1・旅立ちの日は突然に(前編)
しばらく、主人公のアランが奮闘する話になります。
相棒になるミコトさんの出番まで、気長にお待ちください。
ここは、ウィステリア小国僻地の村「ポポロヴィッツエ」
昔はのどかで、どこまでも小麦畑が広がる穏やかないい村だった。
しかし、今は寂れた神殿以外に年寄りがやる農家が、数件残っているだけの廃村寸前の僻地である。
今、僕が手入れしているこの畑も、5年前までは攻撃魔法用の演習場だった。
ぼやいても仕方がない。が、ぼやきたくもなるなぁ・・。
「おーい、アラン!朝の畑仕事おわった?」
元気に手を振りながら、こちらに向かって早足で歩いてくる、若竹色の髪をした青年マティアス。
そして、その後ろからマティアスに置いて行かれないように、青梅が少し入った籠を持って小走りでかけてくる、空色の髪の青年カミル。
二人は僕の友人であり、ともにこの神殿で育った孤児仲間だ。
もうすぐ、僕たちは王都「コンツェ」へ行かなければならない。
貴族の護衛として、中央神殿から召集令状が来たからだ。
僕らを育てたアレクサンドル神官長は、複雑そうな顔をしてたけど。
情勢が情勢だから、心配なんだって。
それでも、精一杯の支度をしてくれている。
ありがたいことだ。
「うん。玉ねぎがやっと収穫できたよ。小さいけどね。」
僕が少しおどけてマティアスに言えば、少し肩を落として残念そうに文句を言いだした。
「えー、玉ねぎも小さいのかよ。俺たちが取りに行った梅も、これぽっちしか無いってぇのに。」
「しょうがないだろ。今は停戦中といえども、実際は戦時下と状況はそう変わらないんだから。贅沢は、敵。」
「そうだね。」
10年前から始まった召集令状のせいで、いったん出ていった農家の働き手の男たちで、村に帰ってくる者は稀だった。
残された農家の奥さんたちは、安全と職を求めて子供や親たちを連れて大半が、大きな町へ出ていった。
その為、自制している植物や農家が放置していった土地に生えている果物や農地を使い何とか、自分たちで時給自足の生活をしていたりする。
僕はカミルに返事をしながら、最後の玉ねぎを籠に入れた。
台所に早く持って行かないと、お祈りの時間が来てしまう。
そうしたら、僕らは3人ともご飯抜きにされてしまう。
急がないと。
「さぁ、二人ともいそごう。朝ごはんに遅れちゃうよ。」
「まずい、いそごう。神官長に怒られる。」
「まずいな、走るぞ。」
お祈りの時間まで後、1時間。
その間に、朝ごはんと禊(水浴び)。
そして、式服に着替えて神殿の祈りの間へ。
いそごう、神官長は怒ると説教が長い。
台所に僕らが着くと、食事担当の義足の男ダリボルと隻眼の男ボフミルが配膳を終えて待っていた。
「お前ら、早く食え!時間ないぞ!」
「そうだぞ!まったく、お前たちは最後の最後まで、人騒がせな奴らだな!!」
何が最後なんだろうと、そしていい匂いのする食卓へと視線を向けた。
明らかに普段よりスープの量が多い、何より小さいがパンが2つもついている!
これは、あれか!最後の晩餐的な!!!
僕らは頭に???を浮かべ首をひねった。
「もしかして、僕ら今日が王都への出発の日だったりする?」
僕が首をかしげながら聞くと、ダリボルが面倒くさそうに答えた。
「あぁ、そうだ。先ほど、アレクサンドル神官長の所に伝書鷹が来たからな。今日の昼頃に到着予定だそうだ。」
「聞いてねぇよ、おっさん!!支度の準備も整ってねぇわ!!予定は、一週間後のはずだろ!!」
マティアスがダリボルの胸倉を掴んで怒鳴ってる。
「知らん。どうせ、貴族の誰かがごねたか。戦場で、へまでもやらかしたか。どうせそんなところだろう。あきらめろ。」
ダリボルは呆れた口調で、マティアスの手をどけた。
「あきらめろ!じゃねぇわ!こちとら、式服の修復も終わっとらんのに!みすぼらしい姿で王都へ行けっていうのかよ!!」
ダリボルの発言にマティアスがキレた。
ギャーギャー言いながら、ダリボルをポカポカ叩いて八つ当たりをしている。
まぁ、気持ちはわかる。
しかし、ダリボルに八つ当たりしても意味はないよ、マティアス。
「ということは、今朝のお祈りはしなくていいということか?」
「あぁ。朝食が済んだら禊(水浴び)をして、式服に着替えて自室で待つようにとの仰せだ。」
こういう時、カミルはいつも冷静だ。
そして、ボフミルは自分の仕事は終わったとばかりに、台所の奥へ消えていった。
ダリボルを見捨てて。
あの二人、仲がいいのか悪いのかいまいち分からない。
その後、僕ら3人はいつもより少し豪華な朝食を取り、急いで水浴びを済ませると自室で荷造りをはじめた。
アラン自室
荷物は、着替えと靴と筆記用具と呪文を覚えた巻物と道中食べるための保存食。
後は、拾われた時に持っていたっていう精霊石のペンダント。
これだけしか、自分の荷物はないのかと思うと虚しくなる。
まぁ、2~3年前までは杖や魔法薬学の機材もこの神殿にもあった。
今着ている式服の予備も。
神官はいざという時の為、いつも新品の式服を常備しているものだと教わって19年間育ってきた。
まぁ、攻撃魔法用の演習場が畑に代わるほど切羽詰まったこの国に、今更何の期待もしてないけどさ。
取り合えず、見た目でも磨いておくかな。
この鏡台を使うのも、最後になるのか・・。
鏡台の椅子に腰掛け、髪をとかす。
鏡を見て今日も憂鬱になる、そこに移るのは2人の自分。
手前に見えている周りから見た、誰もが振り返るであろう美少女の自分。
そして、奥に見える等身大の19歳の青年の自分。
髪の色も目の色も若干違う、2人の自分。
この呪いは、いつ解けるのか?
毎日、神に祈る一刻も早くこの呪いが解けますように。
だが、未だ叶わず。
連載開始させていただきました。
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