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【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する  作者: 影清


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89.

 翌朝、朝食時にリアムが言った。

「リーダーが数日内に来るかもしれません」

「えっ」

 真っ先に上がったのはリディアの声だったが、思ったことは皆同じだった。

「ということは、パーティーを離脱する…?」

 兄のやや呆然としたような声に、皆も同じ気持ちだった。

 重要な戦力が抜けてしまう。

 元々彼は別パーティーに所属していたのだから、引き留める権利などない。

 どうしよう、という暗澹たる雰囲気が場を包むが、リアムは慌てて手を振った。

「いえ、それはありません。もう最終局面ですし、リーダーは護衛で来るのです」

「護衛…?」

「はい。とても高貴な方がスタンピードの討伐に参加したいとご希望で、ようやく許可が下りたのだということで」

「とても高貴な方…?」

 一斉にメンバーが王太子を見るが、王太子は首を振った。

「私は聞いてないぞ?というか、許可が必要な重要人物が参加とは…戦力になるのか?それとも後方支援か?」

「いえそれが…私も拝謁の栄誉に浴したことはなく、わからないのです」

「…待って」

「その言い方」

 リディアと兄のツッコミに、リアムは申し訳なさげに頭を下げた。

「これ以上は申し上げられません。すみません。とにかく初めてのことだらけでして、色々と手間取っているようです。リーダー達もAランク冒険者なのですが、スタンピード討伐に早くから参加できなかったことを悔いております」

「…いや、護衛任務ならばそれ以上に重要なことはあるまい。私も確認をしておく。もし本当に想像している人物が来られるのなら…王宮はスタンピードどころじゃなくなるぞ」

「それは困るだろ…」

 カイルの戸惑うような声音に、王太子も頷く。

「何故今この時になって、という疑問もあるし、何しに来るのか、という純粋な疑問もある。…その方は今西国ウェスローに留学していると聞いているが?」

「…そうですね」

「魔法と魔道具について勉強をされているとか?」

「…殿下、それ以上はご容赦を」

「ふむ、なるほど。…そちらの対応は王宮に任せよう。こちらはこちらで眼前のスタンピードをなんとかせねばならん」

「はい」

 朝食を終え、転移装置で森林公園へと向かう。

 戦闘場所へと移動しながら、サラはリアムに尋ねてみた。

「リアムさんは、その方のこと、どのように思ってらっしゃるんですか?」

「その方?…ああ、…難しい質問をされますね」

「そうですか?」

 王太子や兄、カイル達が聞き耳を立てていることは承知だったが、サラは聞いてみたかった。

 リアムのことを信頼している。

 そしてリアムは、自分のパーティーリーダーを信頼しているのだ。

 そのリーダーが護衛につくという「その方」は、リアムにとってどのような存在なのだろう。

 サラにとって、精霊王国は「キラキラとしたおとぎ話の国」ではすでになくなっている。

 リアムと言う王国出身の仲間が出来、少しとはいえ内情を知る機会も得た。

 王国は、私達と同じ「人間」が住む国なのだった。

 サラの問いにしばし悩んで考え込んだリアムは、ぽつりと呟く。

「我々にとっては神にも等しい存在です」

「それはおそらく、私達大陸に住まう人達全ての見解ではないでしょうか」

「ああそうですね。…そうなのです。神にも等しい方なのです。あの方を通して人々は神と精霊を見ます。民は皆、あの方を崇拝している」

「はい」

「リーダーの話によると、剣も魔法もお得意なのだそうです。冒険者としても活動をしてみたいとお望みでいらっしゃると」

「そうなんですか?」

「ただ…実力はおありでも、お立場があります。それに…」

「それに?」

「最終局面のスタンピードの場にお出ましになられ、危険に晒されることになると考えると…」

「責任持てねぇわなぁ」

 思わずといったカイルの呟きに、誰も異論は唱えなかった。

「殿下はお会いになったことはないんですか?」

 兄が問えば、王太子は「ある」と答えた。

「年に一度の花祭り、私は毎年陛下の名代として参加している。…だが、ご挨拶をしたのはもう何年も前だ」

「そうなんですか」

「どの国も色々と問題を抱えているものだ。リアム殿は知っているのか?」

 王太子は何かを知っているような口振りだが、リアムは躊躇うように口籠る。

「…私の口からはちょっと」

「歴代で初めて、国外に出られた方だ。…ウェスローだけでなく、他国を知りたいと思っておられるようだな」

「……」

「だがこの時期に来られる、というのは…状況はご存じだろうに」

 どんな理由で、スタンピードの討伐に参加するつもりなのだろうか。

 魔獣討伐に参加するとは誰も思っていない。

 士気を上げる為ならば、遅すぎる。

 見学するというのなら自由にしてくれと言いたいところだが、危険と隣り合わせの戦場では配慮をするにも限界があるだろう。

 それに万が一、傷ついたり命を落とすような事態になろうものなら、この世界の終わりと言っても過言ではない程に、大きな存在なのである。

 サラの内心の疑問をくみ取ったかのように、カイルは首を傾げた。

「まぁ、迷惑かけなきゃどうでもいいけどな」

「…そうですね」

 リアムですら、反論はしなかった。

 創世記は誰もが習う歴史である。

 神の介入により人族は生き延びた。

 精霊王と巫女姫の子が精霊王国の初代王であり、娘が二代目の巫女姫となった。

 巫女姫は精霊王と同じ銀髪金瞳を持って生まれ、それは精霊王の加護の証であるとされる。

 代々直系王族の血からのみ生まれる巫女姫は、毎年花祭りの時期、神と精霊に感謝の舞と歌を奉納する。

 千年間欠かしたことはなく、この舞と歌は神が大陸中に張った結界の維持を兼ねているのだというのは広く知られている事実であった。

 アルスタイン王家は巫女姫を輩出し続ける為に血筋を絶やすことは許されない。

 だが巫女姫がいるからこそ、大陸の中心にある精霊王国は全ての特権を享受して来たのだ。

 魔獣の侵攻はない。

 他種族からの侵略もない。

 豊かな土壌と水、穏やかな気候。

 周囲の四国間には峻厳な山脈があり、普通に行き来することは困難である為に、全ての国は中央の精霊王国を通らねばならなかった。

 あらゆる品は精霊王国にあり、全ての富は精霊王国に集まった。

 転移装置が開発されて、精霊王国を通さず取引が出来るようになった。

 高い関税を払わずとも良くなったが、精霊王国の機嫌を損ねることはできない為、貿易を減らすことはできない。

 世界を支える、巫女姫がいるからだった。

 芸術の都として名高いが、それも上質な品が集まるからである。

 周辺国は常に精霊王国を窺いながら生きていた。

 精霊に愛されし国民は、全員が魔法を使うことが出来る。

 精霊の力を借りて生活魔法を自在に使いこなす。

 魔力の有無は関係ない。

 それ以上の魔法を使うには魔力が必要であるが、全員が最低限の魔法を使えるということは、とてもすごいことだとサラは思うのだ。

 王国民は豊かであり、他国へ出稼ぎに行く必要がない。

 王国内で完結できるので、旅行を除いて移民希望もほぼ存在しない。

 犯罪者や権力闘争に敗れた貴族が、逃亡するくらいであった。

 冒険者として活動する者も少ない。

 魔獣の危険がなく、戦う理由がないのである。

 故に、精霊王国の騎士団は大陸中の騎士団の中でも最弱であるという話であった。

 エルフ族程ではないけれども、閉鎖的な国民性だということだった。

 巫女姫は尊い。失ってはならない世界の礎の一つである。

 かつて、若くして巫女姫が不慮の事故で亡くなったことがあった。

 精霊は嘆き悲しみ、神の結界すらも揺らいだという。

 各国の大森林の奥地には、結界に囲まれた人の踏み入れない禁足地がある。周囲にはSランク級とも言われる魔獣が生息しているとされるが、それらは結界が揺らいだ時に抜け出てきたものではないかと言われていた。

 次代が生まれるまでの間、先代の巫女姫が代役を務めたことで精霊の嘆きは収まったという話だが、巫女姫の存在は世界に関わる。 

 大切にされるがあまり、代々の巫女姫は国外へと出たことがなかった。

 今代の巫女姫が初めて国外に出た姫なのである。

 第一王女という話であったが、精霊王国に女王制度はない。

 弟である第一王子が次期王になるという噂である。

 創世記は伝わっているが、精霊王国の内情についてはそれほど伝わってこない。

 王族と一部上層部が徹底した秘密主義だというのだった。

 王国に出入りする商人には、余計なことを言わぬよう契約で強制されているという噂も聞こえてくるが、実際のところは明らかになっていなかった。

 巫女姫がどのような人物であるかなど、わかろうはずもない。

 代々巫女姫は、「精霊のごとき美しさで、神のごとく慈悲深い」という一貫したイメージであった。

 全ての巫女姫が、本当にそうであるのだろうか?

 誰もが疑問に思っても、巫女姫に直接会って話が出来る者など限られていた。

 他国であれば、なおさらだ。

 近い内にやって来るという巫女姫がどのような人物であるのか、サラは密かに楽しみにしていた。

 二日目も変わらず魔獣を倒していく。

 Sランク冒険者の目利きは確かで、ぎりぎり戦える範囲の敵を寄越してくる。

 おかげで気を抜く暇もなく、全力で戦い続けなければならなかった。

 Sランク級と戦うことになった当初、兄妹の陣すらも突破する程のダメージを食らい、カイルが瀕死になることが多かったのだが、レベルが上がった今では陣だけで耐えられるようになっていた。

 陣を支えるサラが盾役の回復も担い、アタッカー達の体力監視はリアムが行いながら攻撃をする、というスタンスに落ちついた。

 王太子と兄、リディアは全力で攻撃しており、攻撃力も随分上がった。

 陣の詠唱速度も上がったし、威力も上がった。

 確実に、強くなっている。

 その分名誉騎士一行も強くなっていてとても追いつける気はしなかったが、背中を見ながら戦えることは光栄なことである。

 彼らも同じ回復陣を使っていることに喜んだり、見たこともない魔法や陣を見ては「自分もいつか使えるようになりたい」と思うなど、勉強になることばかりだ。

 数日かけて湖畔にいたSランク級数十体を殲滅した。

 半分は名誉騎士一行が倒していたが、残りはAランク冒険者で倒せたのだった。

 残りは、ボスのみであった。

 夕暮れ時だったので撤収し、夕食を食べながらの会議の場で流れたボスと思しき映像に、誰もが息を呑み絶句した。

 

「水晶の…龍…?」


 愕然と呟いたのは誰だったか。

 龍族は北国の、山脈にしか棲息しないと言われていた。

 だが、これは何だ。

 本物の龍を見たことがある者は、この中にはいなかった。

 名誉騎士一行でさえもだ。

 龍は人前に姿を見せない。

 敵対しなければ怖い相手ではないと言われるが、この世界に生きる生物の中でも最大の強さであると言われる。

 魔族でさえ龍族と敵対するのは避けるらしいが、本当のところはわからない。

 ダンジョン攻略を進めている名誉騎士一行も、ワイバーン族と戦ったことはあっても龍族と戦ったことはないらしかった。

 魔水晶のような透明さと輝きを放つ鱗に覆われたドラゴンであった。

 虹色にも見え、陽光や影の具合で白にも黒にも見えた。

 心臓部とおぼしき内部までが透けて見え、内蔵などはなく、ただ核となる魔石の色は金と銀、赤と黒という不可思議な色に煌めいている。

 大きさは五階建ての建物くらいに見えるが、長い尻尾が揺れている為、実際の大きさはもっとあるのかもしれない。

 その龍が、森林の中で周辺の木々をへし折って空間を作り、寝そべっているのだった。

「…これは、公園内まで引っ張った方がいいのか?」

「動くようならな…」

 将軍の呟きに、名誉騎士が答える。

「範囲攻撃で森林火災、なんて目も当てられないので、できることなら広い場所で戦いたいですね」

 冷静な魔法省長官の言葉に、魔術省長官が頷く。

「こちらの魔法攻撃も気を使わなくて済みますからな」

「最初はSランク冒険者のみで戦闘して、被弾の具合や挙動を確認してからAランク冒険者を投入ってことになるんかいな」

 ドワーフ族の真っ白な髭と髪に覆われた前衛が言えば、エルフ族の後衛が頷いた。

「龍族ならばブレスと範囲攻撃、魔法攻撃だろうか。ワイバーンロードよりも強そうに見える」

 この発言にはSランク冒険者全員が頷く。

「長期戦を覚悟せねばならぬだろう。我々のレベルも上がっているとはいえ、龍族は未知の存在だ」

 名誉騎士の覚悟を秘めた言葉に、その場にいた全員もまた覚悟を決めた。

「戦闘は交代しながらヘイトを維持し、攻撃し続けなければならない。Sランク冒険者達だけではなく、Aランク冒険者もそうだ。実際に戦ってみなければ確かなことは言えないが、Aランクの者は回復担当になることが予想される。時間、担当の分担をするので協力して欲しい」

「はい」

 王太子が締め、全員が頷いた。

 一人、また一人と退出していき、最後に残ったのは名誉騎士一行と王太子一行である。

 王太子は何も言わず座ったままであるので、名誉騎士が口を開いた。

「カイルと話はしたか?ロジャー」

「今更話すことなんざねぇよ。うちの息子は十分強くなった」

「クソ親父、まだ勝ててねぇからな、死ぬなよ」

「それはこっちの台詞よ。見事ワシを倒してくれねば、安心して死ねんわ」

「…その言葉、忘れんなよ」

 カイルはリディアを促して立ち上がり、踵を返す。

 リディアは将軍に頭を下げて、出て行った。

「あいつは良い番を得た。共に戦ってくれるなんて、ありがたいことではないか。なぁ?」

 将軍は名誉騎士を見るが、名誉騎士は渋い顔をした。

「私には無理だが」

「はぁ…」

 目の前で自分を庇って死にかけたアンジェラの姿を見て、取り乱した父の姿を知っている将軍は、深く追及しなかった。

「だが息子と娘、両方と共に戦えるんだ。こんなに幸せなことはなかろう?」

「…それも私にはちょっと」

「はぁぁあ?」

 将軍と父とは考え方が違うようである。

 将軍を放置して、父は兄妹を見た。

「ここまで来てしまっては仕方がない。しっかり殿下をお守りしなさい。…だが怪我はしないように」

「…善処します」

 無理だと思う。と思ったが、兄妹は口には出さない。

 王太子を始め誰もツッコミは入れなかった。

 精霊王国の魔法省長官はリアムを見て、口を開く。

「君が契約しているのは下位精霊だね」

「はい」

「魔法省に入れば良かったのに」

「私は神官の道を選びました」

「そうか…ああ、前辺境伯様の子飼いの一人か。ああいや、言葉が悪かった。パーティーメンバーの一人だったね」

「はい」

「そうか、そうか。よろしく頼む。…本当に、よろしく頼むよ」

「…はい…?」

 リアムが困惑するが、長官はにこりと微笑んだ。

「明日明後日には到着されることだろう。…お会いして、お話したことは?」

 誰のことを言っているのか、誰もが察した。

 リアムも表情を改め、首を振る。

「いいえ、残念ながら」

「君ならわかるだろう。精霊に愛されし君ならね。私も、前辺境伯様も、楽しみにしている。とてもね」

 そう言って長官は立ち上がり、魔術省長官と魔法剣士を連れて出て行った。

「…名誉騎士殿は、精霊王国の巫女姫に会ったことは?」

 長官達の後ろ姿を視線で見送りながら王太子が問うが、父は首を振った。

「ありません」

「そうか…。私が最後に会ったのは、五年前になるのかな」

 王太子が思い出すような口振りで話し出す。

「今までに見たこともないような美しい姫だった。神と精霊王の加護があると言われて納得する程にね。神々しい、と表現するにふさわしい方だった。…あの魔法省長官殿が絶賛するということは、好ましい方向にご成長されているのだろうな」

「…楽しみ、と言っていましたね」

 名誉騎士の言に、王太子は頷く。

「何が楽しみなのかは不明だが、彼は歓迎しているようだ。王宮に来た連絡によると、西国でトラブルがあり、到着が遅れるとのこと。それから、自分の存在は公にしないで欲しいというご希望だそうだ」

「それは一体?」

「西国ウェスローに留学していることは大陸中が知っている。そのせいで色々とトラブルに巻き込まれているようだな。今回はお忍びで来て、お忍びで帰るからお構いなく、と精霊王国の宰相から連絡があった」

「…宰相程の地位にある方が、そんな要求をするのですか?」

「巫女姫たっての希望なのだそうだ」

「はぁ…」

 戸惑ったような名誉騎士と兄だった。

 リアムもまた、何とも言えない表情で黙っている。

「ということなので、巫女姫については前辺境伯殿がなんとかするのだろう。我々は戦闘に集中する」

「はい」

 気持ちを切り替えろ、という意味に、皆は背筋を伸ばした。

 その日は解散となり、翌朝集合となった。

 サラは部屋へ戻ろうと立ち上がったが、最後まで残るらしい王太子に「おやすみ」と声をかけられ、笑顔で返した。

 皆も挨拶をし、部屋を出る。

「クリス、サラ」

 廊下で父に声をかけられ、兄妹は立ち止まった。

 リアムが「お先に」と挨拶をして、背中を向けて歩き出す。

 それを見送って父へと向き直れば、父は複雑な顔をしていた。

「父上、俺達が戦うことに反対ですか?」

 クリスが笑顔で問えば、父はため息をついた。

「反対だ。…だが、今更だな。もはや何も言うまい。ボス戦はどうなるかわからないから、油断をしないように」

「はい」

 兄妹が揃って答え、父は頷く。

 そしてサラへと手を伸ばし、頭を撫でた。

「いつもサラの誕生日にきちんと祝えないな。すまない」

 毎年この時期、父はダンジョンに籠って攻略に参加していた。

 国事である為嫌とも言えず、一人家に帰ると言える状況でもない。

 サラの誕生日は攻略が終わってから、家族皆が揃って祝うのが恒例だった。

 なのでサラは自身の誕生日が十二月一日だという自覚が薄い。

 父が無事に帰って来てくれて、それのお祝いも兼ねていると思っている。

 サラは笑顔で首を振った。

「無事に帰って、皆でお祝いしようね!」

「ああ、必ず」

 バートン家は誕生日に贈り物を贈る習慣はなかった。

 家族皆で食事をし、いつものように家族団欒を過ごす。

 ただ誕生日本人の好きな食べ物が食べられて、団欒の時には希望する飲み物を飲むことができる。

 それだけだ。

 たったそれだけだったが、家族にとってはそれで十分だった。

 誕生日に拘らず、必要な物は親が買ってくれた。

 冒険者に必要な物だって、親が揃えてくれたのだ。

 マジックバッグにテント、そして武器と杖。

 十分過ぎる程に贈り物をもらっていた。

 そして家族皆で過ごす時間がどれだけ幸せなものかも知ったのだった。

 スタンピードで今、家族はバラバラに過ごしている。

 あの時間が愛しい。

 あの時間が恋しい。

 必ずまた、家族で揃って団欒をするのだ。

「父上、ご無事で」

「お父様、お気をつけて」

「ああ、おまえ達も気を付けて」

「はい」

「ではおやすみ。ゆっくり休みなさい」

「おやすみなさい」

 父は踵を返して、歩いて行った。

 兄妹は顔を見合わせ、部屋へと歩き出す。

「いよいよだな、サラ」

「うん。全力で、頑張らないとね」

「ああ。…今日眠れるかな」

「ふふ、お兄様も緊張するんだね」

「そりゃするさ。ドキドキだよ」

「そうだよね」


 生きて帰る。

 絶対に。

 

 無言で頷き合い、サラの部屋の前で就寝の挨拶をして、その日は終了したのだった。

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