4 聖女候補の語らい (sideルシア)
貴賓室として使われている一室に、私たちは一同に会していた。
建国祭の時に挨拶はしていたけど、面と向かって話をするほど時間も余裕もなかったから、実質これが初めての顔合わせだ。
私の左隣にはフリージアが優雅な仕草でお茶を楽しんでいるし、右隣には同じ騎士家系出身ということでアリッサが剣術の話を持ちかけてくる。
ミュゲはフリージアの一挙手一投足をキラキラした目で見ているから、きっと憧れでも抱いているんだろう。
同じテーブルに四人固まっているのに、シレネは我関せずといった感じで、こちらの輪に加わる素振りは見せない。ただ一人、優雅にお茶を飲みながら読書に耽っていた。
ちなみに、私は例のピンク少女シレネとは、その不気味さもあるため少し距離を置いた所に座っている。
それにしても、こうしてみると顔面偏差値高い!と感心するよ。
乙女ゲームのライバルだから、顔もスタイルもいいし、系統が違う美少女美女が揃っていて眼福眼福。
「あの、シレネ様。シレネ様もこちらでお話でもなさいませんか?」
「いえ、私は物語の続きが気になるので、読書でもしています。お気遣いありがとうございます」
フリージアと話しつつも、シレネが気になっていたミュゲが声をかけるが、一刀両断されてしまった。
それにしょんぼりと肩を落とすミュゲに、フリージアが「キリのよさそうな所で、また声をかけましょう」と励ました。
「アドニス家はガーナ家と親しい関係でしたね。ミュゲ様とシレネ様はお知り合いなのですか?」
ナイスアシスト!フリージア! 私もそれが気になっていたんだ!
「いえ、わたくしは講義や魔法の練習で忙しかったので、シレネ様がガーナ家に引き取られた時と、その後数回屋敷で挨拶した程度です。
実際お話するのは今回が初めてなのですが……。わたくし、あまり好かれていないのでしょうか。
シレネ様は知識もさることながら、魔力操作も群を抜いているとお話を伺っておりましたから、話をしてみたかったのですが……」
「私もその話はしてみたかったですね。剣術だけでは魔物と対峙できませんし」
ミュゲにアリッサが同意する。剣を振るいながら魔法を使うのは、魔力操作が必要不可欠だし、私もアリッサの残念さがよくわかる。
でも私としては、不用意に近づいてほしくないから、ちょっとホッとしていたり。内緒だけどね。
「魔法剣といえば、先日ルシア様は魔法剣で魔物を退治したとか。怖くありませんでしたか?」
「いえ! あの時は必死だったので、考えるより先に体が動いてしまったんです。あとで義父様に叱られてしまいました」
「ふふ。 あの時のルシアは勇ましくて心強かったわ」
思い出し笑いするフリージアに、むくれた顔で睨んでみる。
そんなことなど意に返さずフリージアは、「普段練習する姿も勇ましいわよ?」といらないことまで付け足してくれた。
「ルシア様は剣術をならっておいでなのですか!?」
「趣味程度です! 騎士団のみんなには遠く足元にも及びませんから!」
だからこの話は広げないでほしい!
魔物を倒したあとの説教が本当に怖かったんだから。
最初はにこやかに褒めていたのに、徐々に表情が変化して、最後は無表情で昏々と説教だよ。トラウマもので怖いのなんの。
思い出して体が震えてきちゃったし。
「でもとっさに魔法剣が使えたなんてスゴイわ。私はまだ、剣を振るいながら魔法を使う所までは、たどり着けていないの。コツとかあるのかしら?」
「えっと……コツなんて。あの時は無我夢中だったので、コイツを倒さなきゃってばかりだったので。
あ、でも。以前義父様の剣術を見学していた時、剣を媒体に魔力操作していると話していました。無意識だからうまく説明できないみたいで、ちょっとわかりにくかったんですけど。
うーん……。思い返してみれば、私も確かにあの時、頭の中で剣をイメージしてたような……」
エリス様に純粋な魔力は実体化できるという話を聞いて、ずっとやりたかったことを試そうと練習していた。
普段は長剣を扱っているし、それに魔力をのせる練習をしていたんだけど、あの時は生、憎護身用の短剣しか持っていなくて、長剣ならよかったのに!って普段使い慣れた剣を想像して、なぜか成功しちゃったんだ。
短剣が長剣になるし、斬ったら魔物が死ぬし、驚いたな……。
「剣を媒体ですか……。さすがはヴィーラン家ですね。ブロウム家は純粋に剣技を身につけたうえで、魔法を使うよう訓練されるものですから、ためになります」
ブロウム家では剣術に重きを置いているので、魔法は付属扱いらしい。
だから魔法を使った剣術を得意とするヴィーラン家の私と、ずっと話がしたかったとアリッサは呟いた。美人は拗ねた顔でも麗しいです。
「剣術ならアリッサ様が断然上ですからね!」と励ましておこう。実際、私の剣の才能はそこまで高くないのは分かっている。
実際ヴィーラン家は魔法に特化しているから、剣の腕前はブロウム家に及ばないって義父様も言っていたし。
私の励ましにアリッサは嬉しそうに笑ってくれた。
そんな私たちの様子を、シレネが探る様に見ているなんて知らなかったし、私とフリージアに舌打ちしていたとも知らなかった。