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1-3. 強姦魔の恐怖

「キャ――――!!」


 窓の外からかすかに女の子の悲鳴が聞こえた。


 空耳かとも思ったが、それにしてはリアルだった。


 そっと窓の外を見ると、離れの倉庫の窓がかすかに明るい。あんなところ、夜中に誰かが使う訳がない。


 俺は窓からそっと降りると、はだしで倉庫まで行って中を覗いた……。




 見ると、女の子が服をはぎ取られ、むさい男に組みしかれていた。膨らみ始めた白くきれいな胸が、揺れるランプの炎に照らされて妖艶に彩られる。


 女の子は刃物をのどぶえに押し当てられ、涙を流している。ドロシーだ!


 ドロシーは十二歳、可愛いうえに陽気で明るいみんなの人気者。俺も何度彼女に勇気づけられたかわからない。絶対に救わなくては!


 しかし……、どうやって?




 男はズボンを下ろし始め、いよいよ猶予がなくなってきた。


 俺は急いで鑑定で男を見る。




イーヴ=クロデル 王国軍二等兵士

剣士 レベル35




 なんと、兵士じゃないか! なぜ兵士が孤児院で孤児を襲ってるのか?


 俺は必死に考える。レベル1の俺では勝負にならない。しかし、大人を呼びに行ってるひまもない。その間にドロシーがいいように(もてあそ)ばれてしまう……。


 考えろ……考えろ……。


 心臓がドクドクと激しく打ち鳴らされ、冷や汗が浮かんでくる。


 ドロシー……!




 俺は意を決すると、窓をガッと開け、窓の中に向け叫んだ。




「クロデル二等兵! 何をしてるか! 詰め所に通報が行ってるぞ。早く逃げろ!」


 いきなり名前を呼ばれた男は焦る。もちろん子供の声は不自然だが、身分も名前もバレているという事実は想定外であり、焦らざるを得なかった。


 急いでズボンを上げ、チッと舌打ちをするとランプを持って逃げ出していった。




「うわぁぁぁん!」


 ドロシーが激しく泣き出す。俺は兵士が通りの向こうまで逃げていくのを確認し、ドロシーの所へ駆け付けた。


 涙と鼻水で可愛い顔がもうぐちゃぐちゃである。


 俺は泣きじゃくるドロシーをそっと抱きしめた。


「もう大丈夫、僕が来たからね……」


「うぇぇぇ……」


 ドロシーはしばらく俺の腕の中で震えて泣き続けていた。




 十二歳のまだ幼い少女を襲うとか本当に信じられない。俺は憤慨しながら抱きしめていた。


 しばらくして落ち着いてきたので話を聞いてみると、トイレに起きた時に、倉庫で明かりが揺れているのを見つけ、何だろうと覗きに行って捕まったということだった。


 窓から入ってくる淡い月明かりに綺麗な銀髪が美しく揺れ、どこまでも澄んだブラウンの瞳から涙がポロポロと落ちる。




 俺はまたゆっくり抱きしめると、何度も何度もドロシーの背中を優しくなでてあげた。




『ドロシーに幸せが来ますように……、嫌なこと全部忘れますように……』


 俺は淡々と祈った。




        ◇




「ハーイ! 朝よ起きて起きて!」


 衝撃の夜は明け、アラフォーの、かっぷくのいい院長のおばさんが、あちこちの部屋に声をかけて子供たちを起こしていく。




「ふぁ~ぁ」


 あの後ベッドに戻ったが、ちょっと衝撃が大きく、しばらく寝付けなかったので寝不足である。


 俺は目をこすりながら院長を鑑定する。






マリー=デュクレール 孤児院の院長 『闇を打ち払いし者』

魔術師 レベル89






「えっ!?」


 俺は一気に目が覚めた。


 何だこのステータスは!? あのおばさん、称号持ちじゃないか!


 今までただの面倒見のいいおばさんだとしか認識してなかったが、とんでもない。一体どんな活躍をしたらこんな称号が付くのだろうか? 人は見かけによらない、とちょっと反省した。




 食堂に集まり、お祈りをして朝食をとる。ドロシーはまぶたが腫れて元気ない様子だったが、それでも俺を見ると小さく手を振って微笑んでくれた。後で兵士に手紙を書いて、今後一切我々に近づかないようにくぎを刺しておこうと思う。彼も大事にはしたくないだろう。兵士が孤児の少女を襲うとかとんでもない話だ。


 また、院長にもちゃんと報告しておこう。ただ、詳細に言うと鑑定スキルのことを話さなくてはならなくなるので、あくまでも倉庫の周りを男が歩いていたので大声で追い払ったとだけ伝えておく。




「あれ? ユータ食べないの?」


 そう言ってアルが俺のパンを奪おうとする。俺はすかさず伸びてきた手をピシャリと叩いた。


「欲しいなら銅貨二枚で売ってやる」


「何だよ、俺から金取るのか?」


 アルは膨れて言う。


「ごめんごめん、じゃ、このニンジンをやろう」


 俺が煮物のニンジンをフォークで取ると、


「ギョエー!」


 と言って、アルは自分の皿を後ろに隠した。


 


 食事の時間は(にぎ)やかだ、悪ガキどもがあちこちで小競り合いをするし、小さな子供はぐずるし、まるで戦場である。


 俺も思い出せば、昨日までは結構暴れて院長達には迷惑をかけてきた。これからは世話する側に回らないとならん。中身はもう20代なのだから。




 俺は硬くてパサパサしたパンをかじりながら、どうやって人生成功させたらいいか考える。孤児の身では一生うだつが上がらない。活躍もハーレムも夢のまた夢だ。俺が使えるのは唯一『鑑定』だけ。鑑定でひと財産築こうと思ったら……商売……かなぁ。『商人』だしな。しかし、商売やるには元手がいる。何で元手を稼ぐか……。ゲームの時は薬草集めからスタートしたから、まずは薬草集めでもやってみるか……。




 俺は食後に院長の所へ行き直談判する。


「院長、ちょっとお話があるんですが……」


「あら、ユータ君……何かしら?」


 昨日とは人が変わったような俺の言動に、やや警戒気味の院長。


 まずは昨晩のことを話し、子供たちに被害が出ないようにお願いした。


「あら、それは怖かったわね……。分かったわ、ありがとう」


 院長は対策について頭をひねって何か考えている様子だった。




「それからですね、実は薬草集めをして、孤児院の運営費用を少しですが稼ぎたいのです」


「えっ!? 君が薬草集め!?」


 目を丸くして驚く院長。


「もちろん安全重視で、森の奥まではいきません」


「でもユータ君、薬草なんてわからないでしょ?」


「それは大丈夫です。こう見えてもちょっと独自に研究してきたので」


 俺はにっこりと笑って胸を張って言う。


 いぶかしそうに俺を見る院長。そして、部屋の脇に吊るされていた丸い葉の枝を持ってきて俺に見せた。


「これが何かわかったらいいわよ」


 ドヤ顔の院長。


 なるほど、これは全く分からない。子供たちに使ってる薬草とも違う。


 しかし、俺には『鑑定』があるのだ。




 テンダイウヤク レア度:★★★

 月経時の止痛に使う




 なるほど、自分に使う薬だったか。


「テンダイウヤクですね、女性が月に一度使ってますね」


 俺は涼しげな声で答えた。


「え――――!!」


 驚いた院長は目を皿のようにして俺を見つめる。


「早速今日から行ってもいいですか?」


 俺はドヤ顔で聞いてみる。


 院長は目をつぶり、何かをしばらく考え……、


「そうよね、ユータ君にはそう言う才能があるってことよね……」


 と、つぶやき、


「わかったわ、でも、絶対森の奥まで行かないこと、これだけは約束してね」


 と、俺の目をまっすぐに見()えて言った。


「ありがとうございます。約束は守ります」


 俺はにっこりと笑う。




 その後、院長は薬草採りのやり方を丁寧に教えてくれた。院長も駆け出しのころはよくやったそうだ。




 俺の中身は20代、いつまでも孤児院の世話になっているわけにはいかない。早く成功への手掛かりを得て、自立の道を目指すのだ!


お楽しみいただき、ありがとうございます(*´ω`*)

書籍化を目指して日々、頑張っています(´▽`*)


ポイントがたまりますと夢に近づきますのでぜひ、ブックマーク、評価をお願いいたします。


読者様のご厚意が執筆のエネルギーとなります(/・ω・)/


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