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11 とあるトリップ少女


 世の中、結局は顔。

 次にスタイル。

 おまけに愛嬌と教養。


 私にとって世間を渡っていく術がそれ(・・)なだけ。

 両親は共働きで忙しく、物心つくころにはいつも一人だった。

 大人しい性格もあって、友達も少なく二人いるだけ。その友達は今では親友と呼べるくらいの仲だけど。

 取り柄といえば、可愛いと言われる顔。

 両親ともに顔はいいから、いい所をもらって産まれてきたことには感謝するけど、そのせいで幼い頃は誘拐されそうになったこともある。

 両親は仕事人間だったから、あまり会話をした記憶はないけれど、誘拐の時にはほっとした顔をしていた記憶があった。

 ただ当然親子間の愛情は希薄になるもので、素直に両親に甘えた記憶は幼稚園が最後というくらいだったほどだ。小学4年のころには、二人揃って家に帰ってくることすら少なくなっていた。

 最初はお互い仕事が忙しいんだろうと、気にすることはなかった。

 けれどある日、母が忘れていった荷物に、知らない男と母が写った写真があったことで、浮気をしていることを知った。

 さらには、友達と遊んだ帰りに、知らない女とくっついている父を見かけたことで、二人が浮気をしていると知り、僅かに残っていた両親への愛情はきれいさっぱり消えてなくなった。

 薄情と言われてもいい。私にとって、両親とは私をつくってくれた存在で、生きていく上で必要だっただけの存在。ただそれだけだった。

 浮気のこともあり、両親は揉めることもなくあっさりと離婚したことも、薄情に拍車をかけた一因だと思う。

 そんなこんなで別れたけれど、問題は私の存在だった。

 まだ小学生だったこともあり、どちらが親権を持つか話し合いが行われ、見事、父の弟夫婦に引き取られた。

 両親とも、コブつきで再婚はしたくないし、面倒もみたくないとのこと。それでも親としての情は少しだけあったのか、それとも世間体を気にしてなのか、施設に入れる選択肢は入れていなかったらしい。

 だいぶオブラートに包んで、包んで、包み込みまくって、繭状態の話内容だったけれど要約するとそんな感じ。

 子供にとってショックな話だからと、叔父が丁寧に説明をしてくれた。

 確かにショックだったけれど、それは捨てられたことよりも、説明を叔父からされたことだった。説明くらい両親が責任を持ってしてほしかった。

 引き取ってくれた叔父夫婦には、子供がいなかったことのあって、私は大事にしてもらえたし、親とはこういうものなんだと教えてくれた。

 成長過程で、可愛いことで得することを知り、スタイルが良ければ着たい服が着れ、愛想を振るえば健気な子と可愛がられ、教養があれば頭がいいと褒められることも学習した。

 そうこうして、多少スレた性格を持ちつつ、私は成長し高校生になった。

 この頃にはメガネは顔の一部となっていた。友人の一人が、中学時代にアニメやゲームにハマったことを切欠に、私もドハマりしてしまい、目が悪くなってしまったからだった。

 顔が良いこともあって、知的な印象を与えるらしく、ならばと高校は知的さを前面に出していくことにした。

 メガネを掛けた可愛い子が、一人静かに本を読んでいるだけで知的演出としては上出来だった。なんてお手軽にできる印象操作なんだろうか。

 勉強は頑張らなくてもできたので、かなり手軽に知的な高校生が出来上がった。

 そんな高校生活の中、私に彼氏ができた。

 違うクラスの同級生の男子。背が高くて顔が良いことが決め手だった。

 話すことは無難で面白味がないけれど、二人で歩くと周りの女の子が羨ましそうに見てくるのが楽しかった。

 意外とエスコートが出来て女の子の扱いが上手いから、私としても鼻高々。自他ともに認めるくらいプライドの高い私の自慢になった。

 どうやら、一年のころは地味男だったらしいけど、二年に上がると同時にギャル女子に目をつけられて劇的変身をしたらしい。

 そのギャル女子は同じクラスだから、どんな子かは知っていた。

 周りの子と同じようなギラギラした感じじゃなくて、清楚を少し派手にしたギャル。

 髪は染めていても綺麗で艶があるし、スタイルもいい。同じクラスなのに会話はあいさつ程度だけど、威圧するような感じはなかった。

 付き合ってから気がついたけれど、彼女は彼が好きみたいで、よく目で追いかけているのを見かけた。

 好きなら告白すればよかったのに、逆に彼に発破をかけて告白しないなんて馬鹿みたい。

 そのくせ、目で追いかけて傷ついて、まるで自分が悲劇のヒロインだとでも思っているんだろうか。

 ギャル女子は私にとって、理解できない存在であり、彼氏を通して優越感を抱く存在となった。

 

 だからその彼女が、私の背を押して車道に突き飛ばした、なんて思わなかったのだ。





 一瞬のことで訳が分からなかった。

 信号待ちをしていたのに、いきなり背中を押されたと思ったら、空から落下していたなんて誰も想像できないと思う。

 そのまま落下なんて冗談じゃない!と思っていたら、知らない男の人に抱き留められていた。

 シルバーグレーの髪に、彫の深い綺麗な顔立ち。目が合った瞳はグレー。

 明らかに日本人じゃない男の人は、「神から遣わされた使者が来た!」と騒ぎだし、あれよあれよという間に豪邸の中に連れられてしまった。

 周りの騒ぎに唖然としていると、不意に軽々男性に抱きかかえられていることに気がつき、一瞬意識が飛んでしまう。

 高校生と言えど、平均身長の私を抱きかかえている腕力スゴイ!と驚いていたけれど、実際は私が小さな体になっていたからだった。

 体だけじゃなく、視界に入る髪色は黒じゃなくてピンク系。あとで知ることだけど、正確にはローズピンクの髪になっていた。

 染めた覚えのないピンク髪に、小さくなった体。混乱する私を尻目に、男性は豪華な部屋に私を通すと、恭しく頭を下げ、そしてこう言った。


「貴女様は、聖クラリアス神の御使いではありませんか?」と。

  

 唐突に変なことを言われ、絶句し何も言えなかったのは、誰でも想像ができると思う。

 男性がいうには、何もない空から降ってきたので、そう思ったそう。

 私が何も言わずにいると、彼はぺらぺらと聞いてもいないことを話しだした。

 男性の名前はイーサン・ガーナというらしい。私が落っこちたのは、イーサンさんの屋敷の庭だそう。ちなみにイーサンさんは、ガーナ子爵家当主らしい。

 そんな自己紹介から始まった説明に、私の頭はパンク寸前にまで陥ることになる。

 この国には結界が張られ、空から侵入が出来ないこと。ピンク系統の髪はあるけれど、私程見事な色ではない事。抱き留めた時、光属性特有の発光現象が起きたこと。

 それらを考慮し、神が遣わした使者ではないかと憶測を立てたと、イーサンさんは言った。

 訳も分からず聞き流していた耳に、「クラリアス」や「ネモフィラ国」「ガーナ子爵」「光属性」など覚えのある単語に、思わず『アルストロメリア』と呟いてしまった。

 私の呟きを聞き逃さず、イーサンさんはやはり!と喜んでいた。ムダに顔が良いからキラキラして眩しい。

 乙女ゲーム『アルストロメリア』。中学時代ハマったゲームのタイトル。

 確か1~3までは主人公は自国の出身で聖女候補として神殿へ上がり、試練を乗り越え聖女となることを目的としたゲームだったはず。

 4の主人公は隣国出身者で、でも舞台は同じ「ネモフィラ国」だった。

 この乙女ゲームは、試練を受ける上で手助けが必要であり、それを魅力的な男たちが担う。

 助け合ううちに恋に落ち、聖女となった主人公と幸せになるエンディングだった。

 タイトル回収はメイン攻略キャラの王子ルートでするから、一般人は勿論、普通の貴族も知らない。

 そんな重要機密のネタバレをぽろっと言ってしまったために、私はアレコレ聞かれるはめになり、相手するのも面倒になったので、聞かれるまま答えることにした。

 さいわい、舞台はやりこんだシリーズ一作目であり、最近アニメ化までした話だったから、設定はされていたけれどゲームに反映はされていない話までスラスラ答えられた。

 当時、設定資料を買って読み漁ってたのが役に立ったね。

 私がよどみなく答えるため、イーサンさんは本気で御使いと思い込んでしまったけれど、まあいいでしょ。

 その方が、何かと都合がよさそうだし。なにより、神様の使いだと思い込んでくれた方が、動きやすいもの。

 なんたってこのゲーム。全員の好感度を順調に上げると、ノーマルENDだけど皆からちやほやされるからね。

 聖女になった上で、イケメンからちやほやされるなんて天国じゃない!

 きっと本来の私は、背中を押された時に道路に飛び出し死んだんだろうし。

 叔父夫婦には申し訳ないけど、今を楽しみたい。

 ピンクの髪なんてファンタジーだし、知り尽くした世界は言わば私にとって都合のいい世界。不都合もなく幸せになるのは決定事項だからね。



 そうして、私はガーナ子爵家に引き取られ養女となった。

 見た目は7、8歳の少女で、ローズピンクの髪と目を持つ美少女として。

 そして、後から教えてもらったけど、この世界の主人公は別の家に引き取られているらしい。

 二次創作の成り代わりじゃないんだと、ガッカリしたけど、自分の容姿や設定が昔友人と作った二次創作設定と同じだったので、気にしないことにした。

 当時はハマりすぎていたこともあって、二次創作や夢というジャンルに手を出していた。私はその時作り上げた、キャラと設定そのものなんだから。

 つまりこの世界は「ゲームの世界」でもあり、私が友人と作り上げた「二次創作世界」でもある。


 つまるところ、この世界は私中心に成り立っていると考えていいわけ!

 死んだあと良いことがあるなんて、あの時背中を押してくれた人には感謝しなくちゃね!

 

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