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5-9. 漆黒の巨大構造体、地球

 シャトルは徐々に高度を下げ、いよいよ海王星本体へ突入する。

 レヴィアは船内からできる範囲で、爆発してしまった翼の先端の応急措置を頑張っている。


 ボウッという音と同時にシャトルは海王星に突入した。

 突入したと言っても青いガスの海があるわけではない。ただ、暴風が吹き荒れる霞がかった薄い雲に入っただけだ。ちょうど、海水は透明なのに上から見ると真っ青に見えるのに似てるかもしれない。

 シャトルは嵐の中をどんどんと深く潜っていく。ただでさえ弱い太陽の光はすぐに届かなくなり、闇の世界が訪れる。レヴィアはライトを点灯し、さらに深部を目指す。

 どのくらい潜っただろうか、小さな白い粒がまるで吹雪のように吹き荒れ始めた。


「これ、何だかわかるか?」

 レヴィアがドヤ顔で聞いてくる。

「え? 雪じゃないんですか?」

「ダイヤモンドじゃよ」

「ダ、ダイヤ!?」

「取ろうとするなよ、外は氷点下二百度じゃ。手なんか出したら即死じゃ」

「だ、出しませんよ!」

 とは答えたものの、こんなにたくさん降っているなら少し持ち帰って指輪にし、ドロシーにあげたいなと思った。まぁ、海王星の世界の物をどうやったらデジタル世界に持ち込めるのか皆目見当もつかないが……。


      ◇


 モウモウと煙が吹き上がっている一帯にやってきた。

「ついに、やってきたぞ!」

 レヴィアが嬉しそうに言う。

 煙の下に見えてきたのは巨大な漆黒の構造物群だった。それは巨大な直方体が次々と連なった形になっており、まるで吹雪の中を疾走する貨物列車のような風情だった。無骨な構造物には壁面のつなぎ目に直線状に明かりが(とも)っており、サイバーパンクな造形に思わず見とれてしまった。

「これが……、サーバー……ですか?」

「そうじゃ、これが『ジグラート』。コンピューターの詰まった塊じゃ」

「え? これが全部コンピューター!?」

 ジグラートと呼ばれた構造物は全長が一キロ、高さと奥行きが数百メートルくらいの巨大サイズ……、巨大高層ビルが密集した街というと分かりやすいだろうか。それがいくつも連なっている。

「これ一つで地球一つ分じゃ」

 すごい事を言う。これが延々と連なっているという事は、地球は本当にたくさんあるらしい。

「あー、ちょうどこれ、これがお主のふるさと、日本のある地球のサーバーじゃ」

「え!? これが日本!?」

 俺は思わず身を乗り出してしまった。俺はこの中で産まれ、この中で二十数年間、親に愛され、友達と遊び、大学に通い、サークルで女神様とダンスをして……まぬけに死んだのだった。無骨な巨大構造体……、これが俺の本当のふるさと……。この中には死に分かれた両親や友達、好きなアイドルやアーチスト、そして大好きだったゲームや漫画、全て入っているのだ。俺の前世の人生が全て入っている箱……。


 みんなどうしてるかな……。みんなに会いたい……。

 俺は胸を締め付けられる郷愁の念に駆られ、不覚にも涙を流してしまった。

「なんじゃ、行きたいのか?」

「そ、そうですね……。日本、大好きですから……」

 俺は涙を手で拭きながら言った。

「そのうち行く機会もあるじゃろ。お主はヴィーナ様とも懇意(こんい)だしな」

「そう……ですね。でも……もう、転生して16年ですよ。みんな俺のことなんか忘れちゃってますよ」

「はっはっは、大丈夫じゃ。日本の時間でいったらまだ数年じゃよ」

「えっ!? 時間の速さ違うんですか?」

「そりゃ、うちの星は人口が圧倒的に少ないからのう。日本の地球に比べたらどんどんシミュレーションは進むぞ」

 言われてみたらそうだ。サーバーの計算容量が一緒なら人口少ない方が時間の進みが速いのは当たり前だった。

「なるほど! 楽しみになってきました!」

 今、日本はどうなっているだろうか? 親にも元気でやってること、結婚したことをちゃんと報告したい。そのためにもヌチ・ギをしっかり倒さないとならない。


 グォォォォ――――!

 レヴィアはエンジンを逆噴射させ、言った。

「そろそろじゃぞ」


 徐々に減速しながら見えてきたジグラートへと近づいていく。いよいよヌチ・ギを倒す時がやってきた。

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