。無表情で私を見下ろしていて、身体が飛び跳ねた。


「怖がることはありませんよ。こう見えて優しい方ですからね」

「はい……」


 カリードさんが好々爺の雰囲気に対して、カイエさんは高圧的な家庭教師って感じで優しさの欠片も見受けられないんだけど。


「ではお嬢様、こちらです」

「は、はい……っ」


 声も事務的で硬質な音に聞こえてくるのは、これも気のせいなのかな。

 ビクビクする私に、カイエさんは表情を変えることなく先導していく。パタンと扉が閉まる音がイヤに耳に残った。

 


 流されるまま入浴と真新しい洋服に着替え、綺麗に身支度をされた後通されたのは、食事をしていた部屋よりも上質な空間だった。

 どの調度類も品が良くセンスが光る。なんだか空気すら違う気がしてきた。

 ここに来る前にカイエさんから、私の入浴中、ここの家主さんが私について家族や使用人に説明していると教えてくれた。いきなり子供が来て混乱がないようにということらしい。

 どうやら、カリードさんさんとカイエさんが私のことを「お嬢様」と呼んでいることも関係してるみたい。ずっとお嬢様呼びだったから気になってたんだけど、中々聞けなかったんだよね。

 今この部屋にいるのは、私をここに連れて来た金髪の男の人と、その隣に黒髪の女の人。さっき会った双子の姉妹。そして、その四人はソファーに座っていた。

さっきぶりのマオさんとカリードさんは壁際に控えるように立っていて、あきらかに使用人然としている。少し前まで気安く話していたのがウソのようにすまし顔だ。


「やあ少し落ち着いたかい?」

「は、はい!」

「うん、緊張しなくてもいい。どうぞ座って」

「し、失礼します」


 金髪の男の人に促され、ガチガチになりながらソファーに座る。

 対面には金髪の男の人と黒髪の女の人の二人。カリードさんたちが壁際に控えているのをみれば、この二人が主だと思っていいんだろう。双子は右側にあるソファーに行儀よく座っていた。


「あらためて自己紹介でもしようか。私の名はエリウス。このヴィーラン伯爵家の当主をしている。隣にいるのは妻のマリア。そこの双子は私たちの娘でルティとレティだ。

カリードから聞いたが、君はここに来た経緯を知らないそうだね」

「す、すみません……!」

「別に責めてるわけじゃない。あの状況じゃ聞いてる余裕もなかっただろうし仕方ないさ」

 

 確かにあの時は聞いてる余裕もなかったけれど、でも知らなっかったじゃすまされないくらいの好待遇でここにいることくらい理解してる。だから本当はちゃんと聞いてなきゃいけなかったんだ。

 どうしよう。何を言われるのかな。対面の夫婦の様子を窺うと、二人は対照的な表情だった。

 肩を竦めて苦笑してみせるエリウス様と、真顔で私を凝視するマリア様。エリウス様は私に好意的みたいだけど、マリア様は戸惑いなのか不快からくるのかピクリともしてない。

 可愛らしい顔立ちだから、真顔でみられると人形の様でちょっと怖い。


「さて今度は君の名前を教えてくれないか?」

「……ルシアです」

「年は?」

「今年で7歳になります。……出身は擁護院で、両親は4歳のころに亡くなりました」


 真顔のマリア様が怖くて、テーブルに視線を落としながら答える。声が少しかすれて聞き取りずらいかもしれないけど、許して欲しい。

 とにかくエリウス様の問いかけに、とつとつ答えていくのにやっとだ。

 離宮にいた理由については分からないと答えたし、自分の魔力のことについても分からないとしか答えられなかった。

 だって誰も教えてくれなかったから。ただ魔力量が多くて爆発させたという事実だけしか知らされていないと正直に答えると、エリウス様は頭を押さえ「あのバカが!」と呟いていた。


「何も知らされなくて不安だだろう。……君が離宮にいたのは、君の魔力量が膨大だったこともあるけど、属性が貴重だったからなんだ」

「ぞくせい……?」


 よくゲームとか漫画とかに出てくる、魔法の種類だよね。それで私の属性が珍しいからあそこにいたのか。私の属性ってなんだろう?

 エリウス様曰く、私は光属性でこの属性は珍しいらしい。そしてこれだけ魔力量が多いのも珍しく、また暴走の恐れもあることから保護の意味であそこに移された。

 そういえば、あそこに初めて行った日に足にアンクレットみたいな鎖をつけられたっけ。

 それを言うと、どうやらこのアンクレットは魔力を抑え込むもので、私の身体が成長して、魔力量に耐えられるようになれば外されることになっているらしい。

 だからそれまでは、邪魔だろうと外すことはできないそうだ。

 そしてここからが本題。なぜ私がここにいるのか。どうやら王命で私を養女として引き取り、保護するように言われたという。

 ヴィーラン伯爵家は代々魔法に精通しているし、騎士家系でもあるでの保護をしつつ魔法制御を教えこむのが目的と教えてくれた。

 だからお嬢様と呼ばれ、あの好待遇だったのか。離宮で保護された時もかなりの好待遇だったけれど、あそこは軟禁状態だったし、世話役の人は態度が最悪だったからかなりの差だ。

 王家よりも伯爵家の方が待遇がいいってどういうこと。


「そういうわけで、君は今日から私たちの娘になる。よろしくルシア」

「えっと、理由は分かりました。ただの平民の私じゃ、拒否権なんてないのも分かっています。

でも、その……エリウス様はよくても、奥さんのマリア様が不愉快なんじゃ……」


 いきなり見ず知らずの平民の娘を引き取り養女になりますなんて、私だったらちょっとどうしたらいいのか困って距離を置こうとするかも。

 まだ怖くて視線を下げたままの私に、「一つだけ」とマリア様が強張った声で言った。


「一つだけ教えてくれますか」

「は、はい!」

「……あなたのその髪と目の色はご両親譲りとか。ご両親の容姿はどのような?」

「両親ですか……。えっと父は金髪で目は青でした。母は茶色の髪に紫の目をしてました。

もし確認が必要なのであれば、擁護院の先生に聞いてもらえれば。先生と両親は古い知り合いだったそうですから」

「そ、そう……。よかった……」

「え?」


 なにが良かったのか分からず、顔を上げるとマリア様の顔いっぱいに安堵が広がっていた。それがまたなんでなのか分からす、首を傾げているとエリウス様が教えてくれた。

 私の髪と目の色がエリウス様そっくりで、私はエリウス様の隠し子だと思われていたそう。

 そこで初めて目の前のエリウス様と、私が同じ色だと気づいた。確かにお互い金髪紫眼だ。これは盛大な誤解である。


「マリア様誤解ですからね!これは両親から受け継いだ色ですから!」

「ええ、大丈夫。わかったから。ただ少しだけ疑ってしまっただけなの。ごめんなさいね、ルシア」


 マリア様が誤解してしまったのも、分からないでもないな。いきなり現れた子供が夫と同じ色彩だったらそりゃそうなる。

 誤解が解けたことで、マリア様の顔に表情が浮かんだ。可愛らしい顔立ちだと分かっていたけれど、笑うと幼く見える不思議な人みたいだ。


「だから勘違いだといっただろう? でも滅多にない君の嫉妬するのが見れて嬉しいな」

「きゃあ!もう!いきなり抱きしめないでください!」

「私は君だけを愛してるんだって態度で示してるだけだよ」


 いきなり始まった夫婦のいちゃつきに目を瞬かせる。

 さっきまであんなに真面目な雰囲気だったのに、急にピンクのオーラが飛び出しそうな空気に変わってしまった。なにごと。


「えーと……?」

「父様いつもラブラブなの」

「母様いつもラブラブなの」


 この雰囲気にも動じない双子がニコニコと言う。もしかして、これがこの屋敷では普通なのかも。


「お嬢様、当家夫妻はこのように万年新婚状態ですので、慣れますようお願いいたします」

「見慣れればスルー出来ますよ」


 カリードさんが爽やかな笑顔で言うと、カイエさんも頷いていた。

 マオさんはまだスルースキルをマスターしていないのか、一人だけ耳まで真っ赤に染め顔を背けている。


「ガンバリマス?」


 とりあえず頷き返しつつ、私は心の中で慣れるのかな……と独りごちた。

 こうして私は、ルシア・ヴィーランとなったのだった。




 あれ? ルシア・ヴィーラン? 

 記憶に少し引っかかり、それが前の人生のプレイしていた乙女ゲームの主人公と似た名前だって気づいた。

 でも全然違うよね。だって、あの主人公のファミリーネームはガーナって名前だったし、伯爵家じゃなく子爵家だったから。

 うん。気のせい気のせい。


 金髪で紫の目だったのも、容姿が私にそっくりだったのも、気のせい気のせい!

 

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