6-18. 限りなくにぎやかな未来
こうして俺は、管理者としての第一歩を無事踏み出すことができた。
もちろんまだまだ分からないことも不安も多いが、素晴らしい仲間たちがいるからきっと何とかなるだろう。
富士山に戻ってくると、運転手が呆然として立っていた。
「おまたせ」
俺がにこやかに声をかけると、
「お客様、すごいですね……」
と、唖然とした様子で言う。
「こういう仕事なんですよ。あ、このことは内密にね」
「も、もちろんです。矜持にかけても口外は致しません」
そう言って、うやうやしく頭を下げた。
俺は車と運転手を東京に戻し、折角なのでドロシーと手をつないで一緒に富士山見物に飛んだ。
堂々とした円錐形で立ち上がる美しい山に夕陽が射し、オレンジ色に輝きだしている。残雪が残る荒々しい山肌には美しい陰影が浮かび、その威容を際立たせていた。
「うわぁ……、綺麗な山ねぇ……」
ドロシーは感嘆の声を漏らす。
俺は徐々に高度を上げながら富士山を一周した。
「ちょっと寒いかな?」
そう言って周りにシールドを張り、ドロシーをそっと引き寄せた。
「ありがとう……、パパ……。初仕事お疲れ様」
ドロシーがにこやかに言う。
「パ、パパ!? そ、そうだ、もうパパか……。がんばるよ、ママ」
「ふふっ、ママ……、そう、もうママなのよね、私」
そう言ってドロシーはお腹を優しくなでた。
「あ、そうだ、娘ちゃんの声、聞いてみようか?」
「え? もう聞けるの?」
「ちょっと待ってね」
俺は深呼吸をすると、意識の奥底深く潜った……。
見えてくるマインドカーネル。そして、ドロシーのおなかの中の受精卵に意識を集中した。
誘われるがままにマインドカーネル内を移動していくと、あった! そこには若草色に輝く点が緩やかに明滅していた。もう魂は根付いているのだ。俺はそこに意識を集中してみる。
『パ……、パパ……』
すごい! 断片的な意識の波動が伝わってくる。もう娘はいるのだ!
俺は娘の存在を温かく抱きしめ、湧き上がってくる例えようのない愛おしさにしばらく動けなくなった。
しっかりと育て上げよう……。俺は静かにそう誓った。
続いて俺はドロシーの光点と娘の光点をそっとつなげてみる。
『マ……、ママ……』
響く思念波。
「えっ!?」
驚くドロシー。どうやら言葉は伝わったようだ。
俺は意識を身体に戻して言った。
「どう? 聞こえた?」
ドロシーは涙をポロリとこぼしながらお腹を優しくさすり、ゆっくりとうなずいた。
俺はそっとドロシーを抱きしめ、新たに家族としてやってきた娘の無事な誕生を祈った。
いよいよ始まった、世界を良くするスペシャルな仕事。新しく増える家族。ドキドキとワクワクが混ざり合った気持ちを抱え、俺たちは富士山に沈んでいく真っ赤な夕陽を見ていた。
◇
「そろそろ、行こうか?」
「うん、これからどうするの?」
「うーん、まずはご飯かな? 何食べたい?」
「あなたが食べたい物でいいわ」
「じゃぁ、肉かな?」
「え? 肉?」
「和牛の鉄板焼き。甘くてとろける最高のお肉さ」
「えー? 何それ?」
「日本のお肉は最高なんだよ」
「ふぅん……、楽しみになってきたわ」
夕焼けに照らされ、ニッコリと笑うドロシー。
「じゃぁ行くよ、しっかりつかまっててね」
俺たちは東京へ向けて飛ぶ。
夕陽が見渡す限り赤く染め上げる中、俺たちは手をつないで飛んだ。
横を見るとドロシーが幸せそうに俺を見つめている。
俺も湧き上がってくる幸せに自然と頬がゆるむ。
俺はそっとドロシーを引き寄せて、軽くキスをした。
きっとにぎやかな未来が僕らを待っている。
街には明かりが灯り始めた。
了
ご愛読ありがとうございました。
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この場を借りまして御礼申し上げます。
次回作
「就活か魔王か!? 殺虫剤無双で愛と世界の謎を解け! ~鏡の向こうのダンジョンでドジっ子と一緒に無双してたら世界の深淵へ~」
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