表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/96

1-18. 恐るべき魔物、ダンジョンボス

「じゃぁ行きましょう!」

 俺は一人だけ元気よくこぶしを振りあげてそう叫ぶと、景気よくバーンと扉を開いた。


 扉の中は薄暗い石造りのホールになっていた。壁の周りにはいくつもの魔物をかたどった石像があり、それぞれにランプがつけられ、不気味な雰囲気だ。

 皆、恐る恐る俺について入ってくる。


 全員が入ったところで自動的にギギギーッと扉が閉まる。

 もう逃げられない。


 すると、奥の玉座の様な豪奢な椅子の周りのランプが、バババッと一斉に点灯し、玉座を照らした。

 何者かが座っている。


「グフフフ……。いらっしゃーい」

 不気味な声がホール全体に響く。


「ま、魔物がしゃべってるわ!」

 エレミーがビビって俺の腕にしがみついてきた。彼女の甘い香りと豊満な胸にちょっとドギマギさせられる。


「しゃべる魔物!? 上級魔族だ! 勇者じゃないと倒せないぞ!」

 エドガーは絶望をあらわにする。


「ガハハハハハ!」

 不気味な笑い声がしてホール全体が大きく振動した。

「キャ――――!!」

 エレミーが耳元で叫ぶ。俺は耳がキーンとしてクラクラした。


 ドロテは、

「この魔力……信じられない……もうダメだわ……」

 そう言って顔面蒼白になり、ペタンと座り込んでしまう。


 皆、戦意を喪失し、ただただ、魔物の恐怖に飲まれてしまった。

 俺からしたらただの茶番にしか見えないのだが。


 でも、この声……どこかで聞いたことがある。

 おれは薄暗がりの中で玉座の魔物をジッと見た。


「あれ? お前何やってんだ?」

 なんと、そこにいたのはアバドンだった。


「え? あ? だ、旦那様!」

 アバドンは俺を見つけると驚いて玉座を飛び降りた。


「早く言ってくださいよ~」

 アバドンは嬉しそうに、俺に駆け寄ってきた。


「なにこれ?」

 俺がいぶかしそうに眉をひそめて聞くと、


「いや、ちょっと、お仕事しないとワタクシも食べていけないもので……」

 恥ずかしそうに、何だか生臭いことを言う。


「あ、これ、アルバイトなの?」

「そうなんですよ、ここはダンジョンの80階、いいお金になるんです!」

 アバドンは嬉しそうに言う。

「まぁ、悪さしてる訳じゃないからいいけど、なんだか不思議なビジネスだね」

「その辺はまた今度ゆっくりご説明いたします。旦那様とは戦えませんのでどうぞ、お通りください」

 そう言って、奥のドアを手のひらで示した。するとギギギーッとドアが開く。


「え? これはどういうこと?」

 エレミーが唖然(あぜん)とした表情で聞いてくる。

「この魔人は俺の知り合いなんだよ」

「し、知り合い~!?」

 目を真ん丸にするエレミー。


「はい、旦那様にはお世話になってます」

 ニコニコしながら揉み手をするアバドン。


 パーティメンバーは、一体どういうことか良く分からずお互いの顔を見合わせる。

「通してくれるって言うから帰りましょう。無事帰還できてよかったじゃないですか」

 俺はそう言ってニッコリと笑った。


 ドアの向こうの床には青白く輝く魔法陣が描かれ、ゆっくりと回っている。これがポータルという奴らしい。

「さぁ、帰りましょう!」

 俺はそう言いながら魔法陣の上に飛び乗った。


 ピュン!


 不思議な効果音が鳴り、俺はまぶしい光に目がチカチカして思わず目をつぶった。

 にぎやかな若者たちの声が聞こえ、風が(ほお)をなでる……。

 ゆっくり目を開けると……澄みとおる青い空、燦燦(さんさん)と日の光を浴びる屋台、そして冒険者たち。

 そこは洞窟の入り口だったのだ。


        ◇


 帰り道、皆、無言で淡々と歩いた。

 考えていることは皆同じだった――――

 ヒョロッとした未成年の武器商人が地下80階の恐るべき魔物と知り合いで、便宜を図ってくれた。そんなこと、いまだかつて聞いたことがない。あの魔物は相当強いはずだし、そもそも話す魔物なんて初めて見たのだ。話せる魔物がいるとしたら魔王とかそのクラスの話だ。と、なると、あの魔物は魔王クラスで、それがユータの知り合い……。なぜ? どう考えても理解不能だった。


 街に戻ってくると、とりあえず反省会をしようということになり、飲み屋に行った。


「無事の帰還にカンパーイ!」

「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」

 俺たちは木製のジョッキをぶつけ合った。

 ここのエールはホップの芳醇な香りが強烈で、とても美味い。俺はゴクゴクとのど越しを楽しむ。


「で、ユータ、あの魔物は何なんだい?」

 早速エドガーが聞いてくる。


「昔、ある剣を買ったらですね、その剣についていたんですよ」

 俺は適当にフェイクを入れて話す。

「剣につく? どういうこと?」

 エレミーは怪訝(けげん)そうに俺を見る。

「魔剣って言うんですかね、偉大な剣には魔物が宿るらしいですよ」

 アルが目を輝かせて聞いてくる。

「魔剣持ってるの?」

「あー、彼が抜け出ちゃったからもう魔剣じゃないけどね」

「なんだ、つまんない」

「それは、魔物を野に放ったということじゃないか?」

 ジャックは俺をにらんで言う。

「剣から出す時に『悪さはしない』ということを約束してるので大丈夫ですよ。実際、まじめに働いてたじゃないですか」

 俺はにっこりと笑って言う。

「ダンジョンのボスがお仕事だなんて……一体何なのかしら……?」

 エレミーはため息をつきながら言う。

 それは俺も疑問だ。金塊出したり、魔物雇ったり、ダンジョンの仕組みは疑問なことが多い。

「今度彼に聞いておきますよ。それともこれから呼びましょうか?」

 俺はニヤッと笑った。

「いやいやいや!」「勘弁して!」「分かった分かった!」

 皆、必死に止める。

 あんな恐ろしげな魔物、下手したらこの街もろとも滅ぼされてしまうかもしれない、と思っているのだろう。皆が二度と会いたくないと思うのは仕方ない。俺からしたらただの奴隷なのだが。

「そうですか? まぁ、みんな無事でよかったじゃないですか」

 そう言ってエールをグッとあおった。


 みんな()に落ちない表情だったが、これ以上突っ込むとやぶ蛇になりそうだと、お互い目を見合わせて渋い表情を見せた。


「そうだ! そもそもジャックがあんな簡単なワナに引っかかるからよ!」

 エレミーがジャックにかみついた。

 ジャックはいきなり振られて慌てたが、

「すまん! あれは本当にすまんかった!」

 そう言って深々と頭を下げた。


 俺は、立ち上がり、

「終わったことは水に流しましょう! カンパーイ!」

 と、ジョッキを前に掲げた。

 エレミーはジャックをにらんでいたが……、目をつぶり、軽くうなずくとニコッと笑ってジョッキを俺のにゴツっとぶつけ、

「カンパーイ!」

 と、言った。

 そして、続くみんな。

「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」「カンパーイ!」

 皆のジョッキがぶつかるゴツゴツという音が響いた。


 俺は念願のダンジョンに行けて満足したし、結構楽しかった。

 今度また、アバドンに案内させて行ってみようかな? 俺は、日本では考えられない、楽しい異世界ライフに思わずニヤッと笑ってしまった。

お楽しみいただき、ありがとうございます(*´ω`*)

書籍化を目指して日々、頑張っています(´▽`*)


ポイントがたまりますと夢に近づきますのでぜひ、ブックマーク、評価をお願いいたします。


読者様のご厚意が執筆のエネルギーとなります(/・ω・)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ