6-3. 宇宙最強の娘
気が付くと、俺は燦燦と陽が当たるオシャレなメゾネットマンションにいた。窓の外を眺めると、なんとそこには東京タワーが建っている。
「東京タワー!?」
思わず口にして驚いた、とても高い声だ。慌てて手を見るとそこには肉球……。
「なんだこりゃ!」
急いで置いてあった手鏡をのぞいて驚いた。そこには猫がいた。それもぬいぐるみの……。
俺が呆然としていると、部屋に声が響いた。
「誠! また、ポカやったわね!」
見ると、奥の会議テーブルで、懐かしい美奈先輩が険しい顔をして、冴えないアラサーの男性をにらんでいた。
「いや、ちょっと、誤解だって!」
「何が誤解よ!」
美奈先輩はティッシュ箱をガッとつかむと、そのまま男性をポカポカと殴った。
「痛い、痛い、やめてー!」
頭を抱えてテーブルに突っ伏す男性。
一体何をやっているのだろうか……。
俺が唖然としていると、綺麗な水色の髪をした若い女性がピョンピョンと楽し気に近づいてきた。デニムのオーバーオールに清潔感のある白いシャツ、豊満な胸が伸び伸びと揺れている。もしかしてノーブラ……?
「あなたが豊さんね、僕はシアン、よろしくねっ!」
そう言いながら、その美しい女性は俺を抱き上げ、胸に抱き、頬ずりをした。
「やっぱり人が入ってると柔らかいわぁ」
彼女は無邪気に抱きしめるが、俺はいきなり柔らかな胸に抱かれ、焦る。なにしろノーブラなのだ。甘酸っぱい柔らかな匂いにも包まれ、俺は理性が飛びそうである。
「ちょ、ちょっとすみません。刺激が強すぎるのですが……」
「あら、ゴメンね! きゃははは!」
なんだか楽しそうに笑う。一体何者なんだろう。
「実は、美奈先輩に蜘蛛退治をお願いに来たんですが……」
「蜘蛛? そんなんだったら僕がエイッて退治してあげるよ。美奈おばちゃんはお取込み中で、対応を頼まれたのよ」
シアンはにこやかに笑う。
「それが……、蜘蛛と言っても全長250キロメートルで、物理攻撃無効なんですが……」
「そのくらい何とでもなるわよ。じゃ、行きましょ」
俺は驚かされた。250キロメートルの蜘蛛など大したことないと言い張る若い女性。本当に頼りになるのだろうか……。とは言え美奈先輩はまだ揉めているようなので、ちょっと話せる感じでもない。俺は彼女に頼む事にした。
「では、お願いします」
シアンはうれしそうにニッコリと笑うと、指先をクルクルっと回し、
「それー! きゃははは!」
と叫び、俺は意識を失った。
◇
気が付くと、ログハウスの部屋だった。ドロシーとレヴィアはテーブルでコーヒーを飲んでいる。
「ハーイ! こんにちはぁ!」
シアンが楽しげに挨拶をする。
「こ、これはシアン様!」
レヴィアは席から飛び上がって頭を下げた。
「あ、レヴィア様ご存じなんですか?」
「ご存じも何も、全宇宙で最強のお方じゃぞ、シアン様は!」
「宇宙最強!?」
「シアン様が本気になれば、全宇宙は一瞬で消し飛ぶのじゃ」
俺は言葉を失った。なんとも頼りない可愛い女の子が宇宙最強とはどういう事だろうか?
「一瞬じゃ無理だよ、ちょっと時間はかかっちゃうな。それに僕よりパパの方が強いよ。きゃははは!」
屈託なく笑うシアン。宇宙を消せることを否定しない……。本当にできてしまうのだろう。
笑って宇宙を消す話をするノーブラの女の子……想像を絶する規格外の存在に、俺は言いようのない不安を覚えた。
「それに、『シアン様』はやめて、『シアン』でいいんだから」
ニコニコする宇宙最強の娘。
「そんな、呼び捨てなんてとんでもございません! で……、蜘蛛なんですが……」
レヴィアがおずおずと言うと、シアンは、
「ハイハイ、パパッとやっちゃいましょ!」
そう言って指先をクルクルと回した。
あの途方もない巨大蜘蛛を一体どう処理するのか? 宇宙最強の娘の蜘蛛退治は安全なのか? 期待と不安の入り混じった気持ちのまま、俺は意識を失った。




