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2 五名の聖女候補 (sideルシア)


「私に代替わりし、初めての建国祭に皆よく集まってくれた。

建国から三百年の節目の今年、皆に良い報告がある。

次代の聖女候補が五名覚醒した。我が国にさらなる安寧と繁栄を約束してくれるだろう」


 貴公子然とした美丈夫の国王が、広間に響き渡る声で高々に宣言する。すると歓声と共に拍手が起こり、高揚した空気が広がっていった。

 次はお披露目を兼ねた自己紹介。うぅ……、胃が痛い。

 もう本当に腹をくくるしかないと、請われるまま王の前に進み出ると感嘆の声が上がった。

 私は主人公だから当然美少女の見た目だ。私の他にも四名進み出る。

 本来王子ルートのライバルとなるはずだった義姉のフリージアは、成長して美貌に磨きがかかり、まるで金色に輝く女神の様。

 魔法騎士ルートでライバルとなる伯爵令嬢のアリッサ・ブロウムは、赤みがかった茶色の髪を緩く緩く結び、切れ長の目元が特徴的なこげ茶色の目をした、凛々しく綺麗な顔立ちの令嬢。びしっとした姿勢が綺麗。

 義弟ルートでライバルとなる子爵家のミュゲ・アドニスは、豊かに波打つ黒髪と、大きな琥珀の目が愛らしい小動物みたいな小柄な令嬢。一番背が低いからちまちましていて庇護欲がそそりそうだ。

 魔法師ルートの男爵令嬢は、数年前に落石事故に遭い亡くなっている。

 その代わりなのか、空から降ってきたという例の少女が、男爵令嬢の立ち位置におさまっていた。

 ……亡くなった人には申し訳ないけど、こんな展開ゲームになかったから、居心地が悪い。全く知らない人間だから、どんな性格かも分からないし。

 その令嬢は、ちらりと見ただけでも分かる、ローズピンクの髪と目を持った美少女だった。でもピンクって目に痛いって思うのは私だけかな。

 顔の造りは勿論のこと、身体も出るところは出て、引っ込む所は引っ込む見事なプロポーション。

 所作も引き取られた所で良く教育されたのが分かるほど、優雅で精錬されている。

 今回は聖女候補としてのお披露目とあって、みんな同じ教会の教服を身に着けているのに、彼女だけが何かが違って見えた。

 顔面偏差値は皆高いし、体形もライバルだけあって抜群。ミュゲも、脱げばすごいんです!という、ゲーム使用のはずだ。

 だから何が違うのかさっぱり分からない。それでも、何かが違う異様な存在感を感じる少女だった。

 正直、気持ち悪い。

 感情を表情に出さないよう、義母様から言われた通り微笑みだけを意識することに集中しよう。彼女のことを気にしていたら、顔に出ちゃう。

 

「右からヴィーラン伯爵家令嬢、フリージア・ヴィーラン嬢」


 頭頂部が寂しい宰相が、フリージアの名前を呼ぶ。それに彼女は一歩前に出て綺麗なカーテシーをしてみせた。

 今回は聖女候補のお披露目であって、男女の出会いの場でないとのことで、自身で名乗ることはない。

 全員まだ社交界デビューをしていなかったことも大きい。

 この国では16,7歳が目安で、20歳までにデビューするのが通常なんだとか。

 でも私たち候補者は、聖女になるための試練に支障が出ないよう、社交界デビューは全てが終わったあとと決められているので、当然貴族たちに顔なんて知られていないし、一人前として発言する権利も得られていないのだ。

 

「同じくヴィーラン伯爵家令嬢、ルシア・ヴィーラン嬢」


 続いて私の名前が呼ばれる。同じく一歩前に出てカーテシーをした。

 続けて同じ家名とあって、居並ぶ貴族から驚きと戸惑いの声が上がった。


「フリージア嬢およびルシア嬢は、王命によりヴィーラン伯爵家にて養女となり保護されていた。

養女として迎える上で、ヴィーラン伯爵家に対し優遇措置はないという約束も取り付けている。

仮に、二人のうちどちらかが聖女となったとしても、それで得られる一切の権力を放棄する約束だ」


 宰相の言葉に、困惑と納得の声が半々に囁かれた。

 困惑している貴族は、権力を放棄することへの懐疑的。

 対して納得している貴族は、義父様が国王と幼馴染であり、外出時には専属護衛も務めていることから、これ以上の権力は不必要と理解しているようだ。

 それなりに目が肥えてきたから、身に着けている物の価値が今なら分かる。

 私から見て、懐疑的なのは下級貴族で、納得しているのは上級貴族みたい。

 義父様と国王の関係性を理解している人間が、上級貴族に多いってことなのかな。


「ごほん! 続いてブロウム伯爵令嬢、アリッサ・ブロウム嬢」


 軽く席払いした宰相が、次の候補者名を呼んだ。

 一歩前に出たアリッサは五人の中で、一番背が高い。だから小さな所作でも、威厳があるし様になっていた。

 確かブロウム家は、ヴィーラン家と同格の伯爵家であり、同じく騎士家系だと習ったっけ。

 家格が同格で騎士家系だから対立でもしているのかと聞いたら、義父様は笑いながら否定していた。

 こちらは魔法騎士として外の防衛を担い、ブロウム家は護衛騎士として王家の盾を担っているのだそう。

 義父様が騎士団団長に就任したと同時期に、ブロウム家当主も護衛騎士団長へ就任したことからも、同格であるといえるらしい。

 ざっくりとした説明だったから、難しいことが分からない私でも、なんとなく理解できた。


「続いてアドニス子爵家令嬢、ミュゲ・アドニス嬢」


 みんなと同じく一歩前に出てカーテシーをするも、小柄なためアリッサに比べ見劣りしてしまう。

 それでも背筋を伸ばし、毅然とした態度でいるのは流石と感心した。

 彼女の家は、ガーナ子爵家と懇意にしている魔法貴族。当然ピンク少女とも顔見知り以上の関係のはず。様子を窺ってみるも、前を見たままピンク少女には無反応だ。

 まあ、場所が場所だから仕方ないかと、次の候補者の名が上がるのを待つ。


「最後にガーナ子爵家令嬢、シレネ・ガーナ嬢」


 ピンク少女はシレネという名前らしい。

 シレネは一歩前に出ると、同じくカーテシーをする。所作は優雅で精錬され、珍しいローズピンクの髪が揺れてたことで、少しだけ幻想チックにも見えた。

 私たちが一人の人間として存在しているのに、彼女だけ妖精や精霊染みている。

 髪や目の色がそう思わせるのか、彼女の醸し出す雰囲気そう思わせるのか。そこでハッとさっきの気持ち悪さに気がついた。

 本来彼女は存在しないはずの人間だ。それに加え、彼女独特の空気感がそう思わせていたのかもしれない。

 まるでそこに存在していないような空気を纏っているのに、その存在は感じる。だから気持ち悪かったんだ。

 納得いったと同時に、シレネ・ガーナという人物が不気味に思え、僅かに手に力をこめた。


 「以上、五名が次代聖女候補だ。彼女たちは、これより一週間の後、神殿へと場所を移し、聖女への試練を受けていただく」


 いよいよゲームが始まった。後は誰が聖女になるか。

 ゲームでの試練はミニゲームだったから、現実じゃどうなるか。

 宰相の発言終わりに、私は――――私たちは一同にお辞儀をした。


 



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