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【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する  作者: 影清


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85.

 日が落ちた空はすっかり暗くなり、篝火と光球の明かりで都市内は昼間のように明るいが、雰囲気は一変していた。

 すでに門外では戦闘が激化しており、Bランク以下の冒険者はひっきりなりに行き来している。

 昨晩ルイビスタスであったような緊迫感があり、救護テントに出入りする人々の数も多かった。

 魔獣は北から攻めて来ており、他の城門は堅く閉ざし、見張りを置くに止めていた。

 もし回り込んで来るようなことがあれば、胸壁から私兵団と騎士団が最初に迎撃をする。

 魔獣の群れに指揮系統はないようで、ただ闇雲に攻めてくるだけのように見える。

 都市に到達するまでの間に、いくつもの罠を仕掛け、少しでも数を減らそうとしたが、どれも面白いように引っ掛かってくれたという。

 ただ数が多すぎて対応しきれず、結局は都市前まで押し流されてしまったということだった。

 魔獣慣れしている辺境伯領には投石機やボウガン等の備えもあるが、この数を相手にしては雀の涙のようである。それでも他の都市に比べれば十分過ぎる程の戦力であり、遠方から迫り来る敵に撃ち込んでいるのが遠目に見えた。

 あれに巻き込まれないよう、冒険者は戦闘をする必要がある。

 先に殲滅に出ていた五人組となったアーノルド達が、門の中に入って来て王太子一行を見つけ、近づいて来た。

 先程連絡用ピアスから報告があったが、Aランク級の魔獣はまだ距離があるものの、いるらしい。

 今は他のパーティーが数を減らす為に外に出ており、少しずつAランク魔獣に近づいているという話であった。

 他都市でも同じような状況であるが、ルイビスタスではSランク冒険者が早くも蹴散らしており、一歩先を進んでいた。

「殿下、これからですか」

「ああ。行ってくる」

「お気をつけて」

「ありがとう」

 それだけで十分だった。

 通り過ぎるメンバー達と視線を合わせ、頷き合う。

 言葉にしなくとも、伝わるものはあるのだった。

 真剣な面持ちのパーティーメンバーを見、隣を歩く兄を見る。

 夕食で顔を合わせた兄達は、夕食までの間王太子と二人きりで過ごしたサラに何も聞いてこなかった。

 示し合わせて退室していった事から、王太子がサラに結婚の申し込みをすることは知っていたはずだが、向こうからは聞いてこない。

 無言の圧力を感じたらしい王太子が、夕食後きちんと皆に報告をした。

「このスタンピードが終わったら、婚約を発表する」

「そうですか、わかりました」

 兄は淡々としていたし、カイルは「つまらねぇ」と呟いていた。

「カイルったら、サラに振られて泣くレイを見るのが楽しみだって言ってたのよ」

 リディアの密告にカイルは焦り、王太子は盛大に拗ねて見せた。

「本当におまえ達は無礼だな。メンバーでなければ訴えるところだ」

「サラさん、おめでとうございます」

「ありがとうございます、リアムさん」

「こら、何故私には言わないのだ」

 すかさずツッコミを入れる王太子に、リアムは平然と答えて見せる。

「ここはやはりサラさんに言うのが筋かと」

「…いかん、彼までこいつらに毒されてきているではないか…」

 皆が笑い、リディアが代表して言った。

「嘘よ嘘。おめでとう、二人とも。お似合いよ」

「ありがとうリディア」

「はー…サラ、断って良かったのに」

 ティーカップを弄びながら呟く兄に、王太子が胡乱げな視線を向ける。

「おい…」

「嘘です嘘。おめでとうございます。何が何でも無事で帰りましょうね」

「無論だ。全員生きて帰るからな」

「御意」

 兄を見れば、兄は優しい瞳でサラを見ていた。

「おめでとう、サラ。決めたんだな」

「はい、お兄様」

「そうか。…そうか、あー…そうかぁ…はー…」

「おいおまえ、祝うなら祝うだけにしておけよ…」

 王太子の恨みがましい声音に、カイル達が笑う。

 侍従や護衛騎士からも祝福され、王太子は昔からずっとサラのことを一途に想っていたのだと聞かされて、頬が熱くなるのを自覚した。

 王太子が余計なことを言うなと叱るが、「初めて会った時に一目惚れしてからずっとだもんね」とリディアにバラされ撃沈していた。

 サラも顔を上げていられなくなり、俯く。

 皆、王太子の気持ちを知っていたのだった。

 サラが成長し、ランクを上げて一緒に活動できるようになるのをずっと待っていてくれたのだと知ったのだった。

 王太子の気持ちとサラの気持ちを大切に、見守って来てくれたのだった。

 こんなに皆に想ってもらえて、サラは幸せだった。

 このパーティーメンバーで良かったと、サラは心から思う。

 必ず生きて帰る。

 全員で、帰る。

 メンバーの心が一つになったと感じた瞬間だった。

 都市の外に出れば、昨晩と同じような状況だった。

「まずは数を減らそう。カイル、Aランクは引っ掛けて来るなよ」

 王太子の言葉に、強化をかけながらカイルがにやりと笑う。

「なんだそれは。引っ掛けて来いっていう、フリか?」

「生きてここまで辿り着けるなら構わんが、無理はするなよ。後報告」

「わかったわかった。信用しろ」

 他のAランクパーティーの近くにいても、敵の取り合いになる。

 距離を取り、低ランク冒険者達が多くいる付近に戦闘場所を設定し、兄妹は陣を唱え始めた。

 カイルは範囲攻撃で敵を巻き込みながらヘイトを取り、群れの中へと突っ込んでいく。

 ルイビスタスへと続く街道はすでに魔獣で埋め尽くされており、果ては見えなくなっていた。

 光球をいくつも浮かべ、視認性を上げる。

 カイルが戻って来るまで王太子が付近の敵を範囲魔法で巻き込み、襲って来るそれらをリディアとリアムが始末するのも昨晩と同じであった。

「Bランク多めになっちまった!戻るぞおおお!!」

 カイルの叫びと共に、カイルの範囲攻撃が炸裂する光が見えた。

 王太子達は攻撃魔法の準備をし、カイルが駆け込んでくるのと同時に陣が発動、追ってくる魔獣に範囲魔法を打ち込んだ。

 Bランクが多めでも、戦術に変更はない。

 同じように戦い、同じように倒す。

 Aランク冒険者が複数いることで殲滅速度が上がり、後続で詰まっていたAランク級の魔獣がようやく姿を現したのは、一時間程経過した頃だった。

「辺境伯領フランクリンにて戦闘中。Aランク級、戦闘範囲に出現。そちらの状況はどうか」

 王太子の発言に、距離を開けて戦っていたAランク冒険者から返答がある。

「こちらからは未だ視認できず」

「了解した。では戦闘を開始する」

「ご武運を。助力が必要な場合は連絡をお願いします」

「了解」

 戦闘場所は陣を維持しているこの場所で、ということになり、全員が強化を唱え、戦闘に備える。

 敵はカマキリとその従者、六十一階から散々戦ってきた相手であった。

「これよりAランク級魔獣との戦闘に入る!巻き込まれないよう注意せよ!」

 王太子の言葉に、周囲の低ランク冒険者達は一斉に返事をし、少し距離を開けて魔獣と戦闘を続ける。

 己の役割を理解し、動くことができる優秀な冒険者達だった。

「んじゃ、連れて来るわ」

「さらに奥の魔獣の様子がわかるようなら見てきてくれ」

「任せろ」

 Aランク級の周辺にいる低ランクの魔獣も引っ掛けながら、カイルは同じように範囲攻撃に巻き込んでヘイトを掴む。

 カマキリに一撃を食らわせると、ヘイトを連動している従者達もカイルに気づいて追いかけて来る。

 戻りに立ち塞がる魔獣も引っ掛け、範囲攻撃に巻き込みながらカイルは余裕を残して戻って来た。

 カマキリは従者が三体以下になると仲間を呼ぶ。

 なので、従者を残しつつ先にカマキリを倒すのだった。

 周囲に群がる低ランクの魔獣は範囲攻撃と魔法攻撃ですぐに死ぬ。

 従者も共に巻き込みながらも倒さないよう注意し、カマキリに攻撃をするのだった。

「カマキリより向こう、Aランク級ごろごろいる。周辺は低ランクもいっぱい。ドルムキマイラもいる。Bランク級もごろごろ。あれAランクだけ引っ張るの難しいかも」

「そうか」

 戦いながら会話をする余裕もあった。

 強くなったな、とサラは思う。

 六十一階で苦労していたあの頃が、遠い昔のようだった。

「見たことのない敵はいたか?」

「知覚範囲内にはいない。だが嫌な気配はあった」

「いずれ近づいて来るということか。Aランクパーティーで対応できそうか?」

「そこまではわからん。あ、ブラックワイバーンいた」

 盾役に集中しているカイルは片言になってはいたが、十分会話は成立している。

「現状対応できるのは我々と、向こうのパーティーくらいか。…あの夫婦はランクが上がってから、攻略を開始してまだ間もないということだ」

 装備を新調したり、依頼をこなしたりしながらパーティー募集をかけたりもしたらしいが、Aランクパーティーの募集も応募も、早々あるものではない。

 Aランクになれば各国からの高額依頼は受け放題であるし、金にも困らなくなる。

 ダンジョン攻略を進める意気込みが続かない者もいるのだった。

 だが攻略を進める為には人数が必要である。

 二人でやるには、もはや敵が強すぎた。

「んで、あちらの進行度は?」

「六十八階」

「こら待てや。無理だろ絶対!」

 兄の問いに答える王太子にツッコミを入れるのはカイルだった。

 サラとリディア、リアムは笑いそうになるのを我慢するのに苦労した。

「ブラックワイバーンは無理よねぇ」

 リディアの呟きに全員が同意した。

「ならば我々がブラックワイバーンを受け持つ間、他のAランク級は任せるか」

「それがいい」

 カイルが持ってきた敵を殲滅し、兄妹は魔力ポーションを飲む。

 王太子はAランクパーティーと、今後についてやりとりをしていた。

「Aランク引っ掛けるまでにまだBランク以下が大量にいるから、引っ張って来ていいか?」

 カイルが強化をかけながら問うので、許可を得る為ではなく確認だと誰もが認識した。

「了解」

 兄が答え、リアムに強化魔法をもらったカイルは再び敵へと突っ込んでいった。

「ブラックワイバーン倒したら休憩したーい」

 リディアの提案に、王太子は頷く。

「そうしよう。先にあちらのパーティーが休憩に入る」

「オッケー!」

 Aランクパーティーが休憩に入っている間に、サラ達はBランク以下の殲滅をしつつ、Aランク級が引っ張りやすい位置に移動した瞬間に攻撃をしかけて陣まで引き込み、少しずつ減らして行くがやはりまだまだ終わりは見えない。

 五人組が復帰してきて、そちらがAランク級を受け持ち、低ランク冒険者が弱い魔獣を引っ張ってくれている間に、ブラックワイバーンを連れて来ることに成功した。

「今日イチの獲物ォー!気合い入れろよぉー!」

「おー!」

 ブラックワイバーン自体はもはや怖い敵ではなかった。

 怖いのは、周囲にいる弱い魔獣の群れである。

 弱いとは言え、大挙して攻撃して来られたら戦闘に集中できない。

 周囲の冒険者に頼み、サラ達に近づけないようお願いするしかなかったのだが、彼らはしっかりと役目を果たしてくれたのだった。

 ブラックワイバーンの範囲攻撃や咆哮の恐ろしさに尻込みしながらも、近づこうとする弱い魔獣を引っ張って処理してくれていた。

 おかげで戦闘に集中することができ、素早く倒すことが可能だった。

 ブラックワイバーンが倒れる様を見て、周囲の冒険者が歓声を上げた。

 彼らの顔は興奮に輝いており、「俺らも頑張ろうぜ!」とあちこちで声が上がっているので、彼らの士気を高めることに一役買えたようだった。

 その後復帰してきた六人パーティーと交代し、サラ達は休憩に入った。

 日が経つに連れて冒険者の数は増えたが、同時に減ってもいた。

 一週間が経つ頃には、コツを掴んだ冒険者パーティーは積極的に打って出て、敵を倒しては戦利品を手に入れていた。

 無限かと思う程の敵の数は、ダンジョンを攻略するのと変わらないくらいの経験値を稼ぐことができる。

 だが同時に、少しずつ敵が強くなっていた。

 最初に襲いかかって来た敵はEランクやDランクの魔獣も多かったのだが、最近はCやBランク級の頻度が上がり、D以下の魔獣は姿を見かけないようになっている。

 この一週間でレベル上げをし、Bランク級に対応できるようになっているパーティーは残っているが、そうでない者達は後方支援に回っていた。

 死者を出したパーティーや、戦力外通告を受けたに等しい低ランクの冒険者達は、ぽつぽつと都市を去って行くのだった。

 遅れてやって来た冒険者達は入れ替わるように増えており、彼らの士気は高い。

 Aランク冒険者で脱落した者はおらず、少しずつ増えて来ていた。

 各国から支援物資も届いており、武器や防具の修理は無料でしてくれるし、新しく購入する時には格安で提供もしてくれる。

 戦利品の買い取り業者も数多く集まり、鍛冶屋や薬屋、防具屋等も他の領地から出張して来て賑わっていた。

 外壁から内壁までの草原地帯には多くのテントが張られ、露店が並び、ちょっとした町の様相を呈している。

 救護用テントの隣には拠点まで限定の転移装置も置かれて、格段に行き来がしやすくなった。今までは馬車で移動しており時間がかかっていたのだが、王家が西国に掛け合い、無償で提供してもらったのだという。

 王太子は拠点横のホテルに宿泊しており、これは立場上変更できないことであるので、助かるのだった。

 人の行き来がさらに増え、活気に満ちていた。

 雰囲気も悲壮ではなく、熱く明るいものだった。

 これはおそらく、王太子の存在が大きい。

 常に最前線で戦い、Aランク級の魔獣を圧倒的な強さで倒していくのだ。

 もはや王太子一行が街を歩くだけで英雄であり、崇拝の対象となっていた。

 彼らが戦っている限り、俺達も戦う。

 そんな声が酒場に溢れ、吟遊詩人はこぞって詩を作る。

 当の王太子一行はと言えば、なんとも恥ずかしい思いをしているのだった。

 名誉騎士達のような本物の英雄ならばともかく、自分達が崇拝されるのはまだ早い、と思うのだった。

 表立って否定はしない。

 王太子は内心はどうあれ堂々と手を振り民達に応えているし、それを見て民達は安心するのだ。

 サラ達はまだその精神の域には達せそうにないが、王太子一行として恥ずかしくない振る舞いを心がけなければならなかった。

 傍若無人に見えるカイルは、外面が大変良い。

 必要な時にはきちんと振る舞うことができる大人なのだった。

「これに騙されたのよね」

 とはリディアの言であるが、リディアもいい面の皮というべきであった。

 カイルと並んで街を歩くリディアは、深窓の姫君もかくやと言わんばかりの大人しげな美女なのである。

 兄妹もリアムも、自然と背筋が伸びるのだった。

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