4-9. 神々の死闘
手のひらから放たれる強烈な閃光。そして、巻き起こる大爆発……。
身体を貫く激しい振動――――。
あれ……? 死んでない……。
「ちょっと、お主、何するんじゃ!」
この声は……レヴィア!
目を開けるとレヴィアが俺をかばっていた。
「レ、レヴィア様!」
俺は感極まって思わず叫ぶ。
レヴィアは振り返って、
「無茶をするのう、お主」
そう言ってニヤッと笑った。
「ドラゴン……、何の真似だ?」
ヌチ・ギは鋭くにらむ。
「この男とあの娘は我の友人じゃ。相互不可侵を犯してるのはお主の方じゃぞ!」
金髪おかっぱの少女レヴィアは強い調子で言い放った。
「そいつはチート野郎だ。チートは犯罪であり、処罰する権限は俺にある!」
「レベルを落としたじゃろ? ペナルティはもう終わっておる。娘を攫うのはやり過ぎじゃ!」
そう言ってにらむレヴィア。
ヌチ・ギは反論できず、ただレヴィアをにらむばかりだった。
だが、ヌチ・ギとしては、ラグナロクの事を知った俺を生かしておくわけにもいかない。
ヌチ・ギはいきなり後方高く飛びあがる。そして、
「戦乙女来い!」
そう叫びながら空間を大きく切り裂いた。
強硬策に出たヌチ・ギにレヴィアの顔がゆがむ。いよいよ管理者同士の戦争が始まってしまう。
切り裂かれた空間の裂け目が向こう側から押し広げられ、美しき巨大女性兵士が長い髪をなびかせて現れる。均整の取れた目鼻立ちに、チェリーのような目を引くくちびる、地下のホールで見た彼女だ。黒い革でできたビキニアーマーを身にまとい、透き通るような美しい肌を陽の光にさらしながら、無表情で地上に飛び降りた。
ズズーン!
激しい地響きと共に砂煙が上がる。身長は二十メートルくらい、体重は五十トンをくだらないだろう。まるで芸術品のような美しき巨兵、味方だったならさぞかし誇らしかっただろうに……。
「また、面妖な物を作りおったな……」
レヴィアはあきれたように言う。
「ふん! ドラゴンには美という物が分からんようだ……。まぁ、ツルペタの幼児体形にはまだ早かったようだな」
ヌチ・ギが逆鱗に触れる。
「小童が! 我への侮辱、万死に値する!」
レヴィアはそう叫ぶと、ボンっという爆発音をともなって真龍へと変身した。するとヌチ・ギも、
「戦乙女! 薙ぎ払え!」
と、叫んだ。
戦乙女は空中から金色に淡く光る巨大な弓を出し、同じく金の矢をつがえた。
それを見たレヴィアは焦り、
「お前! この地を焦土にするつもりか!?」
と、叫びながら次々と魔法陣を展開し、シールドを張った。
放たれた金に輝く矢は、音速を超えてレヴィアのシールドに直撃し、核爆発レベルの甚大な大爆発を起こした。
激しい閃光は空を光で埋め尽くし、地面は海のように揺れ、周囲の森の木々は全て一瞬で燃え上がり、なぎ倒された。
巨大な衝撃波が白い繭のように音速で広がっていく。
レヴィアのシールドは多くが焼失し、わずか数枚だけかろうじて残っていた。
立ち上がる真っ赤に輝くキノコ雲は、恐るべき禍々しさをもって上空高くまで吹き上がり、ラグナロクの開始を告げる。
俺とドロシーは地面に伏せ、ガタガタと震えるばかりだった。まさに神々の戦争、到底人間の関与できる世界ではない。
「お主らは地面に潜ってろ!」
真龍は野太い声でそう言い放つと、灼熱のきのこ雲の中を一気に飛び上がる。
そして、遠くに避難している戦乙女を捕捉すると青く光る玉石を出し、前足の鋭い爪でつかんで一気にフンっと粉々に砕いた。玉石は数千もの鋭利な欠片となり周辺を漂う。
「もう、容赦はせんぞ!」
重低音の恐ろしげな声で叫ぶと、
「ぬぉぉぉぉ!」
と、気合を込め、玉石の破片のデータを操作し、破片を次々と戦乙女向けて撃ち始めた。超音速ではじけ飛ぶ破片群は青い光跡を残しながら戦乙女めがけてすっ飛んでいく。
戦乙女は急いで横に避けたが、なんと破片は戦乙女めがけて方向を変え追尾していく。焦った戦乙女はシールドを展開したが襲い掛かる破片は数千に及ぶ。展開するそばからシールドは破片によって破壊され、ついには破片が次々と戦乙女に着弾していった。着弾する度に激しい爆発が起こり、戦乙女は地面に墜落し、もんどりを打ちながら転がり、さらに破片の攻撃を受け、爆発を受け続けた。
真龍は戦乙女の動きが鈍った瞬間を見定めると、
「断罪の咆哮!」
と叫び、口から強烈な粒子砲を放った。鮮烈なビームは戦乙女が受けている破片の爆撃の中心地を貫き、壮絶な大爆発が巻き起こった。それは先ほどの大爆発をはるかに超える規模だった。激しく揺れる地面、天をも焦がす熱線、まさにこの世の終わりかというような衝撃が、地中に逃げている俺たちにも襲い掛かる。
が、その直後、想像もできないことが起こった。なんと、戦乙女は真龍の後ろにいきなり出現すると、真っ赤に光り輝く巨大な剣で真龍を真っ二つに切り裂いたのだった。
『ぐぉぉぉぉ!』
重低音の悲痛な咆哮が響いた。




